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ほら吹き少年と司祭  作者: 山風勇太
第四章 最後の嘘
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片角の大魔族

 レッコー達が東の門で戦っていた頃、集会場にヘレを送り届けたエーギムは、負傷した兵士の円盾を借り、東の門を目指していた。

 そこへ、道の向こうから、魔物が五頭やってきた。緑の魔物、ギマランが三頭、ギマランより一回り大きいオーバが二頭である。

 さらにその後ろから、人間が三人走ってくる。

(強引に突破した奴を、追いかけてきたのか)

 エーギムは右手で腰の剣を抜いた。

 オーバの一方が呪文を唱え、エーギムに魔力弾を撃ってきた。エーギムは踏み込みながらそれを盾で弾き、先頭を走っていたギマランの一頭に斬りつけた。そして、素早く跳びのく。

 槍を持ったオーバが、エーギムを追い、槍を突き込んでくる。エーギムはそれを剣で払って、盾をぶつけるように体当たりをした。相手の意外な動きに反応できず、オーバは後ろへよろめき、ギマランの一頭とぶつかった。

 魔物達の動きが鈍ったところへ、追いかけてきた三人の人間が突っ込み、乱戦となった。

 と、ギマランの一頭が、隙を見てエーギムの脇をすり抜けた。エーギムはとっさに剣を地面に突き刺すと、短剣を抜いて投げつけた。短剣が背中に刺さり、ギマランがよろめく。

「あいつはぼくが!」

 三人組のひとりがそういって、手負いのギマランの方へ駆けだした。

(妙な動き方をする)

 エーギムは考えながら、剣を引き抜き、持ち直した。

(集会場を目指している……? 目的は指揮官の排除、ないし一時的な指揮の攪乱かくらんか)

 エーギムはオーバと向き合い、隙を窺った。同時に、他の敵や味方の位置関係を素早く確認する。

「ここを通すわけにはいかん!」



 レッコー達三人は、町の北寄りを東西に延びる通りを、西へ進んだ。そして、ギムデ寺院の近くまでやってきた。

 遠くから、戦いの音が聞こえてくる。

「突破はされていないようだな」

 辺りをさっと見回してから、タウロンが言う。

「気にはなるが、騎兵隊も来ているはずだし、ここは素通りして西へ行くか」

「タウロン師、今気付いたんですが」

 ふと、レッコーが口を開く。

「奴をまだ見かけていません。〈片角かたづののオーバ〉を」

「君達が去年見たという、大魔族か」

 タウロンの言葉に、レッコーが頷く。

 一年前、レッコーとアイナがマコス達と共にカレド村の滅亡を見届けた時、村には魔族のリーダーと思しき、一頭の大きなオーバがいた。目の良いレッコーは、その白い魔物の羊のような角が、片方欠けているのを確認していた。

 後にそれをマコス達に話したことから、その大魔族は〈片角のオーバ〉と呼ばれるようになっていた。

「できればお目にかかりたくないですね」

 東の門で借りた弓を持ち、矢筒を背負ったミカラが言った。

「おそらく、後方で指揮を執っているのだろう。大魔族は普通の魔物と比べて、知能が格段に優れているというからな――」

「何か来ます!」

 レッコーが前方に目を凝らしながら、鋭く言った。タウロンとミカラも、通りの向こうを見据える。

 白い影が、右腕を持ち上げたように見えた。

「いかん、隠れろ!」

 タウロンが叫ぶとほぼ同時に、一発の魔力弾がミカラの右腕に当たった。

 ミカラは顔をしかめながらも、取り落とした弓を左手で拾おうとする。

「構うな!」

 言いながら、タウロンはミカラの左腕を掴んで横道へ引きずり込んだ。

 その瞬間、二発目の弾によって、弓が真っ二つに折れた。

「なんて精度だ……」

 レッコーが呻いた。



 ゲーン助法官は、寺院の建物のひとつに登り、寺院に侵入してくる魔物を狙い撃ちしていた。一時は寺院の外縁で激しい攻防戦が繰り広げられたが、先ほどイースからの援軍の騎馬部隊が現れたことで、敵の勢いは弱まっていた。

 そこでゲーンは、周辺の状況を確かめるため、探査術の呪文を唱えた。

(町のがわに、何かいる……?)

 ゲーンは建物の南側へ行き、窓から外の通りを睨んだ。

(あれはタウロン殿達と……レッコーが言っていた大魔族か!)

 ゲーンは敵を認めると、右腕を伸ばして呪文を唱えた。通常の魔力弾を遥かに上回る速さで、光の塊が片角の大魔族を襲う。

 しかしオーバが素早くゲーンの方へ右腕を向け、何か呪文を唱えると、ゲーンの撃った弾は空中で弾けて消えた。

 間髪入れずに、オーバの右手が光るのを、ゲーンは見た。

「なんと!」

 ゲーンはそう言いながらのけ反り、床に尻餅をついた。ほぼ同時に、先ほどまでゲーンの胸があった辺りを魔力弾が通過し、後ろの壁に穴を開けた。

「わしの弾を防いだ上に、早撃ちでこの精度……しかし、援護くらいは――」

「助法官!」

 突然、ひとりの女性僧侶が部屋へ駆け込んできた。

「北西から、ダーズルの群れが突っ込んできました! ファルゴさんがやられました!」

「何、ファルゴが――分かった、すぐに行く」

 ゲーンは窓から姿をさらさないように注意しつつ、部屋の入口へ向かった。

(なぜこんなタイミングで……統制が取れていない? いや、ひょっとすると、あの大魔族から目を逸らさせるために……)



「何よ、あれ……」

 脇道から顔を出し、こちらに背を向けているオーバを見つめながら、エーデが言った。魔物の頭を良く見ると、角の一方が欠けていた。

「あれ、ひょっとして、レッコーが言ってた大魔族?」

「そうみたいだね」

 カドルが答える。

「で、その向こうにいるのは――」

「あれ、レッコーとタウロン様じゃない!」

 悲鳴のような声を上げて飛び出そうとしたエーデを、カドルが引き止めた。

「ぼくらが出てっても、何にもならないよ!」

「そりゃそうだけど――」

「助けを呼んでくるんだ。ここから寺院へ回り込むのは無理だから、西へ行こう」

 緊張を顔に浮かべながらも、カドルは冷静に言い、通りに背を向けた。

「な、なによ、意外と頼りになるじゃない……」

 エーデはそう言いながら、カドルの後を追って駆け出した。



 レッコーとタウロンはオーバの行く手を阻むように立ち、かつてヘレを相手にやったように、魔力を相手に叩きつけていた。オーバは右腕を上げて同じことをしながら、少しずつ迫ってくる。左手には、幅広の大剣を持っていた。

 レッコーとタウロンの表情が、徐々に険しくなっていく。

 タウロンが手振りで合図し、二人は再び横道に飛び込んだ。

「ここは退くぞ」

 そう言って駆け出したタウロンに、レッコーとミカラが続く。

「大魔族に押し合いで勝てるとは思っていなかったが、予想以上の力だ。魔法の撃ち合いでは勝てん」

 数回道を曲がって、やや歩調を緩めてから、タウロンが言った。

「なら剣ですね」

 ミカラが、左手を剣の柄にかけながら言った。右腕は骨が折れていた。籠手こてを付けていなければ、腕が吹き飛んでいただろう。

「左手でもやれます」

「いや、それよりメイザさんを呼んできてくれ。あの人がいれば対抗できる」

「……分かりました」

 ミカラは頷き、駆け出した。

「素直ですね」

 レッコーが言う。

「左手ではやれないと、分かっているのさ。おどけているが、頭は良いからな」

「なるほど。それはそうと、片角は、なぜ一気に距離を詰めてこないんでしょう」

「やはり、剣を警戒しているのだろう。三対一でもあるしな」

「すると、細い路地の多いこの辺りの方が、集会場まで逃げるよりこちらに有利ですね」

 冷静な顔のレッコーに目をやって、タウロンはちょっと笑った。

「そんなことを言って、司祭のいる所へあいつを連れていきたくないのだろう」

「……」

「愛する人のために、ここはちょっとやってみるか。わたしが奴の注意を引く、回り込め」

「はい!」




 主要登場人物を総合的な戦闘能力の高い順に並べると、おおよそ次のようになります。


タウロン > メイザ > ヘレ > マコス > アリーシャ > ブラドロ > エーギム > ファルゴ > ゲーン > レッコー > ミカラ


 ただし、戦闘時の役割や相性といった問題もあるので、実際はかなり複雑です。



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