あと7日─
人の一番の幸せとは何なのか……。人生というのを考えてみる。仲間の大切さと命の尊さとは……。
とある病院の病室。
最近、症状がちょっとずつ悪化してきていて、酷い時は体が動きづらくなると聞いていたけれども…今日がまさにそうだ。
何も動けずただ真っ白な天井を見つめる。
「─そしたらね…」
…隣で母さんがいつも通り明るく話をしてくれている。
…だけれど、内容はあまり入ってこなかった。
こうやって、母さんは病院に来ては他愛のない話をしてくれた。
……しかし、自分はこんな状態だから母さんには何もしてあげれない……。
最近じゃ、体がどんどんと悪化してきているため、したいこと、やりたいことだってできなくなってきている……。
それ、ならば─
「─死にたいな…。」
自然と声に出ていた─。
その言葉に自分は何も感じなかったが、母さんがぎゅっと抱きしめてくる…。
「……ごめんっ…!…そんなこと、言わないでっ……。……私、いつか舞台に出るっ……役者さんになりたいって…言った時っ…とても、嬉しかったよっ…!!」
母さんの涙が伝わり、自分の目からも涙が溢れてきた…。
「……っ今は辛いけれど…いつか、一緒に舞台をやって…!……心から…大切だなと思える……っそんな仲間に出会えるから……!!…私が!あなたの……命なら、……きっと!!……そう…願っている─」
7月12日
ミーンミーン
「それじゃあ、解散!!!」
セミが鳴き始め、どんどんと気温が暑くなってくる7月中旬。
今日もいつも通り、放課後は部活だ。
僕たち演劇部は部員が4人と少ないながらも、みんなで意見や案を出し合いながら、楽しく舞台作りをしていっている。
演出の僕は今回の舞台の難題シーンに苦戦をし少々行き詰まってしまっている。
「おーい。水輝ー。そろそろ帰るぞー。」
悩んでいるのは、少年が秘密にしていたことを相手に勇気を出しながら伝えるシーン。
感情が爆発して思いっきり言うと観客に勇気と希望、感動を与える。
…しかし普通に考えて、今まで内緒にしていたことを急にそんなぶちまけることができるのか?それだったら…
「おーい!おーーい!!」
間をたくさん使い周りに緊張感を持たせるのもありだ。
何せ秘密だ。
自分が隠していたことを全部話すのだから、緊張の一つや二つするだろう…
「おーい!!!水輝!!!!」
「………っ!」
大きな声で自分の名前を呼ばれ我に返る。
ふと目の前を見ると、この部活の部長を務めており、僕の親友である翼が頬を膨らませながら立っていた。
「まったく……集中力があることは良いことだが、考えすぎもダメだぞ!ほら、もう部活終わったから一緒に意見を出し合いながら帰ろう。」
「え……部活……?」
周りを見ると、あと2人の部員─橘花凛と柊みお(ひいらぎ)も帰る準備ができていた。
…僕の悪いところは集中しすぎると周りが見えなくなるところだ……本当、ごめんなさい……。
「ほら、早く帰る準備をするんだ!」
「分かったよ…。」
怒られて、しょんぼりしているように見えるかもしれないが、僕はこの場所が居心地がいい。
そしてとても温かい。
─僕はこの部活が大好きだ。
***
「で、このシーンなんだけど…」
翼と2人で歩いて帰る通学路。
今回の問題のシーンを考え、答えを出しながら歩く。
……僕はこの時間も好きだ。
唯一の親友と、大好きな部活、舞台のことについて語る帰り道。
この時間はいつも終わってほしくないと願う。…だけど
「あ、もう別れ道のところまで来てしまったな…」
そう言われて台本から目を離す。
「そんな顔をするな。明日も部活があるし、こうやって一緒に帰ろう!それにお前のことだから、この後帰っても台本の修正や、演出を考えるだろう?」
確かに、言われてみればそうだ。と、僕はクスッと笑ってしまう。
「あ!そうだ!今年の夏もお前といろんなところへ行って遊びたいんだ!」
と、翼がスマホをいじりだすとほぼ同時に僕のスマホに通知が来きた。
「今年の夏に行きたいところリストだ!!!目を通してもらえるとありがたい。」
そう言ってスマホをしまい、またな!と元気に手を振った。
僕も、また明日。と手を振り返す。
僕とって、彼はとても眩しく見える。
その元気な姿が見えなくなるまで僕は見送った。
そして、自分の家へと足を向けたその時だった。
「─はじめまして。月岡水輝さん。」
…知らない顔の少女が僕の前に立っていた。
「え…?……僕の名前…。君は……誰…?」
「私は、死神の“ツクヨ”と申します。」
少女は話しながらぺこっと軽くお辞儀をする。
立ち姿はとても綺麗でどこかのお嬢様みたいだ。
年齢は10〜13あたりに見えるがその代わりとても淡々と上品に喋る。
というか、そもそも死神って……?
どうしてそんなものが……?
考えている間に少女は口を開いた。
「…単刀直入に言います。7日後の7月19日午後18:53、あなたの大切な人が─亡くなります。」
…その言葉に、僕は、息を呑んだ………。
「え…………?」
死神自体も怖いのに、死という単語が出てきて…。
急なことすぎて一瞬少女の言っていることが理解できなかった…。
「僕の大切な人が死ぬ…?どういうこと…そんな未来のこと…。それに、君と僕は初対面だ…。僕のこと何も知らないくせにどうしてそんなことが……」
僕が喋っている間に少女はポッケに入っていた手帳らしきものを開け、またしても淡々と述べ始めた。
「月岡水輝さん。年齢、16歳。高瀬野高校2年生。部活、演劇部。誕生日、2月17日。身長、178cm。家族は、父、母、姉、水輝さんの4人家族。好きなものは、ファッションとメイクで、嫌いなことは、早起き。……これでどうですか?」
…びっくりした。
こんな小さな子供から、僕の個人情報が山ほどと出てくる。
背筋が凍りとても怖かった…。
そんな僕を待ってもくれず、また少女が声を出した。
「では、先程も言いましたが、本題です。ちょうど1週間後あなたの大切な親友─“綾瀬翼”さんが亡くなります。」
「…は…?」
…言っている言葉は分かるのに、頭の中は処理できなくて…。
少女はそのままつらつら喋る。
「ですが、ひとつだけ翼さんを助ける方法があります。しかし、この方法を聞くと後戻りはできませんので、心の準備ができてからで大丈夫です。ですから、私は今日からの7日間、水輝さんと共に行動いたします。聞きたいことがあれば規則以外のことなら答えることができます。」
少女は顔の表情ひとつも変えず真っ直ぐな瞳で止まらず喋る。
は、話の展開が早すぎる……。
僕の頭の中は真っ白だった……。
「っ翼……?確かに僕の親友に翼って名前の子はいる…。だけれど、君が言っている翼と僕が知っている翼は違う子かもしれな……」
「綾瀬翼さん。年齢、16歳。高瀬野高校2年生。部活、演劇部部長。誕生日、9月6日。身長、162cm。家族は、母との2人暮らし。好きなことは、料理で、嫌いなものは、お化け。」
手帳を閉じ言い終わり、さっきと同様、これでどうですか?という視線を僕に向けてくる。
それよりも僕の心の焦りは大きくなっていく一方だった。
少女が言った翼は僕が知っている親友である綾瀬翼だったからだ……。
…翼が死ぬ……?
しかも一週間後………?
僕の頭の中は整理がついていない状況だ。
「─死神の仕事は、最後の数日までも幸せに生きてもらうためです。なので、私はあなたのところへ来ました。綾瀬翼さん。大切な親友でしょう?」
少女が言っていることは本当のことか、信じてもいいのか怖い。
だけれど、そんなことよりも僕は翼が死んでしまう方がよっぽど怖かった。
…友達のいなかった僕に話しかけてくれて、一緒に部活に入った唯一の親友。
そして今の時間がとても大好きな僕には、死ぬと知らされているのに、壊したくない。だから─
「……信じてもいいんだね…?本当に7日後に翼は……」
「はい。本当のことです。水輝さんなら翼さんを救う行動に出ると思っていました。」
少女は安心した顔をする。
「では、これから7日間よろしくお願いします。」
「分かった…。…よろしくね。ツクヨ。」
そうして僕は少し不思議で大切な7日間を過ごすのであった─
***
「まず、規則としては…」
再び家へと足を運ぶ。
そして隣ではツクヨが大事と言っている規則を話してくれた。
「えっと…まず1つとして、私の存在と7日後に翼さんが亡くなると言うことは口外禁止です。他言しないようお願いします。」
「え…あ、じゃあ他の人には君の姿は見えていないし、声も聞こえないのか…。」
「その通りです。なので、今も周りから見たら、でっかく独り言を喋っているヤバいやつとでも認識されるでしょう。」
「まじか……。」
それはヤバいな…。
とにかくそれは気をつけて…周りから見ても至って自然な感じに……。
「あと、私はこの現実世界のものは触れることができないのでご了承を。」
なるほど。
確かに今改めて見ると、少し透けて見える。
持とうとしても通り抜けてしまうところまでは見えた。
「あと最後に、……この7日間が終わったら、全ての記憶が消えます。死神の存在を人間が知っていると言うのは、規則的にダメなので。」
「…え…あ、そうなんだ……。」
これは驚いた。翼によって最後になるかもしれない1週間の記憶が消えてしまうなんて。
…っ…だからこそ─
「じゃあ、この7日間本当に大事にしなきゃだね。」
***
「ただいま〜。」
ドアを閉め、靴を脱ぐ。
するとリビングからいい匂いがしてくる。
「おかえり〜水輝〜。カレー、もうすぐでできるから、早く手洗いうがいしてきな。」
柔らかい声で返してきたのは、僕の母さん。
とても温厚な人で、好き嫌いが多く、中学ほぼ学校に行かなかった僕を一回も怒ったりはしなかった。
今思うと本当に感謝している。
「ほう……。ものすごく美味しそうですね。お母様はとてもお料理が上手ですね。」
と、口にしたのはツクヨだ。……って、
「い、家まで入ってくるの!?」
「?水輝?誰と喋ってるの?」
…母さんに言われ気づく。
あ、やばい……。さっそくやってしまった……。
僕以外の人にはツクヨの姿や声は見えていないんだった……。
「え…あーそんな、家の中に、誰かいるなんて…怖いこと…。おかしいな……僕、疲れているのかも……あはは……」
そう言いながら逃げるように自分の部屋へと向かった。
***
夜。
夕ご飯を終え、お風呂に入り自分の部屋に来た。
改めて思い返すとすごい1日だった。
死神に会って、一緒に行動するだのなんだの。
今も僕の部屋で少々くつろいでいるかのように見える。
だけれど、それよりも重要なことを知った。
…いや…知ってしまったのか。
─1週間後、翼が死ぬ。
それが僕の中で1番大きかった。
考えていると、ツクヨが僕のことをジロジロ見ていることに気づく。
そしてはあ…とため息をつき言った。
「コンシーラーで隠してたんですね。隈酷いですよ。」
「え……あ、そういや……昨日寝てないんだった…。」
まあ、よくあることだ。
僕の悪いところ。
集中してしまうと周りどころか時間も見えなくなる。
昨日の夜も今回の台本の演出を考えていたらいつのまにか朝だったのだ。
「今日はもう寝てください。」
そう言いベッドに促される。
「……今後のことは明日からで大丈夫です。」
少し強めに言われ目を瞑る。
その日はよっぽど眠かったのかすぐに寝てしまった。
改めて作品を読んでくださりありがとうございます。連載という形で投稿していこうと思っています。ノベルアップ+の方に作品を通して投稿してあります。ぜひ、そちらもよければ目を通してもらえると嬉しいです。次の投稿は1週間後を予定しております。




