1、あと0日_
大切な君のために、日頃の感謝を……。
7月19日
パサッ
いつも通りの朝だ。いつも通りの制服を着てネクタイを締める。
「今日は、早いですね。」
「……うん。」
眠そうに瞼を擦りツクヨが聞いてくる。なんだか、今日は早く目が覚めてしまった。…今日で最後。朝日を見るのも、この制服に腕を通すのも。大丈夫…。今日は、計画を立てた通りに過ごすんだ。自分を落ち着かせるために一息つき、そして、…最後に自分の部屋を出た。
「あら、おはよう水輝。今日は早く起きれたのね。」
いつも通りの母さん。いつも通り母さんが作ってくれた美味しい朝ごはんを食べる。
「……母さん。ありがとうね。」
「ん?急にどうしたの?」
「いや……これまでたくさん迷惑かけて……。それでも、…大切に育ててくれて……。毎日作ってくれるご飯もとっても美味しくて…本当にありがとう。」
僕は涙を流す前に全部言い切る。すると、母さんは本当に驚いたような顔をしていた。
「そんなの母親の当たり前。そんなことより私は、水輝がここまで大きく元気になってくれてものすごく嬉しいよ。あ、今日の夕ご飯は水輝の好きなハンバーグにするから、早く帰ってきておいで。」
今日の夕飯…。僕は今そんな近い未来を考えられなかった。
「じゃあそろそろ行ってくるよ。」
「うん。いってらっしゃい!」
その言葉を最後に僕は家を出た。
学校に着き、自分の席につく。今日はいつもよりだいぶ早く学校に着いた。いつも通りの学校と教室、クラスメイト。そして_
「おはよう!水輝!!」
いつも通りの眩しい君が挨拶をしてくれる。
「今日は凄いじゃないか!!いつもより15分早い登校だ!」
そう言って僕にキラキラした笑顔で褒める。
「あ、そうだ水輝!近くに母さんおすすめの喫茶店を教えてもらってな!今日の放課後、その店でこの前悩んでた演出を一緒に考えようではないか!!」
そう言って、僕を誘ってくれる。あ…そうだ、ちょうど1週間前に悩んでた、難題シーンの演出をど忘れしていた。あの時はあんだけ悩んでいたのに、僕が今日やろうとしていることは、それすらも忘れるほど大きな悩みなんだろうな……。
「…ごめんね。僕今日…昼過ぎに早退する予定だから…」
「…え、…あ、そうなのか…。じゃあ、また誘うな!!」
そう言い翼は自分の席に戻る。本当にごめんね。僕もまだ、君とたくさんのところに行って遊びたい……。でも、僕はもう………。…辛い気持ちを心の中に押し込めた。
「…ごめんね翼。外まで来てもらって。」
「構わん!昼食はもう食べ終わったしな!!」
「……うん…。」
学校の門前、そして、嫌な沈黙が続く。翼の姿を見ても悲しくなってくるだけだし……、もうそろそろ行こうかな…
「ごめん。…ありがとう。じゃあ、僕そろそろ行くね……」
「あのさ、水輝。」
僕がその場から逃げるように行こうと思ったその時だった……。
「お前、今日何か慌ててるだろ。」
「…え…?」
びっくりして顔を上げる。まっすぐな瞳で彼は僕を見てくる。
「何かあったか?」
表情は変わらず、優しい声で言ってくる。やっとわかった…秘密を言えないってこんな気持ちだったんだな……。翼はどんな時でも優しくて、隣にいるだけで安心して…だけれど……今は、そんな彼に甘えては……
「……っ!ごめん!!」
「っ!水輝!!!!」
そう言って僕は走って学校の門を出た。
「…いいんですか?あんな別れで……。」
ツクヨが聞きづらそうに言う。それは、、僕にも分からない。今一瞬にでも彼のことを思い出すと、涙が止まらなくなりそうだから。もう、翼に会うことはないだろう。そう思いながら止まることはなく僕は走り続けた。
着いたのは近くにある大型のショッピングモール。ここの3階にある流行りの商品を取り揃えているお店へと足を運ぶ。少しするとUrban Graceという文字が見えてくる。僕が学校に行かなくなった時、ここの服とメイク商品にハマり、通っていたお店だ。まぁ、今でも不定期にはなちゃったけどたまに顔を出している。だから、ここの店員さんとも顔馴染みだ。
「あら?水輝くん?久しぶりね!今日はどうしたの?」
僕が通っていた時にお世話になった飛鳥井さんだ。20代後半くらいの女性で、毎回おしゃれな服と綺麗なメイクに、お気に入りと言っていた可愛らしい髪飾りをしている。
「…久しぶりです。」
「?水輝くんどうしたの?今日学校は?」
そう言って僕に椅子に座るように促す。僕は力が抜けたかのように腰を下ろした。
「学校は…今日ちょっと予定がありまして……。だけれど、少し時間ができたので、久しぶりにここに来ました。」
飛鳥井さんは、そうなのね!と言い、何か思い出したかのように立ち上がる。
「確か、最近水輝くんに合いそうなシャツが入ったのよ!」
そして、奥から紺のイージーケアブロードシャツを持ってくる。オーバサイズで生地は薄めだから、これからの夏にもぴったりだ。
「試着だけでもしていってよ!絶対似合うから!!あ、じゃあ、これに合うズボンも探そっかなー。んー?あ!これいいんじゃない?」
そう出してきたのは、白のチノパン。紺と合わせるから少し清潔感と爽やか感が出る。そして、見せるように渡してくる。
「…ってか、水輝くんめちゃ薄くアイメイクしてる?………任せて!わたしが久しぶりにその服に合うメイクやってあげる!」
「……え!?…そこまでは……」
てか、アイメイクやってるの分かるのか…。ここの店で買ったアイシャドウ。学校は校則的に禁止だからバレないように薄くしているはずなんだけど…。
「今日水輝くんあんまり元気なさそうだから……。せっかく来てくれたんだから、楽しんでいってもらいたいなーって思って。嫌かな……?」
飛鳥井さんは心配そうに聞いてくる。今日本当は今までの感謝を伝えにくる予定だけだった。学校に行けなかった僕の唯一の居場所であり、自信をくれて、舞台の素晴らしさまで教えてくれた。この店と飛鳥井さんには感謝しても仕切れない。だからこそ…今は少しいいのかな………
「…ありがとうございます。…メイクお願いしてもいいですか…?この服試着したいです……」
「うん!!こちらこそありがとう!よし、わたしも気合い入っちゃうぞー!!」
そして、飛鳥井さんのメイクと服の試着が始まった。
「わぁ!!凄い!!!水輝くんかっこいいー!!」
約1時間後、服の試着も終わった。僕の前では、飛鳥井さんがスマホの写真でパシャパシャと僕を撮っている。今思い返せば毎回撮られているような気がする……。改めて鏡の前に立ち自分を見る。やっぱり……僕はこの格好が好きだ。不安で嫌だった自分に自信がつく。そして落ち着く。今もなんだか怖くて…心配だったけれど、自分のやることに少し自信が持てた気がする…。
「…今日は本当にありがとうございます。………いや今日だけじゃない、Urban Graceと飛鳥井さんに会った日からずっと……。学校に行かなくなった僕に優しく接してくれて…自信と希望…そして舞台も教えてくれて。本当に感謝しています…!!!」
僕は頭を下げる。このくらいしないと足りないくらいだった。
「そんな…急に言われても照れるなぁ……だけれど、わたしも水輝くんにはとても感謝してるよ!ここのお店大好きだーとか一時期はほぼ毎日来てくれて…わたしも楽しい接客ができたよ!!あと、水輝くんのファッションセンスものすごくいいからいつも学ばさせてもらっているし!こちらこそありがとうねー!!!」
いつも通りの飛鳥井さんの明るい声。中学の頃ここが唯一の居場所だと思っていた。そう考えると僕はこの人にどれだけお世話になったか……。
「あ、水輝くん、また来てよ!今度は予定がない時に!!」
僕はどう返事するか迷ってしまい、嬉しいのか悲しいのかどちらか分からないような作り笑顔を見せてしまった。
「次は、、どこへ向かっているのですか?」
少し早足で足を進める。今向かっているのは会社のビル。会いたい人がいるのだ。その時、とある店が目に入る。確か…あの店は…Urban Graceの帰りがちょうどご飯の時間だった場合、寄っていてた店……。その時、窓側の席に座っていた人に目が止まる。………僕が、今ちょうど会いたかった人……!
「次はここ…!この店に入ろう。」
そうツクヨに言って、喫茶店に入った。店に入り周りを見渡す。店員に知り合いがいますので…と言って窓から見えた席のところまで行く。
「…あの方って!」
ツクヨも気がついたようだ。つい数日前、彼の家の前で会った……
「お久しぶりです。ここ座ってもいいですか?」
「ん?って、え!?水輝くん!?」
ものすごくびっくりした顔をして僕を見たのは、翼のお母さんだった。
「驚いたよ〜。まさかこんなところで水輝くんに会えるなんて。っていうか制服のままだけど、学校はどうしたの?あ、まさかサボり〜?」
翼のお母さんはいじるように言ってくる。僕は店員にコーヒーを頼み、翼のお母さんに視線を戻す。翼のお母さんはカフェラテとパンケーキを食べていた。
「……まぁ、そんな感じです。」
すると、翼のお母さんは表情を柔らかくして、そうか。とだけ言う。
「お母さんもお昼休憩ですか?にしては少し遅いような気がしますけど…。」
翼からは聞いている。母親は仕事が忙しく、1日中働いていると。
「今日は出張だったんだよね〜。今はその帰り。ここのお店最近知って気に入ったんだ〜。仕事場からも近いし少し寄っていこうと思ってね。」
なるほど…。じゃあ、このパンケーキを食べ終わったら、また仕事に戻るだろう…。早めに話し始めたほうがいいな。…じゃあ、ここからが本題だ。僕は一呼吸をついて口を開いた。
「…この前翼から聞いたんです。自分自身の辛かった過去。今までのこと。……彼は僕にはできない生き方をしている。本当に凄いなって思っています。」
僕が言うと翼のお母さんは引き締まった顔をしてまた元に戻った。
「翼、周りの人から弱っちく見られそうでいやだから言わないって言ってたのに……ふふっ、水輝くんレアだよ〜。」
そう言ってパンケーキをパクリ。
「…でも、あの時は本当に大変だった……。」
思い出すかのように、少し下を向いて言う。
「私に両親がいなかったから、翼が生まれてからも本当に周りに人がいなくて……生まれた瞬間から体が弱くて、私もまだ若かったから不安だったし心細かったけど…、今は元気に学校に通ってくれている。本当に幸せで嬉しく思っているよ。」
そうあたたかな声で言った。
「水輝くん。本当にありがとうね。家に帰ったらね、毎日翼が君の話をしてくれるの。その話はどれも楽しそうで…。君には感謝しても仕切れない。ありがとう。」
翼のお母さんはまっすぐと、綺麗であたたかな瞳で僕を見ている。
「…この前さ、翼が熱出したでしょう?水輝くんが家まで来てくれた時。」
ついこの前の話だ。結構熱が高かったからとても焦ったのを覚えてる。
「翼にとっては人生初めての海だったんだ。だけれど、冷えたのか、急に熱が出てきて……あの時は本当にびっくりして…。次の日午前中は家にいてあげれたけれど、翼が仕事行ってきてもいいて言ってくれて…会社からも来て欲しいって言われてたから、午後からの出勤にしたんだよね。だけれど、本当に心配だったから早めに帰ったんだ。水輝くんからして21:00以降の帰りは早いのかーってなっちゃうかもだけれど、いつもはもっと遅い時もあって…。入院生活が終わっても翼には1人の時間を作ってしまっている…。ほんと、ダメだな…」
…あなたにはそんなこと言わないで欲しい。翼が、涙を流すほど言ってたんだ。この調子だと翼のお母さんは本人から聞いていないようだ。だから…
「この前……翼が話してくれた時に言ってたことなんですけど、母子家庭でもありながら病気がちな自分の面倒を見てくれて、遅くまで働いてくれて、自分が好きになるものまで教えてくれた。……本当の本当に感謝していると…。」
その時、翼のお母さんの瞳から静かに涙が溢れた……。僕は勝手に言ってまずかったか!?と少し心配になる。だけれど…
「翼……そんなこと言って……ごめんね。…だけど…ありがとう…!水輝くん…!!」
「…っこちらこそ、いつも翼にはお世話になっています。これからも、翼のことお願いしますね。」
僕がそう言うと、翼のお母さんは涙を流しながら笑った。その顔がやっぱり親子だなと思うくらいに翼に似ていた。
改めて読んでいただきありがとうございます!
PV数や、作品がランクインしましたと見るたびに嬉しくて飛んでおります。この作品もここまできたんだなと今、実感しております。ここ1週間ででXのフォロワーさんが一気に増え、たくさんの人に作品が届くように願っております。ありがとうございます!




