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オオカミとヒツジ その3



 キヨちゃんが抜けた後の教室は、重苦しい沈黙に包まれている。

 沈黙に耐えかね、おそるおそる瀬川君の隣の席に私が腰をかけたのはおよそ5分前。

 

 座るやいなや、急くように走らせているシャープペンの音が教室に響いて、さらに私の緊張を高まらせた。たった5分前なのに、ものすごく長い時間が経ったように感じる。


 …あぁ、ものすっごく、気まずい。


 左隣では、頬杖をついた瀬川君がじっとこちらを見ているのがわかる。ただし、視線はずっと下にむいたまま。日誌にそそがれているのだとは分かっていても、その鋭い視線はどうにも居心地が悪い。

 手の平や背中に、夏の暑さのせいではない、いやな汗が伝わるのがわかる。


 落ち着け、落ち着くのよ私!!

 

 心の中で念仏のように落ちつけ落ち着けと唱えながら、キヨちゃんからもらったメモを頼りに今日の授業内容を書き込んでいく。

 

 数学、英語、化学…意外にもメモにはしっかりと内容まで書き添えられていて、ここまで書いたのならやはり直接日誌に書いておいてほしかったと一瞬恨みの念が起きそうになったが、体育のところでぴたりとペンが止まった。


「えーと。今日、男子は体育何やりました…?」

 うわ。声裏返っちゃった。

 しかも、緊張のあまり敬語が出てしまい、私は一人焦る。


 10分間の沈黙を破りようやく出た言葉だったが、瀬川君の「陸上」の一言で会話らしい会話にもならず一瞬にして終わってしまった。それどころか、焦った私を怪訝に思ったのか、瀬川君の視線が私に移ってしまった。まずい。これじゃ逆効果だ。余計に気まずい。


 え、なんでなんでなんで。そんなに私変な顔してる?!


 焦る私の心を知ってか知らずか、瀬川君が視線の先を変えることはない。じっと、無言で、私を見てるのがわかる。

 隣の席に座った自分を恨みそうになった。思ったよりも、距離が近い。

 

 普段の教室で隣に座っている人との距離なんて気にもしないくせに、今この時はやたらと「隣の席」という距離感に動揺を禁じえなかった。

 意識しまいとして日誌に集中しようとしても、どうにも左が気になってしょうがない。

 いまさらながら、日誌を引き受けてしまったことを後悔する。今まさにラブラブしているであろうキヨちゃんを一瞬本気で憎く思う。


 強い視線を感じる中、逃げたいという衝動を必死でこらえながらペンを走らせる。

 メモに、キヨちゃんのちょっとくせのある丸文字で大きく「生物:狼の生態」と書いてあり、思わずペンの動きを止める。瀬川君のあだ名が連想され、一人どぎまぎとしてしまった。


 「一匹狼」

 何考えてるのかわからない。背がでかい。目つきが鋭い。怖い。などなど。そんなイメージ。


 あの目で見られると、ものすごく緊張してしまう。怖い、とは少し違う。あえて言うなら、苦手。

 去年、同じクラスだったときは、まだそんな事はなかった…のに、な。

 瀬川君は、いつも外を見ていた気がする。そして、私は彼の背中しか見ていなかった。




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