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呑気な冒険者たち  作者: さかもと希夢
小さな大迷宮
35/224

<1>

第4話がスタートです! 全13話の予定です。

今回はシリアス要素が結構強め。でも相変わらずの面々です。


 燭台に刺された蝋燭数本の灯りが揺れる狭く仄暗い地下室で、その話し合いは持たれた。薄明かりにぼんやり浮かび上がるのは、数人の人々の暗い輝きに満ちた瞳と、対照的にきつく匹結ばれた歪んだ口元のみ。

 人々はただただ沈黙し、思案を巡らせている。それは心地よい沈黙ではなく、何か見るものを気味悪がらせる重苦しい沈黙だった。思案といっても、彼らの中ではすでにその事(ヽヽヽ)を実行する決断は付いている。後は誰がそれを言い出すか、それだけなのだ。

 お互いに顔を見られることを嫌っているのか、そこにいる人々は皆、黒いフード付きのローブに身を包んでいた。皆同じ表情、皆同じ服装……異様ともいえる空気の中で、部屋の片隅に立つ男は、微かな笑みを浮かべた。

 澱んだ暗い空気の底にいるかのように、思い沈黙が支配する中で、男は人々の視線を一身に受ける。

 男は人々が口を開くのを待っていた。男は自分に望まれる事を知っている。だが彼らに口を開かせなくてはならない。彼から言い出してしまっては面白くない。

 ここにいる男たちには、他に選択肢がない。だからこそ、より有利に利益を得るには、自ら口を開かない方が利口だ。

 長い沈黙が続く。きっと男たちはローブの中に緊張で冷や汗を掻いているだろう。男にはそれが滑稽で可笑しい。

 ジジッと、蝋燭の炎が音を立てた。小さな羽虫が、炎に焼かれて落ちる。それ以外に聞こえるのは、この室内に在る人々の静かな呼吸音だけだ。

 男は黙ったまま、居並ぶフードの面々を舐めるようにねっとりと一瞥した。そのように見られることに慣れていないのか、男たちは身じろぎをする。男の嗜虐的趣味が心地よく刺激され、思わず口をついて低い嗤い声が漏れた。

 耐えかねたように男の一人が、一歩前へと進み出た。この男が一同の代表だ。男は一瞬躊躇った後、懐から多面体の鏡のようなものを置いた。その手は微かに震えている。この行為が意味することを、ここにいる全ての人々が理解していた。

「ほぅ、これが……」

 ため息にも似た喜びの息を漏らすと、ようやく与えられたそれを、男は手に取り、笑みを浮かべながら、多面体の持ち主を見つめた。

「これを使えと申されるのですな?」

「……そうだ」

 極力言葉を交わさぬように、持ち主の男は返事をした。話すことによって、何かを知られることを恐れているのだ。だが、そんなことをしても無駄だ。この多面体を知る者は、王国では限られている。

 これを出した瞬間、男は自分の姓名を名乗ってしまったも同じだ。

「……憎いのですか、そこまで?」 

 楽しげに問うと、多面体の持ち主はあからさまに顔をしかめ顔を背けた。

「余計な詮索はするな。雇い主は誰だ?」

 命令しなれている口調だ。もう権力など持たぬと言うのに。

「……失礼いたしました」

 馬鹿な男だ、失った物は戻らんというのに。

 口元に笑みを浮かべつつ、男は一行を見回した。

「私に全て託していただけるという事ですかな?」

 居並んだ男たちは、多少顔を強ばらせながら頷いた。

「お受け致しましょう。ではこの誓約書に血のサインを……」

 男たちは、自分の人差し指を小さくナイフで傷つけ、言われるがままに誓約書に自らの血でサインをした。傷に布を当てると、男たちはこの部屋を一人づつ静かに声もださずでてゆく。その様子はまるで葬送の列のようだ。いや、もしかしたら本当に葬送の列なのかもしれない。

 時代を知らぬ愚か者の……。

 最後に残ったのは、この多面体の元の持ち主と、男の二人だった。

「この宝物に名は付いているのですか?」

 捧げ持つようにして多面体を手にした男の問いに、元持ち主は小さく告げた。

「『無限の悪夢』だ。ふさわしかろう?」

「ほぅ、なかなか風雅な……」

 フッと口元を緩めると、元の持ち主は苛々と白髪を振り、男を見据えた。

「本当に上手くいくのだな? 奴を永遠の苦しみに閉じ込められるのだな? 余のように?」

「ご安心を。我らが必ずしや恨みを晴らして差し上げますゆえ」

「頼むぞ。余はもう……休む。今日は少々疲れた」

「はい。ごゆっくりお休みくださいませ」

 頭を下げる男の前から、宝物の持ち主は不確かな足取りで出て行った。年齢以上に酒が彼の体を蝕んでいるのだ。

 皮肉なものだ。権力を失うと、人間という者はここまで落ちぶれるのか。

 残った男は手にした多面体の宝物を見つめ、静かに嗤った。

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