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第一話 キャスターバード狩り

◇◆◇◆

 「エリー、エンジンの調子はどうだ?」

「良好です。マスター。いつでも飛べます。」

マスターと呼ばれた俺は頷き、ゴーグルと首に巻いたマフラーの位置を整える。

そして、一度深呼吸をしてから安全の為に周囲を確認をする。

「前後左右に問題となる障害物無し。良し、行ってくれ。」

 イエス、マスター。と操縦席に座る少女――エリーは短く頷き、飛行機のコントロールパネルのボタンやレバーを操作し始めた。


 飛行機は、古の時代に生産されていたという空を飛ぶ乗り物だ。残っている数は極めて少ない為、地域によっては半ば伝説の存在と化している。

 エリー曰く、左右に翼が二枚ずつあるものは複葉機、一枚ずつあるものは単葉機と呼ばれるとのこと。

翼を二枚ずつもつこの機体は、前者の複葉機となる。

 などと考えているうちに正面にあるプロペラの回転速度は上昇していく。間もなくして、機体は重低音を吐き出しながら風上に向かって前進し始めた。その動きは確かに加速してきている。

数秒後、遂に二人乗りの小さな機体は、大地を離れ、大空へと旅立っていった。



◆◇◆◇


――機械文明は遥か昔に滅びた。その代わりとして今の世界には魔法が当たり前のように存在し、さまざまな人に利用されている。

 これは魔法が開発されたことによるものだ。機械文明の技術の多くは、魔法や魔道具に代わられ衰退していき、遂に世界から姿を消した。

 機械文明の技術の多くが失われてしまった今、有用な機械は非常に高値で取引される。有用な物の中には国宝とされる程の代物まである。

俺達二人が所持しているこの飛行機<グリフィス>は間違いなく国宝級の値がつくだろううが、ワンオフ・モデル――つまり一点物であるということも加味すればその中でも特別な位置付けとなるだろう。

 先程、二人と表現したが正確には一人と一体である。

エリーは機械文明最後の技巧人形の完成形のひとつで、見た目だけでなく機能も殆ど人のそれと変わらない。人造人間と表現しても問題ないだろう。(現在、人造人間と言えばホムンクルスの事をさす。が、エリーの時代はロボットとやらを指していたらしいので、なおさら問題はないだろう。)

 エリーの稼働期間はホムンクルスとは異なり人間と同程度だが、スリープモードに移行すればたとえ数千年後でも再起動すれば稼働できるという。

このエリーの存在を合わせれば国宝級という枠組みには収まりきらないだろう。


 エリーもグリフィスも同じ場所で何百年もの間眠っていたようだった。それを俺が発見した訳だが、どうやら俺を新たなマスターとして認証したらしい。

不在だったマスターが設定されたことにより両者(エリーとグリフィス)ともに機能が蘇った。

エリーは記憶を無くしたわけではなかったが、機械文明時代の名前なんて俺にはとてもじゃないが発音が出来なかった。

俺は技巧人形の少女にエリーという新しい名をあげた。

 エリーはもともとグリフィスの操縦士として生み出されたらしい。

そのため飛行機の操縦や整備の技術、知識ともに豊富である。そんなエリーのおかげで俺は今、グリフィスに乗って大空を旅する事が出来ている訳だ。

 勿論、俺も勉強はしているがまだダメだ。いったいいつになれば操縦できるのだろうか……。

「マスター。機銃の準備を。」

不意に声をかけられて驚いたが、エリーからこの言葉が出てきたということは何かが居るということになる。

「……了解。」

銃座に座っている俺は魔石弾が込められていることを確認する。

「5時の方向、距離1800。小型のキャスターバード種かと思われます。」

「……周囲に人影は?」

「予想戦闘区域内の地上におぼしき反応はありません。」

「ならば良し。戦闘を開始する。」

「了解しました。」

機体を左に傾け180度ターンする。体にずしりと負荷がかかる。

これで目標は進行方向正面にいるはずだが、機体後部にある銃座にいる俺が目標を確認するのは難しい。

「エリー、現在高度は?」

「現在750付近です。」

「あれ食えるか?」

「それに関してはマスターの方が詳しいのでは無いでしょうか?」

「……尾羽は高く売れる。食えないが。」

「了解。なるべく傷つけないようにします。」

「あぁ、頼む。」

「どうやらこちらに気付いたようです。」

「どうきた?」

「迫ってきています。」

「向かい打つぞ。」

「是非もありません。」

そう言って操縦幹を深く倒すエリー。グリフィスは、目標に向かってぐんと加速する。

胴体下にある一門の機銃が火を吹く、何発も当たったが仕留めるには及ばない。瞬間、機体を下に傾け高度を下げる。瞬間、体長5メートルを下らないであろう鳥が頭上を通り過ぎた。俺はすかさずそいつを射撃する。

次は上方180度ターン、その間も俺は目標に向かって射撃を続ける。ばらまいた弾は目標の胴と左羽に一発ずつ直撃した。

ばらまいた弾は目標の胴と左羽に一発ずつ直撃した。

俺の魔石弾には爆裂属性の魔力が込めてある。胴への一撃は(効いてはいるが)致命傷には至らなかった一方、左羽への一撃は骨に確かなダメージを与えた筈だ。

 機体が半円の弧を描いたタイミングでエリーは、地面が下になるように機体を180度横回転させる。この一連の動きをすることで、降下した高度を取り戻しつつ目標の後ろを取ることができる。

「マスター。目標が発光し始めました。」

「やはりか。攻撃が効いている証拠だが、魔力への耐性が上昇した証拠でもあるな。長引かせるのは厄介だよなぁ……。」

「目を潰すのは如何でしょう?」

「それは……暴れないか?」

「ッ!しばらく歯を食い縛ってください。喋ると舌を噛みきりますよ。」

言うが早いかグリフィスは大きく右に動く。次は左、上、また右……目まぐるしく動いてキャスターバードの攻撃をかわし、翻弄する。

「マスター、残念ながら既に暴れています。まずは25キロ爆弾を落とします。次に小口径徹甲弾を同じ場所に叩き込んでください。柔らかい眼球から脳まで貫きましょう。一発でダメなら二発。二発で駄目なら三発で。」

まったく恐ろしいやつだと内心苦笑する。

徹甲弾は高いんだよ……部品代が。何よりも作るのに手間がかかるし危険も伴う。実際、今の持ち合わせは五発しかない。

エリーの時代は小口径の徹甲弾なんてものは無かったが、今では魔石を磨り潰してややこしい構造の弾に詰める事で作る事ができる。ただし作業中に少しでも失敗すれば暴発は免れないだろうが。

「マスター。沈黙は了解と取りますよ。」

「了解。どうせそうするしかないしな。一発でぶち抜いてやる。」

「さすがは私のマスターです。」

「戦闘に関しては偉そうだね、君……。」

「飛行技術に関しては私が先生ですから。」

「ソーデスネ。」

「後できっちり復習しましょう。さて爆撃を開始します。爆弾も二発しか無いですからね、一発で決めます。」

「了解。」

正面から突っ込み、衝突直前でひらりとかわしすれ違い様に爆撃する。

「左目に命中!」

「お見事!さて、次は俺の番か……一発で決めたいなぁ。」

「マスターはあるだけ撃って一発でも当てれば良いですよ。」

 先程から完全に嘗められている。流石にカチンときた。

「……あまり馬鹿にするなよ、エリー。」

「……。失礼しました。」

(こうなったマスターはこの上無く頼もしいですから、馬鹿になんてしませんよ。)とエリーは心の中で続ける。

先程もかなり暴れまわっていたが今はその比ではないくらいに暴れまわっている。

「エリー、右側から追い越せ。」

「イエス、マスター。」

目を潰した左側からではなく右側に回り込む。左目を潰した敵を見つけたキャスターバードは怒り狂って襲ってくる。

「適当にかわして、隙があれば左側に回り込んで180度進路転換。すれ違いざまに奴をぶち抜く。タイミングは合わせる、いつでも良い。」

「イエス、マスター。命令にお応えしましょう。」

 エリーは考える。さて、あまり高高度で仕留めてしまうと売り物にならなくなってしまう。

「低高度まで誘い込みます。」

言って地面すれすれのツリートップ(地面の木の高さ)まで急降下で誘い込む。

狙い通りキャスターバードは喰いついてきた。

ツリートップを維持し、400程右斜めに進み、左側から急旋回、横方向に180度ターン。

キャスターバードの左目が頭上に見える。

こんな絶好のチャンスをマスターが見逃すわけがなく――撃ち抜いた。

「命中。脳幹を吹っ飛ばした筈だ。」

「目標の撃墜を確認。お見事です。」

「……ふぅ。流石に疲れたぞ。」

「素材回収ぐらいはしましょう。横取りされれば赤字確定です。」

「弾も結構つかったからなぁ。」

「着陸します。」

 速度を落としつつ旋回運動を繰り返し、平地での着陸を試みる。

200程進んだところでグリフィスは止まった。


★☆★☆

 エリーにグリフィスの番を任せ、俺はキャスターバードから目ぼしいものを回収する。

キャスターバードの尾羽は魔法使いに重宝され、高額で取り引きされる。

知り合い曰く、呪い返し対策として愛用されているらしく、成体の物は珍しいうえ高価も高いらしくかなり高値で売れる。

あと胸羽、これは御守りとして売れる。出店とかで売っていることもたまにある。小遣い稼ぎにはなるだろう。

「鳥肉……焼くか。おっと魔石を拾い忘れるところだった。」

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