五十三話~恋程人を狂わせる物はない~
「ふう、もっと言いたいことは有るけど、取り敢えずはこれくらいかな」
怒られ始めてから十分後、レティシアさんはようやく説教を止めた。まあ、普段で言うなら最低でも後三倍くらいは長く続くが、起床時間と言うことで少しは準備をしないといけないのでそこは弁えているようだった。
それなら説教しなければ良いのにね、頭が弱いんじゃないのかな?
「はぁ? ライムのために少なくしてあげたんだけど? 長くしてもらいたいのなら長くするけど?」
「ふぇ?」
どうやら思っていた事を口にしてしまったようで、鬼のような血相でボクの事を睨んでいた。そして中からはラムがボクを責めていた。
「だ、大丈夫です! 早く着替えたいんで、黙っててください! 沈黙」
「――っ!」
レティシアさんの説教は怖いので、魔法で黙らせることにした。まあ、ラムからは「何してんのさ! 相手をより興奮させてどうするの!? 逆に暴れるだけでしょ!」と言う風に騒ぎ立てていたが、今説教されて授業に遅れるよりはましだろう。多分、クラスの人からボコられると思うし。
「――――!」
「……ん? ん? 何て言ってるのか分からないなぁ? もう少し大きな声でお願いしまぁす」
着替え終わり、少しだけ暇になったのでレティシアさんを観察していると、勢いよく口をぱくぱくと開閉し始めた。それを見ていると楽しくなってしまい、ついついレティシアさんを挑発してしまった。
「あははっ、そう言えば魔法で喋れなくなってるんだっけ!」
「――」
そんなことを数分していると、流石に何を言っても無駄と言うことに気付いたのか、口を開くことはなくなり、ただ単にボクを睨むだけになった。
「―っ―殺――覚―ア―」
「えっ?」
顔の前で手を振ったりしながら遊んでいると、少しだけレティシアさんが喋ったように思えた。
どうやらそれは間違いでは無かったようで、不意に炎の矢が飛んできた。
「ひゃぁ! じょ、冗談だからぁ! 本気にしないでよぉ!」
「……」
レティシアさんは詠唱も唱えずに、ただ黙々と魔法を放っている。
「毎回毎回、何でライムは叫び声を……」
そんな中、シンノスケが部屋に入ってきた。そのシンノスケの声を聞きレティシアさんは何かを思ったのか、魔法を放つのを止めた。まあ、暴力系ヒロインはあまり人気じゃないしね。
「レティシア? 何してんの?」
「社会のルールを知らない野性動物に躾をしようと思って」
……レティシアさんの中ではボクは人間ではなく、野性動物になってるのか。まあ、変なことをしてきた自身はあるけど、そこまで言われる位変なことをしたつもりはないんだけどなぁ? 被害妄想ってやつ?
そして相変わらずボクの辞書には、反省と言う二文字はなかった。
「うん、一回落ち着け、取り敢えず二人はそこに座ろうか」
「……はい」
流石に放置するのは駄目だと思ったのか、レティシアさんに向かって冷静に言い放った。恋の力って凄いんだね。……って、え?
「ボクもなの?」
「二人の時点でお前しかいないんだが?」
ボクのすっとぼけた質問に少しだけ苛ついたのか、少し声の音程を低くしながらボクを睨み、そんなことを言った。
「そ、そんなに怒らないでよ、冗談だからさ」
「はっ! どうせそれも本心で言っているんだろ? 分かってるぞ?」
おお、お見事、正解だよ。と言う糞みたいに馬鹿なことを考えながら説教は第二ラウンドに入った。




