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最後の物語  作者: 無月 華旅
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第五章~知~

前回の投稿から、かなり時間が空いているので、前話から読み直すことをお勧めします。


 港町ポルトを出発した、ティー、アルム、クルムの三人は何者かに追われていた。無事、逃げ延び花の町フィオーレに辿り着く。そこで仕事を開始したティーから、この世界のことについて、もっと詳しく話を聞いている途中、聞き覚えのある名前を耳にした。

 激しく揺れる馬車から振り落とされないように、アルもクルムも必死に捕まっていた。

「二人とも、平気?」

 馬を御するのに、必死のティーは何故か楽しそうに二人に問う。

「平気な訳ない!」

 辛うじて言い返したアルも、あまりの揺れに黙らざるを得ない。黙ってないと、舌を噛んでしまいそうだ。

 なんで追われてるんだっけ……。

 心の中の疑問に、自分で答える。そうだ、追われる理由がいっぱいありすぎて、分からないんだった。

「町に入れば追って来ない。もうすこしだ!」

 すっかりハイになっているティーは、それでも二人を気遣って声を掛ける。

 追手は、それほど必死でもないのか、馬車が町に入っていくのを見ると、姿が見えなくなった。



     ✡



 港町ポルトから、そう遠くない所にある小さな町に逃げ込んだ三人は、ようやく一息つけた。

「結局、何が目的だったんだろう?」

 ティーは口の中で、もごもご呟いた。でもそれは追手本人にしかわからないことだ。

「ここは?」

「ここは、花の町フィオーレ。小さな町だけど、花の名所だから、観光客が多いんだ」

 花の町フィオーレは、港町ポルトに近いこともあり、水源が豊かだ。それが功を奏し、花の栽培に成功。見事、観光地として有名になることが出来たという。

「ま、ついでだし、少し商売して行こう」

「うん」

 町の中も絶対に安全という訳ではないが、何はともあれ商売をしないことには巡回司書という名が泣く。

 ティーは、まず町長の家に行くと、空き家があるか確認していた。そして、その空き家をしばらく貸してもらう算段を取り付けた。その空き家に、馬車に積んであった本を並べていく。もちろん二人も手伝った。

「巡回司書は、こうやって空き家を借りて、ここで本の閲覧ができるようにするんだ。空き家がない時は馬車でやるんだけど、それだと、どうも狭くて」

「即席の図書館ってわけだね」

「そういうこと」

 小さな図書館が出来る頃には、もうすっかり日も暮れていた。三人はとりあえず、夕食を取ると、空き家に戻った。

「それで、認定試験のことなんだけど」

「うん」

「認定試験に関する本が、少しあったから読んでみたんだ。それによると、認定試験に必要なのは、お金のほかに、成人していることと、後見人もしくは図書館関連職に就いてる人からの紹介状が必要らしい」

 ティーは、並べてある本の内の一冊を手に取ると、それを読み上げた。

「あとは、身分に関わらず、誰でも参加できる。だから毎回、参加人数は膨大になる、らしいな。それと共に、よろしくない連中も集まってくるようだから、あまり良い噂は聞かないな」

 身分を問わない試験となると、そうだよな。とティーはぼそぼそと呟いた。

 いくら図書館と国王が関わっているとはいえ、品行方正な試験ではないようだ。もちろん貴族や真面目に受けたい受験生もいるだろうが。

「試験って言うくらいだから、もちろん筆記試験とかもあるんだけど、二人は読み書きは?」

 ふるふると同じ動作で首を振る二人に、呆れを通り越して、もはやかわいく見えてくるティー。

「まぁ、そうだよな。それだけ常識がないんじゃ、そっちも期待してはなかったけど」

 一般常識の皆無。上手くいかないコミュニケーション。文字の読み書きも出来ない。一体二人はどのような環境下で育ったのだろうか。まさか、奴隷? 産まれた時から幽閉でもされていたのだろうか。それだったら納得がいく点もあるし、クルムの人間不信も納得がいく。ふむふむと、勝手に結論付けたティーを、アルもクルムも不思議そうに眺めていた。



     ✡



 翌日。小さな図書館を開けたティーは、仕事の合間にアルとクルムに読み書きを教えてくれた。これもまた覚えが早く、その日のうちに読み書きをマスターした二人はティーの仕事を手伝いつつも、手近本を読み漁っていた。

 花の町フィオーレは、穏やかな町だった。色とりどりの花で飾られた町には観光客も多く活気があったが、それでもどこか気品の高さが感じられた。その土地柄故か、本を求めてやってくる人が多かった。と言っても、本は高価なものだから、買っていく人はニ、三人だが、それでも、今日の閲覧料だけでも儲けものだった。アルとクルムは勝手に読み漁っているが、本来ならば、本を読むだけでも閲覧料というものがかかる。本の内容、出版年、価値などによって、その料金は異なる。なので昨今で人気になっているのはインデックス本だ。ただの本の索引本なのだが、簡単なあらすじも載っている。毎年、年初めに刊行され、その前年までに出版された本のほぼすべてのインデックス本。少々値は張るが、これさえ持っていれば、次にどんな本を買おうか、迷うことはないという。貴族の間では必携本となっている。本好きにとっては垂涎ものだろう。

 夕刻になって、小さな図書館を閉めると、夕ご飯に繰り出した。町を歩きながらティーは質問攻めにあっていた。必要最低限の知識を教えたといっても、まだまだ町の中には物珍しいものがいっぱいあるのだろう。

「あれは?」

「あれは、電気」

「電気って? どういう仕組みで光ってるの?」

「国が保管してるクリスタルに、魔力を流し続ける。そうすることによって、そのクリスタルと共鳴して、この国の電気が付くのさ。電気以外にも火が燃えたり、蛇口をひねると水が出てくるのも同じ原理。ただ、それにも魔具がいるわけで」

 と、説明しながら歩いていると飲食店にすぐに着いた。席に着いて、適当に注文を済ませてから、ティーは説明の続きを始めた。

「例えば、スイッチを押すと火が付く。このスイッチに当たる部分に微小の火の魔法を組み込まれたクリスタルが入ってる。そういった物を全体的に魔具と呼んでいるんだ」

「それじゃ、蛇口をひねると水が出るのも、蛇口の部分に魔具が付いてるってこと?」

「その通り。エネルギー源の全てはクリスタルという訳なんだ。まだまだ開発中だけど、馬がいなくても動く、全自動の馬車も出来るらしい。なんだったかな……確か、クルウマ?」

「馬がいないのに、来る馬? 変なの」

「まぁ近い未来の話だけどな。まだ開発中なんだから」

 この世界の技術について話していると、しばらくして注文した料理が湯気を立てて運ばれてきた。

 主に話していたのはアルだけだったが、クルムも話は聞いているようだった。二人の話を聞きながらしきりに思案気な表情を浮かべていたのだ。飲食店に来るまでの道でも、アルと同じように、物珍しそうに辺りをキョロキョロと見回していた。

「こういった魔具を使って楽に生活できるようになったのも、ほとんどが図書館司書長の発案らしいんだ」

「ふーん?」

 もぐもぐと頬袋をいっぱいにしながら、アルとクルムは相槌を打った。

「前も話した通り俺は司書長には会ったことないんだよなー。早く会ってみたいよ、ルーク様に」

「!」

「ルーク、今ルークって言った?」

「え? 言ったけど……」

 突然大きな声を出したアルを、不思議そうな目で、他の客たちがこちらを見ている。ティーはとりあえず、興奮している二人に落ち着くように手で制した。

「図書館司書の名前って、ルークって言うんだ……」

「そうだけど、言ってなかったっけ?」

 これで確定した。なんとしてでも図書館司書長に会わなければならない。そしてリスタを返してもらわなければ。憎しみの光が、二人の瞳に宿るのを見ると、ティーは眉をひそめた。

「この町で、いやこの世界で図書館司書長を恨んでる人がいるなんてな。温厚で、人当たりも良くて、出来た人間だって話だよ。このクリスタルを応用した魔具を作り出したのもルーク様だ。感謝されこそすれ、憎まれるようなことは何もしてないと思うけど……」

「そのルークが、わたし達のリスタを攫ったんだ。奴は良い人なんかじゃない!」

「まぁまぁ、そうカッカするなよ」

 また声を荒げるアルを、慌てて抑える。しかもそれが、誰にも慕われているルークの悪口となれば尚更、注目の的になってしまう。ただでさえ、目立つ容姿をしているのに、これ以上、奇異な目で見られるのはごめんだ。そう思ったティーは早々に食事を切り上げて、二人を連れて借屋に戻って来た。

 戻って来る道中も、二人は仏頂面をぶら下げつつもティーに従った。

「で、そのルーク様が、二人の恩人であるリスタを攫ったっていう話は本当か?」

 静かに頷く二人を見て、さらにはその瞳に宿っている憎しみの炎を見ていると、嘘を言っているようにも見えない。事実のようだ。

「その話が本当だったとして、ルーク様に会ってどうするんだ?」

「リスタを取り返す!」

「どうやって? 攫ったとしたんだったら、話し合って返してくれるとは思えない」

「それでも、取り返す」

 珍しくクルムがしゃべった。それほどまでに決意が固いのだろう。

 それを見て、ティーは静かにそっと溜息をついた。

「それにな、残酷なことを言うようだけど、まだその攫われた彼女が生きているとも限らない。それでもルーク様に会うっていう訳か?」

 力強く頷く二人。これは、もう梃子でも動かないだろう。

「だから、クリスタル認証試験な訳ね。分かった、分かった。二人の気持ちは分かったから、落ち着けって。この先、ルーク様の名前を聞いただけで、そんな顔をしてたら怪しまれる」

 アルとクルムは、ティーに言われた通り何度か深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。

「大丈夫、落ち着いた」

 いつもの元気いっぱいのアル、とまではいかないも、本人が言う通り気持ちを落ち着かせられたみたいだ。クルムは相変わらず仏頂面をしていたが。

「認証試験の話なんだが、俺は正直、二人が出ることに反対なんだ」

 ティーは手近にあった椅子に座ると、二人にも座るように促した。アルはティーの近くに、クルムはアルの近く、しかしティーとは少し距離を開けて座った。

「どうして?」

「昼間にも話した通り、認証試験には、あまり品の良い人間もやってくる。言わなかったけど、ある程度、格闘の試験もある。乱暴で横暴な奴もやってくるだろう。大怪我をしたっていう話も聞く。だから、そんな危ないことを本当はして欲しくないんだ」

 そこまで話すとティーは一度言葉を区切った。少し間を置くと、改めて話始める。

「二人は物覚えが早いし、このまま旅を続けながら、俺の手伝いをしてくれたらいいなって思ってたんだ。今日、少し手伝ってくれて助かったしな。もちろん認証試験を受けたいっていう二人を支援しつつも、最終的には紹介状を書かないつもりでいた」

 そう、クリスタル認証試験を受けるためには、図書館関連職に就いてる者の紹介状が必要なのだ。当然、ティーに紹介状を書いてもらおうと思っていた二人は、この言葉を聞いて青くなった。結局は、ティーの了承がなければ認証試験を受けられないのだ。

「騙したの……?」

「それについては悪かった。でも二人の想いの強さをみてたら、そうも言えなくなったんだよ。騙すなんてこと、したくない。だから明かしたんだ」

「……」

 でも結局は騙すつもりでいた、というのは変わらない。アルは浮かない顔で頷いたものの、クルムの心には何か黒いドロッとしたものが広がったような気がした。

「そこで提案がある」

 それに気づかないティーは、二人が許してくれたと思って、続けて話し出す。

「俺は巡回司書が職業なんだが、古代遺跡についても研究しているんだ。その遺跡の研究を手伝ってくれたら、認証試験の紹介状を書いても良い」

「手伝いって? 具体的に何するの?」

「遺跡に行って、その調査。大したことじゃないけど、人手が足りなくて、なかなか作業が進まず仕舞いだったんだ」

 アルとクルムは、お互いに顔を見合わせて何かぼそぼそと相談している。話がまとまったのか、ティーの方にすくっと向き直るとアルが話し始めた。

「分かった。わたし達が手伝えることなら、その遺跡の調査を手伝う。だから、紹介状を書いてもらえる?」

「あぁ。それじゃ、交渉成立だな」

 にこりと笑むとティーは右手を差し出した。その行為が、どういうことを示すのかアルとクルムはすでに知っていた。そこでアルが右手を差し出して、差し出されていたティーの右手を力強く握った。

「うん。よろしく、ティー」

「こちらこそ」

 ティーもその手を強く握り返した。


はじめまして、こんにちは。無月華旅です。

せっかくブックマークをしてくださった方々がいらっしゃるのに、更新が開いてしまって申し訳ないです。安定して更新出来るように、続きを書かなければ!

さて、第五章は少し短めで、これで完結です。まだまだ第六章に続きます!絶賛執筆中です。頑張ります。

それでは、最後になりましたが、ここまで読んでくださってありがとうございます。願はくは、また次回お会いできますことを。

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