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四季の女王とアンジ  作者: クチン
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うそつき少年

 ルバク村に、思いやりにみちあふれた青年がおりました。青年の名前はアンジ。彼のひょうばんはとても良く、ルバク村の人々から頼りにされており、いろいろな手伝いをしていました。ある時は子供の面倒を見て、また、ある時は狩りをしました。アンジは父親と母親の三人で何不自由なく暮らしていました。このルバク村は王様のお城からとても離れた場所にあり、森の中にあるため小さな村です。けれども、村人たちは皆知り合いで仲も良く、活気に満ち溢れていました。

 アンジは心優しい青年です。けれども、少年時代は活発な子で、たくさんの人に迷惑をかけていました。村の人たちの家の前に、プレゼントと書いて、かえるなどの虫を入れて驚かすのが好きでした。村人の驚く顔がたまらなく面白かったからです。

 ある日、プレゼント箱に入れる虫を取りに行った時のことです。いつものように森を歩いていると、見たこともないきれいな石が落ちていたのをアンジは見つけました。その石を拾うためにかがむと、その先にもきれいな石が落ちているのを見つけました。拾ってはまた見つけ、拾っては見つける。そんなことを続けていました。

太陽が沈みかけたので、アンジは家に帰ろうとしました。けれど、帰り道がわかりませんでした。石に夢中で道から外れて見たこともない場所に着いてしまったのです。

「誰かいませんか?」

 アンジは自分に出来る最大限の声で叫びました。深い森の中に人がいるはずもなく、返事は返ってきませんでした。

太陽も完全に沈み、いよいよ夜が深まってきたとき初めてアンジは怖いという気持ちがでてきました。暗い森の中に一人でいると、動物におそわれるかもしれません。お父さんに、一人で森に入ってはいけないよ、と言われたことを思い出して、自分が悪いということに気付きました。けれど、ここで反省しても仕方がないので、一晩中森をさまようほかありませんでした。

しばらく歩いていると、小さなお家が見えました。木でできた家の煙突からはおいしそうな香りが漂ってきました。アンジはひょいひょいと家の前まで行くと、コンコンと礼儀正しくあいさつをしました。すると、一人の女性が扉を開けたのでした。女性の顔はとても整っており、美しい人でした。女性は自分のことをシエラと名乗りました。

アンジが一通り事情を説明すると、こころよく家に入れてもらえました。アンジはその時、うそを一つつきました。それは、人を驚かすために虫を捕りに森に入ったことです。アンジはお父さんと森に来て、はぐれてしまったと説明しました。

シエラは優しい心の持ち主であったため、自分の子供の様に一晩中面倒を見てくれました。

次の日の朝、目が覚めると、シエラは身支度をしていました。目を擦りながらアンジはシエラに尋ねました。「こんな朝早くにどこに行くの?」

「アンジが居なくてお父さんとお母さんが心配してるでしょ? だから早く見つけて家に帰れるようにするから。アンジもご飯食べて帰る支度して」そう言いながら、シエラはご飯の支度をしました。

 アンジは思いました。このままいくと、うそをついたのがばれてしまう。そこで、もう一つうそをつくことにしました。「シエラ、実はお父さんとケンカをして今は戻りたくないんだ。もう少しでいいからここに居させてくれませんか?」

その言葉を聞いたシエラは笑顔でうなずいてくれました。「わかったよ。けれど、私は少し用事があるから家を留守にするけど、その間いい子にしててね」

シエラはアンジのお父さんとお母さんが心配しないようにアンジを預かっていることを伝えるためにルバク村に行きました。シエラはもともとルバク村で暮らしていましたが、森がとても好きだったので、一人で森に暮らすようになりました。

 シエラがルバク村に着き、アンジの両親にアンジのことを伝えると、とても安心しましたが、同時にシエラへの申し訳ないという気持ちも浮かんできました。二人はすぐにアンジを連れてきて、と言いました。しかし、シエラはそれには反対し、別の方法を提案しました。二人は納得して、シエラにすべてを任せました。

 シエラが家に帰ると、アンジは椅子に座っていました。テーブルの上には一つの箱が置いてありました。シエラはアンジに箱の中身は何かと尋ねました。すると、アンジは得意げにおいしそうなキノコを採ってきたと言って、箱を渡してきました。けれども、シエラはそこにキノコが入ってないことはわかっていました。代わりにかえるか虫が入っていると思っていました。シエラは虫が苦手ではないため、何食わぬ顔で箱を開けました。けれども、そこには本当にキノコが入っていました。当然、シエラは心底おどろきました。

アンジはニコニコして、言いました。「シエラにはお世話になってるから、探してきたんだ。どう? うれしい?」

それを聞いたシエラはうれしくてたまらなくなりました。この行ないだけを見れば、心優しい少年だったのですが、シエラはアンジがうそをつく反面も知っていました。そこで、一つアンジに質問しました。「何か私にうそついてることある? もしもあるなら話してごらん。怒らないから正直にね」

シエラはじっとアンジの顔を見ながら言いました。けれども、アンジは「うそなんかついてないよ」と言ったので、シエラは決心しました。

 二人で生活するようになり、一週間がたちました。アンジはすっかりシエラとの生活に慣れ、自分の家のにいるようにくつろぎはじめました。

 そんなある日、シエラはアンジに夜ご飯に何を食べたいか聞きました。アンジは少し考えてから、かえるのから揚げが食べたいと答えました。そこで、シエラは森に行ってかえるを捕まえに出かけました。「出来るだけ早く帰ってくるようにするけど、もし遅くても心配しないでね」

そう言ってシエラは家を後にしました。

 森にはたくさんの食べ物があります。おいしそうな果物や野菜、さらにはキノコもあります。けれど、アンジはその中でもかえるを食べたいと言ったのでわざわざ苦労して捕まえなくてはならなくなりました。さすがにかえるだけではおなかを満たせないので、アンジにはかえるを捕り、シエラは果物と野菜を食べることにしました。思っていた通り、かえるは捕まえるのに苦労しましたが、たくさん捕れて満足し、家に帰りました。

 家に着くと、シエラはさっそく捕ってきたかえるを料理し、テーブルに運びました。その時、アンジが驚くようにわざとふたをしてアンジに料理を出しました。予想通りにアンジは驚きました。しかし、すぐにシエラをにらみつけて言いました。「なんでこんなにかえるのから揚げがあるの? 僕、そんなの食べたくなかったのに。冗談もわからないの? シエラはおいしそうな果物とか食べてずるいよ。今度森に行くときはすごくおいしいものを捕ってくるまで帰ってこなくていいよ」

しまいに、アンジは怒鳴りつけてかえるに全く手を付けず寝床に入ってしまいました。

 シエラが次に森に行ったのは一週間後でした。シエラはとても大きな荷物を持って森に出かけて行きました。森にはおいしい食べ物がたくさんあるのですが、すごくおいしいものは森の奥に行かなければ捕れません。シエラは一つの目的を達成するため、足早に森の奥へと駆けていき、普通は五日間で戻ってくるところをなんと三日間で戻ってきました。そして、家の裏側に寝床を作り、家の中を覗くことにしました。

 シエラが家の裏に居座って、二日たつと、アンジはだんだんシエラのことが心配になってきました。時々家の外に出て遠くを見たり、家の中でうろうろしたり、時計を見てシエラが家を留守にしてどのくらいたったかを気にしていました。

 そんなある日、とうとうアンジは我慢できなくなって家を飛び出しそうになりました。家を飛び出そうとした瞬間、シエラは家のドアを開けました。シエラは全身泥だらけでした。アンジは、その姿を見るやいなや、涙を流して飛びつきました。「ごめんなさい。僕がすごくおいしいものを捕って来てって言ったからこんなに汚れちゃったんだよね? 本当にごめんなさい。こんなに迷惑かけることになるなんて思ってなかったよ」

そう言って、アンジはシエラに今までの自分の間違いを謝りました。

 それを聞いたシエラは安心しました。今までやってきたことが無駄にならずにすんだからです。そう、今までの行動はすべてアンジのためだったのです。

 そして、アンジは無性に家に帰りたくなりました。今になってやっと両親が心配していることに気付いたのです。

 シエラにルバク村まで送ってもらい、無事に両親の下へと帰ることが出来ました。両親は僕を見ると駆け寄ってきて力いっぱい抱きしめました。母親の目には涙も浮かんでいました。シエラは両親に耳打ちをしていたのを見て、アンジは言いました。「何を話してるの?」

すると、三人はにこにこして秘密と答えました。

 この出来事があってから、アンジはうそをつかなくなりました。

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