新たな生活
前回の予告とは何の関係もない第二章、始まります。
タルーブの町にあるギムデ寺院がレッコー達の受け容れを申し出、一行は町の北にある寺院で暮らし始めた。寺院の敷地は広く、あまり使われていない建物もあったため、全員でひとつの建物に入ることができたが、食事は僧侶達と共にした。寺院の僧侶には男性もいれば女性もおり、カレド村の人々のことを何かと気にかけてくれた。
そして、三ヶ月ほどの時が経った。
「レッコー、どこへ行くの?」
寺院の正門の方へ歩いていくレッコーに、アイナが声をかけた。
「助法官のおつかいだよ。町長に手紙を届けてくれってさ」
助法官とはこの寺院の長、ゲーンのことである。
レッコーは、何でも良いから仕事をしたがった。そして僧侶達は、そんな彼に度々仕事を与えた。
「そう、それじゃ、わたしも行くわ」
そしてアイナは、何かというとレッコーと一緒にいようとした。
「司祭、おれももう小さくないんだ。一人で行けるよ」
「なによ、わたしより背が小さいくせに。それに、ずっと寺院の中にいるのもなんだから、たまには外に出ようと思っただけよ」
「ふうん……そういえば司祭、ちょっと太ったかもね」
「こら!」
アイナは片手を振り上げて、レッコーを追いかけるような素振りをした。しかし、レッコーが逃げようとしないので、ちょっと悲しげな顔をして、手を下ろした。
二人は並んで歩きだした。
「よう、司祭にレッコー、どこへ行くんだ?」
広い庭の掃除をしていた二人の男性僧侶の一方が、声をかけてきた。
「助法官のおつかいですよ」
レッコーが答え、さらに二言三言話してから、レッコーとアイナは歩き去った。
「カレド村の人達が来て、三ヶ月か」
僧侶達が、二人で話を続ける。
「ああ。みんな、少しは元気になってきたようだな」
「しかし、ウェインの奴はひどく塞いだままだし、カルエレ師も無理をしておられるように見える」
「カルエレ師とアイナ司祭のおかげで、飯が格段にうまくなったから、おれはむしろ喜んでるけどな……」
「お前……」
「いや、もちろん気の毒ではあるんだが、悪いことばかり考えててもしょうがないって話さ」
「……まあ、それはそうかもな。しかし、ウェインとカルエレ師ばかりじゃない。レッコーもな……」
「レッコーか」
「みんなに気を使わせたくないと思ってるのか、平然と振舞ってるが、あれはあまり良くないよ。泣かない、怒らない、大声で笑いもしない」
「まあ、苦しいんだろうさ。その上、みんなと同じように苦しむ資格など自分にはないと思ってるから、感情を押さえつけるしかない。だが……」
「うん?」
「だが、村の仲間を死なせた、罪は罪だ。それは苦しみで償われなければならないんだろう」
「それはそうだろうが……ずいぶん、厳しいことを言う」
「まずは罪と向き合うことだ。その点、あいつは逃げてない、それは立派だよ。その上でなら、我々は償いの手助けもできる。……ところで、話は変わるが」
「うん」
「アイナ司祭とエーデでは、お前、どっちが良いと思う?」
「お前なあ……」
「良いから、ほら、言ってみろって」
「……そういうことなら、おれはセリアちゃんだな」
「え……お前、それは……えええ!?」
「冗談だよ」
その時、二人の後ろで小さく悲鳴のような声がした。二人はびくっとして振り返る。
「エーデ!?」
エーデが、青い顔をして立っていた。
「だって、セリアは、まだ五歳……」
言いながら、エーデは逃げ出すような素振りをする。
「待って、聴いて、今のは冗談……!」
アイドル三人組。