フランツ・ルシナの場合<2>
Ⅳ
街はずれにあるオルフェの家は、精霊使いの家にしては質素で小さい。
だいたいの街で、精霊を使える人間は数少ないため重宝され、豪邸に何不自由なく暮らしている事が多いらしいが、ここサラディオでは事情が異なる。商人中心のこの街で、精霊使いに助けを求める人間は少ない。この街では、大抵のことがお金でけりが付くのだ。
それでも精霊との契約のための部屋や、客間、弟子であるフランツの部屋等々、ある程度の広さは保っているから、弟子のフランツも不便を感じたことは一度もないし、オルフェもないらしい。
家に帰ると、妙に勘のいいオルフェは、扉を開けて立っていた。ニコニコと微笑みながらフランツの肩をばんばん叩く。
「おかえり~」
「ただいま帰りました」
「フランツがお友達を連れてくるのは、初めてじゃないか」
「友達では……」
否定したがあっさりとオルフェは無視する。
「さあ、入った入った」
フランツを置いてオルフェは嬉しそうに彼らを応接室に通すと、ソファーを勧め、自分が真っ先に座った。いつも通りマイペースだ。
オルフェは穏やかな人物で、黒い瞳はいつも眠そうでぼんやりした印象を受ける。それが頼りないらしく、ごくたまにやってくる依頼主はオルフェを見ただけで、がっかりして帰る。どう見てもプロの精霊使いには見えないと言われるのだそうだ。
その場にいたことがないフランツは、肩をすくめながら語るオルフェ本人の言葉でそう聞いている。くせっけ気味のブラウンの髪は、肩よりもずっと長く伸びていて、より一層収まりが悪くなっている。聞いたことはないが、おそらく切るのが面倒で伸ばしているだけだろう。なぜならオルフェは、フランツですら呆れるほどのぐうたら師匠なのである。
案の定リッツとアンナは、促されるままにソファーに座ったものの、ぽかんとした顔でオルフェを見ていた。だらしないオルフェが身につけているのが長いローブなのだから、一見すると寝起きのまま毛布を巻き付けてきたように見えても無理はない。
そんな二人の視線をものともせずにオルフェはフランツにお茶を要求した。仕方なくフランツは紅茶を入れに席を立つ。こんな師匠だから、お茶はもちろん、料理をすることも苦手で、ここに弟子入りをした当初は、悲惨な生活を送った。フランツも家事はおろか、掃除すらしたことのない環境に育ってきたからだ。
だがフランツは生まれついての几帳面だった。悲惨すぎる生活から何とか脱するべく自分なりに家事をこなし、何とか普通の生活を送れるまでになるまでに半年を要した。これでは何のために修行に来たのか分からない。
冗談交じりに『フランツはいいお嫁さんになれるね』などと笑うオルフェの夕食を、一度抜いてやったこともあるぐらいだ。
そんなオルフェが手伝ってくれる唯一の家事は買い物なのだが、これがまた困ったものなのだ。出かけるとついでにがらくたばかり買ってくる。おかげで一部屋がらくたに占拠された部屋もある。
ため息混じりに紅茶の支度をトレイに乗せて応接室に戻ると、オルフェは二人を相手にがらくたの説明をしていた。どうやらお互いの紹介は住んだのか、打ち解けた雰囲気だ。そのがらくたに見覚えがないところを見ると、また買ったらしい。
音を立ててオルフェの前にカップを置くと、オルフェは決まり悪そうにとぼけた笑みを浮かべた。全く困った師匠だ。続いてフランツはリッツとアンナの前にカップを置く。
「フランツの師匠って、気むずかしくてしかめっ面で怖いおじいさんかと思ってたけど、違うんだねぇ」
アンナに小声で囁かれて、フランツはため息をつく。そんな風に師匠然としていてくれた方が、フランツだって楽だった。この師匠だから、ついつい自分に出来ないことを八つ当たりしてしまうのだ。
「確かに意外だったな」
アンナに応じてリッツが呟いた。初対面の人間にもこう言われるほどなのだから、仕事が無くて当たり前である。でもオルフェが生活費に困っているのを見たことがない。それは不思議だった。
自分の分を目の前において、お盆を自分の横に置くと、フランツはオルフェを見上げて口を開いた。
「師匠、頼みがあります」
「唐突だね。お茶飲むとか、お茶を勧めるとかもっとにこやかにした方がいいと思うけどなぁ?」
「無理です」
「そんなこと言わずに」
オルフェの両手が伸びてきて、フランツの頬をきゅっとつまんだ。痛みとつまらないことをするオルフェへの苛立ちでオルフェを下から見据えたが、オルフェは平然と笑っている。
「うん。この方がまだ可愛げがあるよ。ねぇ?」
問われてリッツとアンナが顔を引きつらせているのが分かった。フランツはいつもオルフェに本気で怒りをぶつけているのだが、オルフェはそんなことはお構いなしにこうしてフランツをからかう。もう慣れっこだが、腹が立つことに変わりはない。
「いい加減にしてくれませんか、師匠」
低く呟くと、オルフェが楽しげに笑った。
「ジョークだよフランツ。そんなに怒らない。眉間のしわが定着しちゃうよ」
オルフェはフランツの鼻をピンとはじくと手を放した。頬がひりひりと痛む。オルフェは手加減というものがない。
「頼み事ってなんだい?」
紅茶を飲みながら、ようやくオルフェは聞く体勢に入ってくれた。つままれたせいで赤くなった頬をさすりながら、フランツは本日の出来事を簡単に話す。
「野菜を売れず困っていたので朝市を奨めました。代表を師匠にお願いします」
「いつもながら簡潔だね。本当に話をまとめちゃうのうまいなぁ」
感心するオルフェにフランツは、黙って視線を送った。彼が求めているのは、彼の話し方への評価ではなく、返事だけだ。それを十分に理解しているだろうオルフェだろうに、おどけた態度を取っている。じっと見据えていると、オルフェが笑った。
「そんなに睨まなくてもいいだろう、フランツ。私は別にいいよ。ついでに家の不要品を売れるし」
オルフェの一言に、リッツとアンナが小さく息をついたのが分かった。これで少しは路銀の足しになるのだろう。
「ええっと、朝市に出るのに、事前登録とかいるんだっけ?」
「いりません。当日登録ですが、いっぱいになったら受け付け終了です」
「おやおや。じゃあ明日はかなり早いね。のんびりしてないで早く休まないとね。夕食の準備もしてあるし」
思いがけないオルフェの言葉に、フランツは目を見張った。
「夕食の支度?」
「うん。フランツさ、怒って家を出て行ったから、夕飯作ってくれないだろうなって、パン焼いといたよ」
「焼けましたか?」
「ひどいよフランツ。私だってパンぐらい焼けるさ。そりゃあ、ちょっと焦がしたけど。それからジャガイモのスープ作っといた。ジャガイモをベーコンで煮込んでミルクを入れればいいんだよね?」
どんなものが出来ているか想像は付かないが、一応は本気で作ったらしい。そういえばフランツが来るまでは、一応一人暮らしをしていたし、フランツも最初のうちはそのひどい食事を食べてさせて貰っていたのだからそのぐらいはオルフェにも出来るのだ。
二人のやりとりを聞いていたリッツが、オルフェに向き直って口を開いた。
「迷惑ついでに、もう一つお願いしたいんですが」
「何?」
穏やかに笑みを浮かべながらリッツを見たオルフェに、リッツが遠慮がちに申し出る。
「申し訳ないですが、泊めてもらえませんかね?」
そういえばそれを頼むのだった。すっかり忘れていた。オルフェを見ると、オルフェは心底嬉しそうにリッツを見ながら目を細めて微笑んだ。
「勿論いいさ。その代わりといっちゃあ何だけど、条件がある。君にはシーデナの森のことを話して欲しいなぁ。なにせ、あそこは人間が行けるところじゃないからね」
オルフェの言葉に、リッツが目を見開きつつ頷く。
「君は、生粋の精霊族だよね?」
リッツは小さく頷いた。その言葉に驚いたのは、フランツだった。フランツはリッツのことをまじまじと見つめてしまった。リッツの耳には気が付いていたが、まさか生粋の精霊族とは思わなかった。フランツの知る精霊族のイメージとはかけ離れている。精霊族は、金の髪に緑の瞳をしていて、人間嫌いで、寡黙といわれる。フランツが目を通した本にも当然そう書かれていた。
だがリッツはその正反対なのだ。どう見ても人間くさくて、そしてかなりしゃべる。
ここまで来る道すがらも、無口なフランツに遠慮するでもなく、アンナと色々なことを話していた。主にそれはフランツの話を詳しく分かり易く説明したものだった。そこには人間嫌いという世間一般の精霊族の姿はない。
呆然とするフランツに気がついたのか、リッツが大げさに肩をすくめた。そんなリッツに思わず尋ねていた。
「本物の精霊族?」
「自分でも意外だけどな」
さらりと答えたリッツの言葉に、心なしか自嘲の響きが混じった。精霊族でいるのことが嫌なのだろうかと、ふと思ったが、リッツの表情はあっという間に読めない陽気なものに戻ってしまう。困惑するフランツを全く気にすることなく、オルフェは楽しそうにリッツに言った。
「私にはまだ分かることがあるよ。今一五〇歳で、四十年ほど旅に出ていたろう?」
「な……!」
オルフェの言葉に、リッツは気味悪げに顔をしかめた。だが当のオルフェは気にしている様子もない。にこにこ笑ったままだ。
「その上父親は、食い意地が張っていて、母親は天然ぼけ。当たってるだろ?」
リッツはオルフェに、なお強く警戒の表情を浮かべた。そんなどことなく張り詰めたような緊張感の中で、フランツは息を詰めてみているしかない。警戒するリッツを面白そうに見ていたオルフェは、やがて堪えきれないように吹き出した。
「やだなぁ、そんなに警戒しないでくれよ」
「は?」
「君の父さんは、私の数少ない友人の一人なんだ。最近顔を出さないからちょっと寂しい思いをしているんだよ」
「親父の友人?」
「そうそう。だから息子の君に仕返し。カールにあったら、オルフェが寂しがってたって伝えてよ」
そういって種明かしをしたオルフェは、愉快そうに大笑いした。
「喧嘩したきり戻らない君の話は聞いてたよ、一度会ってみたかったんだ、リッツくん」
リッツの肩から力が抜けた。
「先に言ってください」
「いやいや、ごめん。面白くって」
オルフェは笑いが止まらないらしく、悪びれもせずにいった。心の底から楽しそうだ。フランツは五年もここにいるのだが、こんなに楽しげなオルフェは今まで見たこともなかった。ようやく笑いが収まってから、オルフェは今度はアンナに向き直る。今度もやはり見たことがないぐらいに、柔らかく優しげな表情を浮かべている。
「アンナちゃんとは本当に、初めましてだよ」
アンナもニコニコしながらオルフェにぺこりと頭を下げた。
「はい。よろしくお願いします」
オルフェは笑顔で頷き返しながら、アンナに言った。
「お嬢ちゃんを泊めてあげる条件はね、何か特技を見せてくれることなんだけど、どうかな?」
アンナは困惑した顔でリッツを見上げている。リッツは肩をすくめてアンナを見返した。不思議なことに、リッツもアンナの特技をあまり知らないようだ。
「得意なこと、何かあるかな?」
オルフェに促されて、アンナは指折り数えながら考える。
「え~っと、野菜を育てることと、子供の世話を焼くことと、お菓子を作ることと、お掃除、洗濯……」
つらつらと家事を並べ立てるアンナに、リッツが思いついたように声を上げた。
「お前の一番の得意技があるだろ?」
「得意技? のしかかり」
「違うだろ、馬鹿!」
間髪入れずにリッツが怒鳴ってから、呆れてため息を付くと、アンナは何かに気がついたらしかった。
「分かった! 私、水の精霊魔法が使えます!」
「精霊使い……」
フランツと同じだ。ただフランツの場合、精霊使い見習い。まだ精霊を扱うことなど出来ない。フランツは複雑な顔でアンナを見た。まさかアンナが精霊使いとは思わなかった。
だがオルフェは大して驚くでもなく、どちらかというと満足げに微笑んだ。
「是非みせて欲しいな。出来れば大技がいいなぁ」
「はい。でも、ここじゃ無理なんですけど……」
アンナが答えると、オルフェはしばらく考え込んでから尋ねかえした。
「どんなところがやりやすい?」
間髪入れずアンナが答える。
「水があるところです! それからこんなものもあるんですけど……」
アンナが取り出した弓矢を受け取って、オルフェはしげしげと眺めた。クリスタルと陶器の矢がかなり彼の興味をかき立てたようだ。オルフェは弓矢をアンナに返しながら、ぽつりと呟いた。
「昔、水の正神殿に面白い発動体を作る男がいたって話し聞いたことあるなぁ……」
アンナはきょとんとしている。このまま放っておけば、またオルフェの好きながらくたの話になりかねない。なぜならあのがらくたの大半が、精霊魔法のかかった発動体やら、精霊魔法の増幅器なのだから。
「師匠」
小声でつつくと、オルフェは我に返って、名残惜しげに弓矢をアンナに返した。
「そうそう、大技だったね。さあ、外に出よう!」
勝手に部屋から出ていくオルフェにくっついて、三人はぞろぞろと応接室をあとにした。家の前庭には小さな池があり、魚が数匹のどかに泳いでいる。家の割に庭はかなり広かった。見ようによっては回りが全てが庭に見える広さは、街外れにあるこの家ならではの特権だ。
「さあアンナちゃん、いいかな?」
オルフェの問いかけに、アンナは黙って頷き、静かに目を閉じる。
「大地を癒す水の精霊よ、その力を我に分け与え賜え!」
アンナの声に答えるように、池の水が一斉にざわめき始める。水がかすかな光を放ち、少しずつ水の玉が浮き上がった。
「水竜、ここに来て!」
アンナが柔らかく呼びかけるようにそういった。とたんに立派な水竜が、池から堂々とその姿を現した。太陽の光が透明な鱗に反射してキラキラ輝く。
フランツは言葉を失った。竜……それは精霊を使う中で最も高位に位置する精霊。まさかそれを目の当たりにするなんて思わなかった。
しかも使役しているのは、世間知らずのアンナなのだ。
とたんに力が抜けそうになった。自分の才能のなさを痛感したのだ。フランツは、炎という媒介を目の前にしてすら、炎の球すら出現させることが出来ない。
「水竜、こっちにおいで」
アンナが呼びかけると、水竜は空中を翔てアンナの側にやってきた。まるでよく慣れたペットのようにアンナにじゃれつく。透明な竜と戯れるその姿は、幻想的で美しかった。
「すごいな。呼び出して助けて貰うだけでも大変だってのに……」
リッツが水竜の頭を撫でるアンナを見て感嘆の声をあげた。フランツは、何も言えずにただただアンナと水竜を凝視することしかできない。
「ホントに、性格と実力の一致しないヤツ……」
リッツがぽつりと呟いた。
フランツは動くことすら出来なかった。ただただ愕然と水竜を見上げている事しかできない。
アンナを羨ましいと思った。どうして精霊をあんな風に自由に扱うことが出来るのだろう。
どうしてフランツには、炎の球すら作れないのだろう。
アンナと自分は何が違うのだろう。それを考えると息が出来ないほど辛い。
それはもしかしたら才能なのだろうか?
もしそうなら、フランツは精霊を操る事なんて一生出来ないのかも知れない。
「ありがとう、呼び出してごめんね」
アンナがそういって水竜の頭を撫でると、水竜は真っ直ぐに池の中に飛び込んで消えた。何事もなかったかのような静寂が戻り、池の中の魚がポチャンと音を立てて跳ねた。幻を見たような気分だったが、そこには確かに水の竜が存在していた。そしてアンナがそれを自在に操った。
「いやいやすごいね、アンナちゃん。どうぞどうぞ泊まっていってね。いやぁいいもの見たねぇ~」
オルフェは満足げにそういうと、三人には何も告げず、一人でとっとと家の中に入っていった。夢から覚めたように我に返ったフランツは、たたずむアンナをじっと見つめた。
「どうやって水竜を従わせている? どうやって自在に操ってるの?」
首を傾げたアンナは、フランツから目を離さずに見つめ返すと、やがてふんわりと微笑んだ。
「う~ん、操っているっていうよりも、お願いして手伝って貰ってるっていう感じなんだけどな。だからお礼に撫で撫でしてあげるの」
参考になりそうで全然参考にならない。フランツは深いため息をついた。でも次の瞬間に気がついていた。自分には全くないその考え方に。
「お願いする……?」
フランツはそう口に出して呟いた。
「うん。従わせようなんて思ってないよ。だって水竜も友達だもん」
「……友達?」
そんなことを考えたことなど一度もなかった。ただただ炎の精霊を従えて、思うままに動かそうとばかり考えていたのだ。オルフェが言う、フランツに足りない何かはこれなのだろうか。フランツはいつも一人で何とかしようと思ったし、炎の精霊も従わせれば自分が強くなれると、そう思っていた。
でも精霊も一つの生き物で、アンナが言うように友達なのだとしたら。今まで躍起になって従えようともがいてきた自分の行動は、無駄だった……?
アンナに何かを尋ねられたような気がしたが、フランツはただただ立ち尽くして、自分がやってきたことについて考え込んでいた。自分の総てが無駄だったのか、それをぐるぐると考えることしかできなかった。
Ⅴ
朝市の朝は早い。早起きに慣れているアンナは、昨日のうちに水につけて活かしておいた野菜を点検してから、晴天の外へ出た。
「いい天気! 朝市日和だなぁ~」
大きく伸びをしてから、アンナは大地に跪いて、女神へと水の精霊王への祈りを捧げた。これはアンナの習慣なのである。祈りを捧げ終わり、静かに立ち上がったアンナは、昨日の夜のことを思い出した。フランツのことだ。
一足先にリッツと共に館に戻ったアンナが、応接室に戻ると、そこではオルフェが難しそうな顔で窓の外を眺めていた。後ろからオルフェの視線の先へ目をやると、そこには先ほどからピクリとも身動きしていないフランツがいたのだ。
「フランツ……」
呟くとアンナに気がついたオルフェが微笑んだ。
「アンナちゃん疲れただろう? 食事の準備はしてあるから食べて休むといいよ。君たちの部屋は二階だからね」
優しげな笑顔を浮かべたオルフェだったが、心はそこにないようだった。
「でもフランツが……」
何となく責任を感じてしまったアンナは口ごもりながらうつむく。水竜を出して見せたことが、フランツに何かしらの苦痛を与えたことに気がついたからだ。
「私、何か悪いことしたのかな……」
思い詰めた表情のフランツと、難しげな表情のオルフェを見ると、申し訳なくて言葉に詰まる。するとそんなアンナに気がついたオルフェが、近くに来てかがみ込み、アンナの頭を撫でながら優しくいった。
「アンナちゃんが悪いんじゃないよ。フランツはね、炎の精霊との交渉が上手くいってないんだ」
「どうしてですか?」
「うん。彼には精霊と協力するとか助け合うとかいう気持ちが、存在しなくてね。無理に精霊を従わせようと躍起になってる」
そういいながらオルフェはリッツの方も見上げた。
「精霊だって人間とは違っても、この世界に共に生きる命だ。そうだろう?」
語りかけられてアンナは頷く。アンナは水竜を従わせているという実感はなかった。友達のように、困った時に助けて貰う存在だ。精霊たちと出会ったとしても、それを友としてアンナは語りかける。使役しようと思った事はない。
「命ある者はみな、無条件で意に染まぬものに支配される事を潔しとしない。お互いに支え合うことで初めて力を引き出しあえる。それが精霊使いだ」
「……なんとなく分かります」
アンナが頷くと、オルフェは寂しげに微笑んで、もう一度アンナの頭を撫でて立ち上がった。
「それをフランツはまだ分からなくてね」
オルフェの眠そうなブラウンの瞳は、再び窓の外に向けられていた。そこには相変わらず立ち尽くすフランツの姿がある。そんなオルフェの目に中にある、深い憂いのような影にアンナは目を見張った。こんな風に穏やかで柔らかい笑みを浮かべるオルフェに深い闇があるなんて、不思議だったのだ。
ふとアンナがリッツを見上げると、リッツもオルフェに近いような憂いを秘めた瞳でオルフェを見ていることに気がついた。不思議で、少し怖い目だ。リッツと出会ってまだ十日にもなっていない。アンナはまだリッツの事を何も知らない。
「自らを認めない者の手足となって動きたい精霊なんて、いるはずもないのに」
悲しげにそういって振り返ったオルフェは、リッツの視線の変化に気が付いたらしく、悲しみを秘めたままの表情でふわりと笑った。
「私はね、あの子が君たちを連れてきた時嬉しかったんだよ。初めて協力しようとしていたからね。きっと彼は炎を操れるようになるさ」
そのいっけん優しいオルフェの言葉に励まされて、アンナはようやく微笑んだ。
「リッツ君、アンナちゃん。明日一日かもしれないけど、彼に色々教えてやって欲しいんだ。少しでもいい、信頼すること、協力すること、一番必要な信じることを。人も、そして自分もね」
オルフェは静かに微笑んだ。その瞳はまるで彼の生きてきた今迄を全て見通しているように、悟りきった色を宿していた。アンナは妙にオルフェが遠くにいるように感じた。近くにいるのに彼の目は遠くを見ている、そんな気がする。
「不躾なようですが、あなたは何者ですか?」
突然のリッツの問いかけに、アンナは我に返ってリッツを見上げた。リッツの目は真剣だった。そこに思い詰めた何かがある気がして、アンナは口を挟めない。するとオルフェは謎の微笑みを浮かべた。
「君と似て非なる者だよ。少なくとも君より長生きさ」
それだけ言ってオルフェは微笑んだ。つまりオルフェはリッツ以上に長生きだと言うことになる。でもリッツは精霊族で、千年近く生きると聞いたから、それ以上に生きるってそういうことなのだろう。不思議なことを言う。
「なんてね。詮索はお互いにしない方がいい」
そうオルフェは今までが冗談だったかのように明るく笑った。いったいどこまでが本当のことだったのだろう。リッツを見上げると、リッツはアンナに気がつかずに小さく息をついてから、頭を掻いた。
「さ、明日は早いよ。食事をして休んでおくといい」
「はい」
「あ、そうだ。二人とも料理は得意?」
唐突に聞かれてアンナが首をかしげると、リッツが肩をすくめた。
「得意な方だと思いますよ。俺は」
「それじゃあ、夕食、味付け直してくれる? 私は料理が苦手でねぇ」
そういえばフランツがオルフェが料理を作ったと聞いて愕然としていたのを思い出す。
「分かりました」
「よろしくね。明日は食堂に五時半集合だから」
オルフェは笑顔でそう言うと、再び窓の外に向き直って黙り込んでしまった。ただじっとたった一人の愛弟子に視線を送っている。
リッツとアンナも、静かにその部屋をあとにした。
それぞれに悩み事を残したまま同じ屋根の下で一晩過ごし、サラディオに来てから二日目の朝がやってきたのだ。
「考えても仕方ないことは考えない!」
アンナはそう声に出して唱えると、自分の両手でパチンと頬を叩いた。これは前向きに歩くために大事な養父の教えだ。
「ようし、次はリッツを起こすぞっと」
家の中に駆け戻り、階段を駆け上ってリッツの部屋をノックすると、丁度支度を終えたリッツが出てきた。早起きしようと思えば早起きできるようだ。ヴィシヌでは早起きする気がなかったのだろうか?
ちょっと考え込んでしまったアンナの頭をぐしゃっと掴むと、リッツが笑った。
「飯喰うんだろ? 行こうぜ」
「うん」
二人で揃って食堂へ行くと、すでに朝食の用意が調えられていた。席に座っていたオルフェとフランツは、早くも食べ始めている。二人はアンナ以上に早起きだったらしい。
「おはようございます」
「やあおはよう、よく眠れたかい?」
昨日とは打って変わったさわやかな笑顔でそういうと、オルフェは二人に食卓の席を勧めた。
「いやいや、あり合わせの物で済まないね」
「とんでもないです。豪華です!」
アンナは食卓を見ると嬉しくなってしまった。ヴィシヌを出てから久し振りのまともな朝ご飯だ。こんがりと焼けたパンの隣には、スクランブルエッグとベーコンがあり、暖かなスープもふんわりといい香りを立てている。
これを作ったのはフランツだろう。なにしろオルフェの料理はすごすぎた。昨日の夜のパンはかちかちで、どうすれば切れるのか戸惑うほどだったし、ジャガイモのスープは、塩もこしょうもしていなかった。ジャガイモも皮が上手くむけていなかったらしくて、皮だけがスープの上に大量に浮かんでいたのだ。
リッツとアンナは二人でそれをすくい取り、食べられるように作り直した。旅路でも見たけれど、リッツは料理し慣れていて、手際よく食事を作る。子供の扱いも上手いし料理も美味い。もしかしたらアンナ以上に孤児院に向いているかも知れない、なんて思ったりもする。
「頂きます」
気が付くと隣に座ったリッツは、アンナより先に食べ始めていた。アンナも急いで食べ始める。色々考えている場合じゃなかった。
二人が食べ始めると、黙って食事をしていたフランツが顔を上げた。何だか疲れているように見える。あれから眠れなかったんだろうか? 思わずリッツを見ると、リッツもそんなフランツに気が付いていたらしく、少しだけ首を捻る。
あまりに暗いから何だか心配になって見ていると、居心地が悪そうに身動きをしたフランツが、ぼそりと言い訳のように呟いた。
「昨夜は師匠の荷造りをさせられて大変だったんだ。気にしないでくれ」
「でも、あの……」
無表情でそんなことをいわれても、アンナは気にしない方が無理な性格だ。
「アンナ、いいから喰え」
そういわれて再び隣を見ると、先ほど気に掛かるような仕草をしていたリッツが、何事もなかったように食事を続けている。なんだか気に掛かるけど、リッツの様子から黙っていた方がいいのかも知れないと思い直して、食べることに集中することにした。
「そうそう、今日の予定なんだけどね」
何となく気まずく、黙って食事を続ける三人に気が付かないかのように、オルフェがパンをちぎりながら明るく切り出した。
「野菜も魔法の品もね、みんないっぺんにバッと売って、全部売れたら、とっとと撤収しよう」
それだけ言いきると、オルフェは食事を続行した。しばらく待ったが、オルフェは食べ続けるばかりで口を開かない。
「予定って……それだけですか?」
リッツが尋ねると、口にほおばったパンをモグモグと噛みしめながら、オルフェは頷いた。予定なんて格好つけてみたものの、本当は予定なんかなしの行き当たりばったりだったらしい。でもあれこれ難しく考えたら判らなくなりそうだから、アンナはそれで充分だと思う。
「それじゃ、ごちそうさま」
短い朝食が済むと、オルフェはさっさと立ち上がる。その後を追うように、フランツも皿を片付けだした。何だかとても慌ただしい。
「さあ急ごう! いい場所がなくなるぞ!」
「え?」
「場所取りだよ。早い者勝ちなんだ」
「ええ!?」
それは大変だ。
「荷物は最低限持っていって。帰ってくるからね!」
「分かりました!」
残った食事を詰め込むと、最低限の荷物と貴重品だけを手に、アンナは飛び出した。リッツの荷物もアンナ同様少ない。
「さあ急いで急いで!」
表に出るとオルフェが栗毛色の馬に、荷台を取り付けて荷物を積み込んでいるところだった。
「早くしてくれ」
そういいながらフランツが手際よく、大きな布に包まれた荷物を積み込んでいく。この二人の様子を見ていると、本当に朝市が大変だということが分かる。
なんやかんやでそれから十五分後、彼らはやっとの思いで出発した。色々な荷物とアンナの野菜、そして荷台にリッツとアンナを載せたおんぼろ荷馬車は、家の前の道を通り、街道へ出て、ゴトゴトと石畳に揺られた。舗装された石畳の道の方ががたがた揺れるなんて初めて知った。アンナの村には石畳の道など無かったのだ。
そして三十分ほど走って、少しおしりが痛いかなと思い始めた頃、朝市が開催される公園に着いた。そこからは馬車から降りて歩きだ。入り口の大きい門の中は、もうすでに人でごった返している。かなり早く来たと思ったのに、もしかしたら来るのが遅かったかもしれない。
「すごい人だな」
門をくぐったリッツが、人混みを眺めながら驚嘆の声を挙げた。アンナも同感だ。どこを見ても人人人……。こんなに沢山の人が集まってるのを見たのは生まれて初めてだ。
「本当だよぉ、人ばっかりだね!」
忙しそうに歩き回って支度している沢山の人は、朝市の参加者に違いない。参加者だけでこの賑わい。朝市が始まったらいったいどうなってしまうんだろう。これに買いに来た人が加わったら、みんな押しつぶされてしまわないだろうか。
アンナは少し心配しながらも、物珍しくてきょろきょろ周りを見渡した。そんなアンナに、周りの人々がぶつかってきてよろける。みんなこんな人混みの中でよく歩けるものだと感心してしまう。
人混みに揉まれるアンナの横で、上手に人を除けているフランツは、硬い表情をしていて先ほどからかなり無口だ。フランツはオルフェの家を出てからずっと帽子を目深に被っていた。これでは下からのぞき込まないとフランツの顔すら見えない。
幸いなことにアンナはフランツよりも背が低いから、フランツの顔は見えているが、きっとリッツからは帽子しか見えないだろうと思う。
それにフランツはサラディオの街に入ってから、一言も言葉を発しない。その表情を見ていると、何か不機嫌そうなのだが、それが何か分からない。どうしたのかと聞こうと思っても、この人混みでは近くに寄ることさえ出来ないでいる。
もしかしたらこの暗さは、アンナが精霊を使ったことと関係あるのではないかと思うと、フランツが気がかりだ。どう見ても年下の精霊使い見習いの少年に、アンナはひどいことをしたのではないかと思ってしまう。
門をくぐってしばらく行くと、傭兵風な男が二人立っていて、近くには神経質そうな商人っぽい男が机について何やら書き物をしていた。門をくぐった人は、順繰りにこの神経質そうな商人の所に行き、何か言葉を交わしているようだった。どうやらここが朝市の受付らしい。
「さあて、手続きしてくるかな」
オルフェは三人を荷物番にして、ひょいひょいと軽い足取りで受付に向かった。幸い彼の番はすぐにやってきた。受付で一言二言言葉を交わすと、オルフェは一枚の紙を持って帰ってきた。そこには、出店許可証と書かれている。
「受付終了。さあ、場所を見つけるぞ!」
「お~!」
リッツとアンナは何となくノリで返事してしまった。賑やかな雰囲気に、オルフェの楽しそうな言葉。フランツのことは気に掛かるけれど、空は晴れて気持ちが良くて、人々の活気で賑わっているお祭りのような雰囲気を味会わなくちゃ勿体ない。
陽気な三人と、不機嫌そうなフランツという不思議な雰囲気のまま、四人は荷車を先頭に歩いて場所を探した。広場は円形になっていてかなり広いのだが、流石に一番いい場所は残っていない。
「もっと早く来るべきだったねぇ」
後悔しているのかしていないのか、よく分からない口調でオルフェは三人を振り返った。表情からすると後悔している様子ではなく、言ってみただけらしい。オルフェのような大人も今まで村にいなかったから、面白くて新鮮だ。
リッツといい、オルフェといい、村の外には色々な人がいるのだなぁと心から感心してしまう。
ぐるりと広場を回りながらようやく辿り着いた場所は、確かに良いとはいえなかったが、一応人通りがありそうな角地だった。初めて商売をするのだから、あまり人が多くない方がいいのかも知れない。
「さあさあ、並べて並べて! アンナちゃんもリッツ君も、君らの生活費のための頑張らないとね!」
この場に来て一番盛り上がっているのは、当事者のリッツとアンナではなくオルフェである。むっつりと押し黙る弟子のフランツとは全く正反対の楽しそうな顔でリッツとアンナに荷物を降ろすのを手伝うよう告げた。
ただこの朝市に圧倒されてしまって、周りを見渡すばかりだったアンナは、さっさと作業に移るリッツとフランツに急いで駆け寄り、荷物を降ろしを手伝う。
「朝早くからよくこんだけ集まるよなぁ」
降ろした荷物をフランツに渡しながら、リッツが呟いた。
「そうだよね。すごいね」
軽い荷物を受け取りながら相づちを打ったアンナは、オルフェに促されて、早速野菜を並べ始めた。リッツは自分一人なら旅が出来る路銀があるのだから、一番頑張らないといけないのは路銀を全く持っていないアンナなのだ。
「アンナ、野菜を葉物から前に並べるんだ! ピンとしているうちが勝負だぞ!」
オルフェの荷物を荷下ろししながら、リッツがアドバイスしてくれた。
「うん!」
返事をしたものの、いまいち並べ方が分からない。何しろヴィシヌにいた時は、大きな市が立つことは滅多になくて、祭の時の露天ぐらいしか知らない。しかも野菜は自給自足だったからほとんど買うこともなかったのだ。大きい背負い籠の中には、取れたての人参やら大根などの根菜類を始めとした、あらゆるヴィシヌ産の野菜が詰まっている。勿論、今が旬の取れたて紅芋もある。
「リッツ~」
「ん?」
「八百屋さんって、どうやって並べるのかなぁ~」
「あ、そうだな」
アンナの戸惑いに気がついて、リッツがオルフェの荷物をフランツに任せてこちらにやってきた。そして手際よくみずみずしい葉物野菜を前に、根菜類を後ろに積む。
「紅芋は旬だし、売れるだろうから、少し前に出しておくか」
言いながらリッツが並べた野菜たちはとても見やすくなった。
「すごいね、リッツ! 八百屋さんで働いたことあるの!?」
「ねえよ。街の市場じゃ大抵がこうだろ?」
当たり前のように言われて、アンナはすっかり感心してしまった。リッツは色々な街の市場を知っているらしい。
「そうなんだぁ……すごいねぇ……」
「別にすごかねえよ。さ、とっとと並べちまうぞ」
あっさりとそう言うと、リッツは残りの野菜を飾り付けていく。色合いの明るい野菜を前に持ってきて、長い野菜は立てておく。リッツのやっているのを見て、アンナも少しずつどんな風に並べたら目立つのかが分かってきて、二人で何度も位置を直す。
「よし、これで良いだろう!」
最終的な確認のため、店の前に立ったリッツとアンナの正面には、たった小一時間もしないうちに小さいが立派な八百屋が出来上がっていた。アンナの背負いかごには、かなりの数が入っていたのだ。アントンはかなり奮発して色々持たせてくれたらしい。
ヴィシヌの養父にアンナは心の中でお礼を言った。
「どうだ、フランツ? いい感じだろ?」
リッツが、隣で緋色の布に何だか不思議な物を不思議なバランスで並べていたフランツに尋ねた。
「いいんじゃない」
リッツの問いに小さく答えて、再びフランツは黙って作業を再開した。愛想のないフランツにリッツは軽く肩をすくめる。オルフェは楽しげに眺めているだけで、手を貸さないが、フランツはそのことで自分の師匠に文句の一つも言わない。どうやらそんなオルフェに、普段から慣らされているようだ。
オルフェがやったたった一つのことは、店の両端に何だか分からないが棒のようなポールを取り付けたことだけだった。
商品の陳列が終わって一息入れたところで、高らかにラッパが鳴らされた。これが朝市開始の合図だったらしく、開放された門から手に手に袋を提げた人々がなだれ込んでくる。
「さあ、忙しくなるよ」
オルフェがそういうと、荷車から布きれを取り出した。その布にはでかでかと『ヴィシヌ産新鮮野菜と精霊魔法の不思議な道具の店』と達筆な字で書かれていた。それを店の両側に立てた謎のポールに、オルフェは嬉々として取り付けた。これがやりたかったらしい。
「うん、我ながら良い出来だ」
確かに字は上手いし目立つ。ちなみに荷馬車を引いていた栗毛色の馬は、座り込んで眠っている。この喧噪に負けずに眠るとは、さすがオルフェの馬である。
布看板を取り付けた直後から、店に客が集まり始めた。客に聞いたところ、ヴィシヌ産野菜は近隣諸国でもその出来が有名らしかった。
ひっきりなしにやってくる客が、また客を呼び、いつの間にか彼らの店はお客だらけになった。店の前に立って、客の言うままに野菜を紙袋に詰めていたアンナは、あっという間にもみくちゃになってしまう。
「アンナ、お前ヴィシヌ野菜の宣伝するって言ってたけど、宣伝する必要ないじゃんか!」
アンナ同様客にもみくちゃにされながら言ったリッツに、アンナは満面の笑みを浮かべて頷く。フランツも無言で人に押しつぶされながら会計をしている。
始めはリッツとアンナが頑張っていたのだが、全く追いつかなくなったのでフランツに交代して貰ったのだ。彼は意外なことに、計算が恐ろしく速い。
こんな状況の中、一人で涼しい顔をしているのはオルフェだ。近くの店で買ってきた紅茶を、彼の眠っている馬に寄りかかって飲みながら、三人の混乱ぶりを眺めているようだった。
暇なら手伝ってくれればいいのになと思ったのだが、オルフェとフランツには何らかの決め事がありそうだから、口に出さない。
このどさくさに紛れて、彼の不要品も飛ぶように売れている。用途が分からないのに買う人はすごいなと思う。
息をつく間もないぐらい忙しい中で、人混みに沈んでしまったアンナを引き上げてくれながら、リッツが満面の笑みでアンナにウインクした。
「これは大変だ」
「うん!」




