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呑気な冒険者たち  作者: さかもと希夢
月光桜の誘惑
71/224

<9>

 王都を出てからおよそ二時間がたち、合同部隊は敵本拠地から死角となる森の中にいた。朝日はすっかり昇りきってはいたが、空は晴れ渡り雲一つ無く、空気は未だ刺すように冷たい。

 馬から立ち上る汗が湯気に変わり、澄んだ空気にゆるりと溶けてゆく。防寒具を着込んでいるとはいえ、じっとしているのは堪える。

「意外と人通りはないのですね」

 休憩と最後の作戦会議を兼ねた席で、携帯用食料を囓りながら、そうケニーが呟いた。呟いた息さえも白くくもる。

「城門が開くまでにはまだ時間があるからな。農家だって門が開かないと中には入れないから、人通りが増えるのはもっと後さ」

 隣で館の見取り図を改めて見ていたリッツは、そういうと、携帯食料の残りをポイッと口に放り込んだ。固く焼いて干されたパンの甘みが少しづつ口の中に広がる。

「詳しいなリッツくん」

 査察官とは相変わらずなアルトマンだったが、リッツとはうち解けてきていた。

「俺の人生、大部分が放浪の日々なのさ。な、殿下」

 澄ましてそういったリッツに、緊張からか、ここに来て黙ったままだったジェラルドが吹き出した。大臣という職を放りだしたままにしていたリッツの、その悪びれない態度がおかしかったのだろう。

「それは羨ましいことだ」

 アルトマンは呆れたような、面白がっているような口調でそういい、大げさに肩をすくめて見せた。張りつめていた空気が一瞬にして柔らかくなる。

 リッツは微笑みを浮かべたジェラルドに目を遣った。これで少々緊張が解けただろうか。必要以上の緊張は、こういう状況に置いて命を縮める事になりかねない。

 だがジェラルドは思った以上に、リラックスしてきていた。アルトマンやケニーと言葉を交わすジェラルドを尻目に、リッツは冷たく澄んだ空気を大きく吸い込むと、木々の隙間から見える青い空を見上げた。 

 早朝のこともあり、王都へと続く国人の道を通ってきた間にすれ違ったのは、大きな甕を積み込んだ、幌馬車を操る蜂蜜売りとおぼしき人々だけだった。

 こんな時間に王都へ向かうと言うことは、まだ城門のことなどに詳しくはない業者なのだろう。そういえば、軍人の姿が珍しいのか、じっとこちらを見ていた者がいたのを思い出した。

 リッツはその男に、奇妙な感覚を覚えた気がしたが、どうしてだったか覚えていない。ジェラルドとの打ち合わせに忙しかったからだ。

「館の出口は二カ所……裏の通用口は査察官二人が先に潜入して内側から開かないように細工し、正面から部隊が突入したのを確認したのち、二人とも正面扉の前で待機。逃げてきた敵をたたく……っと」

 リッツはこの間の会議で決まった事を、全員の前でもう一度確認していく。特に大きな声を出しているわけではないのだが、澄んだ空気の中でよく響いた。

「一階は我々査察団の担当です。一階の制圧の後、書類等の押収にはいります」

 ケニーがそういって査察官を振り返る。査察官たちは見取り図を眺めていた。各自の持ち場と行動を確認し合っているようだ。

 見取り図は査察官用に一枚、憲兵側に一枚、そしてジェラルドとリッツに一枚の計三枚ある。

「我々憲兵隊は二階と三階の制圧にかかる。人数の都合上、書類や証拠物品等の押収作業はせず犯人逮捕のみに専念する……」

 アルトマンの言葉に憲兵隊は頷く。もう確認は必要ないらしい。彼らの任務は逮捕のみなのだから。

「私は査察団と共に一階制圧後、ここ階段ホールに待機する。全ての階を制圧した後、ここへ報告をあげてくれ」

 そういってジェラルドは、図面上の階段ホールを軽く叩いた。

「俺も殿下と同じだ」

 そういうとリッツは大きく伸びをした。個人的には憲兵隊と共に二階と三階の制圧に向かいたい。その方が向いているからだ。だが今回ばかりはそうはいかない。

「それでは二十分後から作戦決行としよう」

 ジェラルドはそういって懐中時計を見た。二十分後は、丁度八時だ。王都を出てから三時間になる計算だ。

「先行する二人はくれぐれも気を付けてくれ。作戦全体の進行の問題となるから」

「はい」

 王太子からの直接の指示に、査察官二人は緊張した面持ちで胸に拳を当て、王族に対する最敬礼をした。軍人同士なら敬礼で済む話だが、階級に厳しい憲兵隊の中で王族に対してそれ以外の礼のとりようが無い。ジェラルドはそんな二人に向かって微笑みかけた。

「だが命は大切だ。もし失敗し命の危機に陥ったなら、逃げるんだ。作戦は立て直しが効くが、君たちの命はひとつしかない」

「ありがとうございます」

 深く頭を下げる二人に、ジェラルドは首を振った。

「その言葉は、作戦が無事終了したときにまで、とっておいてくれ」

 ほどよい緊張感と柔らかな雰囲気が場に満ちた。いい傾向だ。今回の作戦、計画通りで言ったならば、ジェラルドに危険が及ぶことはあまりないはずだ。だが現場では何が起こるか分からない、注意しておくに越したことはないだろう。

「八時だ、それでは皆、頼んだぞ」

「御意」

 いよいよ麻薬組織壊滅作戦が始まった。最初に二人が歩いて館に向かっていく姿を、全員が黙って見送った。その姿が館と木に阻まれて視線から消えたのを合図に、全員が馬から荷物を降ろして支度を始めた。

 作戦の都合上隠密を主とするので、ここからは全員徒歩なのだ。馬では目立ちすぎる。

「馬はしっかりつないでおけよ。逃げられたら帰れないぞ」

 緊張をほぐすべく、リッツがからかい半分の口調で全員にそう声を掛ける。するとすかさずアルトマンが答えた。

「なるほど、私の年ではこの寒い中歩くのは敵わん」

 憲兵隊、査察官双方から、さざめくような笑い声が上がった。

「それでは最後の確認を終えたら出発する」

 兵士たちが自分の作業に戻っていく。普通の戦闘と違って、犯人を捕縛する・書類の押収をする・証拠を押さえるという事後処理を行わねばならない場合、意外と持ち物は多いのだ。館に着いたら、先にいった扉を守る係に管理を任せて、突入することとなる。

 兵士が誰もリッツ達に気を向けていないのを確認してから、リッツはジェラルドの肩に手を掛けた。

「ああリッツか」

 ジェラルドは驚いたように振り返った。彼は先ほどからずっと館を見つめている。どうやら先の二人を案じているようだ。

「ジェラルド、聞いてくれ」

「なんだい?」

「お前は今回、この部隊の指揮官としてここへ来た。だがなお前にはもう一つ大前提がある」

 不意にそういわれてジェラルドは首を傾げた。

「大前提? なんだい、それは」

「お前は指揮官である前に王太子だ」

 困惑するジェラルドを、リッツは厳しい目で見据えた。

「兵士を無駄死にさせないこと、これは当たり前だ。出来なきゃ無能と呼ばれてお終いだからな。だがそれ以上に大事なのは、お前が死なないことだ」

「いや、しかし……」

 今まで指揮官としてどうするべきかと、ジェラルドが考えてきたこととは少々違うのだろう。彼は今まで兵士を守ること、間違えないで指示することだけを考えてきたはずだ。

 だから彼の戸惑いがリッツにも伝わってきた。それでもリッツは反論を許さずに、言葉を続ける。

「お前の死は、国の混乱を巻き起こしかねない。生死を賭けるような状況に陥ったとき、誰かが犠牲になったとしても、絶対に生きることを考えろ」

「無茶をいわないでくれリッツ。そんなことは出来ない」

 苦痛に満ちたその口調で、額を押さえるジェラルドに容赦せず、リッツはを見返した。

「出来なくてもやれ。それが俺やケニーやアルトマンでも、犠牲にして生き残れ」

「そんなことは……」

「自分の命の重要性を理解しておくのも、王族の仕事だ。分かったな?」

 その強い言葉と、肩に乗せた手からかかる力に押されるように、ジェラルドはため息と共に呟いた。

「そんな自己愛的な考え方が、このようなときに許されるのか?」

「許されます殿下」

 迷いと苦悩に満ちた呟きに、力強い声が答えた。

「お迷いにならずとも我らは、この国の兵士、この殿下の治めるべき王国の民にございます」

 リッツには振り返らずともその声で誰か分かった。ケニーである。彼は査察官という特殊な立場上、その事を最も意識している男だ。

 気が付けば全員がジェラルドの方を見つめている。とっくに仕度は終わっていて、二人のやりとりを聞いていたものと思われた。

「やれやれ、聞いてたのかよ」

 苦笑混じりにリッツがそういうと、ケニーの横に進み出たアルトマンがその髭に余裕をも湛えながら、微笑んだ。

「我々は憲兵隊、元々地獄耳でな」

「それは知らなかった。以後気をつけるよ」

 冗談を軽く返すと、アルトマンはジェラルドに向き直った。

「我ら憲兵隊第三課第一小隊、この命はこの国のもの……ひいては陛下や殿下のもの。何があろうと後悔は致しませぬ」

「フォート、アルトマン……お前たちは……」

 二人の小隊長の真摯な言葉にジェラルドは言葉を失い目を閉じる。やがて決心が付いたのか、ゆっくりとその紫の瞳を開いた。

「分かった……。ありがとう」

 ジェラルドは真っ直ぐに全員を見渡し、そして微笑んだ。

「余計な時間をかけてしまってすまなかった。行こう、先にいった二人が待っている」

 作戦決行から三十分がたった八時半、鍵がかかった敵本拠地の扉を叩き壊し、合同捜査隊が建物内部に突入した。

「もぬけの殻……か?」

 警戒を怠らず、リッツは、辺りを見渡しながら呟いた。しんと静まりかえった館の内部は、やけに広く感じる。天井が高いため、隊員たちは楽に剣と腕に固定した小型の盾を構える事が出来た。だが静まりかえったその空間にはその姿が、異様で釣り合いに見えた。

 だが不気味な理由はそれだけではない。

「……気を付けろ、人の気配はあるぞ」

 身構えながら、そうアルトマンは部下たちに警告する。気配がするのに誰もいない、この不気味な状況……。

「どうしますか、殿下」

 作戦をそのまま続けるか、それとも変更するかの選択をケニーがジェラルドに求める。この状況で一階と二階・三階に別れてしまうのは危険だからだ。

 ジェラルドにもそれが分かったのか、少々思案してから答えた。

「変更しよう。まず一階部屋全てを査察官と憲兵隊全員で調査。その際に上階段への通路に見張りを立てよう。憲兵隊から二人頼めるか?」

「かしこまりました」

 結局合同捜査隊は、一階にある応接室、食堂、調理場、サンルーム、使用人用の部屋など約十室を、くまなく探したが人を見つけることは出来ず、その上書類を押収することも出来なかった。

 書類は全て持ち去られていたのだ。

「……嫌な予感がするな」

 一階をくまなく探し終えたリッツは、腕を組んで考えていた。何故誰もいないのか。そして書類すらも持ち去られているのか。まるで今日捜査の手が入ることを知っていたのかのようだ。

 ……それとも偶然に、敵が捜査の前に逃げ出したのだろうか?

「駄目です。ここはすっかり片づけられています」

 最後まで家具類を調べていたケニーが、そうジェラルドに報告した。

「これは奇妙だな……」

 ジェラルドも先ほどリッツが抱いたのと、同じ疑問を持ったようだ。

「どう思う、リッツ」

 助言を求めるジェラルドに、リッツは肩をすくめた。

「わからねぇなぁ……とりあえず上の階だろう」

 おざなりな答えだったが、ジェラルドはおろかアルトマンやケニーにも異論はなかったようだ。とにかく今は調べる以外に、状況を知る方法はない。

「それでは憲兵隊から二階へ、査察官は隊長と数人が一階に残って、捜査を続けてくれ。地下室、及びに隠し部屋の存在があるかもしれん」

「御意」

 残されるケニーは、心配そうにジェラルドとリッツを見た。だが自分の任務を完遂することが重要だと分かっている彼には、ついて行くという選択肢はないようだ。

 二階に上がることになったのは、査察官五人と憲兵隊十五人、そしてジェラルドとリッツの二人。合わせて二十二人と決まった。

「それではいこう」

 そう憲兵隊を促したジェラルドに、ケニーは声を掛けることしかできない

「お気を付けください、殿下」

「分かっている。無茶はしない」 

 館の内部は、薄汚れていた。いや、荒れ果てていたと行った方が適当だろう。ここを買い取った男は、内装まで修理することはなかったとみえる。

 古ぼけ、あちこちペンキがはがれ石壁がむき出しになったところなどを見ていると、ここに人が住んでいた事が信じられない。工事の業者が入っていたような事を、会議の席で聞いたような気がするが、一体どこをいじったのやら。

 もしかしたらこの屋敷は、下級貴族に買われてから人が住んだことはないのだろうか? 物置として使われていただけならば、この(すさ)みように納得がいく。

 館の東の隅に、上への階段があった。大の男が三人は並んで通れそうな広い木製階段である。歪んでいたが、踏み板が抜けるほどではない。

 きしむ階段を大人数で上がっていくと、木製の階段があげる音が、高く尾を引く悲鳴のように聞こえた。

「何かが変だな……」

 アルトマンと並んで先頭を歩いていたリッツが、小さく呟く。

「何が変なんだ?」

 隣のアルトマンがそう尋ねる。リッツは前を見たまま言葉を続ける。

「いくら手を入れてないとはいっても、しょっちゅう人の出入りが上の階にあったら、もっと階段が静かじゃないか? 何だか随分と軋むなぁと思ってさ」

 木製の階段は歪んで軋む。年数が経っていても毎日多数の人間が上り下りしていたら、少々はきしみ具合が変わってきそうなものだ。人が住まないから家が荒れる……これが自然の摂理だ。

「うむ、私もそう思っていた」

 現場経験が長いアルトマンも頷く。この屋敷の上二階分は、使われていなかった可能性がある……。リッツのそんな考えは、二階に着いたところで現実となった。

「すごい埃だな。誰かいるのか?」

 アルトマンは廊下を見てそう呟いた。廊下の両端にはうずたかく埃が積もっている。

「だけど通った跡はあるから、人はいたんだろうな」

 声を顰めるでもなくそう話すアルトマンとリッツは、不意に押し黙った。

「どうした?」

 二人のすぐ後ろから来たジェラルドが尋ねたが、すぐに二人に沈黙の原因に気が付いて黙る。廊下に面した扉の取っ手が、カチカチと小さく音を立てているのだ。

 再び緊張が高まった。二階に上がった憲兵隊は、全員が再び、剣と盾を構えた。

 静まりかえっていた廊下に、取っ手を捻る音だけが聞こえてくる。音だけ聞いていると、どうやら扉の中にいる者は、扉を開けることに苦労しているらしい。

「来るぞ!」

 短くそう言ったリッツの目に、ひとつの扉がゆっくり開かれたのが映った。

「う……なんだ、あれは……」

 そこにいたのは人間だった……正確には過去に人間であった者という表現が正しいかもしれない。

「……なんだ……何なのだこれは……」

 体中の筋肉が異常に膨張し、体中がぼこぼことした岩状になっている。筋肉の膨張は体だけにとどまらず、顔面を圧迫した筋肉が眼球を飛び出させていた。

 その姿、闇の国に存在すると語られる、トロルという化け物に似ていた。むき出した目が、ギロリと憲兵隊の方を見る。一瞬怯んだ彼らを、その瞳はじっと見つめたまま動かない。

 その化け物は不意に涙をこぼした。助けを求めるようにアルトマンに向かって腕を伸ばすと、喉をゴロゴロと鳴らすような不快な声で呻いた。

「ショ……ウタ……イ……チョウ」

 目を見開き、言葉さえ口に出せずにいるアルトマンに、更に化け物は腕を伸ばした。

「ショウ……タイ……チョウ」

「お前は……ターナーか?」

 化け物は一瞬微笑んだように見えた。だが次の瞬間、頭を押さえて悲痛な呻き声を上げた。

「おぉぉぉぉぉぉっ」

「ターナー、何があった! 答えろターナー!」

「やめろアルトマン! もう駄目だ」

 走り出そうとするアルトマンを、リッツは押さえつけた。怪力のリッツの力を振り切ることも出来ずにアルトマンは呻く。

「放せリッツくん、放してくれ! あれは私の部下だ!」

 アルトマンの口調からそれは分かっていた。だが実際に彼の口から出たその言葉は重い。

 ターナーとアルトマンが呼んだその化け物は、呻きながら床をのたうつ。筋肉の上を走る血管がびくびくと生き物のように動くのが遠目からでもはっきり分かった。

「あんたもプロなら分かるだろう! あれはもう駄目だ」

「しかし!」

「いいから下がれ!」

 化け物と化したターナーは、床に転がりながら奇声を上げ続けている。 

「く……何ということだっ!」

 拳を怒りで振るわせながら、それでも助けられないかと淡く期待を抱きつつ、しりじりとアルトマンは下がった。

「……内偵に使っていた部下だ。二日前まで何事もなかったというのに……」

 二日前……。やはりこの捜査に合わせて敵が動いた。何かがおかしい……。

 リッツがそう思った瞬間、他の扉が開いた。

「来るぞ……」

 リッツは扉から目を外さずに数歩下がった。先ほどのターナーと同じように化け物と化したものが、奇妙なほどにゆっくりと、一歩一歩を踏みしめつつ現れた。

 怪物の手には、何かボロ切れのような物がつり下げられている。怪物の息づかいと、ターナーと呼ばれた男のなれの果てのあげる絶叫、それ以外に何の物音もしない。

 夢を見ているなら目覚めてくれと、皆が願った。だが怪物の手にあるボロ布の正体が分かった瞬間、そんな淡い期待も消えた。

 ……それは……人の死体だった。

「あの死体はバリー……ではもしやこれは……」

 怪物はゆっくり、一歩一歩アルトマンに近づいてくる。その目には理性らしき物が、ひとかけらも残っていない。

「デンゼル……デンゼルなのか?」

 怪物は絞り出すようにそう叫んだアルトマンの方に、見開いた目で歪んだ微笑みを投げかけてきた。それは知り合いを見つけて喜んだ顔ではない。

「アルトマン! 下がれ!」

 それは獲物を見つけて舌なめずりをする猛獣の喜びだ。気が付いたリッツは剣を抜くと、アルトマンを後ろに引き倒した。

「何をするか!」

 その瞬間、今までアルトマンが立っていた所に、怪物が死体を叩き付けた。あまりの力に、死体が勢いよくバウンドした。

「バリー!」

 部下の名を呼ぶが、すでに彼は何の反応も示さない。倒れたままアルトマンが叫ぶ。

「デンゼル! 私だ、分からんのか!」

 リッツが大剣を構えて、怪物の前に立ちはだかると、怪物と課したデンゼルは雄叫びをあげた。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 敵を見つけた喜びに、飛び出した目が怪しく光る。

「待ってくれ、頼む!」

 アルトマンも分かっているのだろう、もう駄目なのだと。諦めきれないのも分かるが、もうどうしようもない。リッツは怪物から目を離さず、じりじりと間合いを詰め、後ろのアルトマンに怒鳴る。

「分かってんだろうが! どうしようもないんだよ!」

「分かっておるわ! だが諦められるものか! 私の……私の部下だ!」

 哀しみと怒りで声が震えている。二日前までは全く何事もなかったはずなのだ、突然のこの状況に感情が付いていかないのは、当たり前だ。ましてや信頼を置く部下のあの姿である。

 だが落ち着いて貰わねばならない。ここから無事に逃れることが最優先だからだ。

 そんな混乱の中にいるアルトマンの肩に、そっと手を置いたのは、ジェラルドだった。

「アルトマン」

 名前を呼ばれただけだったが、深い悲しみと哀れみを込めたその呼びかけに、アルトマンは顔を歪めて黙った。しばし堅く瞑目してから顔を上げる。その目にはもはや困惑はなく、強い悲しみが溢れている。

「……失礼いたしました殿下。取り乱しました」

 アルトマンは剣を抜いた。その悲壮な瞳に宿る決意に、リッツはかける言葉が見つからなかった。ジェラルドも痛みに耐えているような表情で眉を寄せ、押し黙った。

 足下に転がる部下の死体、のたうつ部下の姿、そしてこちらを窺う元部下の姿を静かに見回したあと、大きく深呼吸をした。

「せめてもの手向けに、仲間である我々憲兵隊が、引導を渡してやろうと思います」

 アルトマンはゆっくりと憲兵隊を振り返る。青ざめたままの憲兵隊員も、アルトマンと同じく悲しみに満ちた瞳で剣を抜いた。

 仲間への悲壮な決意に、胸が痛む。

 その最中、床に倒れ込み、奇声を発していたターナーがゆっくりと起きあがった。先ほど残されていた最後の理性はすでにない。

「……ターナーも、駄目でしょうな……」

 悲しみに満ちたアルトマンの言葉が合図となったかのように、憲兵隊はゆっくりと前に進み出た。ジェラルドと査察官四人が後方に残される。

「リッツくん、君も下がっていてくれ。ここは我々憲兵隊に任せて欲しい……」

「ああ……任せる」

 リッツは前方の怪物から目を離すことなく、後ろに下がった。アルトマンと憲兵隊が、剣を構えながら進んでいく。

 元は優秀な部下であったろう、怪物がゆらりゆらりと揺れながら徐々に彼らに近づいてくる。血走った瞳、異様にふくれあがった筋肉、そして半開きになったままの口元……。

 仲間を自ら葬り去らねばならない彼らの悲しみは、どれほどのものであろうか。

「バリー、ターナー、デンゼル……今までよく働いてくれた。貴官らはこの王国を愛し、王への忠誠を誓い、忠実に自らに課された任務を全うした、誠の勇士であった」

 剣を構えたまま、アルトマンは部下であった怪物にそう告げた。後方にいたジェラルドが、堪え切れぬように目を伏せた。王国を守るために死んでゆく、その忠実なる者たちの覚悟に、ジェラルドは目の前で初めて触れたのだ。

 この思い総てを背負う者が……国王だ。

「貴官らの事は決して忘れはせぬ。女神の御許に召される貴官らに栄光あれ……」

 アルトマンは祈り、そしてしばしの沈黙のあと、憲兵隊全員に指令を発した。

「かかれ!」

 憲兵隊と壮絶な姿の怪物の死闘が始まった。怪物はたったの二人、憲兵隊は十五人。だが怪物の力は想像以上にすさまじい。

 剣を手にし、盾で身を守る彼らが、素手の怪物に圧倒されていた。

 怪物も元々軍人として鍛えた体である。それが何十倍にも強化されて、恐ろしい強さを身につけてしまっていた。咆吼をあげ、怪物は憲兵隊に躍りかかってゆく。その早さは常人のもつ早さではない。

「おおおおおおおお……」

 怪物の口から漏れるその声は、低く憲兵隊を圧倒した。アルトマンの無骨で一本気な剣も、相手を傷つけることはあっても怯ませることは出来ない。彼らには恐怖はないようだ。

 素早く、そして鋭く角度を付けた怪物の指が、兵士の体に食い込み、血を噴き出させている。

「恐れるな!」

 率先して戦い、傷つくアルトマンの声に隊員たちが力を振り絞って死戦を演じている……。

 その化け物と憲兵隊が戦う戦場と、歯を食いしばり待機を余儀なくされた面々の中間に、リッツは剣を構えたまま立っていた。

 助けに入りたいが、アルトマンも憲兵隊員もそれを望まないのが分かり切っていたから、こちらからは何も出来ない。

「リッツ……」

 それはジェラルドとて同じであった。査察官とリッツに守られるようにその場にいるジェラルドは、片手で額を抑えながら首を振っていた。

「私は何をしたらいいんだ? 何も出来ないのか?」

 ジェラルドは優しい男だ。自分が何も出来ないことを責めている。

「今は待て。待つしかねぇよ」

 自分の感情をグッと堪えて、リッツは冷静にそう告げた。だがジェラルドは首を振ってリッツの言葉を否定する。

「だがあれは憲兵隊の兵だ。こんな……こんな辛い戦いをさせておいていいのだろうか?」

「……憲兵隊の望んだことだ。手を出すことは許されない」

「そんな……」

 とその時、査察官の一人がふと後ろを振り返った。

「どうした?」

 尋ねるリッツに、査察官が答えようとした瞬間、酒樽がその場に投げ落とされた。

「上か!」

 階段に化け物がいる……。憲兵隊が戦っている怪物よりも筋肉、殺意共に少なく、一回り小さく感じるが、確かに同じように筋肉の膨張が見られ、目も飛び出している。憲兵隊と関係ないとしたら、これは麻薬組織所属のものか?

「ががががががっ……」

 口の端から泡を吹きながら、怪物は階段を駆け下りてきた。

「気を付けろ!」

 リッツの声とほぼ同時に、しんがりを務めていた査察官が交戦状態に入った。階段の上からは、怪物の雄叫びが聞こえてきた。

「一人じゃないのか!」

 リッツは階段に駆け戻る。

「ジェラルド、気を付けろ!」

 もう一匹が、階上から酒樽と同じように落ちてきた。すさまじい轟音と共に落ちたその怪物は、痛みを感じるでもなくすぐに起きあがると、その場にいた査察官に飛びかかる。

 交戦状態の査察官は、二人がかりで怪物を相手にしている。だが憲兵隊が相手にしている者よりは、この怪物、遙かに弱い。

 それに気が付いたリッツは、階段に立ちはだかる化け物と一対一で向き合った。もしかしたら、狭い範囲でやり合えば、何とかなるかもしれない。

 化け物は破壊衝動と、幻覚に支配されているのか、リッツを見つけてその歪んだ口元を綻ばせた。力の限りに怪物が振り回した手が、階段を傷つけ、木片が飛び散った。

 リッツは前の会議で聞いた、麻薬を使用した時の状況を思い出していた。

 麻薬には、幻覚と筋力増強効果があると、憲兵総監は言っていた。急に自分が恐ろしく強くなった気になり、目の前の全てを愚かしく小さいと感じ、破壊衝動を抑えられなくなる……と。

 まさに今の状況がこれなのか?

 いやそれにしてはこの中毒患者は普通ではない。どこかがおかしい。聞いていた話では、麻薬が切れれば話が聞けていたではないか。なのにあの憲兵隊員といい、この男といい絶対に無理だ。

 今までの麻薬患者とは何かが違う……。

 今日は全ての感覚が狂いっぱなしだ。

「ががががががが……」

 怪物は再びよだれを垂らしながらそういった。一体この怪物の目に、リッツはどう見えているのか。

「俺は喰いもんじゃねえぞ」

 顔をしかめて垂れ落ちるよだれを見たリッツはそう呟きながら、大剣を構えた。

「うがあああああっ!」

 奇声を発しながら、化け物は階段を駆け下りてきた。そのスピード、降りるというより滑らかに滑り降りてくるという印象を受けた。

「こいつ!」

 大剣でその体を分断しようとしたが、化け物の方が一瞬早い。剣は怪物の両手でしっかりと止められていた。

 筋肉に埋まった指の間から、微かに除く小さな爪が、大剣と擦れて高い摩擦音を立てる。

 素手とは思えないくらい重い……。目の前に迫った化け物の顔が、リッツをギロリと睨んだ。

「この野郎!」

 がら空きの腹に強烈な蹴りを叩き込むと、怪物は一瞬リッツから離れた。不思議そうに腹をさする。

「やはり感覚がないのか……」

 怪物が自分の手で触れた場所には、べっとりと血糊が付いている。リッツは怪我をしていないし、怪物の腹にも傷はないはずだ。怪物はその血に気を留めるでもなく、リッツに向かって両腕を伸ばした。その開いた掌を見て、リッツは寒気を覚えた。

 指が、数本落ちている。

 さきほど剣を両手で受け止めた時に、その指が落ちてしまったのだろう。なのにこの怪物、痛みすら感じていない。

「なんて麻薬だよ」

 大剣を構えるリッツに、化け物はニヤリと歪んだ笑みを浮かべた。

 怪物の動きが速いなら、先に仕掛けるしかない。それに怪物は、この剣の事を意識している様子はないから、もしかしたら……。

 リッツは怪物に向かって真っ直ぐに突進した。大剣を逆手で持ち、真っ直ぐに刃先を化け物に向けた。怪物が向かってきた瞬間、衝撃に備えるため両足でその場に踏ん張り、手に力を込める。

「うがぁぁぁぁぁ!」

 大剣にすさまじい重さがかかる。

「ぐっ!」

 堪えきれずに大剣を手放し、横に飛ぶと怪物は勢い余って階下に転げ落ちていった。

 その腹に深々と大剣を突き立てたまま……。

「やったか?」

 肩で息をしながら、リッツは階下へ目を遣る。化け物は、一階へと続く踊り場にかろうじて引っかかり、蠢いていた。腹から流れ出す血は、どす黒い。

 もはやこの怪物は人間ではないのか……。

 思わず顔をしかめる。何とひどいことをする……。

「大丈夫か、リッツ」

 査察官と共に剣を振るっていたジェラルドが、リッツに向かってそう尋ねた。頑張って戦っていたらしいが、どうやら査察官たちから下がっているように言われたらしい。実戦の経験がないことが、こんなところでさらけ出されてしまったことに、申し訳なそうな顔をしている。

 少々余裕が出来たリッツは、ジェラルドに軽く肩をすくめて見せた。 

「ああ、なんとかな」

 怪物から目を離さないようにしていたリッツは、目の前で起きた予想外のことに、目を見開いた。

 動けないと思われた怪物が、夢から覚めたようにゆっくりと体を起こし始めていたのだ。

 腹に刺さったリッツの大剣は、百五十センチほどある。それが突き立ち、串刺しになったまま怪物は起きあがった。

 その歪んだ顔に、身の毛もよだつような、壮絶な笑みを浮かべながら……。

「マジかよ……」

 呆然と呟くリッツをよそに、怪物はその腹に突き刺さった剣を、まるで指に刺さった棘か何かのように無造作に抜きとった。十キロもあるその大剣を、小枝か何かのように、リッツ達の方へ放り投げてきた。剣は易々と階段に突き刺さった。

 そして怪物は、リッツに剣を抜き取る余裕も与えずに、突っ込んでくる。今避けるわけにはいかない。隣にはジェラルドがいる!

「くそっ!」

 咄嗟に横にいたジェラルドを突き飛ばした。反動で怪物の真っ正面に立ってしまう。

 避けられない。

 体に強い衝撃を感じ、次の瞬間には視界が反転していた。跳ね飛ばされたのだ。階段に叩き付けられて、一瞬呼吸が止まる。

「リッツ!」

 叫んだジェラルドの声に、自分の任務を思い出したリッツは、気力を振り絞って立ち上がろうとした。ジェラルドの変わりに死んでやるとは言ったが、ジェラルドと共に死ぬわけにはいかない。

 ジェラルドを生きて王都に返すのだ。

 そんなリッツを、怪物が見逃すわけがなかった。動きが鈍くなった獲物に、喜びの声をあげ倒れたままのリッツに掴みかかったのだ。

 ギリギリと締め付けられるその力に、リッツは必死で抵抗するが、痛みを感じない怪物に効果はない。呼吸が荒くなり、耳の奥で嫌な音がしてきた。

 だが次の瞬間再び床にたたきつけられていた。絞め殺される事はなくなったが、その代わりに胸の辺りで嫌な音がした。

 肋骨が折れたなと他人事のようにリッツは思った。こういう状況でも冷静な自分に腹が立つ。口の中にじわりと鉄の味が広がった。

 ずるずると、再び体が持ち上げられる。

 一瞬、王都に残してきた被保護者たちの顔が浮かんできた。今度叩き付けられたら、いくら頑丈な自分でも危ないかもしれない。

 何とか反撃のチャンスはないのか……。そう思った瞬間、怪物がリッツを手放した。どさりと床に落ちる。何とか受け身を取ることが出来た。

 怪物は喜びの咆吼をあげた。他の標的を見つけたのだ。

 その怪物の前には、剣を構え真っ直ぐに怪物を睨みつけるジェラルドがいた。

「馬鹿……逃げろっ! ぐっ……」

 肋骨が痛んで大声が出ない。ジェラルド一人では無理だ。それが伝わったのだろうが、そんなリッツに目を向けず、ジェラルドは静かに言った。

「戦うべき時に戦わずにいれば、それは私の命をつなぐことになろうな。だが他ならぬ私自身がそれを許すことが出来ない……」

 ジェラルドが言い終える前に、怪物は新たな獲物に飛びかかった。腹から流れる血液は確実に怪物の動きを鈍くしていたが、それでも手強いことに変わりはない。

 リッツはようやく立ち上がり、胸を押さえつつ床に突き刺さった自らの大剣の前に立った。口の中に溜まった血を吐き出すと、渾身の力を込めてその大剣を抜き取る。

「うっ……」

 痺れるような痛みが全身を貫く。痛みに汗が噴き出した。折れた肋骨は、一本や二本じゃないかもしれない。だが今は、そんなことを考えている場合じゃない。

 後ろから見ると怪物の背には、リッツの大剣が開けた穴が、黒々とした血を流し続けている。

 奴には痛覚がない。だからいくら傷を付けたとしても、体中の血液がなくなるまで戦い続けるだろう。

だとしたら、この怪物を葬り去る手段はひとつしかない。

 リッツは怪物に気付かれぬよう、じりじりと間合いを詰めた。ジェラルドは案の定押されていた。爪に引っかけられたのか、横っ腹からは血が流れている。

 初めての実戦が人間ではない……しかも化け物とはジェラルドはついていない。

 目標へと正確に狙いを定めてから、再び怪物に斬りつけようと力を込めるジェラルドに、リッツは怒鳴った。

「ジェラルド! どけっ!」

 渾身の力を込めて、リッツは大剣をなぎ払った。怪物の体から、頭部が大剣の勢いそのままにふっ飛び、壁に叩き付けられてグシャリと音を立ててつぶれた。

 飛び出した目からはやがて狂気のような、最後の生気が消えた。

「やった……」

 リッツは大剣を杖のように床に着き、荒い息でそう呟く。

 動きを司る頭を失った怪物の胴体は、噴水のように黒い血を吹き出しながら、石像が倒れるように何の反応もなく、ゆっくりと床に倒れていく。

 やはり、いくら筋力を強化したとはいえ、頭を失ってしまえばひとたまりもないのだ。

「頭だ! 頭をねらえ!」

 痛む肋骨を押さえながら、リッツは未だ敵と交戦中の査察官たちにそう怒鳴った。

「頭だ!」

 その声は憲兵隊にも届いていたようだ。膠着状態にあった、戦闘が、終結に向かって再び動き出す。怪物から吹き上げる血は、廊下と壁、天井を容赦なく黒く染め上げていく。見る間に埃にまみれていた、古ぼけたこの屋敷の廊下は、黒々とした血で磨かれたように染まり、ぬらりと輝いた。

 一同が一息ついた時、その場には五体の、怪物と化した人間の遺体が転がっていた。

 全てに首がない。

「憲兵隊は全員無事か?」

 ジェラルドは傷を布で止血しながら、アルトマンに尋ねた。

「……一人やられました。重傷者は三人おります」

「そうか……」

 皆疲れ切って、言葉少なだ。かくいうリッツも先ほどから黙ったままである。悲しみや後悔、それに肋骨を折ったからしゃべるのが辛いということもある。

 だがそれ以上に、また何か奇妙な違和感を覚えていたのだ。

 二階に人の出入りはほとんどなかったはずだ。なのに何故このような怪物がいたのか?

 怪物は何故、この部屋から出ずにおり、リッツ達がやってきてから部屋を出てきたのか……。

 ……判らないこと尽くしだ。

「無事な者は何人いる?」

 放心したように座り込んでいたり、佇んでいた者たちが、ようやく自らの任務を思い出したようにジェラルドを見つめた。沈痛な面持ちのまま、アルトマンは答える。

「皆何らかの怪我を負っておりますが、先ほど申し上げた四人以外は皆動けます」

 それは査察官も同じだった。

「では査察官は二階を、アルトマンと憲兵隊は三階を調べてくれ。もしかしたらこの……哀れな者たちと同じ者がまだいるかもしれん」

 うち沈んだ声でジェラルドはそう命じる。ここでぼんやりしていても意味がないことは、誰もが判っていた。

「重傷者と私とリッツがここにいることにしよう。リッツも重傷者だから」

 ジェラルドの一言で、皆初めてリッツが重傷を負ったことを知った。

「大丈夫かね? リッツくん」

 悲しみを堪え、微かな微笑みを浮かべてアルトマンが尋ねた。

「ああ。だけど早く休みたいな。しんどいぜ」

 ため息と苦笑混じりのその言葉に、微かな微笑みを乗せリッツは全員を見た。その顔にも生き残った、という微かな喜びが浮かぶ。

「見回り頼んだぜ」

 リッツの一言で、査察部と憲兵隊の探索が再び始まった。

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