表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
熟練無双のペインハンマー  作者: とげむし
12/16

作戦と決行と


 ゴブリン討伐の当日。ノゾムの宿泊している宿は朝から忙しく店員が動き回っていた。普段の通りであれば遅い時間の朝食時だが、この日は宿泊している探索者のほとんどがこの時間に朝食を摂っていた。恐らくこの探索者のほとんどがゴブリン討伐に参加するのだろう。普段よりも若干緊張した空気に包まれていた。


 この宿に宿泊している探索者のほとんどが、ノゾムと同じ木札からその一つ上程度の等級の探索者である。もっと上の等級の探索者は自分の家か借家を借りて生活しているか、もう少し上のランクの宿屋に宿泊している。金を惜しむ探索者はそれこそ素泊まり2000テリス程度の安宿に宿泊しているケースも多いが、普通は食事も用意される宿に泊まるのが一般的だ。この宿屋よりもランクの上となると一泊1万テリスで食事付きという形になり、食事の方も豪華になっていく。尤も豪華になると言っても質より量を好む探索者相手だ、肉や魚の質が少し良くなって、ボリュームが増える程度のものである。


 そんな慌ただしい中ノゾムも空いているカウンター席に座り、いつも通り食事を摂る。今日はいつものパン、スープ、サラダといった当たり障りないラインナップの他に、フルーツ果汁等を漬けだれにして焼いた肉もプラスされている。今回のゴブリン討伐に関しては騎士団も参加するとあってテレスガの街では話題になっている。その討伐隊である探索者に宿屋がこうしてサービスをしているという訳だ。


 食事を終えて、そのまま宿を出ると一直線に街の外へと向かう。今日は子供の採集活動は無しなので、ギルドには寄らない。そのまま街の門を出るとすぐ脇に待機している探索者の中に紛れる。今回のゴブリン討伐の探索者の待ち合わせ場所はこの正門を出たすぐ脇だ。さすがに100人を少し超える探索者をギルドの建物だけで待機させるのは無理がある。別にただ押し込むだけであれば100人は入るが、この後に大森林での活動があるのだ、そんな真似は出来ない。そういう訳で、探索者達は門の横で待機する事となっていた。


 ギルド側の計算によれば今回集まる人数は104名。この数は現在依頼を受けていない探索者の内、金額と等級の兼ね合いで受けるに値すると思った探索者や、報酬を度外視してゴブリンの討伐に参加する意思のある探索者だけを集めた数だ。既に依頼を受けている者や、依頼で遠方や大森林の深部側へ赴いている者などは当然ながら参加していない。また報酬に惹かれなかった者も参加していなかった。高等級の探索者に関しては、ゴブリン討伐よりも旨味のある依頼はいくらでもある。そちらを優先するのは当たり前の事だ。基本的に探索者ギルドでは余程でもない限り強制的に依頼を受けさせるなんていう事は出来ないようになっている。


 暫く探索者達を眺めていると、今回のゴブリン討伐の発端ともなったエリッタ達パーティーもやってくる。彼女達もノゾムに気付くと、軽く手を挙げて挨拶をした。


「流石に100人となると多いわね」


「確かに。こんなに人数居たのかと思うくらいには多い数だな」


 タエラの言葉に同意しながら周囲を見回して呟く。普段からこれだけの数の探索者が揃うという事はなかなか無い事なので、物珍しさもあって遠慮なく見回っていた。この数に今は居ない遠方の依頼を受けた者や高等級探索者を加えるとどれだけの数になるのか。商隊の護衛などは3~5グループで基本的に護衛されるので、結構な数が今は出払っている事になる。そう考えると、これだけの数の討伐隊を組んだ今回のギルドは結構頑張った方だと言えるだろう。


 そんな事を考えていると、シムが難しそうな表情で口を開く。


「そう言えば、昨日までに大森林での採取などの依頼を受けた探索者の内、本来戻ってくるはずのパーティーの内8パーティーくらいは戻ってきてないらしいわ」


「それって、多いのかね……?」


「木札の探索者ならまだしも、私達と同じ鉄級の探索者パーティーらしいから、それなりの実力はあると思っていいかな。そのくらいの実力のパーティーが戻ってきてないって事は、普段と比べるとちょっと多いってギルドの人が言ってたわ」


「ふぅん。ゴブリンの餌になった……って考えるのが妥当なのかな」


「そうでしょうね」


 そう言うシムの言葉に、アミルが黙って頷く。因果関係としては、そう考えて問題は無いだろうと思われるくらいには、ゴブリンは脅威なのだ。狡猾で臆病、だが統率された魔物というものはひどく厄介なのがこの世の常であった。


 そんな雑談をしていた所で探索者の溜まり場にガッザムが現れ、声を張り上げる。


「お前達! まずは今回のゴブリン討伐に参加してくれる事に礼を言う!」


 軽く頭を下げた後に、再び声を張り上げる。


「昨日参加登録をした際に説明した通り、今回の討伐対象はゴブリン。それも予想では数が相当数居ると思われる。今回は騎士団と共同での作戦となるので、まずはその事を念頭に置いて欲しい。それでは今回の作戦を説明する!」


 そう言うと大きなテレスガ大森林を記載した紙を取り出し、全員に見えるように掲げる。


「今回はテレスガから近い位置の大森林入り口から、大きく広がって大森林を探索する。目標地点はここ、過去にコボルトの集落があった地点だ。まずは斥候部隊を編成してコボルト集落跡地へ一直線に探索してもらい、斥候部隊以外の者達は広がって探索だ。斥候部隊が目的地でゴブリンが集落を形成しているか確認、確認でき次第集落より少し南のこの地点に集結し、それからゴブリンの討伐となる。もし集落が跡地で確認できなかった場合、横に広がっての大森林探索を継続、集落を発見し次第その場に集結となる。今回は集団での作戦の為、ギルドより通信の魔球を編成した各部隊の班長へと配布する。班長は魔球からの音声に注意しておくように!」


 懐から小さな玉を取り出したガッザムがそう言うと、全員に見えるように頭上に掲げる。小さな玉のようにしか見えないそれだが、魔道具の一つで遠距離との通信を可能にするアイテムである。受信送信は勿論の事、周波数で個体を識別可能なトランシーバーの役割も可能な道具である。こんな便利な道具が現在の世の中にはあるにはあるが、普通どれも高値で取引されており、こういった作戦などに使用される事が多いため、購入には届け出が必要となるアイテムでもある。この便利アイテムを配布して各討伐部隊と連絡を取り合い確実にゴブリンを仕留めるというのが今回の作戦であった。


 そういったガッザムの説明が終わると同時に、街の門から鋼の鎧煌めく集団が綺麗な隊列を組んで出て来る。テレスガの街が所有する騎士団の内、今回の作戦に従事する事になった騎士達200名であった。


 彼らの多くは鋼色に見える鎧を装備しているがそれも上半身だけを覆うもので、所謂ハーフプレートと呼ばれる装備である。この世界では中量装備に位置するハーフプレートの軍団は今回の主力である。その後ろに革鎧などで固めた軽装の一団もおり、彼らが騎士団内の斥候部隊と言える位置づけになっている。また揃いのローブを纏ったのは魔道士団の一団。同じ軍隊の中では装備の均一化が図られており、どの部隊も中々精悍な出で立ちとなっている。


 彼らの中からハーフプレートを着た一人が出てきてガッザムへと挨拶をする。


「テレスガ騎士団、第一から第二部隊および斥候部隊、魔法師団第一部隊揃いました!」


「よろしい。今回の作戦内容に関しては共有しているかと思うが、大丈夫か?」


「斥候による目的地への移動および探索、部隊を編成しての単横陣での大森林探索と伺っていますが、間違いないでしょうか」


「その通り。通信の魔球を配布するので各部隊長へと配布して下さい」


 そうして騎士団も集合し、諸々の準備が終わった所で、ガッザムが号令をかける。


「それでは出発する! 相手はゴブリンだ、決して油断するな!!」


『応ッ!!』


 こうして探索者と騎士団の混成部隊がテレスガから出発した。現地へ到着するまでは特に何もなく、街道を歩いていたので魔物や野生動物との遭遇なども無く大森林へと到着する。テレスガの街から一番近い大森林の入り口へと到着してから、混成部隊は慌ただしく動いた。


「第一班から第十班まで単横陣を形成! 魔法師団は各班へと分割し編成する! 斥候部隊はすぐに目標地点へと向かうように!」


 そうして班分けされた部隊に分かれ、斥候部隊として割り当てられた騎士団と探索者の混成部隊が早速大森林の中へと潜っていく。それを見届けてから、全員で大森林へと突入した。


 今回の作戦、特に秘密裏に行うようなものでもない為、森の中へ結構な音を立てながら入っているが、特に問題は無い。むしろ派手な音を立てながら入ることで、作戦に関係無い余計な野生動物などに遭遇しないよう、わざと音を立てている部分もある。


 今回ノゾムは、エリッタ達のパーティーと共に、ガッザムが率いる騎士団の隊長と同じ班に割り当てられている。こちらの班は山狩りならぬ大森林狩りを行いつつ、先日の足取りを辿り確実にゴブリンの集落を発見しようという班だ。今回の作戦では、斥候部隊の次に重要度が高い。


 そうして先日ゴブリンと遭遇した地点まで団体で赴き、ゴブリンの足取りを調べる。日が中天を超えて西へと傾き始めた頃、ガッザムの持つ魔球に通信があった。


『こちら斥候部隊。目標地点にて集落を発見。なお周囲にはゴブリンがいくつかのグループに分かれ行動している模様。集落に大多数が留まっていると思われる。数は目算で四百ほど。指示を願う』


「目標地点、了解。斥候部隊はそのままゴブリンの集落の見える場所で待機を願う。我々もすぐに集結する。通信終わり」


 通信に返事を返し、ガッザムが周囲で通信を聞いていた面々を見ながら頷く。それに黙って頷き返してから集結地点として予定していた場所へと移動した。移動先では既にいくつかの班が集結しており、全班が揃うまで待機しているといった所だ。ガッザム達の後にも班が集まってきて、全班が揃う頃にはそろそろ日が暮れる、といった時間になっていた。


 騎士団の隊長が全班揃っているかを確認している間に、ガッザムが通信で斥候部隊と連絡を取る。


「こちらガッザム。ゴブリンの集落の様子はどうだ。家屋等に人の気配があるか確認を頼む」


『斥候部隊了解。これから行動する』


 通信が終わってから数分後、折り返しの通信が入ってくる。


『こちら斥候部隊。集落の一番奥の家屋の中に複数の人影あり。どうやら囚われた人間かと思われる』


「了解。集落に篝火などは用意されているか?」


『集落自体に篝火および見張りと思われる部隊は無し。日が暮れ始め、集落の中央の広場に焚き火を行う場所のみ火が灯っている』


「ふむ……。見張り無し、篝火無し、か。夜襲を仕掛けるのが最適かな」


 ガッザムの言葉に騎士団の隊長が頷いた。


「見張りなどを用意する知恵が無いのであれば、夜襲を仕掛けるべきかと。まず魔法師団で一当てした後、全部隊で突撃という手はずで大丈夫かと」


「と、なると。捕虜になっている人間をどうするか、だが。戦闘中に斥候部隊で確保、そのまま後方へ退避という事は可能か?」


『……集落の構造的に問題ありません。突撃後に確保の為行動します』


「了解、それでは夜襲という事で、タイミングはこちらで図らせてもらう」


 そうして、ゴブリンの集落に対する夜襲作戦が決定した。

次でゴブリンの話は終わりにしたい、なぁ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ