表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ほら吹き少年と司祭  作者: 山風勇太
第三章 信頼するということ
25/36

答えは自分の中に

セリア「『ほら吹き少年と間抜け司祭とインチキ神官と無気力修行僧と無表情女魔術師とタダ食いお姉さん』」

タウロン「勘弁してくれ」

アイナ「そうよ、わたしの重要度が薄まっちゃってるじゃない」

カドル「そういう問題?」

アイナ「というわけで、『美人司祭☆と愉快な仲間達』で万事解決ね♡」

レッコー「え、おれは……?」



 翌日、ファルゴがタウロンの滞在している宿屋を訪ねた。

 二人で、一階の食堂の隅に腰掛ける。

「すまないね、朝から」

「いえ。それで、ご用件は?」

「いやなに、タウロン殿にちょっと、お訊きしたいことがあってな」

「何でしょう」

 言いながら、タウロンはふたつのコップに水を注ぎ、片方をファルゴの前へ置いた。

「ありがとう――いや、昨日の問答についてなんだが、レッコーの話を聴く際のタウロン殿の様子が、ブラドロの話の時と違っていたように思ったのでね」

「と、おっしゃいますと」

「つまり、ブラドロの時は、ブラドロが何かひとつ話す度に、見解を述べておられた。それが昨日は、レッコーが話している間はあいの手を入れて先を促すだけで、レッコーが話し終わってから、さらにはアイナ司祭やエーデ、カルエレ師が意見を述べてから、初めてご自身の見解を述べられた。少なくとも、わたしにはそのように見えた――わたしも立場上、若い者達の話を聴く機会が多いのでね。その辺の秘密をご教授願えれば、勉強になるなと思ったんだ」

「いや、これは恐れ入りました」

 タウロンが微笑する。

「カルエレ師に負けず劣らずの洞察力ですな。そうですね、どこからお話ししましょうか……そう、昨日の昼間のことなのですが」

「うん」

「司祭から、『いつも、自分だけ何でも分かっているような顔をしている』と言われてしまったんです」

 途端、ファルゴが吹き出した。そのままひとしきり、押し殺したような笑い声を立てる。

「……いや、失礼……それに、うちで預かっている者が、とんだ無礼を……」

「いえ、良いのです」

 苦笑しつつ、タウロンが答える。

「……いや、正直、応えました。それで、ふとブラドロ君の話を聴いた時のことを思い出してみたところ、まさに今ファルゴ殿がおっしゃったようなことに気付いたのです」

「ほう」

「つまりあの時、わたしはブラドロ君が何か言うごとに、それに対する答えを出してやろうとしていた。それはつまり、『君の抱えている問題の答えなど、わたしは全部知っている』というような態度だったと思うのです。失敗した、と思いました」

「それは、失敗だろうか」

「そう思います。なぜなら、わたしが口を挿んだ時、ブラドロ君はまだ一番言いたいことを言っていませんでしたし、また、それに対する答えは、彼自身から出てきたからです」

「ブラドロが一番言いたかったこととは、拳法の師範に『知らない土地で自分を試してみたい』と嘘をついたこと、そしてそれが許されてしまったということだな。そう言われてみると、ブラドロは順を追ってそのことを話そうとしていたのに、我々が口を挿んだために、ちょっと話が逸れてしまったような気がするな」

 良く憶えている、とタウロンは思った。ファルゴにとっても、それだけ印象的な対話だったということだろう。

「そうです。そしてそれに対する答えとは、師範がタルーブ行きを認めたのは、『それは問題の本質から逃げているだけだ』と分からせるためだった、ということです」

「それは確かに、ブラドロ自身から出てきたことだった。その気付きがあって、ブラドロは己と向き合った……ブラドロは初めから、答えを知っていたということか?」

「なんとなく分かりかけていたのだと思います。それをはっきりとした言葉にするために、彼は聞き役を欲したのではないでしょうか」

「なるほど」

「つまり、答えは初めからブラドロ君の中にあったのであって、わたしは彼がそれを言葉にできるまで、静かに聴いていれば良かったのです。そう考えると、ゲーン師の対応は見事でした。ブラドロ君に言いたいことを全部言わせて、なお足りないと思われるところを、最後に補ってやったのですから」

「うーん、しかし、ゲーン助法官もそこまで考えておられたわけではないと思うが……」

「はっきりとした意図があったわけではないと思います。ただ、『静かに聴く』ということを、技術として備えておいでなのだと思うのです。そこまで考えて、ファルゴ殿もその技術を備えておられることに気付きました」

「わたしが?」

「神の導きについてお話しした時、ファルゴ殿は話の先を促すあいの手を入れるだけで、考えを述べて話を遮ることはなさらなかった。おかげで大変話しやすかったわけですが、あれは、聴き手が聴き方を心得ていたからだと思い至ったのです」

「ああ……しかしあれは、タウロン殿のお話が整然としていたためであって、わたしの態度の問題ではないと思うよ」

「しかし、ブラドロ君に対してあのような聴き方ができていれば、彼はもっと話しやすかったのではないかと思うのです。もっと言えば、彼が自分で気付くべきことを先回りして言ってしまったような部分もありますから、彼が得られるはずだった成長の幾分かを、奪ってしまっていたようにさえ思えるのです」

「それで昨日は、その『静かに聴く』ということを実践してみたわけか」

「そういうことです。そもそも、人に話を聴いてもらおうという場合でも、答えはすでに自分の中にあるということは多いのではないかと思います」

「答えは自分の中に、か」

「もちろん、知識については、外に求めなければいけません。知らない土地で道に迷ったら、いくら自分と向き合ってみても無駄なわけです」

「それはそうだな。そういう時は、道を知っている人に訊くしかない」

「しかし、およそ生き方に関する価値判断については、外から完全な答えが与えられるということはありえません。むしろ、答えは自分の中に求めるしかないといえます。しかし、ひとりで考えているだけでは、考えがうまくまとまらないことがある。そのような時、思考を整理するために聞き役が必要になるのであって、その役割はあくまで『静かに聴く』ことだと思うのです」

 タウロンはそこまで言って、言葉を止めた。

 ファルゴはちょっと水を飲んだ。

「……しかし、理想を言えばそういうことになるが、人は誰も完璧ではありえないからな。完璧な聞き役たろうと思っても、おのずと限界があるだろう」

「それはそうですね」

「まあ、せいぜい、気付いたことを次に活かすことだろうな。多少なりともましな先達ではありたいからな」

「ええ。未熟さを思い知ります。気付かされることばかりです。わたしは司祭の硬直した信仰心をなんとかしてやりたいと思っていました。しかし、その司祭の一言で、こんな大切なことを教わりました」

「後輩から教わることは多いよ。わたしもこうして、十以上も年下のあなたから、色々と学ばせてもらっている――『静かに聴く』ということ、大変勉強になった。どうもありがとう」



 カレド村の面々がタルーブへやってきてから一年が経った、ある初冬の日。レッコーは「墓参りがしたい」と言って、村を訪れることにした。

 魔族が出る可能性があるため、ブラドロが同行することになった。

「わたしは道場があるから、一緒に行けないが」とタウロン。「まあ、今やブラドロ君の戦技は、そこらの兵隊より上だからな」

「ヘレさんには勝ったためしがありませんが」とブラドロ。

「あの人は並の兵士よりずっと上だからね。そんな人に毎日ボコボコにされていれば、強くもなるさ」

「……」

「本当はわたしも行きたいところだけど……二人とも、良くお参りしてきてね」

 アイナの言葉に頷いて、二人はタルーブをった。

「じき、森を抜ける」

 森の中の道を行きながら、レッコーが言った。

「そしたら、村まではすぐだ。その前に、もう一度……」

 そう言って、レッコーは呪文を唱えだした。そして、ふと足を止める。

「レッコー?」

「探査術だ、ブラドロ」

「え? ――分かった」

 レッコーに言われて、ブラドロも探査術の呪文を唱えた。

「……いる。人間じゃないものが」

「こっちだ」

 そう言うと、レッコーは茂みの中へ入っていった。ブラドロも緊張した面持ちでそれに続く。

 そしてレッコーは、一年前マコス達とやってきた、カレド村を見下ろせる場所にたどりついた。

 眼下の村の廃墟には、何十ともつかない魔物がひしめいていた。



 二人は来た道を走って引き返し、息が切れてきたところで速度を落として、これからどうするか話し合った。そして、話がまとまると、また駆けだした。

 タルーブの西の外れへ戻ってきた二人に最初に声をかけたのは、二人と顔見知りの老人だった。

「やあ、ブラドロ君にレッコー君。どうしたね、そんなに息を切らせて」

「こんにちは……ゲーベルさん……」

 息を整えながら、レッコーが言う。

「町の外で、何かあったのかね?」

「いえ……修行の一環で、ちょっと走ってきただけです」

 怪訝な顔をして尋ねるゲーベル老人に、レッコーが答える。

「それよりゲーベルさん。町長さんが、大事な会合を開くから、役員に集まってほしいとおっしゃってましたよ」

「そうなのかい? それじゃあ、みんなに声をかけて、集会場へ行くことにしよう」

「ええ……それでは、おれ達はこれで」

 レッコーはそう言うと、ブラドロを連れて立ち去った。

「うん……? しかし君らは、今さっき、町へ戻ってきたのでは……?」

 ひとりになったゲーベルが、不思議そうに呟いた。



「良いか、ブラドロは嘘をついていない――」

 速足で通りを行きながら、レッコーがブラドロに言った。

「そこが肝心だ。君は、ギムデの神官なんだから」

「レッコー、君は……」




ほら吹き次回予告


 ブラドロがロアークを離れた、本当の原因。それは、お忍びでロアークを訪れていた王女との、一日限りのロマンスだった……!

 次回、『ほら吹き少年と司祭』最終章「ロアークの休日」

 お楽しみに。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ