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呑気な冒険者たち  作者: さかもと希夢
謎の宝を守れ
25/224

<5>

 翌日の朝、リッツは力任せに『緑の森亭』の扉を押し開けた。壁に叩き付けられた一枚板の重たい扉が悲鳴を上げる。

 高価な物だろうに申し訳ないと思いつつも、リッツは目覚めたばかりの街に響き渡れとばかりに、馬鹿でかい怒鳴り声をあげた。

「もうお前らと一緒にやっていけねぇよ。ガキのお守りはうんざりだ!」

 そう言い放つと、出口のそばに佇んでいたフランツが無表情に冷めた目でこちらを睨みつけた。それから思いっきり感情のこもっていない声で、淡々とリッツに辛らつな言葉を投げかける。

「リッツがいなくてもやっていける。好きにすればいいさ」

「ああ、そうかい!」

 リッツは腹立たしげに見えるよう、『緑の森亭』の扉を思い切り蹴りつけて、荷物と共に表に出た。

 こんなもんだろう。このぐらい大げさにやっておけば、敵は簡単に釣れそうだ。何せ敵は歴戦の兵士でも、優秀な傭兵でもなく、ごく普通の人々に過ぎないのだから。

 すでに季節は秋。多少肌寒いファルディナの街を、リッツは怒った表情を保ちつつ無作為に道を選んで歩いていた。体中から怒りを発散させつつ、朝の澄んだ冷たい空気を乱しながら、人気の少ない街を大股で歩いていく。

 リッツには特に決まった行き先はない。相手にみつけて貰い、話しかけて貰わない限り、やることはなにもないのである。万が一にも誰も探してくれなかったら、出店で朝食を食べたり、ぶらぶらと店を冷やかして歩けば、不自然にならないだろう。

 探索もかねて、リッツは街を歩き回る。ファルディナの街に来るのはかなり久しぶりだ。だが細々とした店は当時と入れ替わっているが、大きな道は特に変わっていない。店が変わっても建物は変わらないから、迷うこともないだろう。

 ただ目的もなく歩き続けるリッツが、自分の後ろをついてくる気配に気がついたのは、宿を出てしばらくした後である。

 想像よりも早いお出ましに心の中で『かかったな』と呟きつつも、後ろを振り返らなかった。振り返って確認すれば警戒されて逃げられるおそれがある。

 それでは困るのだ。確実に彼をどちらかの元に連れて行って貰わなくては。

 ものには順序がある。人の少ない裏路地あたりまでこの尾行者を連れ込んでからゆっくり聞けばいい。

 足音に耳を澄ませると、三種の足音が聞こえてきた。ということはリッツを付けている人数は三人と言うことになる。

 長さ故他人より多少よく聞こえる耳で、後ろからついてくる人数を確認したリッツは、何気ない風を装って、裏路地へ曲がった。このように細い道細い道を歩いていけば、いずれ後ろの男達に話を聞く絶好の場所を見つけられるに違いない。

 だがそのチャンスは意外なほどに早く、あっけなく現れた。曲がった一本目の先が、なんとラッキーな事に袋小路だったのだ。まさかこんなに都合良く、袋小路が出てくるとは思わなかったリッツは、正直開いた口がふさがらない思いだった。

 こんな事は滅多にあるものではない。きっとヘレボアが幸運を祈ってくれたおかげだろう。

 後ろについてきていた男たちが、行き止まりを目にして、足を止めたのが分かった。どうするのか小声で話している気配を感じる。

 ここで逃げられては困る。ここは先手を打って、おくべきだろう。

 リッツは後ろの男たちに何気ない風を装って声をかけた。

「おい、用があるからついてきたんだろ? 逃げたりすんなよな」

 男たちが黙り込んだところで、リッツは振り返ってみた。予想通り、本当に普通の街人のようだった。表情もリッツ相手に恐怖を感じているのか、何となく強ばっている。

「何だよ、そんなところで突っ立ってないで、こっちに来たらいいだろ。いくら気が立ってるからって突然斬りつけたりしないぜ」

 軽い口調で話しかけると、男たちは、三人でしばらくなにやらこそこそと話していたが、やがて中の一人が前に立ってゆっくり近づいてきた。それからリッツの顔をしたから伺いつつ問いかけてくる。

「あんた、今仲間と離れてきたんだよな」

 リッツはかかったな、などと内心ほくそ笑んだが、そんなことは勿論おくびにも出さない。

「なんだぁ? 見てたのかよ」

 出来るだけ不機嫌そうな顔で男たちをにらみつけると、再び男たちはすくみ上がってしまった。この身長と背中の大剣、これですくみ上がらない普通の街人はいないだろう。でもこのぐらいした方が後で相手に圧力を掛けるのに有利なのだ。

 だが街人は必要以上に怯えてしまい、口を閉ざしてしまった。これでは話が前に進まない。

 リッツはどかりと座り込むと、男たちを見上げた。これで少々の威圧感を押さえられるだろう。案の定男たちは安心したように、もう少しリッツに近づいた。

「いい儲け話があるんだ、聞いてくれないか?」

「儲け話? 本当に儲かるんなら聞いてやってもいいな」

 儲け話と来たところを見ると、これは金持ちサイドかもしれない。

 作戦がうまくいって、しかも金まで巻き上げられたらラッキーだな、などと考える。アンナに言ったら、犯罪だと怒られるだろうが、旅費はあればあるだけいい。

 リッツはそんなことを考えていたのに、男たちは自分の都合良く解釈したらしい。

「聞いてくれるんだな、良かった」

 ほっとした男たちは、ようやく話を始めた。

「この街に宝を独占してる女がいる。そいつから宝を取り上げたい。それを山分けしたいんだよ。勿論あんたにも取り分は払う。それだけじゃない、これに協力してくれるだけで、謝礼もたっぷり弾むよ」

 やはり、金持ちのアザロス・ルサーン側だ。ここは親玉に会ってみないことには話にならない。

「あんたらの話だけじゃ、信用ならねぇな。俺は実際に金を出してくれるやつの顔をみないと、話をしないたちなんでね」

 渋られるか断れるだろうと思ったが、男はあっさりと頷いた。

「勿論そうだろうよ。ついてきてくれ、ルサーンに会わせるよ」

 そういうと、男たちはリッツについてくるよう促して歩き始めた。よし、こっちの接触第一弾は成功だ。

 果たしてフランツは上手くやれるのだろうか? 

 彼はあまり芝居がかったことが得意ではない。それだけが心配だったが、これから先、彼の様子を見に行くことは絶対に出来ないのだ。

 リッツに今できることは、渋面を保ちながら、頼むから、失敗しないでくれよと、心の中で祈ることだけだ。

 案内されるがままに男達に連れてこられたのは、街の高級住宅街だと思われる一角にある大豪邸だった。案内をする街人は門番ともなじみのようで、すんなりと中に通される。

 案内された大きな大きな応接間で、お供に誰も付けられない状態でしばし待たされた。不用心なと思うが、それを利用して何かをくすねようという気は起きない。何しろこの部屋にはリッツの気に入りそうなものはないのだ。。

 リッツは必要以上に柔らかく沈み込む高価なソファーに身を沈ませて部屋の様子を窺った。さすが金持ち、眩いばかりに絢爛豪華な装飾だ。そういえばフランツの父親も同じような趣味だったことを思い出した。

 何故金持ちのセンスはみんな変わらないのだろう。

 高価な壺に高価なガラス製品、高価なシャンデリアに高価な絨毯。そして高価な家具。見るからに高そうなものばかりで、ため息が出る。装飾など気にしないリッツには、かなり居心地の悪い空間だ。

 まあ金持ちのくせに他人の宝まで欲しがるような強欲な男が、質素でこざっぱりとしてて、さりげなくおいてあるものが高級品という品のある金持ちであるはずもないのだが。

 ともあれ、この部屋は客を一番先に通す部屋。一番先にこの高価なもので客を圧倒し、自分の権力を見せつけようとするならば、きっとこの眩しすぎて下品な部屋は用途的には正しい。

 これだけ金があることを見せつけたい奴ならば、相当ふっかけてもいいだろう。そうすれば海へ行くまでにもう少し小銭が稼げるかもしれない。そうなれば少し嬉しい。なにせ未成年二人を抱える保護者は、いつも生活の算段に頭を悩ませているのだ。

 やがて何の前触れもなく扉が開いた。

「待たせたね! 客人!」

 入ってきた男は、つやつやと肌が輝くばかりに皮膚の伸びきった、饅頭のような男だった。きっと突き転がせば本当に見事に転がるだろう。

「どうも、儲け話あるってね」

 リッツが投げやりにそういうと、男は嬉しそうにニコニコと笑った。悪いやつではなさそうだが、我が儘そうではある。きっと今までの人生、金で解決し無かった事例はないのだろう。自分がとてつもなく強欲なことをしているという自覚すらないに違いない。

 リッツがそんな風に男を観察している間に、ふとっちょの男はよっこらしょっとかけ声をかけ、彼の正面に座った。

「わしは、アザロス・ルサーン。街一番の資産家だ」

 てらてらと脂ぎって輝く顔に、満面の笑みを馬浮かべて、男はリッツに片手を差し出した。自分の行く手を阻む物などないと、信じ切っているのだろう。

 これは御しやすそうなタイプだ。だが商人と金持ちに、嫌悪感剥き出しのフランツには、多分この男の相手は無理だったろう。

 リッツは差し出された手を握るでもなく、面相くさそうに見えるよう視線をそらせる。興味があるとがっつくのは、この際いい手ではない。相手が食らいついてくるように仕向けるのが一番だ。

「俺はリッツ・アルスター。傭兵だ。各地を放浪して回ってる」

「各地を? ほぅほぅ」

 ルサーンは、本気で感心しているのだが、このどこまでも軽い口調、きっとフランツなら、自分を馬鹿にするのかと怒り出してしまうに違いない。

「そ、ちょっと仲間とやり合ってね。まああっちは駆け出しの坊やだったからいいんだけどな」

 わざとルサーンが聞き出しやすいように間を持たせてやると、ルサーンは乗ってきた。

「ほ~。じゃあ今は誰にも雇われてないのかな?」

「当たり前だろ。雇われてたらこんなところでもたもたしてるかよ」

 リッツの答えを聞いて、ルサーンは満面の笑みを浮かべた。目が肉に埋もれて見えなくなりそうだ。

「いい儲け話があるってんで、ここに来た。嘘なら俺帰るぜ? 雇い先も探さねえとならないからな」

 いかにも退屈そうに、欠伸しながらしながらいったリッツに、ルサーンは慌てた。この状況で思いつく他の雇い主といえば、彼のライバル、シグレットだけだからだろう。

「待ってくれ、本当にいい儲け話なんだよ」

「本当か?」

 疑わしげな顔つきで尋ねと、ルサーンは必死で頷く。

「本当だ。本当にいい話なんだ」

 疑う振りはこの辺にして、こっちも雇われないと話にならないから、この辺で態度を軟化させた。

「一応信じるかな」

「これはありがたい」

「じゃ商談に移ろう。俺に頼みたいことってなんだ?」

 誰もいない応接間で、ルサーンはわざとらしく声を潜めた。

「簡単だよ、ある洞窟に入って宝物を奪ってきて欲しいんだ」

「おいおい、俺に洞窟探検してこいっていうのか? 冗談じゃないぜ、めんどくさい。そんなのは冒険者連中がやることだろうが」

 いかにも投げやりな態度を取ると、リッツの様子にルサーンは慌てて言葉をつなぐ。

「いやいや、洞窟といっても小さい洞窟だ。本当だよ。でも守っている人間がいるから、困っとるんだ」

「守ってるやつ?」

 ルサーンは頷いた。

「女が一人と、底意地悪い土地持ちさ。この二人をとっちめないと宝がとれないんだよ」

 ルサーンはサバティエリ夫人と土地持ちシグレットを、共犯者に仕立て上げてしまっている。

 事実とは異なるものの、これは都合がいい、シグレットも敵だとリッツが理解した振りをしている方が、格段に動きやすそうだ。

 あちらにはフランツがいる。二人で戦う振りをして時間を稼ぐには、リッツがシグレット側を敵だと思いこんでいる演技をした方がいいだろう。

「へぇ、じゃあ俺はその男をぶっ倒せばいいわけだ。あ、いっとくけど俺、女と子供にゃ手を出さないって決めてんだ。悪いけど女も潰せっていわれたら、この仕事投げるかんな」

「勿論、勿論。君はシグレットの野郎を倒してくれればいいよ」

 ルサーン的には、シグレットを潰してくれるだけでも大助かりのようだ。彼の宝を巡るライバルがいなくなればこの街は彼の天下である。

 話は決まった。

「で、金はどのくらい貰えるんだ? 安ければ受けないぜ」

 ルサーンはその言葉に、指を五本立てた。

「五ギルツ? はした金だなぁ。もう一声かかんない? あんた、金持ちなんだろ?」

「う~ん、じゃあこんだけ!」

「七ギルツか。せめてもうちょいだせねえの? 一仕事終えて稼いだら王都へ遊びに行く予定なんがな」

 ヒースに持たせた書簡の送り主は、かなり必死で説得し連れ帰ろうとするだろうが、逆に説き伏せて逃げる自信がある。リッツが敵わないのは、世界でたった一人だけで、その人物は絶対に現れないはずだ。

「う~~~~~じゃあこれで!」

 思い切ったようにルサーンが出してきた数字は、八ギルツだった。

「もう一声!」

「じゃ、じゃあ思い切って十ぴったり!」

 傭兵隊長であったリッツの経験からすると安すぎるが、高くしすぎて手を引かれたら、頼み直さねばならずこちらの立場が弱る。本当に金に困っているわけではないのだから、この辺にして置いた方が良さそうだ。

「分かったよ。今、文無しだからそれでいいや。しらばっくれないように半金先払いだ」

 ルサーンは満足そうに腹を揺らすと、ポンポンと大きく手を叩いた。すぐに執事らしき男が飛んでくる。

「この方にお部屋と五ギルツをすぐにご用意して差し上げろ」

「かしこまりました」

 執事は横の髪だけを残し、前髪から頭頂部まで綺麗にはげ上がってしまっていた。きっとこの男の我が儘のせいを聞き続け、気苦労で抜けたのだろうと思うと気の毒だ。

 ご愁傷様と心の中で呟きつつ、リッツは立ち上がった。心の中で同情されているとも知らず、執事の男は、丁寧に部屋の外へリッツを促した。

 部屋を出かかって、ふとリッツは思い出したようにルサーンにいった。

「あんたがどうやって俺のこと知ったか知らないけど、俺の元相方のことも知ってるんだろ? あいつもどっこかで雇い主探してるかもな」

 ルサーンの顔色が変わったのを横目で見ながら、リッツは応接間を後にした。

 これでルサーンがフランツが敵に雇われたと知ってから、第二の計画を始めねばならない。

  とりあえず、リッツは自分にあてがわれた部屋に向かった。

 彼が案内された部屋は客間らしかったが、無駄な装飾があまりなく、すっきりしている。

 勿論絨毯やら家具やらは高価なものばかりだが、それでもごてごてした壺やら、ガラスなんかがないところがいい。

 だが、その代わりにたくさんの果物やら菓子が入ったバスケットが置かれていた。飾りかと思って手を伸ばすと、それはみずみずしい本物だった。

 どうやらいつ食べてもいいらしい。

「なるほど、こういう生活してると、ああいう体が出来るんだなぁ」

 納得したように小さな果実を一つ口に放り込んだ。

「美味い!」

 大きなチェストに荷物を放り投げると、ベットに全身を投げ出した。リッツが三人以上は寝られる広さのベットで、しかも羽毛で出来ていてふかふかしていた。

「うおおおおお、贅沢だ~!」

 いまいち計画が動き出すまでやることのないリッツは、遠慮なくその贅沢ライフを楽しむことにした。


 話は少し遡る。

 リッツが出て行った直後の『緑の森亭』で音を立てて扉を閉めたフランツは、くるりと店内を向いてため息をついた。そこには、アンナ、リラ、ネットが微笑んで立っていた。

「フランツ、棒読みだけど良かったよぉ~!」

 アンナが彼を拍手で迎える。気のせいかリッツたちと旅を始めてから、こんな事ばかりしている気がする。行き着く先は詐欺師だろうか?

「僕は、こんな役、向かないって言ったのに……」

 ぶつぶつと呟くと、アンナがにっこり笑ってこちらに歩み寄り、小声でフランツに語りかけた。

「本当にリッツがガキのお守りって思ってたら怖いよねぇ」

「そうだね」

 軽く楽しげな口調でそういったアンナを、フランツは軽く睨みつけた。どうしてこうアンナは、緊張感というものがないのだろう。

 だがアンナにはアンナの考えがあったらしい。

「フランツ、すっごいしかめ面になってる」

「え?」

「こんな感じ」

 アンナがおもむろに自分の額にしわを寄せた。何をし始めたのかと困惑し、それから理解した。どうやらアンナはフランツの極度の緊張を和らげようとしてくれていたらしい。

 さり気なく自分の眉間を手で触れると、そこにはアンナの言う通り、もの凄く深い皺が寄っていた。確かにこれでは緊張しすぎだろう。

 誰のせいでこんな顔になったんだと言ったらきっと、あっさり『誰のせい?』などと首を傾げるだろう。元はといえばアンナがヒースの依頼を引き受けたからだが、きっとそんなことは忘れているに違いない。

 リッツのいい加減さとアンナのデリカシーのなさには、きっと一緒に旅を続ける限り悩まされるんだろう。だからといってどうしていいのかなど、フランツに分かろうはずがない。

 とりあえず顔はこのままで放っておくことにした。この緊張が解けぬ限り、眉間のしわを消す方法がない。

「フランツ、そんなに緊張してたら持たないよ~。大丈夫、大丈夫」

 先ほどからアンナが何回もそう言うのだが、大変なのはアンナではなく、フランツなのである。

 緊張感を持続させつつ、何もせずに待つというのは、それなりに神経を使う。待つだけというのがこんなに疲れることだとは思わなかった。

 だが、そんなことなどアンナは全くお構いなしのようだった。先ほどから落ち着き無くフランツとリラの間を行ったり来たりして、なにやら相談している。

 やがて話が決まったのか、アンナは笑顔でフランツのところへやって来た。

「リラと買い物に行ってくるね!」

 それはあまりに唐突だった。

「え? 今?」

「うん」

「本当に今?」

 フランツは思わず聞き返してしまったが、アンナは冗談で言ったわけではないようだ。彼女の手には朝だというのにランプが掲げられている。

「まさか、あの?」

 フランツの問いに、アンナはこくりと頷いた。

「うん、リッツが言ってた『もしもの備え』だよ。サラちゃん連れて行った方がいいよね?」

 実はアンナにはもう一つ託された仕事があったのだ。全員で朝食を取りながら、思いついたようにリッツが提案したのが『もしもの備え』だった。

 もしアンナとリラが二人にメッセージを伝えられないような状況に陥ったら、代わりのメッセンジャーを用意するとこと。

 そして選ばれし三人目のメッセンジャーこそ、火トカゲ(サラマンダー)のサラなのである。

 だがサラは、まだ二文字までの文章(?)しか話せない。おはようは、『おはきーっ』嬉しいは、『うれきーっ』。通訳の出来る人がいるならまだしも、これではとてもじゃないがメッセンジャーはつとまらない。

 だからサラはメッセンジャーというより、伝書火トカゲ(サラマンダー)をする事になっているのだ。

 だがそれにも問題はあった。サラちゃんに持たせるメッセージを紙に書いて運ぶと、燃えてしまって全く用をなさなくなる。だからサラが努めを無事果たすためには、燃えない紙、もしくは中身が燃えない筒がいるのだ。

 そんなものがあるか分からないが、リッツ曰く『数は少なくとも種類だけは王都並』というあの武器屋に、一応そういう物があるか確認しておこうということになっていた。もちろんそれは監視付きになってしまうだろうリッツとフランツではなく、アンナの役割だ。。

 でもそれはあくまでも備えであって、何も今すぐ実行する必要などない話である。

 なのに今行くと言い張るアンナの行動が、フランツの理解の範疇を軽く超えている。

「交渉が終わってから出かければ?」

 フランツの諭すような口調に対して、アンナの答えは対照的にきっぱりはっきりしていた。

「だって待ってるだけって暇なんだもん!」

「暇って……」

 確かに待つだけの苦痛は理解できる。だが待つべき時に待たねば、この席の計画が狂うのではないだろうか。呆れ返るフランツに、アンナは大まじめな顔でいった。

「それに、私いたってきっと出番ないよ」

「……」

 返す言葉がない。確かに彼女にやって貰えそうなことはひとつもないのだ。それどころか同じ空間にいられたら、迂闊なことをいって事態を更に混乱させそうだ。フ

 ランツにもそれくらいは分かっているが、それにしたって唐突すぎる。少しはリッツに詐欺師にさせられそうなフランツを助ける気は無いのだろうか。

 呆れて言葉も無いフランツが納得したものと勝手に解釈し、アンナはにっこりと言葉を続けた。

「暇ならやることをさっさとやっておいて後で楽する方がいいって、お養父さんいってたよ」

 アンナに一片の迷いも無い。フランツはアンナの養父に会ったことはないが、こういう時にはアンナの育ての親に文句の一つも言いたくなる。時と場合によってやることは変わるとどうして教えておいてくれなかったのだろう。アンナには状況の一つも考えて欲しいものだ。

 これからすることは農作業や、料理の下準備とはちょっと違うのだから。

 だがこうなったアンナは頑固だ。行くと決めたら、もう行くしか選択肢がないのである。それはフランツも上々承知している。

 この場にリッツがいれば上手く丸め込んで後回しにさせるだろうが、残念ながらリッツはいないし、フランツに、アンナを丸め込むだけの手立てがない。

「じゃあ、フランツ頑張ってね!」

「ちょっと、待て」

「行って来ます、パパ!」

「アンナ、待っ……」

 思わずさしのべた手の直前で、扉がばたんと重々しく閉じられた。

「本気なのか……」

 呟くフランツに、ネットが扉と同じようにいやそれ以上重々しい声でいった。

「フランツ君よ、俺たち二人でごまかすしかないようだねぇ」

「すみません、お手数かけます」

 全くリッツといいアンナといい、勝手すぎる。後に残されて困るのは、いつもフランツだ。

 沸々と怒りがこみ上げてくるが、もう行ってしまったのだからどうしようもない。そもそもフランツには感情的に怒鳴り散らすなどと言うことはできそうにない。

 身動き一つせずに、しばし無言で考え込んでいたフランツだったが、やがて小さく息をついて諦めた。きっと今の顔は仲間と喧嘩別れした後には丁度いい顔かもしれない。

 まさかアンナは、それをねらったわけでもあるまいが、少々腹の立つ話である。

 例えどんな状況であったとっしても、やらなければならないことに変わりは無いし、動かねばどうしようもないのだから腹をくくる。人間、諦めが肝心だ。

 そんなフランツとは対照的に、落ち着かずに歩き回っているのは、朝から備え付けっぱなしの鏡を見ているネットの方だった。

 雇われるのはフランツの役目だし、彼が緊張する必要は何もないのだが、やはりこんな初めての事態に神経が高ぶっているのかもしれない。

 そういえばリラによると、当事者たちよりもよく眠れず、朝も早くからうろうろしていたのはネットだったそうだ。見た目は強面だが、もしかしたらとても見かけによらず繊細なのかも知れない。

 心の中でフランツはすまないなとは思ったものの、適当な言葉が思いつかず結局口をつぐんでいた。正直言うと、自分もわけが分からないのに、更に分からないだろうネットに、なんと言ったらいいか思いつかないのだ。

 そんな奇妙なまでの静けさがネットの一言で突然破られた。

「き、来たぞフランツ君」

 うわずった声でそう告げたネットに、フランツは落ち着いて指示を出した。

「ネットさん、興奮していたら気づかれます。冷静に台所にいてください」

「そ、そうかい? いや、二人しかいないと思うと緊張するなぁ」

 そういいながらも、ネットはおとなしく台所に引き下がった。

 これで勝負はフランツと彼を雇いたいどちらかの一対一で行われることになる。

「しくじらないようにしないと……」

 自分で自分に言い聞かせて、フランツは大きく息を吐いた。

「よし」

 決意の言葉を口にしたまさにそのとき、入り口の扉が叩かれた。

「ネット、私だ」

 慌てて返事をしながらネットが出てくる前に、男は扉を開け放っていた。身なりのいい少々痩せぎすの男だ。後ろには幾人かのお供を従えている。

「これはこれはネセットさん、何か?」

 ネセット・シグレット。土地持ちだ。男と供の男達は、勝手に上がり込んで席を見つけて座った。

「ここに止まっている客人に用があって来たのだが……おや、君一人かい?」

 シグレットの目がフランツに向けられた。どうやら彼にはまだ、リッツとフランツが喧嘩別れした話は入っていないらしい。

「……一人では何か都合の悪いことでも?」

 感情のこもらない口調と冷たい瞳に見つめられたシグレットが、少々怯んだ。

「いや、問題ではないが……ネット、もう一人の大きい方の方はどうしたんだ?」

 問われたネットは、自分が話していいかと、ちらりとフランツを見た。フランツは無言で頷く。

「実はこのお客さんのお連れさん、仲間割れして飛び出してっちまってね。どこにいるかさっぱり分からないんだよ」

「仲間割れ?」

 シグレットが疑い深げにフランツを見た。フランツはただ黙って、シグレットをにらみ返す。

「ふむそうか、残念だ」

 自己完結的に話を進めるシグレットに、フランツはぽつりと一言いってやった。

「残念って?」

 突き刺すような視線に、冷徹な笑みを浮かべつつ、シグレットに見つめ返された。さすが街を二つに分けるほどのやり手、一筋縄にはいきそうにない。人間関係の経験値が皆無に近いフランツに勝ち目があるのか、それが全く見えない。

「君たちに頼みたい仕事があったんだ」

「君たち? 僕が彼に劣るとでも?」

 これ以上この話をしてフランツにまで逃げられてはたまらないと思ったのか、シグレットはフランツに友好的な表情を造って見せた。だがフランツには作り笑顔は無意味だ。彼は育ち故に、相手の表情の裏にある悪意を見抜くことを、得意としている。

「君に頼みがあるんだ。私はある女性から宝を譲って貰いたい。だが彼女はなかなか首を縦に振らんのだ。だから話し合いに君もついてきて欲しい……意味は分かるかね?」

 フランツは、顔をしかめて頷いた。

「脅迫するのか?」

 それには答えず、手をとがった顎に当てて軽くさすりながら、シグレットは口元をゆがめて笑った。

 こいつはきっと単純にだませる相手じゃない。今も握りしめた手に冷たい汗を掻いているフランツの手に負えるか分からない。

 リッツがこっちに当たってくれたら良かったのに、と今更そう思っても後の祭りである。ここはとにかく出来る限りのことをするしかない。

「報酬は?」

 ほとんど表情の動かないフランツが、納得したと勝手に思いこんだシグレットは、不適な笑みをこぼした。

 相手の余裕から、フランツの胸には不安が迫り上がってくる。これからフランツは、この宿に泊まり続けて準備をするといって、交渉を引き延ばさなければいけないのだ。

 不安で背中を冷たい汗がしたたり落ちた。こんな不安を感じるのは何度目だろう。

 もしリッツの計画が全て読まれていたら、いったいどうしたらいいのだろう。そうなったらフランツには打つ手が全くない。

「それでは、君……」

「フランツ」

「フランツ、君には是非私の屋敷に来て貰おう。ここでは何かと不便だからな」

 おいでなさった。フランツは落ち着いて答えた。

「僕には僕の都合がある。悪いがここにいる」

 だがシグレットは、そんなことは分かっているというように、ほんの微かに眉を上げて見せただけで、後には引かなかった。

「君は、さっきこの話を持ちかけたとき少し嫌な顔をしただろう?」

「……」

 気付かれていた。フランツが黙っていると、シグレットはなおも畳みかけるように話し続けた。

「君はもしかしたらこの街の事情を知っているのかも知れないね。そして私とあの男の依頼を天秤にかけるつもりだ……そうだろう?」

 シグレットの顔が醜くゆがんだ。どうやら彼はフランツが考えていたような疑惑を持っていないらしい。ただ相手に相当な敵意を燃やしているらしかった。それならば下手に口を開くよりも、黙っていた方が賢いだろう。

 沈黙は金。商いの常識だ。

 フランツはだまり続けた。シグレットはなおも一人、勝手に思いこみを話し続ける。

「打算的な考えは捨てた方がいい。もう一人がいなくなったのなら、私はどうしても君を雇いたいんだ。きっともう一人はあの男の元へいくに違いないからな。あの金貨で人を転がすような、拝金主義者の元にな」

 そうか向こうはそういう男なのか。ならばきっとフランツの父親のような男なのだろう。こちらの男で良かったような,良くなかったような……。複雑な思いに小さくと息をつくと、またそれをシグレットは誤解する。

「逃げようなんて気は起こさないでくれ。逃がさんよ」

 後ろで今まで黙って聞いていたネットが、たまらず口を挟んだ。

「ネセットさん、うちのお客さんに失礼なことをいわないでくれ。お客さんがここに居たいって行ってんだから、それでいいじゃないか!」

 だがシグレットは、ネットを一瞥してからせせら笑った。

「お前の実入りが減るか、ネット」

「そういう問題じゃないでしょうが!」

 苛立ち半ばのネットを鼻で笑い、シグレットはフランツに向き合った。

「武器、防具、道具、衣食住すべてを保証しているんだ。ここにいる必要もないだろう?」

 これはもう何を言っても、聞く耳を持たないだろう。そもそもフランツは、いったいどう言い訳をして宿に止まるのか、全く思いつかない。そもそもフランツに交渉をしろということが問題なのだ。

 何も考えつかないフランツは、最後の賭に出た。

「信頼できないのか?」

 信頼なんて言う言葉が、自分の口から出てくるとは思わなかったが、リッツだったらこういって黙らせるだろうと、フランツは思ったのだ。だがたぶんそれはあのリッツの性格と話術、そして相手に与える威圧感だから成し遂げられた事だ。

 案の定シグレットは引き下がらず、逆にせせら笑われてしまった。

「信頼? 仕事をしてくれた後で信頼しよう」

 フランツは、絶望的な思いでその言葉を受け止めた。いよいよ持って進退窮まった。

「……返事はいかがかな? 君は依頼内容を聞いてしまったから、どちらにせよ逃がす気はないがね」

 これで勝敗は決したようなものだろう。青ざめて恐慌状態に陥りそうなネットに、フランツはため息を付いた。口が上手ければ何とかなったかもしれないが、普通の人間関係でも億劫なフランツには荷が重すぎた。

 大体において彼が本格的に人間と関わり合うようになったのは、つい最近のことなのだ。交渉術なんて身に付いているわけがない。

 前回の商人とのやりとりは確かにうまくいったが、リッツの綿密な計画によるものだった。彼自身に全ての判断がゆだねられたのは、今回が初めてだったのだ。

「分かった。少しだけ時間をくれ。準備する。ネットさん、手伝ってください」

 シグレットが見ている中、フランツは振り返りもせずに階段を上っていった。

 この宿の出入り口は二つある。本気で逃げるなら今だが、そうすると作戦が根本から崩れ去ってしまう。そうするわけにはいかない。振り向くと後ろをついてくるネットも、心なしか顔色が悪い。

 自分の泊まっている部屋に戻ったフランツは、大きくため息をついて、ネットを振り返った。

「駄目でした」

「いや、フランツ君は頑張った」

 ネットが慰めるようにそういってくれたが、フランツは大きくため息を付くしかない。

 全て投げ打ってベットに倒れ込み、寝てしまいたいが、それが許される状況に、もう彼はないのだ。

「ネットさん、アンナが帰ってきたら、よろしく伝えてください」

「フランツく~ん」

 こんな時にいないのだから、アンナには本当に困る。だから行くなといったのに。でも引き留めることが出来なかったのも彼だ。アンナを止められないフランツに、シグレットを言い含められるわけなど無い。これはもう経験値の違いと諦めてため息をつくしかない。

「ネットさん、僕も動けなくなりました。アンナにはこれからはそっちが頑張れ、と伝えてください」

 これは肝心な時にいないアンナに対する『僕が掴まったから、僕の分まで君が働け』という嫌みだ。

 アンナにいわなくては全く意味がないが、アンナに言ったところで、分かって貰えるとは思えない。

 のろのろとした動作で自分の分の荷物を片付け、ようやく全ての荷物を手にしたフランツは、何かを振り払うかのように頭を振ってネットを見た。

 ネットは困ったように固まって動けない。宿に一晩しか泊まらなかったフランツとリッツの心配を彼は本気でしているようだった。偶然にこの宿に泊まったばかりに、迷惑をかける羽目になってしまった。

「お手数かけます」

 彼にいえるのはそのくらいのことだけだった。

 心の中でリッツとアンナに、計画に穴があるという大きな怒りと、力不足ですまないという小さな申し訳なさを感じつつ、彼は窓の外を眺めた。

 ファルディナ駐留部隊舎が見える。ヘレボアにも申し訳ないことになるかもしれない。腰に差したレイピアを一撫ですると、フランツは自分を奮い立たせるように一つ深呼吸をした。

「後は、お願いします」

 戸惑ったように頷くネットを後ろに残し、フランツは振り向かずに階段を下りて行った。

 フランツにとって初めて、誰にも助け船を出して貰えないだろう厳しい戦いが、その幕を開けた。

 宿を出て、シグレットと従者に連れて行かれた屋敷は、少し高台にある想像通り豪邸で、一瞬フランツは懐かしさというか嫌悪感というか分からない、複雑な感情に襲われた。

 豪邸は微妙に実家に似ているのだ。その上、立場もファルディナの実家に連行された時と似ている。自由はなく、自らの意思も通らない。これではオルフェの元に行く前のフランツと状況は何も変わらない。

 敷地内ならば好きなところに言っていいと言われても、常に監視されているのだから、何もしようがなかった。

 結局フランツに与えられた唯一の自由は、一人きりになった部屋を歩き回り、苛立ちと自分自身への腹立たしさをかみ殺すことだけだった。

 彼のいる部屋は広く、装飾品は少ないが、一つ一つの家具にとてつもなく手が加えられている。彫り込まれた絵は、全てこの世界の神話に基づいたもので、美しかった。その上、その彫刻達には、埃などによる一点の曇りすらない。

 こんなところ一つを取ってみても、シグレットがとても細かく神経質な人間だと分かってしまう。

 ベットの天蓋に描かれた落ち着いた色合いの文様を見上げて、フランツはそのままベッドに倒れ込む。ベッドはふわりと柔らかくフランツを包みこんだ。

「はぁ……」

 ため息が出る。この部屋はサラディオでオルフェの元に転がり込む前のフランツの部屋と、同等のランクだ。ということは、この街でそれ相応の権力を、持っているという事になる。

 部屋だけ見れば、彼はとても優遇されているようだが、彼の部屋の前には監視がいる。シグレットいわく側仕えということだった。何か欲しいものがあったら、その男に言いつけろというのだが、要するにそれはフランツに部屋から出るな、というに他ならない。

「はぁ……」

 ため息が漏れた。引っ立てられるようにこの家に連れてこられたフランツは、あの嫌みなシグレットの目にジロジロと眺められつつ、先ほどまで不快な時間を過ごしていた。

「金はいくらでもやる。だがすべて成功報酬だ。もしかしたら君は先にやった金を持って、ルサーンのところに走るかもしれないからね」

 シグレットは恐ろしく疑り深い男だった。フランツも疑り深いといわれる方だが、彼に較べれば自分は何と素直なのだろうと、感動してしまいそうだ。

 だがそんな皮肉を考えている場合ではない。一応フランツは、この屋敷を出るべく最後の抵抗だけは試みた。宿の方が都合がいいのだと抗議を行ったのだが、結局ジレットは聞く耳を持たなかった。

 上手い交渉術を持たないフランツは、それだけで万策尽きてお手上げだった。

「必要な物は何でも揃えよう。遠慮なく言いたまえ」

 散々言葉を考えて、交渉に持ち込んだフランツだったが、シグレットの一言で話は終わりだった。それからすぐにフランツはこの部屋に、いわば軟禁されている状態だ。

 このままでは最悪の事態も考えられる。もしリッツと戦わされでもしたら、ただじゃすまない。

 あちらの雇い主と、こちらの雇い主、どちらも納得させて終わるには、どうしたらいいのだろうか。

 することもなく、考える時間だけがあったフランツは、ふとリッツと本気で戦って勝つ方法がないか考えている自分に気がついた。

 リッツは剣士、自分は精霊使いだ。そこに何らかの勝機は無いか。

 あるはずがない。あちらは歴戦の傭兵で、こちらは歩くのにやっとの駆け出し冒険者だ。

 でも、精霊使いとして考えを絞れば……。

「何を考えてるんだよ」

 馬鹿な考えを呟きで消してみたものの、何となく自分の思考上の遊びに興味が沸いてきた。

「どうせ暇だしな」

 フランツはベッドに寝転がって天井を眺めながら、暇に任せて戦術を突き詰め始めた。

 大体において、彼がこんな羽目に陥ったのは、リッツの計画のせいなのだ。せめて頭の中でだけ復讐、というか逆襲しててもいいじゃないか。

 秋上がり、自分の荷物から紙を引っ張り出した。色々な手段の中から、炎の精霊を使い、戦力増強を図る手段を幾つも書き付ける。


 だが、この時点ではまだ彼は、それを本当にリッツに対して使うことになるのだということにまだ気がついていない。運命の歯車は、とんでもないところで、とんでもない形で回り始めるのだ。

 でもまだその歯車は沈黙を守ったままである。

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