2話 妖怪という伝説
朝。
夏の暑さに目を覚まし、体を起こした。汗で濡れた寝巻を軽く引っ張り、気味悪げに顔を歪める。ふと横の壁に立てかけてある時計に目をやると、午前九時過ぎを指していた。それを見て、深く息を吐き、ベッドから足を下ろした。その際に、汗ばんだ手が枕の横に置いていた三枚の札を上から触れた。立ち上がるのに力を加えた上、僅かに擦りつける様にしてしまい、慌てて手を退ける。札に触れた掌に目をやると、墨の様なものが滲んでおり、次に札を見下ろすと、文字と思しきものが、完全に只のシミと化していた。
「うわぁ……」
罪悪感に襲われ、霧本は唸る。
自分の所有物ではない物が、この様な事態に陥ってしまった。売られている商品なら同じものを買い、謝罪と共に返す事は出来る。だが、これらはどこにも置いていないだろう。この様な札は見た事がない。どう彼らに説明すれば良いのだろうか。黙っておく訳にはいかないので、決心が固まった時、電話で伝えた方がいい。
「……とりあえず、手洗お……」
霧本は部屋から出ると、脱衣所にある洗面台へと向かった。蛇口から水を出し、手を洗った後、歯磨き、洗顔、寝ぐせ直しをする。一連が終わり、今度はリビングへと向かう。リビングに入ると、ソファで一夜を過ごした姉の姿は無く、ソファの前に置かれている長方形のテーブルに小さな紙がセロハンテープで留められていた。
『帰ります。by梨紗』
何とも短絡なメモに溜め息を吐く。
父はいつも通り仕事、母も小学校は夏休みなのだが、やる事はあるようで出勤している。現在、家には自分一人だ。夏休みの宿題は既に終わらせているため、後は夏休みが終わるまで有意義に過ごすだけのだが、遊ぶ友人は限られている。その上、その友人らは自分の帰宅と入れ違いで旅行や帰省をするという。タイミングの悪さに嫌になってしまうが、家族で行う行事なので文句も言えない。
台所に行き、冷蔵庫から大きめのペットボトルに入ったジュースを取り出し、食器棚からコップを手にリビングからニ階へと上がっていく。
やる事がないのであれば、謝罪する決心をつける絶好の時間ではないか。
自室に戻り、床にジュースとコップを置く。そして、持って来てしまった三枚の札を見下ろし、どうするべきか幼い頭で考える。
「寝る前に冷房点ければ良かったな……」
冷房を点けるよりも先に睡魔が訪れてしまったので仕方ない。人間は睡魔を簡単にあしらう事が出来るような造りにはなっていない。
コップに注いだリンゴジュースを飲むと甘みが口の中に広がり、暑さによる喉の渇きを潤していく。
「でも、少しでも綺麗にしないとね……」
霧本は立ち上がり、ベッドに置かれていた三枚の札を手に取った。
床に無造作に置かれたティッシュの箱から何枚か抜き取り、慎重に滲んだ黒い液体を拭き取っていく。滲んでしまったのは仕方がない。だが、滲んだまま放っておくのもどうかと思う。せめて、不細工に滲んでしまった黒い部分だけでも綺麗にしておいた方がいいだろう。 そう思い、一枚ずつ丁寧にティッシュを這わせる。その努力があってか、多少黒色が残るもなんとか見栄えが良くなった、気がする。絵の方も汚れていないようなので、後は祖父母に謝罪するだけだ。
「……あれ?」
絵はどこだ。
先程まで描かれていた三枚の絵が綺麗に無くなっており、薄く汚れた白い札だけとなっていた。札から視線を外し、床に落ちている筈もないのに、大きく見渡す。案の定、床にも、ベッド下にも見つけられず、奇想天外な出来事に霧本は困惑する。
「うっ……!」
背後から視線が感じた。
その視線は霧本の背中を捉え、振り向くのを拒絶するかのように威圧感を与えてくる。 冷房を点けているのにも関わらず、額から汗が流れる。
振り向いていいものなのか。振り返った瞬間、死んだという事は勘弁してもらいたい。
今の状況から考えて、自分の身に危険が訪れているのは変わりない。
(どうせ死ぬなら……)
霧本は一つ深呼吸をすると、意を決して後ろを振り返る。
絵に描かれていた女性、カラス、小さな子供がこちらを見下ろしていた。
「ぎ」
一拍の間隔があって、霧本が悲鳴を上げそうになった瞬間、カラスの鋭い目がさらに鋭くなる。その目は、『騒げば殺す』と語っており、両手で口を押さえる事で悲鳴を上げるのを全力で阻止した。
霧本の様子を見るなり女性は不思議そう首を傾げ、顎に手を当てる。
「はて、そんなに驚く事なのか?」
彼女は切れ長の目を細め、問い掛けてきた。整った顔立ちをした美女であり、背も自分も高く見える。肌もとても白く、街を歩けば男女問わず、殆どの人が彼女を振り返るだろう。美しい顔を持っているが、その顔の左側に、目から頬にかけて数センチの切り傷が痛々しく刻まれていた。
「だだだ誰なのっ!?」
霧本は両手で押さえていた両手を口から離し、彼女達に問い掛けた。それに対し、カラスが腕を組み、不機嫌そうに彼を睨む。
「名を尋ねるのであればまず、自らの名を言うものだ。無礼者が」
「へっ!?」
カラスの眼光に思わず正座へと座り方を変え、体を震わせながら自分の名を彼に告げる。
「き、霧本俊也と……申します……」
「苗字だと? 貴様のような小僧に苗字があるのか」
「え……あるけど……」
当たり前の事を聞ゆぎかりれて戸惑っていると、女性が自分の胸に手を当てるなり口を開く。
「私は、雪女の雪霧だ」
その言葉に、霧本は閉じていた口を大きく引き攣らせた。
確かに、彼女の口から『雪女』という単語が発せられた。 雪女とは、あの妖怪・雪女の事を言っているのか?
雪女。雪が降る頃に現れ、惚れた男の嫁になる事を強く望んだ者。また、凍らせて永劫、傍に置くとも言われている。出会う人間に子供を持つ様に言い、子供を抱くと、どんどん子供が重くなり、埋もれて死んでしまうという話もある。地域によって名前も変わり、『ユキオンバ』とも呼ばれている。
「ゆ……雪女……」
すると、次にカラスが不機嫌そうに溜め息を吐きつつ、口を開く。
「我は烏天狗。名というものは無い」
烏天狗、別名小天狗。烏の顔を持ち、人里に降りては猛威を振るったと伝えられている妖怪。だが、伝承によれば、烏天狗が若き頃の源義経、牛若丸に剣術を教えたとも言われる鞍馬天狗の種類でもある。基本的には大天狗、天狗よりも下位に位置にする存在であり、同族の中では弱い立場に属する。
「うー……コロポックルっ」
唯一、こちらを見上げていた身長が一〇センチ程の子供が飛び跳ねながら言った。
コロポックル。アイヌ民族と共に過ごしてきたと言われている妖怪。妖怪として、何か悪さをしたという事はあまり記されていない。アイヌ民族の一人に、コロポックルの女性が捕まえられたという一件から姿を晦まし、それ以降、姿を見せる事は無かったという。
妖怪、妖怪、妖怪。
目の前に居るのは紛れもない、妖怪だ。人を恐怖に震わせた事がある妖怪が、霧本の下に現れてしまった。霧本は体をガタガタ震わせながら、手だけで後ろへと退く。
それに対し、雪女こと、雪霧が小さく笑いながら首を左右に振る。
「そう恐がるな。何もしない」
「おそらくな」
雪霧の言葉に重ねるようにそう言われ、霧本は小さく悲鳴を上げた。
「烏天狗、恐がらせるな!」
雪霧が烏天狗に怒るが、彼は鼻を鳴らしてはそっぽを向いてしまった。
「ふん、雪女に言われる筋合いではないわ」
「この鳥め……。すまない俊也という者」
雪霧が申し訳なさそうに霧本に謝罪し、軽く頭を下げた。
彼女はそれなりの常識を持ち合わせている様で安心した。烏天狗はともかく、ひとりだけでも危害を加えないと分かれば、幾分か気が楽になる。だが、妖怪には変わりないので注意は必要だ。いつ目の色を変えて襲いかかってくるか分からない。
「いや、いいけど……」
「ところで、今は何年だ? 江戸の時期から何年経っている?」
「え、江戸? 江戸だと……四〇〇年くらい」
霧本はそう答えると、三体の顔色が変わった。
「四〇〇年……。私は、四〇〇年もあの中に……」
「信じられん……。これ程の変化が……」
「うー……うー……」
深刻そうな表情を浮かべて呟く妖怪達に、霧本は顔を引き攣らせる。
言わない方が良かったのだろうか。しかし、尋ねられたら答える他ない。答えなかったら、凍らされそうで恐い。
「あ、あのぉ……一つ聞きたい事があるんだけど……」
「……何だ?」
雪霧が口元に当てていた手を下ろすと、霧本を向く。
「あなた達は、あの札の中に入ってたんだよね? どうしてあんなところに……」
「あぁ、その事か……。見ての通り、封印されていたのだ」
持っている三枚の札を、指を差しながら淡々と答えられ、霧本は札を見下ろす。
少し黒ずんだその札には、特に変わったものはない。正確には消してしまった。
札から顔を上げると、雪霧を見る。そして、もう一つ出来た疑問を問い掛ける。
「どうして、封印を?」
その言葉に封印された当時を思い出したのか、雪霧は顔を顰めさせ、忌々しそうに親指の爪を噛み始めた。どうやら、相当嫌な出来事だったのだろう。
「山に住んでいた私は、下りる途中、陰陽道の人間と出くわした。奴は私が人を襲う雪女と勘違いし、封印しようと襲いかかってきたのだ。近くに人を凍らして殺す雪女が身を潜めているのを聞いて来たのだろう。誤解を解こうにも、奴は構わずそれを使い、私を封印した。その時、この傷を付けられた」
噛んでいた手で左頬に刻まれた傷を擦り、青筋を立てながら吐き捨てる。
綺麗な彼女の顔が怒りに歪み、霧本は思わず小さな悲鳴を上げた。彼女の表情が、その陰陽師をどれ程恨んでいるのかを物語っていた。目の前に彼が存在していれば、間違いなく殺しかかるであろうと感じた。
すると、隣に居た烏天狗が青筋を立てている雪霧を皮肉めいた笑みを浮かべ、小さく笑う。
「はっ、人間如きに負けるなど笑わせる」
「何だと? お前も封印されているではないか。言える立場ではないだろう」
「貴様の様に、実力で負けた訳ではない」
「ほう? ならば言ってみろ」
「教える義理もないな」
烏天狗の態度に、雪霧の機嫌を損ねていくのが霧本には分かった。雪霧は烏天狗を睨みながら、噛んでいた逆の手の親指で人差し指と中指をゆっくりと擦り合わせる。その動作は癖の様で、その手を口元へと持っていくと息を吐く。息は夏なのにも関わらず、白く浮き上がる。その息の温度が極端に低いという事が伝わってきた。
「お前、どうやら砕かれて死にたい様だな」
「雪女如きにやられる我ではないわ」
烏天狗も、雪霧を睨みつけては腰に携えている日本刀に手を掛ける。
どちらかのあと一つの言葉で、この部屋が戦場と化してしまう状況だ。どうにかして、この状況を打破しなければ。先程まで烏天狗の傍に居たコロポックルは、いつのまにか霧本のベッドの下に逃げ込んでおり、涙目で事の成り行きを眺めていた。
とても話し掛け辛い状況だが、霧本は意を決して、彼らに話し掛ける。
「あああああのさっ!! 止めてくれないかな!? コロちゃんも恐がってるから!!」
霧本の言葉に、雪霧と烏天狗は彼を睨む様に見た後、ベッドの下で怯えるコロポックルを見下ろす。そして、ガタガタ震える彼女を見た後、互いに見合わせると、深く溜め息を吐いた。
「貴様は好かんが、関係のないあやつを巻き込むのは筋違いだな」
「確かに、我ながら大人げない事をした」
雪霧はベッドの下に居るコロポックルに歩み寄って膝を折り、彼女の頭を指先で優しく撫でた。
「すまないな」
「うー……」
コロポックルは両手で雪霧の指を掴むと、頬擦りをする。
「ふふっ。ところで、コロちゃんとは何だ?」
不意にその事を尋ねられ、霧本は視線を泳がせる。
喧嘩を止める材料として利用させてもらう時、彼女の種族を噛まずに言える保証はなかった為、種族名の上の部分だけを使って簡略化した次第だ。
「えっと……コロポックルって呼びにくいと思って……。だからコロちゃん。可愛いでしょう!?」
「ふむ……悪くないな。コロ、と呼んでもいいか?」
雪霧がコロポックルに問い掛けると、彼女は満面の笑みを浮かべて見せた。
「うーっ」
どうやら嬉しかった様で、雪霧の指を抱き締める。
「ありがとう」
雪霧も笑みを浮かべ、コロポックルを抱き抱えると胸元へ引き寄せ、立ち上がる。霧本はコロポックルの頭を軽く撫でるも、反応を示さず、彼女の視線が烏天狗の方へと向けられる。
それに気付いた烏天狗が怪訝な顔を浮かべ、目を細める。
「何だ……?」
「うー」
コロポックルが撫でている霧本の指をつつき、自分を指差した後に、烏天狗を指差す。それを意味するものが、霧本には分かった。
少し遅れて気付いた雪霧が悪戯に笑みを浮かべ、烏天狗の方を振り返る。
「こやつにも名を与えるという事か。良い考えだ」
「何!? 我は烏天狗だぞ! 我に名は必要ない」
「コロは、おぬしに自分だけの名が無いのを可哀相と思っているようだぞ?」
「そんな気遣いは無用だ。名を貰わずに一〇〇年以上生きてきた。今更――」
「子供の頼みも聞けぬとは、心に余裕の無い奴だな。聞き入れろ」
「ぐぬっ……」
烏天狗は雪霧に抱かれたコロポックルを見、言葉を詰まらせる。わなわなと体を震わせた後、彼女の純粋な瞳に根負けし、諦めた様子で肩を落とす。
「……好きにするがいい」
「子供が好きか、カラスよ」
「黙れ。そうではないわ」
「どうだか」
「で、我の名は何だ?」
「カラ助でどうだ」
「舐めているのか?」
あからさまに不機嫌そうに顔を歪める烏天狗に、雪霧は悪戯に笑う。
「頑固なカラス、ガンカラ」
「き……さま……」
「クロカラスケ」
「もういい、喋るな」
「うるさいカラス、ウルカラ」
完全に遊んでいる雪霧を無視し、霧本に視線を移してきた。霧本はぎょっとし、自分を指差す。それに対し、烏天狗は止む得ないと言わんばかりに頷き、変な名を言い続ける雪霧に呆れた様子で溜め息を吐く。
妙な名前を言えば、彼の怒りが爆発し、斬られかねない。真剣に考えなければ、死ぬ。
霧本は頭をフル回転させると、一つの名を絞り出す。
「か、カラス丸!!」
その言葉に、喋り続けていた雪霧が止まり、霧本を振り返る。そして、ぶすっとした様子で口を尖らせ、彼が言った名に文句をつけた。
「そんな単純な名はつまらんぞ。もっと変容を――」
「貴様のふざけた名付けの方がつまらんわ」
間髪入れずに烏天狗が大きな声で雪霧の発言を遮った。雪霧は不機嫌そうに烏天狗を向き、腕を組む。
「私は至って真面目だが?」
一点の曇りの無い顔に、悪ふざけというものが感じなかった。それを見て、霧本は只、単にネーミングセンスが皆無なのだと理解した。最初辺りに並べた変な名も性格から選んだ素敵な名前だと思って言った所存なのだろう。
「で、烏丸でいいのかお前は」
雪霧の問いに烏天狗は目を細め、少しばかり考えた後、霧本を見る。
「ましな名はそれ以外無いからな。いいだろう。今日から我は、烏丸と名乗る」
烏天狗改め、烏丸がそう告げる。それにより、コロポックルは嬉しそうに拍手をする。それを横目で見ると、気恥ずかしそうに目を逸らした。
「よろしくね、烏丸」
霧本が烏丸にそう告げるが、彼は目を見開き、獲物を殺す様な威圧感を霧本に向けた。
「人間の小僧に呼び捨てにされる筋合いはないがな」
「す、すいません……烏丸さん……」
霧本は雪霧の背に逃げる様に隠れると、烏丸の名を改めて呼ぶ。
「……名も決まった事だ。我は少し、現代の世を見てくるとする」
烏丸は不機嫌そうに鼻を鳴らすなりベッド横にある窓へと歩いていく。そして、窓を開けると足を枠にかけた。
「ちょ、ちょっと待って!!」
霧本は烏丸に駆け寄り、彼の服を掴んでは引っ張る。
「何だ」
烏丸は目を細めて振り返り、掴まれた服を僅かに前後させ、無理矢理引き剥がした。
「そんな姿で出歩いたら街がパニ……混乱するでしょうっ!?」
パニックという単語は伝わらないと思い、日本語に言い換えて彼に伝える。すると、烏丸が人を小馬鹿にするような顔を浮かべ、鼻で笑う。
「ふん。そんな事、分かっておるわ」
そう言うと、烏丸は窓から飛び降りてしまった。
霧本は慌てて窓から身を乗り出し、下を見下ろす。すると、地面に片膝を着けた男性が居るだけで、烏丸の姿はなかった。男性は立ち上がると、こちらを見上げるなり自分の顔を人差し指で差した。短い黒髪、目付きの悪い目、顎に生えた無精髭、茶色の浴衣に紺色の帯を巻いた三〇代前半程の男性だった。
霧本は目を瞬かせ、その男性を見つめた後、ハッとした様子で叫ぶ。
「烏丸……さん!?」
「人里に降りる時は、不服だが人間の姿をする。ではな」
烏丸はそう言い残すと、どこかへと歩き去ってしまった。
霧本は気が抜け、一歩後ろへと下がる。
昔の書物で特定の妖怪の悪行が数える程しか無い理由が少しだけ分かった気がした。妖怪は今の烏丸の様に、人間の姿を模し、紛れていたのだろう。そして、妖怪が活動しやすくなる夜になると、本来の姿に戻っていた。その考えが妥当だ。
「妖怪……計り知れねぇ……」
顔を引き攣らせながら言うと、後ろに居た雪霧がさも当たり前の様に、霧本の発言に待ったをかけた。
「烏天狗であれだから、更に上の妖怪となると巧妙になるぞ。何千年生きようが、幼い姿にだってなれる。先程の奴は、僅かに老けていただろう?」
「そうだけど……。雪霧さんは、姿は変えられる?」
霧本は振り返り、そう雪霧に尋ねるが、彼女は苦笑いしながら首を左右に振る。
「私は出来ん。妖怪ではあるが、姿は人間と差異は無い」
それに、と続ける。
「私は美しいから変える必要も無いだろう?」
長い後ろ髪を軽く払い、不敵に笑った。
冗談の要素を一切含まず、事実だけを述べた言葉だった。
自分の容姿に自信が無ければ、口が裂けても言えない様な言葉を、彼女はさも当然の様に言ってのけた。実際、彼女は現代の人間の中でも美女、それもとんでもなくだ。自分が見た中では一番の女性なのかもしれない。きっと、街で会えば間違い振り返るだろう。もしかすると、一目惚れだって有り得る。
「まぁ……確かに……」
苦笑いしながらそう答えると、溜め息を吐く。
「妖怪が三人? 体? とにかく、現代に殆ど居ない。本にしか記されていなかった物が目の前に居るなんて不思議な気分だよ」
「え、何を言っているのだ?」
雪霧はきょとんとした顔でそう言い、次の言葉を霧本に告げる。
「周りには妖怪は居るぞ?」




