オオカミとヒツジ その1
少々修正した部分があります。
聖人君子のように心の広い人は別として、人なら誰しも、苦手な人というのは存在するものだと思う。
それはまだ、入学式も終わってまだ日も浅く、新入生として初々しさが抜けきらなかった頃。
お昼休み、できたばかりの友達・キヨちゃんに付き合って、私は学食にいた。
あまり広いとはいえない学食の中、すでに席でたむろしている先輩達が怖くてびくびくとしている私と一緒に、今はすっかり先輩だろと笑顔一つで蹴散らしてしまうキヨちゃんもさすがにあの頃は緊張していたっけ。
トレイを持ったままうろうろとあたりを見渡す私たちをよそに、ひときわ目立つ男子学生がいた。
明らかに新一年生が着るであろう真新しい学ランを豪快に着崩し(とはいってもボタンをはずし、シャツをはだけさせている程度だったのだが、まじめで有名なこの進学校ではいかんせん目立った)先輩達がいち早く座るであろうはずの窓際の特等席の広いテーブルを、一人独占し優雅に昼食をとっているその人。
当時は彼がどんな人かもわからずに、ただその威圧的な雰囲気にすっかり飲み込まれてしまった私は、“迫力のある人だなぁ”とその時はぼんやりと思っていただけだった…のだが。
「一匹オオカミ」
身長180㎝後半、強面のその人瀬川優斗は、いつのまにかこう呼ばれていた。
いつも眉にしわが刻まれていて、無表情でその上目つきも悪く、睨まれると一目散に逃げたくなるほどの迫力。
ガラが悪いことで悪名高い隣街の男子高に殴りこみに行っただとか、ヤクザにからまれて逆に殴り倒したとか、そのテの噂は絶えない。
一行以上会話してるのを見たことがない。笑った顔を見たことがない。
まさに、孤高のオオカミ。
気がついたときには、みんな遠巻きに彼を見るようになっていた。
かくゆう私も、その中の一人。はじめはぼんやりと“迫力のある人だなぁ”と思っていたその人は、平穏を好む私にとって、噂が広がるにつれて“できればお近づきになりたくない人”へと昇格していた。
だがしかし、平穏はえてして突然崩れさるものだったのだ。