外伝~クルムとティーと~
前回の更新から、どれだけの時間が経ったでしょう……。申し訳ないです。
今回は第三章と第四章の間のお話です。ティーが孤軍奮闘しております。生暖かい目で見守っていただけたら幸いです。
外伝~クルムとティーと~
これは、ティーがどうやってクルムを手懐け、いや仲良くなったかの話。
警戒心をあらわにしているクルムをどうしたものか、とティーは悩んでいた。まるで野生の動物だ。
「なぁ」
ティーはクルムに話しかけるも、クルムの方はティーに振り向きもしないで馬と戯れている。
「なぁってば」
反応なし。ティーは仕方なく、アルを頼ることにした。荷馬車の隅っこに腰かけて、干し肉をくわえたアルはこちらの様子をじっと伺っているだけだった。ティーと目が合うとふいっと顔をそらしてしまった。これでは、いつまで経っても出発できない。
「なぁ。あいつ、どうにかしてくんない?」
アルの方に近づいてティーはそう言った。アルは露骨に嫌そうな顔をしている。
「どうにかって?」
あんまり近づくとクルムが怒ることが分かっていたので、やっと声が聞こえるくらいの距離で会話を続ける。
「そろそろ出発したいから、そこに乗せて欲しい」
ここまで、懇切丁寧に言わないと分からないのか、と思いつつティーは怒りを抑えた。クルムに話が通じない以上は、話がまだ通じるアルを頼るしかないのが現状だ。
「クルム」
アルがクルムの名を呼ぶと、やっと反応した。しかしアルに近寄ろうとしないのはティーがいるからだろう。
「行くって」
アルの言葉にこくりと頷いた。ティーがアルから離れると、クルムは荷馬車に乗り込んだ。ティーも馬を繋いで出発準備をする。
「さてと、それじゃまずは仲良くなりたいわけだが」
港町ポルトに向けて出発したは良いものの、二人は荷台の隅っこに本の間に埋もれていた。ティーに近づこうとしない。ティーは、いろいろ教えたいのも山々に仲良くなる方法から模索し始めた。
(野生の動物なら大抵、食い物与えれば懐くんだが……)
そうもいかないだろうな。と考え直す。
「とりあえず、隣に来てみないか?」
しばらく、こそこそと何かを話し合っているようだったが、結局アルがティーの隣に座った。嫌々手を引かれたクルムはアルの後ろの荷台の中に座った。さっきよりは距離が近くなって話しやすい。
「どうやったら、仲良しになってくれるかな?」
「……さぁ?」
こてんとアルは首をかしげた。言っている意味を分かっていないのかもしれない。
「まぁ、とりあえず一般常識について教えないと、俺の言いたいことも分かんないかな……」
ティーはしばらく、この世界で生きていくためのイロハを語ることにした。
✡
「とまぁ、こんな感じかな。一回じゃ分からないと思うから、その都度なにかあったら聞いてくれればいいから」
「うん」
アルは真剣にティーの話を聞いていた。クルムも真剣にティーの話を聞いていた。ときどきアルが何か通訳していたみたいだけれど。
「クルムはわたしと違って、しゃべるのも聞くのも苦手だから」
そうアルは言っていたけど、どういうことなのだろう。障害児というわけでも、なさそうだが。
「で、改めて仲良くしようって話」
「うん。よろしく」
アルは、にぱっと笑ってみせた。もともと明るい性格のアルは、誰に対しても仲良くできるタイプのようだ。ただ、その〝仲良く〟の意味を理解しているのかどうかは謎だが。それでも、ニコニコと笑っている姿には目を奪われた。
やっぱり問題はクルムのようだ。
「クルムとは、どうやって仲良くなれば良いんだろうな……」
ポツリと呟いたティーの言葉に、アルは首をかしげる。
「仲良くなる必要があるの?」
「え?」
「ティーは何でクルムと仲良くしたいの?」
「それは……」
今後、一緒に旅をするには険悪よりは良いから? まだ一緒に旅をすると決まったわけじゃない。
ただ単に興味本位? いや二人を助けたのは興味本位だけじゃない。
と、するとクルムと仲良くしたい理由とは……?
アルに問い掛けられ、ティーは黙ってしまった。そんなティーを見て、アルは何を思ったのか、むしろ何も考えていないのか、あっけらかんと言い放った。
「別に仲良しになる必要はないんじゃない?」
そうかもしれない。
そう思ってしまうティーは自分自身を、そう言い聞かせるしかないのだった。
これからだ、と。
初めまして、こんにちは。無月華旅です。前回の更新から、大変時間が空いてしまい、申し訳ない限りです。執筆ペースにムラがあるもので。
今回は本編から離れて外伝のお話です。また、森の皆さんの話も外伝として書こうと思ってます。アルとクルムの幼少期とか。絶対可愛い。ええ、親ばかです。
では、最後になりましたが、ここまで読んでくださって本当にありがとうございます。
願わくば、また次回お会いできますことを。