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熟練無双のペインハンマー  作者: とげむし
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貴族と昇級と


 ノゾムの言葉が終わり、ガッザムが一つ咳払いをすると、改めて机に広げられた地図に指を置いた。


「沢のほうから西、ココらへんで遭遇だったな。それで西側からゴブリンが来たって事だから……ココらへんか」


 女性陣の言葉を反芻してから指を滑らせ、トンと森の一箇所を指し示す。そこには地図上で一つチェックマークが記されていた。


「三年前……コボルトの集落跡地、か。確かにここはまだ木が生え揃わないでぽっかり穴が空いたようになってるだろうな」


「コボルトの集落跡地、ですか。木が生えていないっていうのは?」


 ガッザムの言葉にタエラが疑問を呈すると、ガッザムはトントンと指で指しながら応えた。


「コボルト共が周辺の木を切り倒して木造の家屋を作ってたからな。討伐の時に全て焼き払い取り壊したが、いくら成長が早くとも木は生えてないだろうよ。恐らく空き地をそのまま利用したんだな、ゴブリン共は」


「なるほど、木が生えてないから集落を作るのに打ってつけと」


「あぁ、そういう事だろうよ」


 ズズ、とお茶を飲みつつ応えたガッザムの言葉にうーん、とエリッタが考える。何か問題でもあるのか、と皆でその姿を眺めていると、エリッタが慌てたように応えた。


「いや、今回のゴブリンはどこから来たのかな、と。大森林の外から来たのか、それとも自然発生か」


「それは、自然発生でしょう。流石にゴブリン達が外から大森林に来たのなら誰も今まで遭遇していなかったっていうのは不自然よ」


「恐らくそうなるだろうな」


 エリッタの言葉にシムが応じると、ガッザムも相槌を打つ。確かに外からのゴブリンの移動など、それが起こっていれば誰かしらが今までに遭遇していても不思議では無い。


 それにしてもコボルト集落跡地か、とノゾムが考える。今まで誰もそこに行かなかった、という事はありえるのだろうか、と。確かに大森林は広大だ。地図の中に記載されている情報も、大森林入り口周辺と沢、本流の川が記載されているのみで、おおざっぱなものだ。そこまで細かい調査がされていないのか、出来ていないのか。恐らくは後者なのであろうと思う。そしてコボルト集落跡地は調査がされている大森林の比較的入口側に当たるので、記載がされていた。


 だが地図上で入口側、と見えはするが、実際に中に入ってみると森は永遠に続いているようにしか見えないのだから、大森林の広大さは言わずとも知れたものだ。そんな中でピンポイントにコボルト集落跡地に遭遇する、というのは中々出来ないのだろうと思う。コボルト集落跡地が最初から目的地として設定されていない限りは。


「コボルト集落跡地の調査とか確認とか、定期的にしてなかったのか?」


「それは……討伐後一年間は定期的に調査して魔物が繁殖しているようなら討伐を、っていう依頼をギルドから出していたが、最近は特に調査依頼も出しちゃいなかった」


「さすがに三年前の事を未だに調査確認というのは、継続するのも割に合いませんからね」


 ノゾムの疑問にガッザムが渋い顔をすると、受付嬢がガッザムに同意するように応える。確かに集落跡があるからとずっと継続して調査というのは、割に合わないような気がする。そこに貴重な何かが自生しているだとか、珍しい生物が居て素材としての価値が高いとかでないと、金銭的に釣り合わないのだろう。探索者への依頼料が嵩むだけだ。


 ガッザム達の言葉に納得してから頷いていると、応接室の入り口の扉がコンコンと叩かれた。


「誰だ?」


「私が出ます」


 ノックの音に受付嬢が応対すると、すぐに扉が開かれ人が現れる。ギルドの別の受付嬢と共に、身なりの良さそうな中年男性が現れた。


 良さそうな、ではない。金の縁取りをされたマントは絢爛であり、またその服も相当な値打ちのものである事が伺える。仕立て屋が丁寧に作ったのであろうその服装は清潔で、着ている者の気品を高めていた。そんな姿をした中年男性が現れるとすぐに受付嬢は頭を下げ、ソファに座っていた女性陣がその場から立ち上がる。その姿を認めると中年男性は手を前に差し出して控えるよう言った。


「楽にしていい。火急の用という事で私自ら持参しただけだ。聞けばゴブリンが発生したとか」


 落ち着いたその声に女性陣が再びソファに腰掛けると、今度はガッザムが立ち上がった。


「ソシエント子爵、その通りです。確認した所三年前のコボルト集落跡地を根城にしているかと」


「なるほど、三年前の。であれば速やかな討伐が必要だな」


 ガッザムの言葉にソシエント子爵、と呼ばれた中年男性が頷くと、受付嬢が用意した椅子に座り、ノゾム達と同じように机の上の地図を覗き込んだ。


 貴族。ノゾムがこの世界で初めて遭遇する、地球ではブルーブラッドなどとも呼ばれる、高貴な血縁の者だ。まさかこんな風に貴族と遭遇する事になるとはな、と驚きつつ、ノゾムはソシエント子爵を観察する。


 見た目は中年男性、服装などはちゃんと着飾っており気品に溢れている。なるほど、別世界の住人とも思えるほど人種として自分達とは違うな。と納得する。


 そんなノゾムの視線も知らず、ソシエント子爵は顎に手を当て考えた。


「ふむ、その場所となると重装兵は向かないか。魔法師団と軽装・中装の騎士達で何とかするか。ギルドからも人員は出せるのだろう?」


「恐らくは、出せても百には満たないかと。今は丁度行商の護衛任務が来ている時期なので、主だった探索者は出払っています」


「そうか。この街に居る魔法師団、騎士団を合わせてもすぐに出せるのは二百に満たないな。……合わせて三百に足りない程度か。問題は?」


「徹底的に大森林を刈り取る、というには人数が足りません。まずゴブリンの集落を潰すという事であれば」


「ゴブリンの規模は?」


「恐らく今回遭遇したのは斥候部隊でしょう。10から15のゴブリンの集団という話でした。本隊は恐らく、二百や三百は居るのではないかと。恐らく騎士団と探索者の隊であればどうにでもなります」


「では、私も頑張って二百の兵を捻出する。ギルドも何とか百に届くくらいの探索者を用意してくれ」


「分かりました」


 ソシエント子爵とガッザムがやり取りを終えると、子爵はノゾム達へと視線を向ける。


「君達がゴブリンに遭遇した探索者だろう。どうだった、ゴブリンは。強いか?」


「そ、そうですね……えぇっと……」


 唐突に声をかけられたエリッタがしどろもどろとする。これじゃ埒が明かないかと思い、ノゾムが代わりに応えた。


「こちらの人数が揃っていれば問題は無いかと。今回はこちらは5名、相手は15程度の集団でしたから、一時的に防戦にはなりましたが、相手が撤退する程度まで討伐する事は出来ました。同数の勝負であれば確実に負けません」


「そうか。ならばなるべく早く討伐しなければな。明日は無理として明後日、明後日だな。ギルド長も、それで大丈夫か?」


「明後日ならば問題ありません」


「よし、では明後日だ。騎士団はギルドの指示に従うようにする。よろしく頼むぞ」


 そう言うと、ソイレント子爵は席を立ち、慌ただしく部屋を出ていった。恐らく帰って色々な仕事があるのだろう。兵を捻出すると言っていたから大変そうだ。


 そんな事を思いつつ冷たいお茶をズズ、と飲んでいると、ノゾムに向けてガッザムが声をかけた。


「結構強気な発言だったじゃないか、大丈夫か?」


「事実だ事実。現に俺達は連中を討伐してここに報告に来てるんだからな。同数の人間とゴブリンだったら負けないさ」


「そうだな。ゴブリンの数がこちらの予想を上回ってなければいいが。まぁそれは現地で考えるか。今日はご苦労だった、明日の昼にはゴブリン討伐の依頼を正式に出すからお前達は来てくれ。今回の第一発見グループだからな、今日の足取りを確認しつつ本命のコボルト集落跡地へと向かう事になる」


「それは、依頼ですか?」


「そうなる。よもや嫌だとは言わんだろう?」


 ガッザムの言葉にエリッタが返すと、挑むような目でノゾム達を見つめてきた。その眼差しを見つめ返しつつ、ノゾムが応える。


「報酬は?」


 そう聞くと、ニヤリとガッザムが笑った。


「今回の第一発見、報告の報酬は1人20万テリスだ。その他素材も買い取るし、明日の討伐依頼は1人10万テリスと討伐時の素材を換金した上で人数分の分配になる。さっきのやり取りで何とか三桁は集めないといけないからな、金は割が良いぞ」


「決まりだな。俺は参加する。エリッタ達は?」


「私も参加する。みんなもだろう?」


 エリッタがそう言うと、残りの女性陣も頷いた。これで全員参加決定だ。


「それじゃあお前達は明後日の為に準備しておいてくれ。俺達は俺達でやる事があるんでな」


 ガッザムはそう言うと席を立って地図を片付ける。それと同時にノゾム達も席を立ち、執務室を後にした。


 ギルドのカウンターまで戻り、ギルドから出ようとしたノゾムの背中に、ガッザムが声をかける。


「ノゾム。お前は明後日の仕事が無事終わったら昇級だ。分かったな」


「……おう。精々頑張るさ」


 そう言って、背中を向けたまま手を振りギルドを後にした。

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