四十三話~ツンデレが拗ねる事程可愛い事はない~
ボクは今、男子寮に向かって走っていた。
まあ、カシモトへのご機嫌取りをしに走っているだけなんだけど、機嫌を悪くするとどうなるか分からないしね。
「ちょっと君! ここは男子寮だ! 会いたい奴が居るのなら俺が呼んでくるからここで待ってろ」
「あ、じゃあ、一年のカシモトって奴を呼んできてください」
ボクが男子寮に着くと、寮長らしき先生がやって来て、人を呼んできてくれるらしい。まあ、野郎共が居るなかに女子が入ってったらどうなるかは想像できちゃうよね。エロ同人見たいな展開には流石にならないと思うけど。
「ああ、大丈夫、ここにいるから」
「ああ、居たんだぁ」
どうやら寮長以外にもカシモトが踊り場に居たらしく、返事をしてくれた。ボクも一応は返事を返せたが、ボクは内心冷や汗をかいていた。
「用事ってなに?」
「えっとね、今日は授業がないからデートでもしようかと」
昨日のラムの事をまだ根に持っている様で、不機嫌なのを全く隠していなかった。
「ふ~ん、あの事デートすればいいんじゃないの? まあいいよ、別に自分を真似たやつと付き合っても私は友達で居てあげるから」
「いや、だから違うって! て言うか浮気疑惑の事で不機嫌になってたんじゃなかったの!?」
訂正、カシモトはボクの事を特殊性癖だと思っているのか、ボクが安心するように語りかけた。うん、それはそれで辛いんだけどね?
「うん、大丈夫だよ、私は人の性癖に対してどうこう言うつもりはないからね」
普通に勘違いしているみたいで、ボクからじりじりと、少しずつ後ずさっていた。絶対にどうこうは言わないだろうけど、認めてはないよね? その性癖。そもそもボクは普通だし。
「そ、その、ボクはカシモトの事が好きだから、後ずさらないでほしいなぁ」
酷い勘違いをしているカシモトを止めるために、恥ずかしいのを我慢して、ボクは本心を伝えた。多分、今、ボクは顔を真っ赤にして居ると思う。
「ぷはは! やっぱりライムって人の事を良く苛めるけど、自分が苛められると、途端に弱くなるよね? 今回だってそんな事言っちゃってるし」
「なッ! なッ!?」
どうやら今までの会話は演技だったみたいで、ボクはまんまと引っ掛かってしまった。うぅ、視界がぁ、滲むよぅ。ふぇぇ。
「あ、ちょ、泣かないで! 冗談だからぁ! ごめんってばぁ!」
「ふんっ! 知らないもん! ボクが君のためを思って走ってきたのに、こんな風になるなら来なければよかったよ」
もう怒ったもんね、今までは下手に出ていたけど、もうそんな事はしないよ。そもそも、現状、カシモトが男なんだからボクに気を使わないとダメだよね? そうだよ、今までのボクが間違ってたよ。
「あぁ! 拗ねないで! 飴あげるから! 甘いものを今日は大量に買ってあげるから! ね、だから、拗ねないで?」
どうやら、カシモトはボクが拗ねるのは嫌みたいで、甘いものでボクを釣ろうとした。勿論ボクがそんな事に釣られるわけが――。
「う、うん」
――有るに決まってるじゃないか! 舐めんなよボクのお菓子への愛を、何時間でも愛を語って良いって言われたら、それこそ、何百時間でも語っていられるくらいの自信がある程度には大好きなんだよ!? カシモトがボクの事を釣ろうとしていることは分かっている、分かっているけど、欲望を押さえきれるわけないよ。そんな事を瞬時に考え、即決していた。
「あの、出来ればそう言うことはここからでてからやってくんねぇかな?」
「「あ」」
寮長さんが声を掛けてくれたお陰で気づいたけど、完全にボク達は寮長さんの事を忘れていた。勿論、今まで話し掛けてこなかったのは気を使ってくれたんだと思うけど……もう少し早めに言って貰えないかな? そうすればボクの痴態を見られずに済んだのに。
「失礼しましたぁ!」
そうして、ボク達は駆け足で外に出ていった。




