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ほら吹き少年と司祭  作者: 山風勇太
第四章 最後の嘘
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本心

 いよいよ体力の尽きたタウロンと別れ、レッコーは二人の兵士と共に西へ向かった。タウロンと負傷したブラドロ、エーギム、そしてエーデとカドルは、集会場を目指した。

 タウロン達がたどり着いた時、集会場の前にはマコスとメイザが立っていた。そして、二人が撃ち落とした空飛ぶ魔物、ダーズルの死体がそこここに転がっていた。

「体力の乏しいダーズルだけで強襲とは、強引な真似をする」

「まあ、けっこう危なかったですけどね」

 マコスとメイザが、それぞれに言った。二人が無傷であったことには、全員が驚いた。

 そこへ、青い顔をしたミカラが、集会場からふらふらと出てきた。

「もう、駄目かと思いましたよ……」

 ミカラは、左手に剣を握ったままだった。

 一方、レッコー達三人がロッセ中隊長のもとへたどり着いた時、魔族はすでに撤退を始めていた。



 ブラドロは他の負傷者達と共に、集会場の中で横になっていた。そこへ、レッコーとタウロンがやってきた。

「ブラドロ」

 声をかけながら、レッコーは友人の左腕に目をやった。肘から先が、なくなっていた。

「ファルゴ様のことだけど」

「うん」

「ひどい怪我だけど、命に別状はないようだよ。今は寺院で休んでる」

「そうか、良かった……」

 そこへ、カルエレがやってきた。

「どうだい、加減は」

「おかげさまで、大丈夫そうです」

 ブラドロが答える。

「外の魔法陣、使わずに済んだようですね」

 タウロンが、カルエレに言った。何のために用意してあったものかは、すでにマコス達から聞いている。カルエレの覚悟についても。

「ご無事で何よりでした」

 レッコーが言った。

「ええ、本当に。あんなものを用意したけど、わたしも、死にたかったわけじゃないからね」

「同感ですね」

 カルエレの言葉に、ブラドロが応じる。

「ぼくも、死なずに済んで良かったですよ。あの時、カドルが治癒術をかけてくれなかったら、危なかった」

「教えたかいがあったというものだな、わたしとしても」とタウロン。「そういえば、そのカドル君は?」

「治癒術の腕が良いっていうんで、引っ張りだこですよ」レッコーが答える。「エーデも、それを手伝っているようです」

「そうか。わたしも手伝いたいところだが、さすがにもう何もできん。まあ、弟子に任せておこう」

 そう言いながら、タウロンは椅子から立ち上がり、改めてブラドロの顔を見た。

「君も、ゆっくり休みなさい」

「あれ、いつもはサボるなって怒られてるのに。たまには怪我をするのも、悪くないですね」

「何を馬鹿なことを……」

 タウロンが苦笑しながら言っている間に、ブラドロは眠り込んでしまっていた。

(アリーシャさんが亡くなったこと、いつ伝えようか)

 友人の寝顔を見ながら、レッコーは思った。

(落ち込むだろうな)



「アイナ、わたしのお尻、叩いてみてくれない?」

 集会場の片隅で、沈鬱な表情のヘレが、アイナに言った。

「そしたら、元気が出るかも……」

 アイナは黙ったまま、ヘレの顔をじっと見ていたが、ややあってから平手でひとつ、友人の尻を叩いた。

「もうちょっと強く」

 ヘレが言った。アイナはもう一発、叩いてやった。

 乾いた音が響く。

「違うの、もっとこう――」

「無理よ」とアイナ。「誰も、死んだ人の代わりにはなれないわ」

 途端、ヘレが泣きそうな顔になる。

「どうして、そんなこと言うの……?」

「ほら、お尻叩けなんて言う元気があるなら、心配してくれてる人達に顔を見せてらっしゃい」

 アイナはそう言って、ヘレを外へ追いやるように、もうひとつ尻を叩いた。

(ごめんね。あなたと一緒に泣いてあげる前に、確かめなきゃいけないことがあるの)

 アイナは思った。

(ひどいわがまま……)



 レッコーとタウロンが集会場の前の広場へ出てくると、そこでは盛大な宴会が催されていた。

「みんな元気ですね」

「まったくな」

 レッコーの言葉に、タウロンが頷く。

 そこへ、マコスとメイザがやってきた。

「やあ、タウロン師にレッコー君」

 マコスが声をかけてくる。

「もう町の周囲に敵はいないようだ。安心して、飲み食いすると良い。できればおれも、加わりたいところだが……」

「駄目です」

 メイザがぴしゃりと言った。

「普段怠けているんですから、こんな時くらい働いてもらいます。それに、ただでさえ――」

 ふと、メイザが言いよどむ。

「そうだな。アリーシャの代わりは、なかなかきくものじゃない。せめて、おれ達がしっかりしていなければな」

 そこまで言って、マコスは、ヘレが歩いてくるのに気が付いた。

「ヘレ、ちょっと来てくれ!」

 そう呼びかけてから、レッコーとタウロンの方へ顔を戻す。

「ところで、アリーシャのことで、あなた方に話しておきたいことがあるんだ」

「何でしょう」

 タウロンが答える。

 そうこうしている内に、ヘレもやってきた。

「以前タウロン師に、『監視しているのか』と訊かれたことがあったが」とマコス。「ヘレからあなた方のことについて報告を受けて、おれはアリーシャを差し向けた。探りを入れるためにな」

 マコスの言葉を聴いても、タウロンは表情ひとつ変えなかった。レッコーも、さほど驚いた様子ではない。

 最も驚いていたのは、ヘレだった。

 いつかタウロンがヘレのことを「素直な人」と言ったのを、レッコーはふと思い出した。

「ヘレの発言に対する謝罪という名目で行かせたが、このことはヘレも知らなかったんだ。だから、彼女は責めないでやってほしい」

「ええ、それはもちろん」とタウロン。

「そうか。さて、アリーシャはあなた方について、『不審な様子はなし』という報告をよこした。おれも、再度の調査は命じなかった。ところが、知っての通り、あれはその後も度々あなた方を訪ねた」

「はい」とレッコー。

「それがなぜだったのかは、おれにも分からん。あれも、本心を表に出さない奴だったからな。ただ、あなた方のことを気に入っていたのは、間違いないと思うんだが」

「……なぜ、そんなことを教えてくださるのです?」

 タウロンが訊いた。

「いや、あなた方に変に疑われたままでは、アリーシャも面白くなかろうと思ってな」

 マコスはそう答えると、「君はもうしばらく休んでいろ」とヘレに言って、メイザと共に立ち去った。



「結局アリーシャさんは、何のために我々のところへ通っていたんだろうな」

 タウロンが、誰にともなく言った。

「多分……」

 少し間を置いてから、レッコーが口を開いた。

「おれと司祭、それにブラドロや子ども達の苦しみを見抜いて、寄り添っていてくれたんだと思います。……そう、信じたいと思います」

「わたしも、そう信じる」

 ヘレが言った。心なし、表情が穏やかになっているようだった。

「アリーシャ、お節介だったし。わたしのことも、いつも気にしてくれてた」

「そうだな。そういう人だった」

 タウロンも頷いた。

「わたしもそう信じることにしよう」




 アリーシャはわたしにとって、一番お気に入りの登場人物です。

 皆様にも、お気に入りの登場人物がいますでしょうか。誰かひとりでも好きになってくださっていたら、とても嬉しいです。


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