弐話~恋人程弱点になる物は多分ない~
ごめんなさい。
忘れてました。
「おっはようっ! う~ん? どうしたんだい、コウタくぅん。そんなに絶望した表情で?」
僕が教室に着き、先ずやった事は頭を抱えどんよりとした雰囲気を纏わせている、コウタへのいじりだった。
コウタは運動部に所属している割にはあまり運動が得意ではない。文化部に所属している僕にすら負けている。……まあ、それは僕が異常なだけなんだけどね。
「んだよ、俺が長距離とかが一番嫌いなことをわかってて行ってるだろ」
「んうぇ? そうだったの? それは悪いことをしたなぁ、ごめんねっ?」
不機嫌なのを知ってやっているので、にらまれるくらい予想出来ているから、にらまれたくらいでは動じるわけがない。流石にそれは僕の事を舐め過ぎだ。
「およよ、どうしたんだいそんなに睨んじゃって、別に他意はないんだよ? 本当だよ?」
「ふん、どうせ違うくせに」
おお、正解。すごいねぇ。まあ、こんな風にコウタをいじるのはとても面白い。と言うか最近僕自身が滅茶苦茶性格が悪いことに気付いた。
その事を言ったらクラスの全員から呆れられた。「はあ、今更かよ」って、しかもコウタに至っては殴り掛かってきた。何だろうか、僕はハブられているのかな?
「はあ、またライムはコウタの事を弄ってるの? あ、おはよう、あと私の彼女がごめんね」
「はあ、あとで説教しとけよ」
あと、カシモトが僕の事を彼女だと思っている以外にも、このクラスの大半は僕が彼氏と言うよりも彼女と言う方がしっくりくるという人が大半だ。なんて悲しい現実なんだ。もう現実逃避してやるっ!
「ねえねえ、一つ聞いていいかな? ライムって反省って言葉を知ってる?」
「うん? 知ってるよ? 多分、じゃあ反省しろ、とか言うと思うから先に行っておくけど、弄りは僕のアイデンティティーなんだよ」
そして今度はどこかの誰かさんが(しょうもないアイデンティティーだね)とか言う様な感じで言ってくると思うけど、一度一日弄らないで生活する、と言う事をやったら禁断症状が出るかと思うくらいには過酷だった。だから僕は絶対にやめないからね!
(ならそれ以外のものを見つければいいじゃないか)
何を言っているんだか? 僕にはわからないねぇ
「そうなの、じゃあ、私もライムを弄ることがアイデンティティーだね」
チュッ
そんな事を言いながら僕の顔を持ってきたので、「何をする気なんだっ!」と少しふざけて言おうと思ったが、先にキスをされてしまったため、何も言えなくなってしまった。
「なななっ、なにすんのさっ! 破廉恥だよ!」
「破廉恥って、いつの時代の人なの?」
僕が本気で焦りと羞恥の混じった声で質問をしたのだが、カシモトは本気で楽しそうな表情をしながら、僕の頭をなでていた。
そして、初心な僕はキスをされて硬直していた。
「はあ、あいつって絶対に性別詐称してるだろう」
「今更だな」
そんな事を言われても、反論できない位には滅茶苦茶な感情が入り乱れていた。勿論それは僕だけではなく、ラムの感情も交じっているのだろう。だからここまで異常な反応をしてしまっている。と思いたいよ。
実際はそんな感情でさえ二つに完全に区別されているので、ラムの(はぅ)と言う声は聞こえるが、感情そのものは来ない。
ていうか僕って性別詐称したと思われてたのか。
「ほら、早く座ろ? ね?」
「う、うん」
今はきっと、未来ですごく後悔するような蕩けきった、もしくは真っ赤に顔を赤くしながらうなずいていると思う。
「あぁ、ライムが男として見られていないのは知ってるけど、あんなラブラブなところを見せられたらムカつくにきまってる。……後で殴りに行こうかな」
「んじゃ、私もそれに参加しようかな」
まあ、これ自体は僕が悪いんじゃなくてカシモトが悪いんだ。だから僕は悪くない。
……だからそんなに睨まないでぇ!




