第一章~祝~ 下
第一章の完結です。上からの続きになっておりますので、上から読んでいただけたら幸いです。
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アルははぁはぁと肩で息をしながら、隣に立つクルムを盗み見た。クルムは息の乱れなど少しもなく平然と神木を見上げていた。アルも息を整えてから神木をみる。
「リスタ、みぃつけた」
二人がにっこりと笑いながら、嬉しそうに声をそろえて言うと神木の洞の中にいた少女、リスタがゆっくりと出てきた。
「やれやれ。まぁ、一応良いだろう」
リスタは困ったように頬をかくと自分の負けを認めた。二人と並ぶと銀髪のように見えるその髪は、実のところ白髪で、肩のあたりで切りそろえられていた。青緑だがアルより少し赤みががった瞳をこすると大きな伸びをした。
辺りはすっかり暗くなっていて、神木だけが淡い光を放っている。
「うん、大きくなったな」
「何、いきなり」
「きもちわるい」
「うっ、アルはともかくクルムまで……」
リスタは改めて二人を見て、成長を嬉しく思い、その感想を述べただけなのだが。少し傷ついたことをごまかすかのように、咳払いを一つすると、改めてアルとクルムに向き直る。
「おめでとう。これでお前たちは成人だ」
「……ん?」
「は?」
「まぁ、私から言わせてもらえば、まだまだ二人で一人前のようなもので」
「ちょ、ちょっと待って!」
リスタが照れながら放った言葉にアルもクルムも理解が追いつかない。
「せいじんって?」
「心身ともに成長して、一人前の人間になることだ」
何故かリスタは自慢気に胸を張って答えた。
「つまり、ボクたちはおとな?」
「そうなる。まぁ最初から説明しよう。この神木の前でな」
初めからそうしてください、と言いたいのを飲み込んでアルはただ、ぷいっとそっぽを向くふりをして、神木を見上げた。クルムも神木を見上げている。
淡く光を放っている神木は本当に神が宿っているかのように神秘的だ。
「この神木の前では誰も嘘をつくことは出来ないからな」
そう言うとリスタはスタスタと神木に近寄って根の近くに腰を下ろした。手招きをするので二人も恐る恐るしんぼくに近づき、リスタの側に座った。
「森の掟で神木に近寄ってはならないことを知っているな?」
「うん」
「リスタが口うるさく言ってきたからね」
「アル、ひとことよぶん」
クルムがアルを注意すると、アルはリスタをちらりと見た。リスタは静かに怒っていたが、事実なので何も口を挟まずに話を続けた。
「それには、ちゃんとした理由があるのだ。神木に宿るカミサマは意外と寂しがりやでな、人や動物が近づくとさらって『遊んで』と遊びを強制されるのだ。それで遊び疲れたカミサマから解放されたらこちらの時は数十年後だったり、逆に戻っていたり……。とりあえう変な時間に飛ばされるんだ」
「……」
二人とも無言になり、少しずつ後退った。そんな二人をみてリスタは苦笑いを浮かべるしかない。
「まぁ、最後まで聞け」
手招きをして二人をもとの位置まで戻すと、再び話を続ける。
「ただ、カミサマが好きなのは子供だけ。カミサマ自身も子供の姿に化けて現れるくらいだ」
「なんだ……」
安心した二人は顔を見合わせて、ホッと息をついている。
「だから神木の前で成人の儀を行うことにした。カミサマ現れないということは、お前たちは子供と見られていないということになるからな」
「う~ん……。それは嬉しいことなのかな? いや嬉しいことなんだろうけども……」
「いい、おもう」
よいしょと言って、リスタは立ち上がる。つられてアルとクルムも立ち上がった。
「改めて、成人おめでとう」
「うん。今度は実感があるね。ありがとう」
「ありがと」
ふわりと何か、小さな白いものが降ってきた。それは小さな白い花だった。
「先を越されたな……」
リスタが上の方を見上げてつぶやいた。
「それはカミサマから二人に、だそうだ。プレゼントだとよ」
少し怒ったようにリスタは、その花の説明をした。
「わぁー! ありがとう、カミサマ!」
二人が神木を見上げて、ニコニコしながらお礼を言った。そんな二人を見て、リスタは面白くない。ゴホンとわざとらしい咳払いをして、二人の注目を自分に向ける。
「そして、これが私からのプレゼントだ」
リスタがそれぞれに差し出した手を、アルもクルムも両手を出して受け取った。そっと掌が開かれると、そこには神木と同じ色に光を放っているクリスタルが乗っていた。とても小さいものだが、とても重たく感じられた。
「キ、キレイ……」
「うん」
神木の光に照らしながら、キラキラと幾重にも反射して光るクリスタルを、二人とも見入っている。その瞳がクリスタルを反射して、同じように輝いている方が綺麗だなんてリスタの口からはとても言えたことではない。二人が喜んでくれているようで、自分も嬉しくなった。
「さ、もう日が暮れた。家に帰ろう」
「うん」
リスタの言葉に二人が元気よく返事をした。
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「随分かわいくなったものよのぉ」
アルとクルムが先に行ったのを見計らったかのように、神木の洞の中、リスタが居た所から女の子が出て来た。
「カミサマか……。よくも先にプレゼントを渡してくれたな」
リスタはその女の子を認めると不機嫌を丸出しにぷいっとそっぽを向いた。カミサマはリスタの言葉に喉の奥でクックッと笑った。
「わしにもちぃとくらい楽しませてくれてもよかろう?」
「私は面白くない」
「強情じゃの。しかしまぁ、……これで、あの二人とも遊べなくなるのは残念じゃのぉ~」
ニマニマしているカミサマをキッとリスタが睨みつけるが、効果はあまりない。
「ほれ、行ってやるがよい。わしはまた、ここで誰かを待つとしようぞ」
ほわわぁと大きな欠伸をすると、シッシッとリスタを追い払う仕草をする。どこまでも自由なカミサマだ、と思いつつリスタはカミサマに怒るだけ無駄だと学習した。だから、ため息を一つつくと諦めてその場を去った。
そして二人の待つ家に足を向けた。
こんにちは、久しぶりです。無月華旅です。やっと、という感じで第一章が終わりました。頭の中で練ってはあっても、字に起こすまでが大変なんですね……。いや、楽しいんですけどね。
次回は第二章です。お次もよろしくお願いします。
感想、よかったら聞きたいです。