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愛嬌のある嘘

作者: 蜜ハチ








「愛してるよ結婚して」



今日も彼は(ウソブ)くから

私はニヒルに笑んでなんでもないフリをする

だってそうでしょう

でなけりゃ私あなた刺し違えたっていいのに








title:愛嬌のある嘘




























部屋でお茶を頂く、異国の花茶でいいかおりがする甘いお茶だ。

そのお茶に茶器も合わせたいところだが生憎庶民にはそこまでお金が回らない。

けれど楽しむには十分だから私はゆっくりと口に含んでそれを楽しむ。

ああなんて至福。



「ねぇユウちゃん、いつ結婚しようか」

「そうね、丘のうえの千年桜が咲いたらがいいなあ」

「…またそうやって」



……いらない茶々が入った。

彼、マクシミリオ伯爵…リオはぷくりと頬を膨らます。

残念だけれど、それが通じるのはおぼこの乙女だけであり、大の大人、しかも騎士たる男気溢れた彼に似合うはずもなくさして心が揺れることもない。


その頬を両手で挟めば間抜けに口から空気がふ~と抜けた。

それを彼は恨みましくこちらを見るのだが、喜んでいるのは過去の付き合いでよく知っていた。マゾめが。


この見掛けに反して子供のように話す彼はユーリアの幼なじみで、長年の付き合いになる。

きっかけはユーリアの父がリオの剣の先生をしていたことだ。


父は農夫の出でありながら、傭兵となり順調に手柄を立て最終的に王宮内一団の隊長という銘を得た。

その中、逆賊討伐の際に負傷した折りに暇潰しにと知人の息子の剣を鍛えていたのだ。

何を隠そうその息子がリオである。なんて簡単な話だろうか。


年の近い私達は遊べや歌えと子供の頃は転がるようにころころと遊んでいたらしい。(母による比喩である)


長年の付き合いと言っても彼はほどなく成長すれば騎士となるため行儀見習いで遠方へ連行された。


「ユーリアの家がいいー!」と泣き叫ぶ彼が引きずられて行くのを見ながら「ドナドナドーナー…」と口ずさんでいたのはいい思い出だ。

それに父が哀れみの目で彼をまた見ていたのもまた昔である。先に言っておこう、私は悪くない。



「ねえねえ、本当に。もう若くないんだか」

「お安くないのよ、あたしゃ」



頬を引っ張って可笑しな顔をさせて一人楽しむ。

優しい目が細く笑んでだらしない、えへへと笑ったのをキモい、と笑ってやった。

なんだかんだでこいつはこのやりとりが好きだからこんな馬鹿な遊びをしてるのだ。





























「とかいってユウも楽しんでるんでしょ?」

「やっぱわかる?」



わかるよ、と目の前で優雅に茶をすする(言葉に育ちの悪さがでちゃうわ)ダンがケラケラと笑った。



「リオの事あんな扱いすんのユウぐらいだわ、」

「だからあんなに喜ぶのね、」

「ザッツライト!」

「アイシー、アイシー」



こんなノリの男だから話すのはなんて楽しいのだろうか、見た目も綺麗なもんだから一粒で二度おいしい。

なんてエコな男だ。


ダンはリオと同じ王宮内で近衛騎士をしている。

以前父の下にいたこともあり偶然知り合ったのだが話してて馬があい今でも他愛ない話をしている。


面白いのが彼の話によるとリオが王宮内で猫を被っているらしいのだ、それも無愛想な男前の猫を。

凛々しく正義感感溢れ逞しい騎士。

私はそれを聞いて爆笑し、私の話を聞いてダンが吹いた。

そりゃそうだ、だっていつも線の切れたようにへらへら笑って子供みたいな喋りをするあのマゾ男が……

いやあ、なんて楽しいんだろうか。



ちなみに2人はとある隠れた喫茶店で落ち合っている。

何もないと言っても男と女、会ってることが知れたらことだ。

それにこのダンもこんな気楽な奴だがあなどるなかれお貴族様だからさらに面倒である。

しかもとあるお嬢様に片想い中だというから余計な事はしない方がいい。

あのマゾは堂々とユーリアの家にひょこひょこと通うが…仕方ない。



「でもさあ、もし本気だったらどうするのさ」

「ぅーん、」

「あるかもよ?なんだかんだ言って」

「ないと思うわよ、ミニアム嬢の事教えてくれたのあんたじゃない、」

「そうなんだけどさ~」



う~ん、と頭を抱える。何を今さら…


そう、あのリオはミニアム子爵令嬢といい仲なんだそうだ。へえ。

オペラ座、舞踏会でもよく2人がイチャイチャしてるのが目撃されているらしい。



「あいつも馬鹿よね、いくら私が庶民でそんなところに行かないからってばれないと思ってるのかしら」

「知られてると思ったらさすがにプロポーズはしないね」

「だよね?」

「まさかあいつもここで僕等が逢引きしてるなんて思わないだろうねえ」

「このまま駆け落ちしちゃう?ダーリン」

「あいつが地獄の果てまで追い掛けられそうだからやめて」



手に槍持って?といえばいやいやナタだといい、笑う。

このテンポ好きだわあ、だから密会はやめられない。


「ねえ、本当にさ、どうする?本気だったら」

「またそのはなし?」

「いいじゃないの、ねえ」

「う~ん、」



私は悩むふりをする。



「千年桜が咲いたらね」



そう言うしかないのだ。
































ここらの女がいう言葉


「千年桜が咲いたら」


古く大きな桜が丘のうえにある。

その桜はもうずっと長い間咲いたことがない。


千年咲かない桜、故に千年桜、

だから女の言葉はブルーローズ、あり得ないはなし。

丁のいい断り文句として使われる。




「千年桜、青いバラ、あり得ない、なるわけがない…」



呟いた。


私あなたと差し違えたっていいのよ


























ゆーちゃ、ゆーちゃと舌ったらずで私を呼ぶ頃から、あなたが好きだった。


遠くに行くって嫌だって泣き叫ぶあなたをどうして嫌いになれようか、私に笑顔を向けるあなたを好きにならないわけがないでしょう。遠ざけられるわけがないじゃないか。

だからあの令嬢の話は、正直言って、もう途方に暮れる。

そうね、お貴族様だものねだなんて表で物分かりのいいふりして。


なのに裏じゃ怒って、妬んで、恨んで、疑って、自分が情けなくなって、どうしたらいいの、私は貴方の事好きなのに、ねえどうしたらいいの!

行き場を失くして途方に暮れている、千年桜、ブルーローズ、ありえない話。


…丘の上、咲かない桜の下で雨宿りをしている

私はうつむいて足元をみるしかないのだ。















































「ねえ、ゆーちゃん、結婚いつにするの、結婚式会場はさあ、やっぱり森の中のチャペルがいいかなあ」



なのにこの男は何もないかのような顔をして、今日も馬鹿面でそんなことを何度ものたまう。

結局次の週もこの男は現れてこうして馬鹿で何にもならないやりとりをする。

ねえねえ、子供みたいに無邪気に。

こっちは知ってるのに、なんて馬鹿な奴なんだろう、知ってたけど、なんて根性の悪い奴。


…嗚呼。



「…ああ」

「…ゆーちゃん?」



リオがいぶかしげにこちらを見やる、いつもみたいに張り合ってこない私に気づいたのだろうか、少し心配そうに眉をひそめて、見上げて。

なんて頼りない、本当に、どうして私は



「しよっか、結婚」







…こんな男が好きなんだろう








「ゆーちゃ…」

「でもあんた知ってんのよ、ミリアン嬢のこと。こんなことしてないでさっさとくっつきなさいよ、いい年して!」



剣幕を張る、リオが困った顔をして見上げる、そうだね、いつもこんな怒ることなんてなかったし、するつもりもなかった!



「こんなとこ来て、疑われるわよ、本当にあんたってふしだらな男ね、もうくんな!」

「ユーちゃん!」

「いーから帰れ!話したくない!顔も会わせたくない!きらいだ、お前なんて大嫌いだ!」

「ユーちゃん、待って、行かないで、」



自室にこもろうとする私に抱きついて、リオはわたしを拘束する。

帰れ帰れ!と連呼する私に彼は心底困ったようで声が困り切っていた、なんでわたしはこんなことで怒っているのだろうか、いつもみたいに笑って済ませばいいのに、あのダンの話が頭の中でリフレインするのだ、ああ、ああ!

お前なんて嫌いだ、きもちわるい!かえれ、かえれ!


そう叫ぶ私はいつの間にか泣いていて…リオはけれど私を放してくれなかった、困るのならさっさと放してさよならすればいいのに、中途半端に優しいヤツだ、なんて面倒な男なんだ。



「ユーちゃん…嫌いにならないで…おねがい…やだ…」

「やだやだやだ!はなせこのばかおとこ!」

「やだ…やだ…ゆーちゃん、ゆーちゃん…」



リオがさらにギュウと抱きしめて、私を胸の中にしまいこむ。

私はそのなかで、ずっとそれでも奴を叩きながら嫌いだ、嫌いだ、と言う。

心にもない言葉は、出したら止まらなくて泣きそうになる。


うそだよ、リオのこと嫌いになれるわけがないのに。

私はずっとリオの言う言葉も聞かずに嫌いだ、きらいだと言い続けた…。



ブルーローズ、千年桜、あり得ない話はもうこりごりだ。














































結局私はそのあと泣いて、叫んで、終いには泣き疲れて寝る、というなんとも苦い形でリオと別れた。泣いてて、気づいたらベッドの中なのだ…ああ恥ずかしい、21にもなって。



「へえ、そんなことがあったの」

「そうなのよ、もう一度切れたら止まらないみたいよ私」

「気をつけなきゃ」

「頼むよほんと」



ユーのことじゃないかあ!とわらう、恥もかきすてだ。


結局また私はこの人とお茶を飲んでいる、今日は店特製のハーブティーでローズがベースになっているが、他にも混ざってあるのかとてものみやすい。


それからいろんな他愛ない話をして、ダンがふと我に返ったような顔に成って改めて



「リオンの事好きなの?」

「何を今さら」

「いや、だっていつも対応が冷たいから」

「…いや、あれは本人が喜ぶから」

「だって、いつも千年桜が咲いたらって」

「ああ、それは……」



訳を話す、すると彼はロマンチック、ただそれだけ言ってお茶を飲んだ。




























































あれからもう一月たつが、彼は顔をださない。


所詮そんなもんだったのだろう、面白くなくなったらそれでいいのだ、なんて後味の悪い別れ方だったのだろうか。

これは望みが薄くなってきたなあ、と思うとどこかで期待していた私が浅はかでなんだか馬鹿らしくも可愛く思えた。なんだ、私も馬鹿だったんじゃないか。

そうなるといきなり現実が目の前に聳え立つ、いつもいつも言われていたが私は結構いい年なのだ、結婚適齢期にはギリギリ入っているのだが、賞味期限がまずい。

やばいぞやばいぞ、そうなるといきなり焦ってくるもので、今まで馬鹿にしていたお見合いもしてみようかなんて思ってしまうものだ。

そういえば今日は家に父がいるのだ、おう思い、私は善は急げで父の書斎に向かった。





















































リオは部屋でソファーに優雅にくつろぎながらダージリンを飲んでいた、彼はミルクも砂糖もたっぷりでいい茶葉なのに香りが薄くなるくらいたっぷり入れるのが大好きなのだ。

それに口をつけて、リラックス。傍らのそれに手を伸ばしゆっくりと撫でる。ああ至福。



「どうゆうことよ」

「だから言ってたじゃん、結婚はいつがいいって」

「聞いてないのよ」



撫でられたユウはその手をじゃけんに払いのけるが、そうするとリオはえー?とさらにくっついてきて抱きしめて終いには膝の上に乗せるなど嫌がるユウのことなど露知らずやりたい放題だ。



「あー、正式に許可もらったのあのユウちゃんが号泣し」

「あーあーあー」

「…ユウちゃんたらはずかしがりなんだから。ツンデレめ!」



そう言って頬を頭にすりすりと寄せる。もちろん抱きしめて。

ユウはこの状況が面白くない、こんなユウの手の上でころころと転がされているというこの状況が、だ。


そう、あの父の書斎に赴いたユーリアには衝撃の事実が判明した。


婚約していたのである、この馬鹿男と。



なんだとー?!と唖然としている父が笑いながら真相を教えてくれた。






「正式にはだなあ、あのお前がなきさけ」

「あーあーあーあー」

「前から内々には決めてたんだぞ?お前もてっきりその気なんだと…」

「知らないわよそんなこと!」

「言ってなかったっけ?だっておまえこの年まで結婚しなかったから」



この娘にしてこの親ありである、親子そろってなんと根性が太いもんだ。



「でもあいつ、そしたら浮気?して・・・」

「ああー、お前よく知ってるのな。ありゃ任務だ。あのお嬢様の家が税金横領しててなあ。娘さんから近づいてったってわけだ」



その瞬間、頭の中で鐘がゴーーーンと鳴る、そうして力の抜けた私に父は呟く「ドナドナドーナー…」なんでそのチョイスなんだ。








「にしてもユーちゃんにはわからないようにしてたのにー、なんで知ってるの?」

「言わない」

「ま、いっか。ねえユーちゃん、結婚いつにする?早くがいいんだけど」

「ああ、だから千年桜が…」



ガシ、と肩が掴まれる。と思うと真剣な顔をした彼がこちらをジト、というかジ、と睨んでいる。

なんだなんだ。彼の顔が面白すぎるくらいに蒼くなっている。



「ねえユーちゃんそれ本気だったの・・・?」

「はあ?」

「ねえなんで駄目なの!駄目だよ、絶対結婚するんだから!逃げられないよ腹くくって」

「ちょ、ま、待って」

「だめだめだめ!あ、そーだ、ちんぷさん、今ここで誓うだけ誓っちゃおう?ね?ね?」

「ちんぷさんてなんだ…若干卑猥じゃない…」

「ああーもう、もう結婚するのは決まってるんだからだめだよ!」

「もう!あんたわすれたの?!」

「ええ?」



すっかりパニックになっていたリオを揺さぶってその顔を覗き込むがなんてわかりやすい男だ、顔にクエスチョンマークが浮かんでいる。ああ、笑える。

私が本当に笑っていたら、彼がわけがわからないようでうろたえていたから、そっと真相を暴いてやった。






「あんたね、ちっちゃい頃言ってたじゃない、大人の真似して」

「え?え?」



そう、大人の断り文句「千年桜が咲いたら」という言葉は幼いころの私たちはそのまんまの意味で受け止めていた。

そう、私たちは桜が咲いたらあの別れたカップルや、振られた兄ちゃんもみんな結婚するのだと思っていたのだ。



「あ…」

「ちっちゃい頃言ってくれたじゃない「千年桜が咲いたら結婚しよ」って」



彼はやっと腑に落ちた顔をして、顔いっぱいの笑顔で私を抱きしめる。

千年桜、ブルーローズ、ありえない話だけど、もしもの話もあるものだ。


近い将来桜が咲くような気がする、そうしたら足元をみていた私は、桜を見上げて、あなたを待つのだ。










END


※thanks!reading,

※image song / 椎名林檎「unconditional love」

お読みいただきありがとうございます!

長編が書くにかけず、リハビリで書いてますが意外と気に入ってる一作です。

結構ヒロインがわがままでいい性格してますが気に入っていただけたら幸いです。

ではまた!

by31

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