≪時間は記憶である≫ ~ Time is memory ~
時は止まる事を知らない。ただ過ぎていく。
時間は残酷で、少し切なくて、それでいて、僕らの記憶を少しづつ奪い去っていく。
なんとも、酷い奴だ。
遠い過去の記憶も、一昨日のお昼に食べた学食のメニューも、目の前の少女の事さえも。
「そうですね、私に関しての記憶が無いなんて、本当に酷い先輩殿ですね。いつ思い出して頂けるのやら。」
白銀に染められた流れるような美しい髪。整った顔立ちに前をしっかりと見据えた二つの青色。彼女は白百合のような衣装を見に纏い、瞳と同じ色のサファイアをはめたブローチを付けていた。
持っていたティーカップを口元に運ぶ所作はとても優雅で深窓の令嬢と言われても騙されそうだ。
かくいう俺も先程の光景を目にしていなければ騙されていたかもしれない・・・いや、確実に騙されていた。
「いや・・・と言われても、本当に何処で会ったか覚えて無くてだな。」
そう言って、困った表情をしても、彼女はニコニコと微笑みを返してくるだけ。
「そうですか、そうですか。そういう設定でいくんですね、先輩は。」
なんだ、設定って。
そう言いたいが、全くもって俺の話しに耳を貸す気は向こうには無いことがわかっている。
「なるほど。では、先輩が言った通り私達は『今』が初対面で、たまたま一目惚れしてしまった先輩が私を呼び止め、猛烈なアプローチの下、なんとかお茶にまでこぎ着けたという事でよろしいですね?よろしいです。はい、この話は終わりですね♪」
「おいおいおい、どうしてそうなった・・・。」
頭が痛くなる、猛烈に。
なんでこんなのと関わってしまったのやら。
俺がこいつ、いや、この方を知らないと言うのは残念ながら、嘘だ。
今年度の入学試験において主席だったアンリ・アルカーノ。
主席入学が決まり、三日後の入学の儀において栄誉ある新入生代表として錫杖を学園長から頂く手筈となっている。
ただ、ちょっと、出自が技術国家「アルカーノ」の第二王女であるという事だけ、別にすればほとんど無害だ。
何故、こんな奴とお茶に洒落込んでいるのか・・・。
ー 時は二時間前に遡る。