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四季の女王とアンジ  作者: クチン
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うさぎと妖精とアンジ

ある時、ルバク村に王様のお触れが届きました。お触れには「冬の女王を春の女王と交換させた者には好きな褒美を取らせよう」ということが書かれていました。このお触れを見た村人たちはアンジが適任ではないかと口をそろえて言いました。そこに、アンジが来てお触れを読み、目を閉じました。そして、口を開きました。「僕がやってみます。いえ、やり遂げます」

村の人々から歓声が上がり、アンジはやる気がみなぎってきました。しかし、同時に大きなプレッシャーも感じました。

 家に帰り、アンジは父親と母親にお城に行くことを伝えました。すると、二人はとても喜んでくれました。しかし、同時に寂しそうな顔もみせました。そんな表情を見るとアンジも寂しくなりました。けれども、いつまでも悲しんでいる暇はありません。すぐに荷物をまとめて、すぐに旅立てるようにしました。

 その日の夜はあまり眠ることが出来ませんでした。眠りについたのは日を越した後でした。その時、アンジは夢を見ました。小さな妖精と一緒に冒険している夢でした。夢では、妖精に助けられながら王様のお城まで行き、無事に季節を廻らせることが出来ていました。

朝起きた時もこの夢のことは鮮明に覚えていました。しかし、なぜ妖精が出てくるのかはわかりませんでした。

 家から出る支度をすべて済ませてから、一度ルバク村を散歩しました。会う人会う人に声をかけられて少し照れくさくなりました。応援の言葉をたくさんもらったアンジはやる気がみなぎってきました。一通り村を見まわると、今度は森に行きました。森には昔お世話になったシエラがいるからです。シエラには一言では表せないほど感謝をしていました。そこで、シエラには必ず王様を助けに行くことを伝えたいと思っていたのです。

 森の中を歩いていると、小さいころの記憶がよみがえってきました。かえるを捕りに行ったこと。森に入って迷子になったこと。そして、何よりも思い出となっていることはシエラと暮らした日々です。アンジにはかけがえのない思い出になっています。もちろん、シエラにとってもです。たくさん迷惑をかけたり、けんかもしました。

 しばらく歩くと、見覚えのある小さなお家が見えてきました。アンジははやる気持ちを抑えつつ、歩いて行きました。ドアに手をかけた瞬間、ドアが開いて見覚えのある女性が出てきました。シエラです。シエラはアンジを見るやいなや、涙を流しました。涙を流しながら無言でアンジを抱きしめました。そう、シエラがアンジに会うのは二人が分かれて以来初めてだったからです。「元気だったかい? 私は元気に暮らしてたよ。でもときどき思い出すんだ。アンジがここにいた時のことを」そう言いながら、シエラはアンジを家の中に招き入れました。

 アンジは椅子に座ると、シエラに向かって言いました。「僕はこれから王様のお城に行きます。長い間村から離れることになると思ったので、シエラには顔を合わせたいなと思って来ました。ここにいると昔のことをたくさん思い出します」アンジは家の中を見回しながら言いました。

「王様のお城に行くなんて、なんで行くの?」首をかしげながらシエラは尋ねてきました。

「王様からお触れが出て、季節を冬から春にしてほしいということが書いてあったんだ。だから僕がその手伝いをしようと思ってるんだ」アンジは自信満々に答えました。

 しばらくの間、二人は楽しくおしゃべりをしていました。お昼ごろに、アンジはシエラの家を後にしました。「体に気を付けて、頑張って来てね」シエラはアンジを笑顔で見送りました。アンジはその声に応えました。「頑張ってきます。戻ってきたらまた、伺いますね」手を振りながら言いました。

 村に返ると、なんと村の人々がアンジのためにパーティーを開いてくれました。アンジはとてもうれしかったのですが、同時に寂しさも溢れ出てきました。パーティーは夜遅くまで続きました。しかし、翌日にアンジは旅立つつもりでしたので、早めに家に帰り寝ることにしました。

 その日も、夢を見ました。しかし、昨夜と違うのは妖精がアンジに話しかけてきたことです。「アンジさん。私のことを見つけてください。私は森の中にある洞窟の奥にいます。どうかわたしを連れて王様のお城に行ってください」妖精は切実な思いをアンジに伝えてきました。アンジは返事をしようとしましたが、返事をする前に目が覚めてしまいました。

 目が覚めても、昨日と同じように夢のことは鮮明に覚えていました。ここまではっきりと夢を覚えていることは今までなかったので、夢の通りに洞窟を見つけ妖精を探すことにしました。目標が決まると、アンジは行動が速くなります。

 村の人たちと別れたくないという気持ちはもちろんあったが、いつまでも引きずっていてはらちがあきません。アンジは思い切って村人全員にあいさつすると、馬に乗って森の道を駆けていきました。

 はじめは馬に乗りながらも、村のことを考えていました。けれども、次第に村のことではなく、今後の生活についてまじめに考えるようになりました。ほとんど一つ返事で了解してしまったため、細かいことまで考えている余裕はありませんでした。洞窟を探しながら生活について考えました。食糧には困らないように村の人たちが準備してくれたのがとてもありがたくアンジは思いました。

 妖精は洞窟の場所を教えてくれなかったのでアンジは一人で見つけるしかありませんでした。しかし、行くあてもないので、洞窟のありそうな山の方向に馬を走らせました。

 少し行くと、辺り一面白い雪で埋めつくされていました。そう、この国は季節が変わらなくて困っているのです。アンジの住んでいたルバク村は国の中心から遠いこともあって雪は降らなかったのですが、寒い日は続いていました。

 遠くを見ると、辺り一面白色で埋めつくされているはずの地面に、茶色いものが見えました。近寄ってみると、そこには小さな子供のうさぎが縮こまっていました。「こんなところで寝ていると風邪をひくよ。もっと暖かい場所に行ったほうがいいよ」と、アンジは優しく声をかけると、うさぎはゆっくりと目を開けて答えました。「おなかがすいてここから動けないの。何か食べ物くださいな」と、か細い声で言いました。アンジはすぐに食べ物が入っている袋を取り出し、うさぎに食べ物をあげました。

 うさぎは無我夢中で食べ物に食いつき、満足すると改めてアンジにお礼を言いました。「助けてくれてありがとう」うさぎはぺこりと頭を下げました。それを見たアンジは笑ってしまいました。口の周りに食べ物のカスがついていたからです。食べている姿もとてもかわいらしく、アンジは旅の疲れが吹っ飛んでいきました。

 アンジは、うさぎにこの森にある洞窟について聞きました。うさぎには心当たりがあったのか、すぐにうなずいて案内してくれました。うさぎは山の方向へと歩きました。アンジが思っていた通り、洞窟はどうやら山の方向にあるみたいです。

 しばらく歩くと、小さな洞窟が見えてきました。洞窟の前まで行くと、うさぎは言いました。「ここが、私の住んでるところなんだ。だけど、なんで洞窟なんて探してるの?」うさぎは首をかしげました。

「実は、夢に妖精が出てきて洞窟にいるから見つけてほしいと言われたんだ」うさぎに向かってアンジは答えました。

「そしたら、この洞窟は違うと思うな。だって私が住んでいるけど妖精なんて一度も見たことないもの」それを聞いたアンジは残念な気持ちになりましたが、近くにも何ヵ所か洞窟が見えたので、一つずつ探すことにしました。うさぎにお礼を言おうとしたら、うさぎは答えました。「お礼なんていらないよ。それよりも、ここら辺は夜寒くなるから私の洞窟に来て寝泊りすればいいよ」うさぎはアンジに大きな恩返しをしました。

 しばらくの間、うさぎとの会話を楽しんでいたが、自分には時間がないことに気付き、すぐに妖精のいる洞窟を探し始めました。けれども、手掛かりがないため、どの洞窟から探せばよいのかわからず、一日目は一つ一つしらみつぶしに洞窟を見て回りました。

 夜になると、アンジはうさぎの言った言葉に甘えて、一緒に洞窟で寝ることにしました。

アンジはとても疲れていたので、うさぎとはあまり話さず、すぐに眠ってしまいました。

 その時も夢を見ました。妖精の夢です。今度は、妖精と話をすることが出来ました。どうやら妖精は大きな二本の木が生えている近くの洞窟にいるということがわかりました。そこで夢は終わり、アンジはゆっくりと眠ることが出来るようになりました。

 朝起きると、アンジの横には朝ご飯が置いてありました。ご飯の容器の下には小さな紙が挟まっていました。その紙にはこう書いてありました。「ごめんなさい、一緒に朝ご飯を食べたかったんだけど用事が出来ちゃって。招いたのは私なのに……。私の失礼を許してください」アンジはこの紙を読んで、なんて律儀なうさぎなんだと思いました。これを読んだアンジは自分も頑張らなければという気持ちになりました。朝ご飯を早々と食べたアンジは、支度を済ませてすぐさま洞窟を飛び出しました。

 さっそく、夢に出てきた大きな木を探しました。山の周りには森がありましたが、ひときわ大きな木が生えている場所を遠くに望みました。それを見つけた瞬間、アンジはうれしくてたまらなくなりました。アンジは早歩きをして出来るだけ早く木の近くにたどり着くようにしました。

 しかし、いくら歩いても洞窟にたどり着くことは出来ません。木がとっても大きかったため、近くにあるように見えたのです。アンジはだんだん疲れて歩くのが面倒臭くなってしまいました。今日はあきらめて明日馬に乗って行こうかと考えましたが、アンジは妖精を見つけて王様のいるお城に行かなくてはなりません。そのため、今日は洞窟の入り口にどうにかたどり着こうとしました。

 日が沈むころ、やっとアンジは洞窟の入り口にたどり着きました。洞窟の奥は真っ暗で何も見えませんでした。今から洞窟の探検に行くのは危険と判断したアンジは入り口で一晩過ごしてから探索することに決めました。

 眠りにつくと、また妖精の夢を見ました。夢の中で、アンジは洞窟の入り口に着いたことを報告しました。妖精はうれしそうに、「早く来てね! 待ってるよ」と、言いました。

 夢から覚めると、すぐに支度をし洞窟の探索を始めました。入り口付近の洞窟は広かったため立って歩くことが出来たが、だんだん狭くなっていきました。うれしいことに、その洞窟はずっと一本道だったので、迷うことなく歩くことが出来ました。ただ、苦労したこともあります。四つんばいで進まなくてはならない場所があったからです。その時は荷物の持ち方に気を付けました。また、コウモリがたくさんいるところもあり、フンやおしっこを踏まないように歩きましたが、あまりにもたくさんいたため、どこもかしこもフンだらけだったのでたくさん踏んでしまいました。

コウモリの群れを超えると、最大の難所にさしかかりました。四つんばいでも進めない、ほふく前進でしか進めないような道が出てきました。荷物を持っていくのは難しいと考えたので、必要なものだけを持っていくことに決めました。一メートル進むのに一分もかかってしまいました。体力的にも肉体的にも苦痛でしたが、妖精を助けるためならばと自分の力を最大限に振り絞って進んでいきました。

つらく過酷な道を抜けると、開けた空間に出ました。その空間の一番端っこに小さな家みたいなものが見えました。アンジは恐る恐る近づいていきました。近づいても何も反応がなかったのでノックをしました。

「はいはい、誰ですか?」小さな妖精が面倒臭そうにドアを開けました。「あの、僕はアンジというのですが、僕を読んだのはあなたですか?」アンジは妖精の姿を見ると少し驚きましたが、何事もなかったように聞きました。

「あなたがアンジさんですね。少しお待ちください」突然ドアを閉め、しばらくするとまたドアが開きました。

 すると、見違えるほどきれいな妖精の姿になって出てきました。驚いたアンジは妖精にたずねました。「どうしてこんなにきれいになったのですか?」すると、妖精は答えました。「アンジさんにはきちんとした格好で会わなければと思ったので」

 それだけ聞くと、アンジは妖精と一緒に急いで洞窟を出ました。早く王様に会うためです。外はすでに真っ暗になっていたので、うさぎのいる洞窟には夜が明けてから向かうことにしました。

 「これからはいろいろお世話になると思いますが、よろしくお願いします」妖精は丁寧にあいさつしました。「こちらこそ、迷惑かけると思うけど頑張って行こうね」二人はいろいろなことを話しながら夜を過ごしました。

 太陽が昇ってきて、辺り一面見渡せるようになると、二人はうさぎのいる洞窟まで歩いていきました。洞窟までの距離は長かったのですが、歩きやすい道だったので、苦労せずにたどり着くことが出来ました。

 洞窟に着くと、うさぎが出迎えてくれました。「お帰りなさい、アンジさん。無事妖精は見つかりましたか?」

「おかげさまで。少しの間だけどお世話になりました。また会えたら嬉しいです」アンジは手を振りながら、洞窟を後にしました。さりげなく妖精もうさぎとあいさつをしていました。

 それから王様のいるお城までは何事もなく無事につくことが出来ました。道中はとても楽しく、いろいろなものを見ながらお城に着きました。大きな塔、きれいな街並み、さらには大きなお屋敷も見ました。すべての景色がアンジにとっては新鮮でした。町から出たことのないアンジにとっては不安もありましたが、不安をかき消すほど興奮していました。

 お城に入る前に、きれいな洋服に身を包むために、洋服屋さんを探して、服を仕立ててもらいました。きれいな洋服に身を包み、アンジは城門をくぐりました。

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