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呑気な冒険者たち  作者: さかもと希夢
底から始まる真実
79/224

<1>

前巻と違って、この7巻はいつも通りのゆるーいファンタジーに戻ってまいりました(^^;)

6巻のラストで微妙に変わってしまったリッツとアンナの関係は、いったいどうなるの?

このまま三人はこの街で暮らすの? 旅はどうするの?

などなどの色々な分岐点が出てくる回となっております。

ゆるーい気持ちでお楽しみください。

 振り返れば、そもそもの発端は、きっとこの出来事だったのだろう。

 ユリスラ王国暦一五七三年一月二十五日。よく晴れた冬空、済んだ空気の満ちたこの空間に、低くともよく響く声が朗々と響き渡っていた。

「城で起こった事件が皆の心を乱したこと、申し訳なく思う。だが余はこの通り健在である!」

 王城前の広大な広場を見渡せる見晴台に立つ、国王の後ろ姿を目前に見ながら、リッツはその広場に集まった数千という国民の姿を見下ろしていた。

 国王の暗殺未遂、王城での化け物騒動……これが街の人々の間で噂にならぬわけもなく、ここ数週間王都は国民の不安感で満ちていた。

 この状況を打開し、国民に安心感を与えるべく、本日、国王エドワードはこの場に姿を現したのだ。大臣というありがたくもない肩書きを持っているリッツも、当然のごとくここにいる。

 彼の隣には王太子ジェラルドがおり、その隣は王妃パトリシア、そのまた隣に宰相シャスタがいる。全員この国の最重要人物であるが、リッツから見るとみな喧嘩友達であり、仲間たちだ。

 不安を抱えていた国民は、国王とその周辺の人物の姿を見るだけで安堵した様子だ。これだけで本日の役目は、あらかた終わったともいえる。

 エドワードの国民に向けての演説が始まった頃、リッツはそれを聞くでもなく、遠くの空を見つめていた。大事件が片付いてしまい、その上長年勝手に抱いていた友への焦燥感からも解放されたリッツは、どこか気が抜けたようにぼんやりとしていたのだ。

 世間一般的に、燃え尽きた(ヽヽヽヽヽ)とでも言うのだろうか。そんなリッツに気が付いているのは、最近ほとんど一緒に過ごしていたエドワードだけだ。だがエドワードも同じで、長年の懸念が消えたことに、どこか気が抜けた様子だった。

 結局自分とエドワードは、何か事が起こって緊張感がないと落ち着かないという、貧乏性なのかもしれない。

 誰にも聞こえないよう、こっそりため息を付いた時、隣のジェラルドが突然リッツの服を引き、小声でリッツに詰問した。

「本気ですか、父上は!」

「は? なにが?」

 心ここにあらずで、全くエドワードの演説を聴いてもいなかったリッツは、首を傾げた。ジェラルドは青ざめている。そこでようやく、エドワードが何事を国民に話しているのかが耳に入ってきた。

「……そして長年くすぶり続けていた戦乱の残り火も、今日(こんにち)すべて消え去ったのだ。もはや我々を過去へと引き戻す災いは何もない。今ここにいる国民と共に超えてきた、退廃と虚飾、そして争いに満ちた時代は、すでに遠い過去のものとなり、この先に待ち受ける豊かな平安の時代の中で忘れ去られて行くであろう」

 先に何を言ったかよく分からないリッツには、それは単なる平和への宣言にしか聞こえないが、ジェラルドの様子から少々の想像はつく。

 そして次のエドワードの言葉で、ジェラルドの動揺とリッツの想像が見事的中したことが分かった。

「よって新しい平和の時代を、余は新しき王に託すことを、ここに宣言する」

 大きなざわめきが国民と、城内の庭で見守っていた兵士たちの間で巻き起こった。それほどに国民の驚きは大きく、それ以上に唐突だったのだ。

 ざわめきと困惑の声は、収まるところを知らない。だがざわめきながらも、国民の目は国王に釘付けになっている。この状況では、いくらリッツといえども『おいエド、まずいだろう』と後ろから肩を叩くわけにもいかない。それはシャスタも同じ事だ。

 シャスタを見ると、国民の手前エドワードに掴みかかることも出来ず、肩を小刻みに振るわせている。きっとここが国民の前ではなかったら『何を考えておいでですか、エドワード様!』と絶叫しているだろう。

 譲位の考えはシャスタの前で幾度か話されていたが、基本的にシャスタは反対の立場だった。まだ退位する年でもないし、なによりエドワードは同じ年の頃の人々に比べて、異常に元気ではないかと彼は考えているようだ。

 だが当の国王本人から、ここでこう宣言されてしまっては、止めようがない。これはエドワードの作戦勝ちだ。正直言ってリッツだって今日この場で言い出すとは流石に驚いた。春には退位する。旅に出たい。などと平然とした顔でリッツに言っていたのだから、もうそろそろ言い出すだろうなとは思っていた。

 だがまさか会議の場ではなく、しかもシャスタやリッツ、当の本人であるジェラルドの許可もなくこの場で、とは。

 すでに聞いていたのか、パトリシアは涼しい顔だ。そもそも王妃は、エドワードのやることに基本的に文句はいわない。多分『エディが考えたことですもの、いいんじゃないかしら』ぐらいにしか口に出すことはなかったろう。

「リッツ、これは……本当のことなんだろうね?」

 国民に聞こえないことが分かっているジェラルドは、一心に国民の視線を浴びながら、隣に立つリッツに目を向けた。

 動揺しているが、ここで父親や何らかの事情を知っていそうなリッツに(すが)ることが出来ない、と考えるくらいの理性は残っているらしい。その目にはこう書いてあった。『嘘だと言ってくれ』と。だが嘘ではあり得ないのは、この状況が証明している。

 すっかり血の気を失ったジェラルドに、エドワードの性格をよく知るリッツは、こう返すしかなかった。

「がんばれ、ジェラルド」

「そんな馬鹿な。リッツも助けてくれるんだろう?」

 それに関してもこう答えるしかない。

「……遠くから応援してるからな」

 思いも寄らない答えに、ジェラルドは愕然とした顔でリッツの顔を見つめる。

「と、遠く?」

「おう。あいつが退位するってんなら、俺は大臣解任だからな」

「そんな……」

「いやぁ……解放されるなぁ。どこに行こうかな」

 うっとりとそう答えると、ジェラルドは益々青ざめた。冗談ではないことが、実感を持って理解できたのだろう。

「リッツまでそんな……」

「安心しろって、シャスタは絶対に残るから」

 情けない顔で額に手をやったジェラルドは、力無く首を横に振った。

「夢でも見ているんじゃないかな、私は……」

 残念ながら、夢ではないのだ。リッツはそんなジェラルドに少々同情した。王家に生まれたことではない、エドワードのような父親を持ったことにだ。

 なにせリッツも、突拍子もないことをしでかす父親を持っているのだから、気持ちが分からないでもない。だが同情を口に出すのは禁物だ。また何らかの役職に付けられでもしたら敵わない。

「まだ数ヶ月あるからな、気楽にがんばれよ」

「気楽でいられないだろう!」

 こうして混乱する次期国王ジェラルドの苦悩の海に放り投げ、本人とリッツ以外の皆々を混乱状態に陥らせつつ、三十六年という長きにわたり、一心にユリスラ国民の尊敬を集めてきた英雄的な国王、エドワードの退位は発表されたのだった。

 驚きに包まれつつも、新しい国王と新たな時代に期待を寄せる国民に、エドワードはすがすがしいばかりの笑顔で答えて退場した。きっと息子に国を託すことにもはや躊躇いが無いから、気楽なのだろう。

 だが何も知らされておらず、逃れようのない事態に立たされたジェラルドの混乱はリッツには計り知れない。

 国民の前ではかろうじて笑顔だったジェラルドだが、退場して後、独り言のように『そんな……早すぎる……早すぎだ……』と呻く姿は痛々しい程だった。それを表面上は慰めているパトリシアも、面白がっているようにしか見えない。この夫婦は揃って、息子には大変な親だろう。

 よろめきつつ王宮に戻るジェラルドと、陽気にそんな息子を励ますパトリシアを見送った後、人の目がほとんど届かなくなったところで、シャスタは遠慮なくエドワードに噛み付いてきた。

「何を考えておいでですか! 全くあなたはご自分の立場をなんだと思っておいでか! あなたが責任を負っているのは、ユリスラ王国という、ひとつの国です! 勝手に引退を言い出せる、街の商店主や農家の主人ではないんですよ」

 リッツでさえももっともだと思う。そのシャスタの当然とも言える耳の痛い言葉に、エドワードは平然と答えた。

「街の商店主も農家の主人も、それなりに責任ある立場ではあるな。最も国王よりは小規模だが」

「陛下! 誤魔化さないで頂きたい!」

 だが怒りを露わにし、顔面を赤く染めるシャスタも、この状況ではもうエドワードを説得することは無理なことは分かっている。なにせ年の差は十二もあるが、お互いに気心知れた乳母兄弟なのだ。

 それでも怒っているのは、自分の混乱を、自分なりに静めるためで、本気で止める気は無いだろう。

 昔からシャスタは、エドワードに対してそういう感情の治め方をする。その後は、いかにして自分に与えられた任務を実行すべきかという考えに頭を切り替えていくのだ。

「戴冠式の日時は、いつに致しましょうか、国王陛下」

 性格上、その後しばらくの間言葉に多少の棘が残るのは仕方が無いことではある。

「私としては、五月頃を予定している。六月になると、少々暑くなるしな……」

「……かしこまりました」

 頭を下げるシャスタに同情の目を向けつつも、リッツは何も言わなかった。

 ひょいっと年末にかえってきて、その戴冠式の混乱に乗じてまたひょいっと消える予定のリッツには、何も言えることもなければ、手伝えることもない。

 そんなことを知るはずのないシャスタだが、彼はリッツには何も期待していないらしく、手伝えとはいわなかった。なにせこれからシャスタがする仕事の大半は、リッツの苦手な事務仕事なのだ。

「それでは陛下、戴冠式に向けた実行組織を立ち上げたいのですが、宜しいですか? なにぶんひとりでは無理ですので……」

「許可する。好きに人を使ってくれ」

「はい」

 再び顔を上げたシャスタが、リッツを恨みがましそうな目でじっと見る。

「リッツさん、まさか知っててエドワード様をお止めしなかった、なんてことはないですよね?」

「まさか! 知らなかったぞ、俺は」

 巻き沿いを喰うのはごめんだ。慌てて否定するリッツに、シャスタは大きくため息を付いた。

「ならいいですがね。まったく陛下もリッツさんも昔から一緒になって僕を担ぎますからね……」

「ははははは……」

 乾いた笑いしか出てこない。確かに、振り返ってみればその通りだ。言い返す言葉もない。その上こっそり出ていこうとしているのだから、これがばれたらどんな目にあうか想像もつかない。

「それでは失礼します。おかげさまで仕事が山積みですから」

「頼むぞ、宰相」

「がんばれよ、シャスタ」

 心なしか少々老けたシャスタを、リッツとエドワードは気楽に手を振って見送った。

「シャスタの奴、これからジェラルドの戴冠式まで徹夜だな」

 ため息混じりに呟くと、エドワードは苦笑した。

「あいつには苦労を掛ける」

 その場に自分たちだけとなったのを確認して、リッツは口を開く。

「だいたいお前は、やりすぎだ」

「そうか?」

 歩くように促されて並んで廊下を歩く。一応立場上国王と大臣であるから後ろの親衛隊に聞こえぬよう、小声で文句をいった。

「突然すぎるだろ」

「妥当だったと思うがな」

 リッツの方を向きもせずに、エドワードは平然と答える。全く持って唯我独尊な男だ。言っても無駄だと分かっているが、どうしてもジェラルドの分まで文句をいわずにはいられない。

「どこがだ。ジェラルドを見たろうが。あいつしばらく立ち直れないぞ」

「まあ、あれほど動揺するとは思わなかったな」

「は?」

「国王になるために試練を課すといったろ? 試練を果たしたら国王になって当然だ」

「……まあ、そうだけど……」

「心構えはできていると俺は思っていたけどな」

「……お前とジェラルドは別人だ」

 溜息混じりに、リッツは髪を掻こうとして堪える。固めた髪を混ぜたら戻せない。

 二人が今歩いているのは、国王の執務室へと続く長い廊下だった。二人の後ろの親衛隊は、事件後から今までずっと、忠実にエドワードのお供を務めている。シャスタが手配したものだ。

「それにしても、何事も無かったみたいだな」

 独り言のようなエドワードに、リッツも小さく答える。

「ああ。平穏だよな」

 長い廊下もあの事件で随分と汚れたが、今では元の通り綺麗に磨き込まれている。

 まるで何事もなかったように。

 あの事件から二週間とちょっと、王城は完全に平常通りの落ち着きを取り戻していた。大量に人員の失われた近衛部隊は、これを機に全面的に部隊の大改変をすることになっている。

 実はこの仕事もまたシャスタに任せっきりだ。リッツはといえばあの事件以来、大臣の変装もせず、エドワードと共に城内を歩き回り、事務仕事そっちのけで楽をしていた。

 この大臣の格好は、非常に久しぶりなのである。何しろリッツは、事件以来一度として家に帰っていない。最初の四日間は意識がなかったし、その後も事後処理などに追われていた。

 なにせあの事件で親衛隊員は大打撃を受け、その上近衛兵も少なくなっていたのだから、このリッツの行動は国王を守るのに妥当だといえるだろう。

 今身につけている変装グッズと大臣の正装は、ずっと自宅に置き去りになったままだった。本日のエドワードの演説にあわせて、急遽自宅に置いてあった物を、昨日偶然出会ったフランツに届けさせたのだ。

 そして本日の国王退位。

 全てが終わった。そうエドワードは言った。その時リッツも、過去から遺恨という形で繋がってきた旅が終わったと感じた。

 そしてふと思い出したのだ。今回の旅の目的は、この事件じゃなかったぞ……と。

 そもそもリッツは、王都に来る予定ではなかった。こっちの方面に旅してきたのは、アンナの『海がみてみたい!』という、何とも単純明快な目標の為だったのだ。

 考えてみればリッツの最初の目的は、自分の正体が何なのかを放浪しながら見極めることだった。光の一族であっても精霊が使えず、人間みたいなのに寿命だけが長く、別にがたいがいいわけでもないのに異様に力がある。そんな自分を見つめる放浪の旅だったはずだ。

 そんな旅だから偶然に全く同じ、不思議な球体を持っていて、自分の正体を探すために両親を見つける旅を始めたアンナと、生きる意味を見つけたいフランツと共にここへ来たのだ。

 別に久しぶりに王都の旧友に会い、彼らを助けるために旅をしていたのではない。

 なのに気が付くと過去の仲間の方に引き寄せられ、アンナとフランツは置き去りにしている。

 ……この状況をいったいどうするべきだろう?

 それに二人には春にはここを出て、再び旅をすることも伝えていない。きっとまだしばらくここに住むものと思っているだろう。

 そろそろきちんと話すべきだろうか?

 この二、三日、リッツはずっとそれを考えていた。

 黙り込んだリッツに、エドワードは声を掛けてこなかった。いつもエドワードはリッツが自分で考えるべきことを考えている場合、口を挟んでこない。

 残りの道を、無言で二人は歩き、執務室の扉をくぐった。親衛隊も扉の外に消え、二人きりになったところで、エドワードはリッツを振り返った。

「ところでリッツ、お前家に帰っているのか?」

「へ?」

 唐突な言葉に、リッツは間抜けな声をあげた。

「帰ってねぇけど?」

 反射的に答えたリッツに、エドワードは肩をすくめた。

「やはりな……たまには帰ったらどうだ?」

「何でだよ」

 意味が分からずに首を傾げると、エドワードは応接室の椅子に腰を降ろしながらリッツを見上げた。

「今考えていることは、過去じゃないんだろう?」

 やはりエドワードは分かっている。気が抜けたように見えても、きちんと見ているところは見ているようだ。リッツも応接セットにどさりと腰を降ろした。片眼鏡をテーブルに置くと、凝った肩をぐるりと回す。

「ああ」

「ならばお前にとってこれから先のことは、アンナとフランツと旅をすることしかない」

 ため息が出る。リッツが当の二人に言い出せないことを、エドワードはあっさりと口にする。三十五年の間離れていたくせに、何故こんなに簡単に心を読まれてしまうのか、不思議だ。

「……二人とも、お前ほど俺の考えが読めりゃ楽なんだけどなぁ……」

「読めるわけないだろう? お前は妙に屈折したところがあるからな」

「そうかな……」

「そうさ。素直で正直だと思っていたら、大切なことは黙っていたり」

「うっ……」

「どうしようもなくなるまで抱え込んだきり話さなかったり」

「ううっ……」

 反論のしようがない。未だにそういう所は昔と変わっていないし、それをエドワードも知っている。

「だから一旦家に帰れ。今の仲間と離れる時間が長くなるほど、話がしにくくなるだろうし、話し合うべきは今の仲間だ」

「分かってるさ」

 戴冠式が五月に行われる。これまでに旅の準備をしておかねばならない。だが今この状態で変に落ち着いてしまっているから、目標が欲しい。その目標が見つかれば、もっと簡単に動き出せるのだろうが、今はそれが分からない。

 転がりだした石を前に進めるのは簡単だが、一旦どっしりと根付いてしまった石を再び転がすのは、存外難しい。

 背もたれに体を預けて伸びをするリッツに、エドワードが困った奴だ、というような顔を向けた。何年経っても、リッツはエドワードの弟分であるという立場から結局脱却できてはいないのかもしれない。

 そんな時、執務室の扉が叩かれた。

「なんだ?」

「陛下……来客ですが」

 遠慮がち……というより戸惑った声が掛けられる。その戸惑いからすると、危険な客ではないらしい。ただひどく困惑しているようだ。

「通せ」

 エドワードの言葉に、親衛隊員がゆっくりと扉を開ける。通していいものか思案しているようらしくその動きは緩慢だった。

「どうかしたのか?」

 不審そうなエドワードの声に、親衛隊員が戸惑ったような顔を覗かせた。

「陛下にご挨拶をしたいというのですが……あの……」

「よい、通してくれ」

「かしこまりました」 

 開けた扉から、背の低い人物がひょこっと顔を出し、頭を下げた。まるで召使いのようなその動きがおかしい。

 確かに国王への来客にしては、不思議な存在に違いない。その来客は親衛隊から見れば、奇妙なほどに若かったのだ。

 動きにあわせて綺麗に編んだ真っ赤な三つ編みが揺れる。その正体に一瞬リッツの思考が停止した。一応国王の前であり、人の目があるからその人物は頭を下げたままだ。

「失礼いたします、陛下。本日は軍医局より、ご挨拶に伺いました」

 親衛隊によって扉が閉められたのを確認してから、少女はひょこっと顔を上げた。いたずらが見つかった子供のように照れた顔で、エドワードを見て笑う。

「な~んてね、へへ。こんにちは、エドさん……」

 言いかけて少女は、部屋に居座るもうひとりの客である自分の姿をまじまじと見た。目があった瞬間に、何故か狼狽えてしまう。

「あっ! リッツ!」

 エメラルドに輝く大きな緑の瞳が、驚いたように見開かれる。想像もしなかった不意打ちに、一瞬言葉が出なかったが、何とか笑顔で手を挙げて見せた。

「ようアンナ」

「ようアンナ……じゃないよ! もう! 二週間ぶりだよ!」

 エドワードに挨拶に来たはずなのに、アンナは椅子にふんぞり返っていたリッツに走り寄った。

「全然家に帰ってこないんだもん、どうしてるのかと思ったんだよ? 怪我はもう痛くないの? 御飯ちゃんと食べてる? ちゃ~んと寝てる?」

「あのな、俺は子供じゃないんだぞ?」

 次々とまくし立てられて、リッツはたじたじと言い返す。パトリシアの嫌みと違って、アンナの場合心底心配して言っているから、下手に反撃は出来ない。

「怪我をしてる時は、子供と一緒なの! ちゃんと御飯食べて休まないと駄目なんだからね!」

「分かった分かった。大丈夫だって」

 苦笑するリッツの正面で、エドワードが吹き出した。

「これではどっちが保護者か分からんな」

「ほんとだよな」

 何だか立場が完全に逆転してしまったようで、情けない事この上ない。

 瀕死の状態から生還して、死に損なったと落ち込んでいた時にアンナがいなければ、今も何を考えていたのか想像がつかない。

 もしかしたらいまだに、エドワードから……仲間たちの想いから逃げることを考えていたかもしれない。未だ死ねなかった後悔に、胸をかきむしるほどの痛みを抱え続けていたかもしれない。

 当然ながら気を張ることなく、こうしてエドワードと話している自分はいなかっただろう。

 ありがたいことにあの日以来、アンナのいう『消極的な自殺』なる感情を抱いたことは一度もない。そんな感情に陥りそうになると、アンナのエメラルド色に輝く瞳が思い浮かんできて、そのぬくもりに救われる。

 だが妙な(しこ)りは残ってしまった。

 あの崖でのやりとり以来、アンナにどういう態度を取るべきか、お互いの距離をどう保っていくかを、リッツは考えあぐねいていたのだ。そのせいで二週間という長きにわたって、顔を合わせることを極力避けてきたといってもいい。

 いままで通りに自然にと思ったのだが、どうしても自分の課せられた『保護者』の役割が重くなってしまった。かといってアンナの養父に『娘を頼む』といわれている以上、この立場を投げ出すわけにもいかない。

 心理的にリッツは、確実にアンナに守られていると感じられる部分がある。それを自覚してしまった今、今まで通り世間知らずな子供の面倒を、面白がりながら見ている自分、という構図は描きづらい。

「アンナは私に用事だったんだろう?」

 エドワードの声でようやく本来の目的を思い出したのか、リッツを解放したアンナはエドワードに向き直った。

「エドさん、今日で軍医局のお手伝いが終わりだそうです。軍医長さんに今日まででいいからって……」

 アンナはあの事件以来、毎日軍医局の手伝いに通っていたのだ。怪我人が多くて一般の治療だけでは手が追いつかなかったため、借り出されて……というより押しかけていたのである。

「それではこれで軍医局も平常通りになったな」

 柔らかくそう微笑んだエドワードに、アンナも同じような笑顔で答える。

「はい。そう陛下にお伝えくださいと、軍医長にいわれました」

 アンナは表向き、王妃付きの精霊使いという事になっているのだ。なので軍医長も国王への伝言を託したのだろう。

「ありがとうアンナ。助かったよ」

「役に立てて嬉しいです」

 穏やかに雑談する二人を眺めて、リッツは小さくため息を付いた。自分の一生の中で出会うだろう頭が上がらない人間は、エドワードとパトリシアだけだろうと思っていたが、気が付けばもうひとり増えてしまった。

 再び椅子にもたれかかって、リッツは伸びをした。怪我は軍医とアンナの御陰でもう何ともない。特に一晩中治癒魔法をかけ続けてくれたアンナには、本当に感謝しても足らないくらいだ。

 まだどう接するべきかは定まらないが、とりあえず、今できるアンナへの感謝の気持ちを少々返すことにしよう。

 雑談に一段落付いたところを見計らって、リッツはアンナに声を掛けた。

「アンナ、今日は家に帰るけどな……お土産買っていくから、何か食べたいもんをいってくれ」

 もう少しまともなお礼をするべきだろうが、アンナに感謝の気持ちといったら、食べ物しか思いつかない。驚いたようにアンナの瞳が瞬いた。

「本当に帰ってくるの?」

「勿論」

「フランツも今日は家で御飯食べるって言ってたから、全員揃うね!」

 飛び上がって喜ぶアンナに、リッツも知らず知らず口元が緩んだ。帰るだけでこんなに喜んでいただけると嬉しいもんだ。

「ケーキか何かを買ってくか? おっきい奴」

 リッツの提案に、アンナはブンブンと大きく頭を振った。

「いらないよぉ。リッツが帰ってきてくれるだけで嬉しいもん」

 あまりにも嬉しいことを言ってくれる。変にこみ上げる喜びと同時に、家を持っていながら、それを放っておいた自分のいい加減さが身に染みる。

「だってず~っと家に帰ってこないんだもん、リッツ。もう忘れられたかと思っちゃったよ」

「悪い……」

 忘れているわけではないのだが、少々避けてしまっていた。考えてみれば、アンナにとってリッツは家族なのだ。その家族がこうして雲隠れしていていいわけがない。心の中で反省するリッツに、アンナはなおも頬を膨らませながら抗議を続ける。

「フランツも親王殿下に呼び出されてしょっちゅう留守だし。毎日ジョーと二人なんだよ? アニーとエヴァンスさんは、夕食後は帰っちゃうし」

 まだまだ続きそうな抗議に終止符を打たせたのは、エドワードだった。

「ではアンナ、私が責任を持ってリッツに仕事を片付けさせて、早めに帰すようにしよう」

 ポンと肩に手が置かれた。またリッツの話をリッツ抜きで勝手に進めている。

「本当に本当に、約束ですよ、エドさん」

「私は約束は破らないよ」

「お願いします」

 アンナは元気よく頭を下げた。一つに編んだ三つ編みがしっぽのように軽やかに揺れる。そしてその軽い勢いのままアンナはリッツを見てにこやかに微笑んだ。

「リッツ、今日はごちそうにするね!」

 一点の曇りもないその笑顔を見ていると、自分が色々考えていることが馬鹿らしくなる。そう思うと自然に笑顔が浮かんだ。

「おう、期待してるぞ」

「うん! ジョーと買い物に行ってこなくちゃ!」

 アンナはウキウキと扉に向かって歩き出した。もう頭の中は、今日の夕食を何にするかでいっぱいのようだ。その背中にエドワードが声を掛ける。

「気を付けて帰るんだよ」

「は~い」

 振り返ってアンナは笑顔で答え、それから一瞬考えてからリッツに告げた。

「あのね、リッツ、もしもね、もしもケーキ買うなら苺がいいな。クリームたっぷりのやつ」

「分かった。買って帰るよ」

「うん! 楽しみにしてるね」

 扉に手を掛けて、アンナは中の二人に笑顔で頭を下げた。

「それではお邪魔しました」

 元気に挨拶をしてアンナがでていくと、執務室は急に静かになった。エドワードは大きく伸びをしてリッツを振り返る。

「……お前、今日はどんな予定だ?」

「これから久々に執務室に戻って、ケニーとアルトマンから事後処理報告を聞く予定だな」

 リッツは立ち上がった。暖炉のそばであたためられたポットには、暖かいコーヒーが入っている事を知っているからだ。流石のリッツでも、エドワードにコーヒーを淹れてくれとは言えない。

 二つカップに注ぐと、それを手に再び応接セットに腰を降ろした。柔らかく香りのいい湯気が空間を満たす。少々香りは飛んでしまっているが、気にはならない。ぼんやりとコーヒーを啜っていると、エドワードが同じようにカップを手にして、至極真面目にリッツを見た。

「それが終わったら家に帰れ。アンナのことだ、口に出す以上に寂しい想いをしていると思うぞ」

「……分かってる」

 一応まだアンナの保護者だ。アンナの気持ちを察することぐらい出来る。だがリッツの言葉を聞き流してエドワードは呟いた。

「いい子だな、アンナは」

「まあな」

 本当にどうしたらああいう風に素直に生きられるのか、リッツも知りたいくらいだ。だがエドワードの言葉は想像外だった。

「お前には勿体ない」

「は?」

「グレイグの嫁にでも欲しいぐらいだな。釣り合いはとれているしな」

 突拍子もないことを言い出したエドワードに、リッツは困惑する。

「……何考えてんだお前は。グレイグがあのアンナにかないっこないだろう?」

 ぼやきにも似たリッツの答えに、エドワードは微かに目を細めてこちらを見ると、独り言のように呟いた。

「そうだな。釣り合いから考えればお前には劣る」

「何の話をしてるんだよ、エド」

 そう言えばエドワードとアンナは、リッツのことで色々話をしたらしい。いったいエドワードが何をどうアンナに話したのやら。それにアンナが何をエドワードに相談したのやら不安になってきた。

 リッツの困惑を、しばし面白そうに眺めていたエドワードだったが、再び真面目な顔でリッツを見て言った。

「とにかく、今日は王宮に帰ってくることも禁止だ。分かったな?」

「分かったよ、家に帰るって」

 リッツは片眼鏡を手に立ち上がった。慣れた手つきでそれを元の位置に戻す。これだけで相当年を喰って見えるのだから、便利な小道具だ。

「そんじゃ、仕事してくる」

 リッツは黙って手を振り、仕事にかかるエドワードにちらりと目をやってから、同じように黙って執務室を出た。とりあえず、ケーキ屋が空いている時間には王城を出なければならない。

 大臣執務室に戻る前に、リッツにはいくつかやる事が残されている。それを片付けなければ。リッツはゆっくりと国王の執務室を後にした。

 だが大臣の責務を投げ出していたリッツは、歩く先々でいろんな人々に捕らえられては報告を受けたり、許可を求められたりと面倒に追われた。

 約束の時間ギリギリに、歩きがてら受け取ったいくつかの書類を手に執務室の前に辿り着くと、査察官ケニーと憲兵隊第三課第一小隊長アルトマンの二人はすでに来いた。

「やべ、もう来てやんの」

 小声で呟くと、リッツは二人を見た。二人とも堅苦しくも、部屋にはいることもなく扉の前で直立の姿勢もまま待っている。相手がリッツ個人なら気を抜くだろうが、公式には大臣は彼らの上司だ、仕方あるまい。

 表情からすると安堵しているようだ。結構待たせてしまったらしい。この二人は仕事柄時間に正確なのだ。リッツ自身には親衛隊もお供も付いていなかったから、人目のない状況で気楽に二人に手を挙げて見せた。

「よ、お疲れ」

 二人は一応公の場でするように敬礼をした。流石にどこに人目があるか分からないところで、一国の大臣に気軽に接することも出来ないのだろう。

「ちょっと色々仕事があってな。散らかっているかもしれないが、入ってくれ。お茶くらいは出すぞ」

 言いながらリッツは執務室の扉に手を掛けた。そう言えば、この部屋にやってきたのは二週間ぶりだ。例えリッツがいなくても、この執務室担当の侍従官が部屋を片付け、いつでも使える状態に保っているはずだから問題ないだろう。

「……!」

 扉を開け、自分のデスクに目をやった瞬間、リッツはあんぐりと口を開けてしまった。驚愕のあまり、手にしていた書類がバラバラと落ちる。

「な、なんだこりゃ……」

 リッツの後ろにいたアルトマンが吹き出した。ケニーは必死で笑いを堪えるために、咳払いを繰り返している。

 そこには、これでもかとばかりに積まれた、大量の書類の山があった。その山に、赤々と大きく『未決済』との紙が貼られていた。どう見てもそれを書いたのはシャスタだ。

「こうしているのもなんですな、フォート少佐」

 笑いを堪えようと、髭をしごきながらアルトマンはそう呟く。

「そうですね、アルトマン中尉」

 二人はそう呟くと、固まったままのリッツを後ろから押した。リッツはつんのめるように、ふらりと自分の執務室へ足を踏み入れる。それと同時にアルトマンが扉を閉めた。一瞬の静寂の後、堪えきれなくなったアルトマンが笑い出した。

「いやはやリッツくん、これは剛毅だな!」

「し、失礼ですよ中尉」

 そう注意をしながらも、ケニーも必死で笑いを堪えているのが分かった。ようやく茫然自失から立ち直ったリッツは、書類の山に張り付いている『未決済』の紙をはがした。

「シャスタのやろう! 絶対嫌がらせだ!」

 どう見てもこの書類、普段の二週間分より遙かに多い。シャスタが書類を放り出してほっつき回っていたリッツに対して、こういう形で仕返ししたとしか思えない。

「新年早々、我々の任務にお付き合い頂いたせいで、ご迷惑をおかけします」

 シャスタの悪口は聞かなかったことにして、ケニーはそう謝った。もしかしたら新年は、提出される書類が多いのかもしれない。だとしてもケニーに非がないことは、重々承知だ。

 アルトマンは涼しげな顔でご自慢の口ひげを引っ張っている。面白くて仕方ないのだろう。

「それは一理ある。我々の仕事につき合って貰わなかったら、こんなに書類を溜めはしなかったろうな。だが我らの仕事が終わった後、いくらでもこの書類をかたづける間があったと思うがね。どうかな、アルスター大臣閣下?」

「へいへい。分かってるさ、自業自得だってのはな」

 リッツは綺麗に片付けられている、応接用ソファーにどさりと腰を降ろした。この分量の書類をいったいどうしろと言うのだ。何日……いや何十日かかったって片付けられる自信はない。

 いっそのこと見ないで適当に処理するか? だがそんなことをして、重要書類を見落としたら大惨事だ。

 今までエドワードとシャスタが築き上げてきた、王政への信頼を損なうことがあったら、それこそ取り返しが付かない。

「あ~あ、どうするかなぁ……」

 ため息と共に力が抜け、背もたれにぐったりと寄りかかる。まったくもってこれを終わらせるという想像がつかない。

 赤々と火をくべられている暖炉に置かれた紅茶のセットに気が付いたケニーが、三人分のお茶の仕度を始めた。

 片眼鏡を半分放り投げるようにテーブルに置くと、リッツはため息を付いた。とりあえず書類は棚上げして、目の前の仕事を済ませようと。それしかない。

 ケニーがお茶を出し終えるのを待って、リッツは正面に座った二人を見た。

「そんじゃ、先に報告を聞こう」

「はい」

 ケニーとアルトマンの報告とは、麻薬組織の事後処理のことである。麻薬の一部は、いまだに売買され続けている。これの取り締まりは、憲兵部隊第三課第一小隊が続けて行っている。

 大本が無くなった今、これの全滅は時間の問題だと思われる。そしてアルトマンの報告は国王暗殺未遂の犯人たちの家宅捜索結果である。

 報告だけを聞くところ、完全にこの二つの事件はジェラルドやリッツの手を離れたようだ。あとは彼らに任せて間違いない。

「これが最後の報告になりそうだな」

 話を聞き終えたリッツがそう呟くと、一瞬ケニーとアルトマンは寂しそうな顔をした。おそらくこの三人が顔を合わせて、一緒に仕事をすることはもう二度とないことが分かっているからだ。

 いやそれどころか、ケニーとアルトマンの二人さえ、もう共に任務に当たることはないだろう。二人は犬猿の仲である、憲兵隊と査察部の一員なのだから。

「そういやあの獣人……レフはどうなった?」

 しんみりした雰囲気を払うように、敢えて陽気にリッツは尋ねた。

「もうほとんど麻薬の効果は残っておりませんな。流石は獣人といったところでしょうか?」

「そうか……。俺はいつ頃引き取ればいいんだ?」

 そうなのだ、実はリッツはレフが故郷に帰れる算段が付くまでしばらくの間、レフを預かることになっている。理由はリッツが、彼が最も尊敬する光の一族である、というただ一点だけである。それだけでレフには十分なのだそうだ。

「そうですなぁ……十日後にそちらへ行かせる……ということではどうだね?」

 アルトマンは口ひげを引っ張りながら思案し、リッツにそう尋ねた。リッツとしてはいつでも全く構わないから、異論はない。

「十日後な。分かった。使ってない部屋を片付けさせとくよ」

 言いながらリッツは立ち上がった。一応この件の終わりに、大臣として相応しく振る舞わねばならないことを自分で分かっている。

 軽い雰囲気を消し、静かに二人を見る。

「この事件の事後処理は、今後憲兵隊、査察官各隊に任せる。今後の報告は報告書の形で構わない」

 自然とケニーとアルトマンも立ち上がった。

「ご苦労だった」

「はっ」

 敬礼をする二人にリッツは頷いた。これで一応この事件は終了だ。

 リッツは立ったままのアルトマンとケニーの後ろに立った。そしてまだ堅い態度の二人の肩に手を置く。

「……ところでケニー、今夜予定はあるか?」

「は? 特にありませんが……」

「じゃあアルトマン、予定は?」

「家に帰るくらいだが……」

 不思議そうな顔で振り返った二人に、リッツは笑顔を向ける。

「俺さ、二週間ぶりに家に帰るんだよ。仲間がごちそう作って待ってるっていうからさ」

「は?」

 意味が分からず困惑する二人に、リッツはなおも肩に置いた手に力を込めて、笑顔で話し続ける。

「絶対に帰るって約束しちまったから、残業できないんだよな、うん。そこで俺は考えた。この大量の書類をどうすべきかと……。まあ明日以降やってもいいかもしれないけど、絶対に終わらない。終わるわけがない。そして俺はひとつの結論に辿り着いた」

 ケニーとアルトマンの顔が、困惑から徐々に苦笑へと変わっていくのを目に見えて感じた。だいたいの予想が付いたのだろう。だがここで言いやめるのもなんだ。リッツはにこやかに二人に告げた。

「二人とも今日は用事ないって言ったよな? 俺の家に来ないか? 美味しい飯もあるし、ほら、仕事終わりのお祝いもかねて……」

「リッツくん、回りくどいこと言わずに言ったらどうかね?」

 すっかり苦笑から笑い顔になって、アルトマンはリッツの腕を叩いた。

「そうですよ閣下」

 こう言われたら正直に言うしかない。

「頼む、この書類俺んとこに運ぶの、手伝ってくれ。俺ひとりじゃ絶対に終わらないから、仲間に手伝わせて家でやる。夕飯ごちそうするからさ」

 こうして大臣の決済を待つ大量の書類たちは、シャスタの許可を得た後、ケニーとアルトマンの多大なる協力によって、リッツの現在の住まいである、クレイトン邸に持ち込まれることとなった。 

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