魔族が来る
初めての投稿です。読みやすい文章を心がけつつ、とりあえず完結を目指してがんばります。
消せない罪を背負った少年が、人との交流を通して生き方について考える物語です。戦闘シーンが出てきますが、ファンタジーとしてはライトなものになる予定です。
人間と魔族が、剣と魔法でせめぎあっている世界の話。
「魔族だ! 魔族が来る!」
こう叫びながら、ひとりの少年がカレド村に駆け込んできた。歳は十五といったところ、小柄で、瞳の輝きが好奇心の強さを物語っている。
ちょうどそこにいた中年の男が、一瞬ぎょっとした顔をしたが、その顔がややあってうんざりしたような表情に変わり、じろりと少年を睨んだ。
「やあ、レッコー、羊の番はどうした?」
「ラートさん、魔族だよ、魔物の群れが襲ってきたんだよ!」
レッコーと呼ばれた少年が急き込んで訴えるが、男は別段慌てもしない。
「そうかい、まあ、魔物の十頭や二十頭、おれが軽く片付けてやるさ」
「だけど……じゃあ、それならそれで、羊達を助けに行ってよ!」
「おう、カブの種まきが済んだらな」
男はそう言いながら、さっさと歩いていってしまう。何事かと様子をうかがっていた人々も、話が済んだと見るや散ってしまった。
レッコーは周囲を見回したが、話し相手がいないと分かると、さらに村の中に走っていった。そしてなおも「魔族が来る」とわめき続けたが、みんな知らぬ顔をしている。そこでレッコーは、石造りの神殿に駆け込んだ。
「魔族が来るぞ! カルエレ様、アイナ司祭!」
レッコーが大声で呼ばわると、勝気そうな顔の少女が出てきた。歳のころはレッコーと同じか、ひとつふたつ下かもしれない。
「レッコー、どうしたの、大声出して」
「エーデ、魔族だよ、魔族が来るんだ!」
「あんた、またそんなこと言って……」
「エーデ、レッコー、どうしたの?」
奥から、また別の女性が姿を現した。すらりとした体型で、小さな顔、小さな鼻と口に対して、少し垂れた大きな目が印象的だ。二十歳を少し過ぎたくらいと見える。
「また魔族が出たんだって、アイナ様」
エーデが答える。
「おやおや、またなの?」
と、三人目の女性が顔を出した。歳は六十といったところで、アイナと同じように、体をすっぽり覆う司祭服を着ている。
「そう、またなのよ」エーデがげんなりしたように言った。
「でも、今度は本当なんだ!」レッコーが言う。「それで、早く逃げなきゃ間に合わないんだよ」
「そう、それじゃ、すぐに逃げなきゃね」
「アイナ様!」
アイナが応じた途端、エーデが金切声を上げた。
「なんで逃げる必要があるのよ! この前も、その前も、そのまた前も、魔族なんて来なかったじゃない、レッコーがひとりで騒いでただけで!」
「でも、今度は本当かもしれない。それなら、信じなければならないわ」
「『神を信じよ、同様に人を信じよ』って言うんでしょ?」エーデが呆れたように言う。「ギムデ神の教え! ありがたい教えよね」
「これ、エーデ、そんなふうに言うものじゃありません」
年かさの司祭、カルエレがたしなめるように言った。
「それじゃ、カルエレ様も一緒に逃げるっていうんですか?」
「そうね、人を信じよと、ギムデがおっしゃっているのだから」
言いながら、カルエレはちらりとレッコーの顔を見やった。少年はあくまで真剣な顔をしている。
ただその表情に、ほんの一瞬、悲しみの影のようなものが走った。
「みんな、出ていらっしゃい」
アイナが神殿の奥へ呼ばわる。と、五歳から十二歳くらいと見える子どもが六人、ぞろぞろと寄ってきた。
「みんな、お話は聞こえてた?」
「うん!」
アイナの問いかけに、子ども達のひとりが答えた。
「また遠足に行くんでしょ?」
子ども達はお出かけが嬉しい。