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ほら吹き少年と司祭  作者: 山風勇太
第二章 地の神と風の神
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立ち合い

「……」

 タウロンは黙ったまま、目の前の女性兵士を見る。

「『妙な女性に絡まれてばかりだ』とでもおっしゃりたそうですね」

 アイナが言った。

「良く分かったね……それで、ヘレさん、立ち合いといって、何をしようというんです?」

「魔力の押し合いを」

「力比べか。しかし、なぜ?」

「ヘレさんは魔術師なんですが――」レッコーが口を挿む。「力試しが好きなんですよ。それで、魔法の使える人が来ると、『立ち合い』なんていって、勝負を仕掛けるんです。おれも、この前お相手しました」

「そういえばぼくも、以前やらされましたね」

 ブラドロが苦笑しながら言った。

 わたしもです、というように、アイナも頷く。

「なるほどね。まあ、良いでしょう」

 タウロンはそう言うと、ヘレに向かって左腕を伸ばした。

「どうぞ」

「お願いします」

 そう言ってから、ヘレは右腕を伸ばし、呪文を唱えた。

 合わせるように、タウロンも呪文を唱える。

 魔力による押し合いが始まった。といっても、見た目には二人の人間が腕を伸ばして睨み合っているだけである。優れた魔術師ならば魔力がぶつかり合うのを感じ取れるというが、レッコー、アイナ、ブラドロにそんな力はない。ただ、二人の厳しい表情から、力比べをしていることが読み取れるだけだった。

 二人はそのまま微動だにしなかったが、しばらくして、ヘレが一瞬歯を食いしばり、それから表情を緩めた。タウロンも穏やかな顔に戻る。そして、二人はほぼ同時に手を下ろした。

「参りました」

 ヘレが言った。負けたらしいが、その顔からは何の感慨も読み取れなかった。

「うん」

 タウロンが短く答える。

「タウロン様、どちらからいらっしゃったんですか?」

 ヘレが訊いた。

「あちこち歩き回っているのです。この前は、イースにいました」

「旅の目的は?」

「風の神セイルの教えを広めるため、というのを名目にしているが、色々な場所を見て回りたいというのもあります」

「タルーブへはなぜ?」

「この町は地の神の力が強いから、布教も何もありませんな。まあ、たまたま立ち寄っただけです」

「いつまでこの町におられますか?」

「布教はできないが、なかなか居心地が良いからなあ。もうちょっと、いようと思っています」

「いつまで」

「……特に決めていません」

「分かりました。お相手いただき、ありがとうございました」

 ヘレはそう言って、軽く会釈をし、立ち去ろうとした。

 そこへ、タウロンが声をかけた。

「『力試し』というのは、よそ者を調べるための方便かな」

「……」

 ヘレは振り向いて、タウロンを睨んだ。タウロンは構わず続ける。

「兵士の務めの一環として、何かあった時のために、力量をはかっていたのではありませんか? ひょっとしたら、この町の人についても」

「……その通りです。この町の魔法が使える人は、力量も含めて、ほぼ把握しています。……疑われたことは、一度もありませんが」

 それを聴いて、タウロンは少し笑い声を上げた。

「欺かず、疑わず……実に平和な町ですな」

「しかし、我々兵隊は、ここの人達のように漫然と人を信じているわけにはいかないのです」ヘレが、少し怒ったような顔をして言う。「人を欺く者も、悪事を企てる者も、確かにいます。ギムデ神の教義だけで、全てうまくいくわけはないのです」

 アイナとブラドロの表情が、やや険しくなった。

 だがタウロンは、平然とした顔で聴いている。そして、ヘレの言葉が終わると、また口を開いた。

「ふうん、はっきり言う。あなたも随分、素直な人だな」

 ヘレは急に顔を赤くして、再びタウロンを睨んだ。そして何も言わないまま、今度こそ坂を下っていった。

「あの人がギムデの教えを良く思っていないのは、知ってたけど――」しばらくして、ブラドロが口を開いた。「『力試し』が嘘だったとは、気付きませんでした」

「わたしも驚いたわ」

 アイナも言った。

「しかし……」とタウロン。「無愛想で、仲良くなろうという意思も感じられないし、そのくせ質問攻めだし、ちょっとは疑ったらどうだね」

「ギムデの教えに、『人を信じよ』とあります」アイナがそっけなく言った。

「あ、そう……」

 タウロンはそう言ってから、黙ったままのレッコーをちらっと見た。

 

 小学生のころ、『ほらふき男爵』が大好きでした。が、この物語には特に関係ありません。


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