表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ほら吹き少年と司祭  作者: 山風勇太
第四章 最後の嘘
31/36

決戦

 ブラドロは二人の男性兵士と共に、単身で戦線を突破して町に入り込んだオーバを追っていた。

 角が片方欠けていた。以前レッコーが話していた、大魔族に違いない。

「どこ行きやがった!」

「ブラドロさん、探査術で追えないか?」

 二人の兵士が、次々に言う。

「この辺りで、〈魔力攪乱〉の術を使ったようです」

 ブラドロが答える。

「ごく狭い範囲しか探れないんです。面倒な真似を……」

「そうか。奴の狙いは、おそらくこちらの指揮所だろう。集会場へ行くか」

「しかしそれでは、かえって敵を案内することになりかねん。奴は、すでに集会場の位置を把握しているのだろうか」

「こちらの伝令の動きを探って、おおよその見当は付いているかもしれません。近くまで行かれれば、人の気配で見付かってしまいます」

 ブラドロがそう言った時だった。

「ブラドロさん!」

 少女の声と共に、二人の小柄な人間が走ってきた。

「エーデにカドル!」

「あっちで、タウロン様とレッコー兄さんが、オーバと戦ってます!」

 カドルが急き込んで言う。

「角の一本欠けた?」

 兵士の一方が訊くと、エーデとカドルが激しく頷いた。

「ぼく達もそいつを追っているんだ。案内してくれ」

 ブラドロに言われて、エーデとカドルは再び駆けだした。

 それに続きながら、しかしブラドロの頭には、ひとつの不安がよぎっていた。

(まだ、そこにいてくれれば良いけど……)



(西側が全滅したわけじゃない。もしそうなら、もっとたくさん敵が来るはずだ。単独突破して、指揮官を討つつもりなんだ)

 レッコーが隠蔽術の呪文を唱えつつ、そんなことを考えながら細い路地を進んでいると、先ほどまでいた辺りからタウロンの怒鳴り声が聞こえてきた。

「魔族の首領に訊きたい! なぜ、この町を襲うのか!」

 すると、いくらか間を置いてから、答えが返ってきた。

「冬を越すために、食料が必要だからだ」

 魔族が人間と同じ言葉を話すということは、レッコーも知識として知っていた。しかし、実際に耳にすると、ありえないものを聞いてしまったという感じがした。

「なぜ人間を襲うのか」

 タウロンが、なおも問う。

「我ら魔族は、貴様ら人間によって、実り多き地を追われ、実り少なき地へ追いやられた。かてを得るには、人間に挑む他ない」

 大魔族の低い声が答える。先ほどよりも、タウロンに近付いているらしい。

「ここ数年というもの、各地で魔族の動きが活発化している。そのこととは関係ないのか」

「我ら魔族は、貴様ら人間によって、交通を遮断されている。他の地のことは知らぬ」

 こうも言葉が通じるのに、なぜ争っているのだろう。レッコーは、ふと思った。

 それに答えるかのように、タウロンがさらに叫んだ。

「お前達のこの町を襲う理由、全くもって道理だ。しかし、我々は我々で、生き延びねばならない!」

「無論、それは承知している」

 そう答えた片角のオーバの左後方で、レッコーは息をひそめながら敵の背中を睨み、機会を窺った。



 大魔族の声を頼りに、敵の右手やや後方に出たブラドロは、エーデとカドルにささやいた。

「良いか、何があっても、お前達は手を出すなよ」

 そして、オーバに向かって右腕を伸ばした。口からゆっくり息を吐き出し、鼻から大きく吸い込む。

 呪文を唱える。

 ブラドロが放った魔力弾の威圧感に、二人の兵士は少なからずひるんだ。

 オーバはブラドロの方へ振り向き、右腕を上げると、素早く呪文を唱えた。空中に魔力障壁が展開し、魔力弾を受け止める。だが、威力が予想以上だったのか、体がわずかにのけぞった。しかし、体勢を崩したまま、さらに別の呪文を唱えた。

 自分に向けられたオーバの右手が光るのを、ブラドロは見た。

(しまった!)

 ブラドロは両腕で頭をかばった。



 タウロンが通りの真ん中に立って大魔族と向き合った時、オーバの右手の方から一発の魔力弾が飛んできた。

(あの鋭さ――ゲーン師?)

 オーバは魔力障壁でそれを防いだが、やや体勢を崩した。しかし、すぐに一発撃ち返す。

 するとそちらから、さらに二発、魔力弾が飛んできた。これも、魔力障壁で弾く。

 そこへ、反対の方から、短剣が一本飛んでくる。しかしオーバは、素早く体を捻りながら左手の大剣を振り上げ、それを弾き返した。

 と、今度はオーバの左後方から、石つぶてが襲った。さすがによけきれず、頭に直撃する。

 その瞬間、右手から二人の兵士が、短剣の飛んできた方からエーギムが、石が飛んできた所からレッコーが飛び出し、オーバに殺到した。

「羊番をなめるな!」

 レッコーが叫んだ。

 オーバは四人の敵を薙ぎ払うように、大剣を大きく横薙ぎに振った。体の大きさのために予想よりリーチが長く、レッコーはとっさに跳びのく。兵士の一方が剣でその攻撃を受けたが、剣は折れ、兵士は吹っ飛ばされた。

 その時、オーバの眼前に、タウロンが五人になって現れた。五人のタウロンは横一列に並び、左手を突き出しながら走ってくる。オーバは、五人になったタウロンを薙ぎ払うように、大剣を振るう。

 しかし、剣が触れたと見えた瞬間、タウロンの姿は跡形もなく消えた。

 大振りの攻撃で隙ができたところへ、レッコーは体をぶつけるように突進し、大魔族の腹に剣を突き刺した。

 ほぼ同時に、オーバの背後へ、突然タウロンが現れた。タウロンは素早く呪文を唱え、光をまとった杖の先端を、オーバの首筋に打ち下ろした。

 大魔族の首が飛んだ。



 レッコー、タウロン、エーギムと二人の兵士は、地面にへたり込んだ。

「今のは……幻術ですか」

 息を切らしながら、レッコーが訊いた。

「そうだ。便利なものだよ、色々と」

 タウロンが答える。

「さすが先生だ」とエーギム。「敵と話したこともな。大声で話しかけて時間を稼ぎつつ、味方を呼び寄せるとは」

「エーギムさんが近くにいるかもしれないと思いましてね。まさか、こんなにぞろぞろ出てきてくれるとは、予想外でしたが」

 タウロンの言葉に、二人の兵士が苦笑する。

「ところで、レッコー君」とタウロン。

「はい」

「さっき、なぜ怒鳴った?」

「いや……なんとなく、とっさに出てしまって」

「剣で仕掛けるつもりでも、余計なことは口にしないことだ。魔法を使う気がないのがばれる」

「……」

 戦術の講義を始めようとするタウロンに絶句していると、脇道から少女が飛び出してきた。

「レッコー!」

「エーデ?」

 抱き着いてきたエーデを、レッコーは座ったまま受け止めた。

「何考えてんのよ、あんなのと戦って!」

 エーデはそう叫ぶと、レッコーの胸に顔をうずめた。

 タウロンは何か言いたそうな顔をしたが、エーギムが「余計なこと言うもんじゃない」と目で合図したので、黙っていた。

(危ない危ない、また、余計なことを言うところだった)

 タウロンは思った。

(誰かがやらねばならなかった……理屈としてはそうだ。しかし、理屈以上のものが、人にはあるものな。わたしにもようやく、それが分かってきた)

 しばらくの間、エーデはレッコーにしがみついたまま、すすり泣いていた。

 しかし、ふと顔を上げると、レッコーの顔をじっと見て言った。

「ところで、何よ、『羊番をなめるな』って」

「……」




片角「あたし達って、しゃべれたの!? 聞いてないわよ!」

カドル「まあ、確かにね」

エーデ「ていうか、あんた、雌だったんだ……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ