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ほら吹き少年と司祭  作者: 山風勇太
第四章 最後の嘘
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遊撃隊

「我々は遊撃隊として各所を回り、苦戦している味方の援護を行う」

 そう言いながら通りを行くタウロンに、レッコーと、合流したばかりの剣術道場の二人組が続く。中年の男と若い女で、タウロンの護衛に任じられたということだった。

「なるほどな」

 中年の男、エーギムが、何かに納得したように頷く。

「タウロン先生に、組織的行動が取れるとは思えませんからね」

「……」

 アイナと同年代と見える女、ミカラが応じると、タウロンが憮然とした顔になる。

 四人の脇を、次々と人がすれ違っていく。集会場へ向かっているのだろう。

「でも、先生が強すぎて、あたし達はやることないかもしれませんね」

 そう言ったミカラをちらりと振り返ってから、タウロンが再び口を開いた。

「戦闘における、剣の魔法に対する優位性は、速さだ。魔法は、条件式発動を除いて、呪文を唱えなければ発動できない。敵に急激に距離を詰められた際の迎撃には、魔法より武器の方がずっと有効なのだ。したがって集団戦闘の際、魔術師は通常、武器を使う護衛を伴う」

「なるほど、じゃあ、あたし達もちゃんと役に立つってことですね」

「……といったことは、この前話したはずなのだがな。今度、補講をしようか」

「ええー!?」

 ミカラが、おおげさに声を上げて見せる。

「それにしても先生は」とエーギム。「どうしてそんなに、戦術に明るいんだ?」

「まあ、旅の神官というのも、なかなか大変だということです」

「ふうん……まあ、それはともかく、その補講にはおれも出席させてもらおう」

 エーギムはそう言いながら、レッコーとミカラの肩を叩いた。

「そのためにも、生き残らなければな」



 カルエレはアイナを伴って、大きな集会場の周囲に、杖を使って何かをえがいていた。杖で地面をなでるようにすると、その軌跡に光が走り、それからゆっくり消えていく。

「後はあの角に魔法陣をいて……それから、建物の中に引っ張っていかなくちゃね」

「カルエレ様、こんな強力な術式、わたし達ではいくらも維持できません。〈二重障壁〉だなんて……」

「でもね、アイナ」

 不安げな顔のアイナを、カルエレが振り向く。

「〈魔力障壁〉だけじゃ、攻撃魔法は防げても、魔物に通過されてしまう。〈対物障壁〉だけじゃ、攻撃魔法ですぐ破られる。反撃する力がない以上、〈二重障壁〉じゃないと意味がないんだよ」

「でも、わたし達では、すぐ体力が尽きてしまいます。タウロン様かヘレ、あるいはブラドロさんがいてくれれば別ですが……」

 アイナが名を挙げた三人は、魔法力の高さから言っても戦技の面から言っても主力中の主力であり、それぞれ重要な役割を担って前線に赴いている。

 集会場には、全体の指揮を執るためにマコスとメイザが残っていた。カルエレが〈障壁術〉を準備しているのも、マコス達と相談した上でのことである。

 しかし、いざとなった時マコスとメイザが〈障壁術〉の維持に当たるか、それとも戦うかは、マコス達も判断しかねているらしかった。カルエレが使おうとしている、〈魔力障壁〉と〈対物障壁〉を合わせた〈二重障壁〉は、体力の消耗が激しく、最後の守護者である二人をあっという間に潰してしまいかねない。

「だから、なるべく整った魔法陣を張っておく。魔力の効率が上がるようにね。後は……」

 言いよどんだカルエレの顔を、アイナが見つめる。

「わたしは歳を取ってる分、精神力なら自信がある。死ぬその時まで、術を維持してみせるさ。その後はあなたが、ちょっとだけがんばっておくれ。そうしたら、きっとレッコーが助けてくれるさ。あの日のようにね」

「カルエレ様、やめてください、死ぬだなんて……」

「わたしは村のみんなを守れなかった。せめて、今ここにいる人達は守りたい。それがわたしの償い……」

 カルエレは話すのをやめて、魔法陣の作成に戻った。しかし、ややあって、またアイナに話しかけた。

「いや、今のは間違いだ。あれが守れなかったからこれを守る、というのは、良くない考え方だね。過去にしてしまったことと、今なすべきことは、分けて考えた方が良い。タウロンさんとレッコーの話では、わたしに罪はないらしい。それでも、わたしはこうしたいんだ」

 カルエレが語るのを、アイナは黙って聴いていた。

「そうだ、このことを、レッコーにも話してやれば良かった。あの子が戻ったら、あなたから伝えておくれ」

 泣きそうな顔で、アイナが頷く。

 その時である。

「カルエレ様……」

 そう言いながら、カルエレの手を握った者があった。セリアだった。

 エーデや他の子ども達も、周囲に集まって、心配そうにカルエレのことを見ていた。

 老いた司祭は、セリアの頭を優しくなでた。

「みんな、良い子だね……」



 タウロン達が町の西の外れにやってきた時、そこではすでに戦闘が始まっていた。町に迫ってくる魔物達と、建物の陰に隠れている兵士達の間で、矢や魔力の弾丸が飛び交う。そこへ、町の人間が次々と加わっていく。

「ロッセ中隊長」

 タウロンが、槍を握った三十過ぎと見える女性兵士に声をかけた。五個小隊からなるロッセ中隊の隊長、ロッセ青士せいしである。

「やあ、タウロン師、来てくれたか」

「どんな具合です?」

「敵も、今来たばかりだ。大分急いで来たようで、少し息切れしているように見えるな」

 そう言いつつ、ロッセは部下のひとりを手振りで呼ぶ。

「マコス緑士りょくしに伝令――西地区、交戦開始。敵は約五十」

「了解」

「急げよ」

「は」

「まず西を攻め、我々が慌てて東から逃げ出すのを、その先で待ち伏せる……」

 ロッセが再び、タウロンの方を向く。

「メイザの読み通りだとして、敵はこちらと東側、どちらにより数を出すだろう」

「ここが何とかなったら、東へ行ってみます」

「頼みます」

「ホルムが突っ込んでくるぞ!」

 前方で怒鳴り声がした。見ると、岩のようにごつごつした巨大な体躯の魔物が数頭、魔物の群れから突出してきていた。防具の類は付けていないが、その硬い皮膚が矢を跳ね返し、魔力弾も効いているようには見えない。

「ここで強引にねじ込んでくる?」冷静な様子のまま、ロッセが言った。「そうか、奇襲をかけているつもりだからか」

「ホルムは街路まで引き込み、我々で倒します」

「お願いしよう」

 タウロンの言葉に、ロッセが頷く。

「ホルムはタウロン師達に任せろ! 他を近付けるな!」ロッセの副官が怒鳴る。「空にも気を配れよ!」

「みんな、剣を抜け」

 タウロンがレッコー達に言った。

 三人の剣に、魔力刃の呪文をかける。剣の刃が白い光に包まれた。

「これである程度通用する。自分で触らないようにな。ホルムの弱点は膝の裏、倒れたら首を狙え」

「本当に何でも知ってるな」とエーギム。

「一頭目はわたしがやる。そうしたら出ろ。術が切れたら、無理せず戻ってくるんだ」

「分かりました」とレッコー。

「ブラドロ君、手伝え!」

 そう怒鳴りながら、タウロンは弓を構えた兵士のそばに歩み寄る。

「先頭のホルムの胸を狙って」

 言って、矢じりに魔力刃をまとわせる。そうしている間にも、ホルムは建物の間を迫ってくる。

 タウロンの合図で、兵士が矢を放った。先頭を進んでいたホルムの胸に、矢が深々と突き刺さる。

「今!」

 タウロンが鋭く言い、レッコー、エーギム、ミカラが駆け出した。ブラドロが、レッコーの隣に並ぶ。

「膝の裏、それから首」

「分かった」

 レッコーの言葉に、ブラドロが答える。

 倒れた一頭目をよけて、二頭のホルムが迫ってきた。右の一頭にエーギムとミカラが、左にレッコーとブラドロが駆け寄る。

 ブラドロが両手を上げ、両方のホルムの顔面に、わずかの時間差で魔力弾を撃ち込んだ。ひるんでいる隙に、レッコーとブラドロは左のホルムの後ろへ回り込む。そして、レッコーは剣を、ブラドロは光を放つ右手を、巨大な魔物の膝に突き込んだ。ホルムが倒れ込む。レッコーは素早く頭の方へ駆け寄り、首筋に剣を突き刺した。

 さっと顔を向けると、エーギムとミカラもちょうど同じようなことをやっていた。

(レッコー君とブラドロ君、さすがに息が合っているな)

 二本目の矢に呪文をかけながら、タウロンは思った。

(毎日鍛えたかいがあったか。もっとも、こんなに早く役に立つとは思わなかったが)

 いつか役立つことがあるだろう、とは考えていた。人間と魔族の争いに、終わりがあるとは思えない。

 視線の先の二人は、次の敵に向かって駆け出していた。




タウロン「行くぞ、風神遊撃隊!」

ミカラ「え、そういう名前なの?」

エーギム「先生……」



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