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妖が潜む街  作者: 若城
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4話 伝承と現実

 同時刻。霧本邸。

 霧本は自室に家庭用のノートパソコンを持ち込み、勉強机にて妖怪について調べていた。 調べているのは、三つ。烏天狗、雪女、コロポックル。


 烏天狗と雪女は、様々な文献を確認出来たのだが、コロポックルについては詳しい情報は見受けられなかった。ひっそり暮らしていたからという理由があるのかもしれない。その旨をコロに伝えると、少しばかりしょんぼりしていた。

 調べている途中、傍で腰を折り、同じ様にパソコンを凝視していた雪霧が顎に手を当て、関心の声を上げた。


「ほぅ……、現代は便利な物があるのだな。奇怪、というのか」


 彼女の発した言葉は、おそらく漢字が違うのかもしれない。しかし、訂正したとして、きちんと理解出来るまで、途轍もなく時間が掛かるだろう。なので、苦笑いしてそれを流す。


「烏天狗ってなんだろって思ってたけど、義経と一緒に居た鞍馬天狗と同じだったんだなぁ……」

「妖怪の中でも異質の存在だったからな。その頃はまだ、私は生まれていなかったが、聞かされた事が何度かある。それ程の妖怪だったのだ」


それに、と彼女は続ける。


「そもそも、妖怪は人間に対して良い印象を持っていない。むしろ、劣った存在として見下している程だったからな」

「えぇ……。雪霧さんもそっち側……?」


 霧本が雪霧を目だけで見るが、彼女は苦笑しながら首を横に振った。


「いいや。私は人間をそんな風に見ていなかった。よく人里に下りていたしな」

「あ、そうなんだ」

「あぁ。私達については、何と書かれているのだ?」

「え、うん」


 彼女に進められ、霧本は雪女について書かれているサイトをいくつか開く。

 開かれると、いくつもの雪女の絵画と雪女が行ったとされる事が、文章として表示された。


 それを、雪霧は目を細めてはじっくりと読んでいく。


「ふむ……」

「どう? 読む限り、危害を加えたり、男の人と一緒になったけど、姿を消したりとかだけど」

「合っているのもあれば、大袈裟に書かれているのもあるな……」

「事実ではあるんだ……」


 雪霧は体を起こすと、腕を組み、僅かに首を傾げる。


「あの男共の何が良いか分からなかったな。求婚を何度もされたが、断ってやったわ」

「モテそうだもんね、雪霧さん」

「まぁ、話にならなかったがな。私より背が低い男など有り得ん」

「あぁ……」


 四〇〇年程前の男性の平均身長は、一六〇センチに満たないと言われていた。なので、一七〇センチ程の雪霧を超える男性はそうそう見掛ける事はなかったのだろう。目の前にこれ程の美人が居ながらも、身長だけで撥ね退けられる彼らに同情する。


「あ、人間じゃなければ、同じ妖怪ならどうだったの? 同じ山の妖怪とか。烏丸みたいな」


 霧本が彼女を振り返りながら問いかけるが、彼女の表情が明らかに曇った。目は細められ、困っている様子だ。それに加え、ベッドで横たわっていたコロも、何とも言えないといった様子で首を傾げさせていた。

何か、いけない事でも言っただろうか。


「……一つ聞こう。同じ動物として、犬を挙げる。お前は犬と結納は出来るか?」

「へ? む、無理……。僕、そんな風に見てない……」


 首を左右に高速で振る。


「そういう事だ。勿論、その垣根を超える妖怪も居るが、基本的には無い。先程も言ったが、人の形をしていない妖怪は、人間に良い印象を持っていない。私の様に、人の形をした妖怪に好意を持つと思うか? 合わせて、烏丸の様に人間に化けるという手段もあるが、毛嫌いしている者の姿を保つ事など、堪えられる筈がない」

「当たり前だ」


 突然、烏丸の声が聞こえた。

 霧本は窓に目を向けると、窓の枠に不機嫌そうに腰掛けている烏丸が居た。

 烏丸は霧本を睨んだ後、雪霧に視線を移す。


「貴様と一生、相容れぬのは分かりきっている。人間なんぞ、信用出来るものか」

「ふん、私もお前とは分かり合うつもりはない。しかしな、烏丸」


 彼女は薄い唇で小さな笑みを浮かべる。


「お前からは人間の匂いするぞ。俊也とは別のな」

「なっ……」


 烏丸の表情が驚きに変わり、雪霧に向けていた視線を逸らした。


「そこら中に居る人間のものではないな。お前、嫌いと言っている割には、人間と共にしていたな?」

「し、知らん……。き、貴様らと居ると、不快にさせられる」


 その場から立ち上がると、床に散らばっている札を見下ろす。そこで、ベッドに居たコロと目が合った。不快と言われて傷付いたのか、悲しそうな顔で見上げられ、烏丸は『ぐっ……』と言葉を詰まらせた後、視線を逸らしつつ彼女の頭を撫でた。そして、封印されていたであろう、札の中へと吸い込まれる様に消え去った。


「えぇっ!? 入れるの!?」


 白くなっていた札は、再び烏天狗の絵が浮かび上がらせていたが、初めて見た物とは変わっており、こちらに背を向ける形となっていた。それを見た雪霧は、呆れた様子でため息を吐く。


「逃げおったか。同じ人の姿をしているコロにあの様な態度している時点で、察しがつくな。人間の姿に変われるのにも慣れている様だった。おそらく、頻繁にあの姿に変わっていたのだろう。その上、子供に甘い」

「実はいい妖怪だったり……?」


 烏丸の札を見下ろしながら、そう言ってみるが、彼女の答えは歯切れが悪いものだった。


「さぁな。決まった人間にだけ、信頼を寄せていたのだろう。それ以外は、下等種族としか思っていないだろうな。天狗はそんな妖怪だ」


 雪霧はコロの頭を撫でた後、霧本を振り返り、笑みを浮かべる。


「まぁ、なにもともあれ、よろしくな俊哉」

「え……あぁ……はい……」


 霧本は引き攣った笑みを浮かべた後に、肩を落とした。

たまたま持ち帰った札に、まさか三体の妖怪が封印されているとは夢にも思わなかった出来事だ。書物だけの存在だと思っていたのが、聞けば街中に居ると言うではないか。もしかすると、自身が通う学校にも妖怪が潜んでいる可能性も無くは無いという事だ。知らず知らずに、人間と思い込んでいた妖怪に話しかけていた事を考えると、心臓が大きく高鳴った。


(知りたくなかったなぁ……)


 複雑な気持ちを抱きながら、霧本は二人を見る。

 目の前には、雪女とコロポックルが居る。姿は無いが、烏天狗も居る。

 彼らと一緒に居れば、他の妖怪に遭遇する可能性が途轍もなく上がるだろう。

 怖いのでなく、大人しく、優しい妖怪達と出会えればと淡い期待を胸に秘めて、渇いた笑い声を上げた。


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