表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ほら吹き少年と司祭  作者: 山風勇太
第三章 信頼するということ
18/36

ヘレさん、頬をつつかれる

 ヘレがタウロンを、キッと睨みつけた。

「タウロン師。わたしとの立ち合いの時、手を抜きましたね。あなたの魔法力は、わたしよりいくらか上でしたが、あの程度では――」

 そう言って、四角く地面を区切っている半透明の壁に目を向ける。

「あんな複雑な〈結界術〉を、こんなに維持できるはずがありません。今まさに使っている魔力の量を見ても、あなたの実力はもっと上のはずです」

「本気でやったとは、誰も言っていない」

 走り回るレッコーとブラドロを目で追いながら、タウロンが言った。

「あなたに勝つにはあのくらいの力で充分だったから、あのくらいの力でお相手したまでです」

 途端、ヘレの目にじわっと涙が浮かんだ。歯を食いしばりながらアイナに歩み寄り、その司祭服にすがりつく。

「司祭……わたし、あの人嫌い」

 アイナは慈愛に満ちた表情で、ヘレの長い髪をなでつけた。

「ええ、どうしようもない、インチキ野郎ですわ」

「……そこまで言ってないけど」

 ヘレが呟く。

「参ったな。騙したのはお互い様だろうに……」

 タウロンが、本当に困ったような顔をして言った。

「言い方というものがありますわ、タウロン師……」

 アリーシャはそう言いながら、アイナとヘレのそばに行った。

「まあ、タウロン師の方が上手うわてだったってことねえ」

 と言って、ヘレの頬を指でつつく。

「……なんでそんなに、嬉しそうなの」

 ヘレが恨めしそうに言う。

「だって、あなたのこんな悔しそうな顔、滅多に見られないんだもの」

 そう言いながら、なおも頬をつつこうとするのを、ヘレが手で払う。

「女の子は、表情豊かな方が魅力的よ」とアリーシャ。「それにしてもタウロン師、やってくれるわね……でも、こんなのを堂々と見せてくれたってことは、わたし達のこと信頼してくれたってことかしら」

「そうですね」

 あいかわらずレッコーとブラドロの方を見たまま、タウロンが言った。

「あなた方の人柄は、信頼していますよ」

「人柄は、ね……立場や役割といったものがなければ、もっと仲良くなれるのかしら? ――あら」

 アリーシャは、レッコーの魔力弾がブラドロの腹に当たるのを見て、呟いた。

「そこまでだ!」

 タウロンが怒鳴る。

 と、いつの間にかタウロンの背後に立っていたヘレが、口を開いた。

「今夜は、わたしが知っている限りの怖い話を、聞かせて差し上げます」

「すごい嫌がらせだ! やめなさい、子ども達が怖がるから」タウロンはそこで、ちょっと考えた。「――いや、喜ぶかな、ひょっとすると」

 レッコーとブラドロが、疲れきった、しかしどこか満足そうな表情で、やってくる。

 ふと、タウロンがまた口を開いた。

「セイルの神官の信頼とは、疑った上での信頼です」

 アリーシャとヘレが、顔を見合わせる。

「そこそこ貴重なものですよ」

 タウロンは淡々とした調子で言った。

 アリーシャがおかしそうに笑い声を上げ、ヘレも微笑を浮かべた。



 その日の夕食の後、食堂でレッコー達とくつろいでいるタウロンの所へ、僧侶のファルゴがやってきた。

「タウロン殿、ちょっと相談したいことがあるんだが」

「何です?」

 ファルゴはちらっと、周囲の僧侶達を見回した。

「……近頃、若い僧侶の中に、寺院の戒律を軽んじる者達がいてな。ほら、食事の最中に、小声でしゃべっている者がいただろう」

「……そうですね」

 タウロンが頷く。

 寺院では、食事の際、ものを言ってはいけないことになっている。カレド村の面々やタウロン、アリーシャ達も、この決まりはきっちりと守っていた。

 ところが最近、食事中に小声で話を始める僧侶達がいるのだった。もっとも、すぐに年かさの者に注意されて、話をやめるのだが。

「食事の作法だけではない」

 ファルゴが言う。

「講義の際、掃除の際、祈りの際にさえ、決められた所作を守らないものがいるんだ。その度に、我々年長の者が注意するんだが、いくら叱っても改めない。細々こまごまとした戒律について、どこか無頓着になっているんだな。――そこで話を聴いてみたら、どうも、そのような戒律は信仰においてさほど重要でない、という考えが広がっているらしい。なんでも、本当に教えに背くことをすれば神の罰が下るはずで、それがないのは、自分達の戒律違反など信仰の本質とは無関係だからだ、と言うんだ」

(ギムデの神官も、なかなか過激なことを言う)

 タウロンは、内心ニヤリとした。

「なんという思い違いを、とも思うのだが――」

 ファルゴが話を続ける。別段、声を落としたりもしない。

「しかしどこかで、なるほど、と思ったりもする。――そこで、このことについて、タウロン殿の見解を伺ってみたいのだが」

 ざわついていた食堂は、いつの間にか、しんとなっていた。

 タウロンが口を開く。

「……それは、セイルはどうおっしゃっているか、ということでしょうか。それとも、わたし個人の考え?」

「どちらでも。できることなら、両方を」

「分かりました。ではまず、神が人を罰するということについて、セイルの教義に何とあるか、お話ししましょう」

 レッコーは、食堂に居合わせた全ての者が耳をそばだてているのを感じた。



セリア「キャハハハ!」

カドル「ヘレさんのお話、おもしろーい!」

ヘレ「あれ……!?」

タウロン「あれ……!?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ