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熟練無双のペインハンマー  作者: とげむし
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剥ぎ取りとギルド長と


 大森林の中で遭遇したゴブリンの集団と、女性探索者四人の姿。それに合流するように飛び込んでゴブリンの集団を敗走させた。目の前に戦えるゴブリンが居なくなった事で一息つく。


「ありがとう、助かった」


「いや、たまたま行動範囲に居ただけだから」


 盾を持つ大柄な女性探索者に礼を言われ、返事を返す。見れば彼女の姿は結構ボロボロで、中装と言うべきだろうレザーの鎧と布の鎧下には新しい傷がいくつもついていた。恐らくゴブリンに囲まれていた時についたのだろうその傷の下はかろうじて血が出ているような事は無かったが、所々鎧下が破けており、その下にミミズ腫れのような痕が残っている。


「それでも、助かった。加勢に来てくれていなかったもしかしたら囲まれて終わっていたかもしれない」


「そうそう。私達もずっと戦いっぱなしだったから、あのままだとヤバかったし」


 大柄の女性に相槌を打ちながらショートソードを2本下げた女性が頷く。彼女もやはり多少の傷を受けてはいたが、行動に支障を来す程の傷ではないようで、普通に動いている。


 大柄の女性の頭の部分には丸い耳が2つ、短い茶色の毛に覆われるように生えており、ショートカットの髪色も茶色い。ショートソードの女性は、見た目には普通の人間だった。大柄の女性はクマの獣人、といった所か。


 そこへ背後に控えていた弓使いの女性と、杖を持つ女性が現れる。弓使いの女性は普通の人間で、杖を持つ女性はこの中で一番背が低かった。ノゾムも含めて一番背丈の低い女性は、前衛を務めていた二人へ近づくとボソボソと喋り杖を振るう。すると、前衛の二人の頭上に水色の光が一瞬灯ったかと思うと全身を流れるように伝い消えた。恐らく回復系の魔法なのだろう、前衛二人にミミズ腫れのように残っていた傷が消えていた。


「助かる、アミル」


「傷は消えたと思うけど、体力までは戻ってないから注意して」


「あぁ、分かってる」


 アミル、と呼ばれた女性の言葉に頷くと、大柄の女性がノゾムへと向き直った。


「とりあえず、素材の剥ぎ取りを行おう」


「ゴブリンか。どこが素材として使えるんだ?」


「角と魔石。それと今回は報告用に耳も切り取ろう。魔石は心臓の横にある」


 女性の言う通りの場所にナイフを突き立て素材を剥いでいく。尖った両方の耳も忘れない。そう言えば人型のモノを解体するのはこれが初めてだ、と思いつつ、ノゾムは淡々と剥ぎ取っていった。意外と忌避感は無いものである。


「それで、どうしてあんな状況になってたんだ?」


 一匹の剥ぎ取りを終え、二匹目の剥ぎ取りを始めつつノゾムが女性陣に尋ねると、彼女達も剥ぎ取りをしながら応えた。


「私達は、今日は大森林の少し深い所にある沢の側に自生する、薬品用のキノコの採取依頼を朝から行っていたんだ」


「キノコ自体は昼から少しした辺りで十分な量手に入ったから、携帯食を食べてからゆっくり街に戻ろうとしてたんだ」


「そうしたら、ゴブリンの集団と鉢合わせたの」


 なるほど、ゴブリンとの戦闘自体は偶然という訳だ。それにしても運がない。


「ゴブリンは、普段からココらへんには居るのか?」


 ノゾムの疑問に、弓使いの女性が首を振る。


「普段、というか。ゴブリン自体居ないわよ。ゴブリンやコボルト、オークといった集団で活動する狡猾な魔物は見つけ次第ギルドに報告。その群れごとギルド総出で殲滅っていうのがギルドの規則だもの」


「そういうものなのか。じゃあゴブリンと遭遇した事自体、結構ヤバイ事?」


「そうね。この後はギルド総出で大森林の調査、ゴブリンの殲滅って事になるわね」


「なるほど、それで報告の為にゴブリンの耳も剥ぎ取る、と」


「耳が一番分かりやすいからな。コボルトの耳は犬の耳。オークは豚の耳。ゴブリンのは緑色の尖った耳と区別がつきやすい」


 なるほど、そういう風に見分けるのか。と考えつつ二体目の剥ぎ取りを終える。


 心臓の横にあると言われた魔石というものがどの程度の大きさかと言うと、丁度大人の親指の爪程度の大きさである。ノゾムの使っている水袋の魔道具についている魔石より二回りは大きいものだ。その魔石を壊さないよう慎重にナイフを刺して肉を裂いて魔石を取り出す。それを額の角、両耳と一緒に背負った鞄へと入れていく。


 やがて五人で剥ぎ取りを行っていたからか、全部のゴブリンの死体からの剥ぎ取りが終わる。手がゴブリンの血まみれになったが、とりあえず水袋の水で両手を洗った。女性陣も同じらしく水袋の水や、魔法で自ら水を造り手を洗っていく。中でもアミルと言う魔法使いは空中に水の塊を浮かべて手を突っ込み、そのまま洗ってから捨てるという事をしていた。なるほど、その洗い方は便利だ。


「さて、それじゃあお互い自己紹介でもしつつ、なるべく早めにこの場を去ろう。もしかしたらゴブリンの追撃があるかもしれない」


「そうだな。それじゃいくか」


 そうしてその場を去ったノゾム達は、とりあえずお互いの自己紹介をした。大柄のクマ獣人の女性はエリッタ、ショートソードの女性がシム、弓使いの女性がタエラに魔法使いの女性がアミルだ。彼女達は鉄級と呼ばれる探索者で、探索者となってからそれぞれ一年程度経っているという。普段から依頼を受けるのは四人一緒で、名前などは無いがパーティーを組んでいるという事だ。


 そんな彼女達にノゾムが自己紹介をしつつ未だ自分が木札の探索者である事を告げると一様に驚いていた。戦闘力だけを見るならば、自分達とそう変わらない経験を摘んでいる探索者だと思われていたらしい。


 会話を交わしつつ、だが慎重に歩みを進めつつ大森林を抜ける頃には、既に日が傾き始めていた。


「あちゃ、もう夕方か。この分だと街に着くのは夜かな」


「仕方がない。なるべく急いでテレスガへと戻ろう。ゴブリンの事を報告しなくてはな」


 ノゾムの言葉にエリッタが相槌を打つと、街道へと五人で入る。そのまま何事も無くテレスガの街へ到着できた五人は、その足へ探索者ギルドへと入っていった。


 ギルドの中の併設されているバーは既に客で一杯のようで、楽しそうに飲み始めている客が大勢いる。今日の成果を金に変え、その金で酒を楽しんでいるのだろう、彼らの表情には充実感がある。


 そんな姿を横目に見ながら、五人はギルドのカウンターへと向かい、正面に居た女性の受付係へと声をかける。彼女は書類を片付けてからエラッタ達を見つめた。


「あら、エラッタさん。珍しいですね、四人以外でいらっしゃるのは」


「あぁ、まぁ。それは兎も角、大森林でゴブリンに襲われた。証拠はこれだ」


 そう言って荷物の中からゴブリンの魔石、角、耳を取り出してカウンターへと並べる。そのエラッタの言葉に、バーの方で騒いでいた客達がピタリと音を止めた。


「……聞いたか、ゴブリンだ」


「あぁ。ゴブリンか……駆逐対象だな」


「この時間じゃ明日は無理だろう、明後日辺りか?」


「そうだな、領内の兵士も使うなら明後日以降だろう。だが時間との戦いだからな……」


 ざわざわとバー側の客が騒ぐのを横目に、五人は受付嬢を確認する。受付嬢も、カウンターに並べられたそれが全て本物であると確認すると、一つ頷いてから声をかけた。


「詳細な報告をお願いします。どうぞこちらへ」


 そう言うと、カウンターの端の板を跳ね上げて通路を作る。そこを通ってこいという事だ。案内されるまま五人はカウンターの奥へと進み、階段を上り二階の部屋へと案内される。その部屋は広い間取りに応接用のソファが並べられた、所謂応接室であった。そのソファに座るよう促され座ると、受付嬢は部屋の外へと向かっていった。


「今ギルド長を呼んで参りますので、少しお待ち下さい。あとお茶も用意しますね」


 そう言って部屋から退出していった受付嬢を見てから、ノゾムはとりあえずソファに座り寛いだ。


「本当に大事になったな」


「言ったろう、ゴブリンはヤバいって。酒場の探索者達もこぞって聞き耳を立てて計画を練る相手だ」


「ゴブリンとかがヤバい理由はその繁殖力と統率の取れた魔物という点ね。放っておくと大繁殖して近場の村や街道に出て人を襲い始めるから。そうなる前に潰さないと被害が増えるのよ」


「私達が襲われたのはギルドからすればラッキーで、私達からするとアンラッキーって事よ」


 タエラがほう、とため息をつきつつ言うと、女性陣がみんなで頷いた。


「確かに。あの集団での戦闘を考えると大繁殖なんぞされたらヤバいな。それこそ軍隊でも用意しないと」


「実際、ゴブリンとかの魔物に関しては軍隊が出動して探索者と共同で駆逐、というのも珍しくないという話よ」


 シムの言葉に頷きつつ、そういうものかと考えていると応接室の扉が開いた。そこにはトレーにお茶を人数分乗せた先程の受付嬢と共に、ゴリラオヤジのガッザムが入ってきた。


「どうぞ、お茶です。皆さん急いできたようなので、冷たいものにしておきました」


 どうぞ、と言いながら渡されたお茶を受け取りつつ、ノゾムはガッザムを見る。見ているとガッザムはノゾム達の向かいのソファへと座り、同じく受付嬢からお茶を受け取って喉を潤した後、ノゾム達へと言った。


「……それで、ゴブリンだったな。どこらへんで遭遇した?」


 その言葉と共に傍らから長い紙を取り出し、応接用の机の上に広げる。見ればそれは地図のようで、テレスガ大森林を中心に書かれたものだった。


 その言葉にエラッタ達は、地図を指差しながら話し出す。


「沢の近くで休憩をしてからだから、ココらへんかな?」


「んー、もうちょっと西だったかも。撤退している時は東側に移動してたと思うから」


「うん、大体そんな感じかと」


「確かに、ゴブリン達は西からやって来たわ。そうすると休憩を取った沢のココらへんからゆっくり探索しながら戻っていて、その途中西からゴブリン達が来て」


「ふん……なるほどな」


 女性陣の説明に納得したような表情で頷くガッザムに、ノゾムは口をパクパクさせながら言った。


「え、っていうか、え? お前ギルド長かよ!?」


「あん? なんだお前、知らなかったのか」


「知らねぇよ! ていうかギルド長が暇そうにカウンターに突っ立ってんじゃねぇよ!?」


「ギルド長なんだからカウンターに居たっていいだろうが……」


「そりゃあそうかも、そうかもしれんが……」


 ガッザムの言葉に、ノゾムは何だか理不尽なモノを見た思いを感じていた。


中途半端かもしれません。すみません。

次回キリ良く終わらせます。

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