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プロローグ

連続更新1/3になります。お間違えの無いようお願い申し上げます。

 暗い部屋。カーテンを閉ざし、扉を閉ざし。全ての縁を断ち切るように俺は閉じこもっていた。

 思えば、中学の時は大勢の友達が居たものだが、全てが狂ったのは地元から離れた進学校を受験してしまった事だろう。

 中学で示したトップクラスの成績がそのまま続くのだろうと思って自分の偏差値より上の私立に行って大学も順調に――。


 そう思っていた時があった。

 進学校に行っても成績上位をキープして中学の時のように楽しい学校生活を送ろうと思っていた。

 だが、進学校とあって周りは頭の良い奴らばかりだし、無理して入った俺以外は基本的にさらに上位の学校を落ちてきた奴らで――要は頭が良かった。


 そんな中で下がる成績を止めようとあがいていたが、それも叶わず。

 まぁ、悪いのは分かっている。あのまま努力を続けていたら、もしかしたらそれが実ったのかもしれない。


 だが、その前に俺の心は折れてしまった。それこそ立ち直れないくらいポッキリと。

 疲れてしまったと言うか、燃え尽きてしまった。



「…………二十歳になっちまったなぁ」



 テレビの明かりに照らされたデジタル数字がゼロ、ゼロ、ゼロ、三になっていた。

 全てに疲れて、この部屋で過ごすようになった年月を数える不毛な事はしない。


 ふと、視線をテレビに向けるとやっとゲームのロードが終わる所だった。

 長年使ってきたゲームハードが限界なのか分からないが、このゲームはいちいち動作が重くてイライラする。


 やっぱりクソゲーだったか。

 ストーリーは勇者が仲間を集め、魔王を倒すと言うオーソドックスなのだが、その魔王はなんと先代の勇者だったと言う。

 なんでまたそんな展開に――いや、この超展開で誰が特するんだ。プレイヤーとしては勝つ以外にクリアー出来ないんだから万が一に同情してもやらなきゃいけないのに。


 そういうのはノベルゲームでやれ。

 と、ロードが完了して戦闘画面に進んだ。

 クソゲーとは思いつつ、このゲームをクリアしようとしているのは引きこもり故、する事が無いのと独特の戦闘システムにある。


 まず攻撃。武器は剣に槍に槌と豊富なのだが、ボタンを操作してこれで攻撃する訳ではない。

 画面の隅を流れるコマンドに併せてキーを入力する事で武器に魔法を付与して戦うのだ。その入力したコマンドの正確さによって魔法の威力が変わってくる。ある意味、リズムゲーのような側面がある。


 中学の頃、よくゲームセンターでそういう遊びもしてきた身としてはこぎみよくコントローラーを操作していくのは気持ちが良い。

 ちなみに防御は相手の攻撃ターン中に敵が入力するコマンドに併せて同じコマンドを入れると、それが符合した分ダメージが相殺される。

 まぁずっとちまちました作業を続けるのでつまらないと言えばつまらない。

 確か、このゲームって攻略サイトも見つからないんだよな。

 そんな事を思いつつ、リズムよくコマンド入力。決まったコマンドはもう指が覚えてしまっているから焦らなければ確実にコントローラーを操れる。まぁ焦るような展開も無いけど。


 ポチポチポチ。


 てか、二十歳になってもこれか……。

 急に賢者タイムに突入してコマンドが止まった。

 やり直したい。

 敵の攻撃の最中に止まったコマンドのせいで大ダメージを受けた。その攻撃で倒れたプレイヤーキャラ。だが、それはすぐに立ち上がる。


 俺も、立たなきゃ。

 そうは思うが怖い。


 高校で傷心した俺に止めを指したのは、中学の友人達だった。

 『へー勉強出来なくなったんか?』その一言が胸を抉り、嘲笑するような瞳が心を砕いた。

 もう、地元の連中は俺の事を覚えていないだろうが、それでも俺はあいつらがせせら笑っていた事を忘れない。

 いや、まぁ、俺も中学の時、奴らを、周りを見下していた。

 俺は勉強のできる特別な存在だからと厨坊のような(まさに中坊だったけど)事を思って周囲を見下していて、それが返ってくると怖くてその縁を断ち切って……。

 本当に何をやってるんだろうな。立ち上がろうとか、こうなったのはそもそも自業自得じゃないか。


 ポチポチポチ。


 コマンドが流れ、そうして装備していた剣から魔法が飛び出す。

 そうして勝利のテロップ。

 魔王――前勇者が「お前が世界を救えると――」云々と言いだし、それから場面が変わる。旅を始めた街が現れ、そこの住民から大きな歓喜の声が寄せられる。

 まさにめでたし、めでたしと言いたくなるエピローグが終わると画面が暗転。カリカリと断末魔に近いロードが始まる――と思いきや、すぐにウィンドウが出てきた。セーブでも出来るのかと思って内容を読むと『選択せよ』と書かれていた。


『ここで死ぬか。それとも生きるか』


 なんだろう。すごく臭いし、寒い。

 このゲームを作った奴のセンスが分からない。

 そう思っていると、そのウィンドウの下に数字が出てきた。

 まぁここまで来て死ぬとゲームクリアできそうに無いしな。


 それ、ポチ。


 するとゲームのハードがカリカリと唸りながらロードが再開する。



「遅いな……。てか、腹減った……」



 ふと時計を見ると深夜の三時。この時間なら家族は寝ているはずだ。鉢合わせを避けるならこのタイミング以外にあるまい。

 どっこらしょと立ち上がると、目眩を覚えた。

 グラグラとゆれる視界。いや、視界だけじゃない。足下も揺れているような、うわ、なんだこれ!?

 グラリと体勢が崩れ、俺は倒れた。その際、何かに頭をぶつけたようで、激しい痛みと共に俺の意識は刈り取られた。



◇◇◇



「ん? ここは!?」



 暗い世界。だが俺の部屋じゃない。

 それに暗いのに視界はクッキリとして俺のスウェットのロゴや色が良く見えた。

 なんじゃこりゃ。確か、黒い光と言うのは存在しないらしいが、ここははっきりとした光源が見あたらないのに明るいなんて……。

 その不思議空間で目をパチクリさせていると「落ち着いたかい?」と中性的な声がかけられた。



「やぁ」



 ジーンズに灰色のパーカー姿。これまた中性的な顔をしていて男女の区別の付かない人がそこに居た。



「ハッハッ! 人では無いよ」

「人じゃないって――」

「神様だよー」



 あぁ、神様ね。

 で、納得するか! とか、俺はどうしてその自称神様の前に居るんだ?



「それはね、君が選ばれたからだよ」



 鷹揚に両手を広げ「さぁ驚け」とでも言いたげな所作にこちらはポカンである。

 てか、さりげなく俺の心が読まれている!?



「そこは神様だからね。まぁいいや。それでね、君。君は選ばれたのだよ」

「選ばれたって、何に?」

「さっきしていたゲームだけど、それで君には適正がある事が分かった」



 話を聞いているのか、居ないのか。

 分からないままこの自称神様の話を要約するとこんな感じ。

 一つ、あのゲームの内容は別の世界を模倣して作られたもの。

 一つ、あのクソゲーをクリアするような暇人――もとい素質のある俺が勇者の一人として選ばれた。

 一つ、魔王を倒せ。



「あの、拒否権って――」

「んー? 無いよ。君は元の世界で死んじゃったからね」



 え? 死んだの? もしかして死んだの!?



「もしかしなくても死んでるよ。悪いけど、このままだと君はまた輪廻の輪に捕らわれて何かに転生するようになっちゃうんだ。例えば知性を得たナメクジとか」

「え? 某火の鳥のような展開!?」

「そうそう。君の行いを見るに、人間に転生するのは難しいと思うよ。それとも君は解脱出来るほどの悟りの境地に居るのかい?」

「そ、それは……!」



 まじか!? だが、確かに部屋に引きこもっているばかりの人生で来世が明るいなんて虫が良すぎる。

それにしても来世がナメクジとか嫌すぎだ。



「まぁ良いや。で、拒否権は無いけど、どうするの? イヤならイヤでナメクジに転生させてあげるよ」

「ナメクジ確定!? お受けします! その、ゲームの世界に転生します!」



 神様は「正確には転移なんだけどね」と言いながら歩きだす。その後を追うと二本の木が生えた場所に連れて来られた。

 いや、黒い空間に茶色い幹に緑の葉っぱの生えた木とかシュールすぎる。



「あの、この木って……」

「ん? 知らない? 聖書に書かれてるだろ?」



 あれか! 知恵の樹と生命の樹! よく見るとその枝には赤々としたリンゴがなっている。



「……このリンゴって、食べちゃいけないんですよね?」

「君にはリンゴに見えるのか。まぁ良いや。食べても良いよ」



 え!? 本当!?



「喉の乾きを覚えた愚かな女のように食べて良いよ」

「……い、いえ、遠慮します」



 トゲのある言い方に食欲の一切が失せた。

 そういえばさっきまで腹が減っていたはずなのに空腹という欲求がまったく無い。本当に死んだのか。



「知恵の実で神と同じように善悪を判断するように人間は成長してくれた。後は生命の実を食べる事で神のように永遠になれるのだけど……。まぁ良いや。

 本題に行こう。君はゲームの世界――異世界を救ってくれるのだね?」

「あの、ちょっと良いですか?」



 「なんなりと」と作られたような笑みを張り付けた神様はリンゴの木の下にどっかりと腰を下ろした。



「俺、特にこれと言った特技が……。救えって言われても……」

「あぁ、大丈夫。チートをあげるよ」



 え? 今、なんと言った!? チートだと!?

 そういや、読んだ事あるぞ。小説家になろうで流行ってる奴だ! てか神様のノリ軽くないか? いや、でも最近はうっかりミス系よりこういうノリの軽いのもあったし、いや、あれはフィクションの話で――。

 うーん、わからん。



「だから君はこの実を食べなさい。色々と面倒な事は省略したいからね」



 そう言うや、神様が背にしていた木からリンゴが落ちた。違う。リンゴは神様の手に収まるように落ちて来た。この樹が神様にパスを出したような、そんな滑らかなキャッチだった。



「はい、どうぞ」

「どうぞって……。食べて良いんですか?」

「うん。この生命の実を食べて」



 え? 生命の実って確か永遠の命を得られるんでしょ?



「これでお手軽に筋力エトセトラの能力はカンストするよ。後はその使い方か」



 スッと神様が俺の額に人差し指を向けた。「剣道をやっていたんだね。それならオーソドックスに剣で良いか。でもそれだけだと心もとないな」と呟くと、急に頭に明確なイメージが入り込んできた。

 どう剣を動かせば良いのか、その際の体捌、重心の位置。

 その全てを俺は瞬時に理解した。いや、剣だけじゃない。思い浮かべれば触った事も無い槍や弓なんかも使い方が分かるようになっている。



「これでプログラムの方は良し。後はそれを動かすOSって所かな?」



 さぁ、食べて――。



◇◇◇



 ふと、目を覚ますと安宿の小汚い天井が見えた。

 懐かしい夢を見たものだ。

 そう思いながら凝り固まった四肢を伸ばしていくと、足元に寝ていた人の背中を突いてしまった。



「ちッ」



 小さいながらもしっかりと耳に聞こえる舌打ち。

 どうしてこうなっちまったのかな。

 それこそ、この世界に召喚された当時は王宮から賛辞の声をもらったし、仲間と共に魔王が支配していた地域を解放して行った時の喜びは忘れられない。

 そうしてやっとの事で魔王を倒して王都に帰還した時の歓声は耳に残っている。



(どうしてこうなっちまったのか)



 魔王戦争が終わった直後はあのエピローグのようにみんな幸せになってエンディングを迎えるんだろうと思ったのに……。

 どうして――。

 考えても仕方のない事を思いつつ、明日の日雇い仕事はなんだろうと明日の食い扶持を心配する俺。

 そうやって俺は微睡の中に落ちて行った。


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