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復讐なんだからしょうがないよねっ ~47人でかたき討ち~

作者: 村上空気
掲載日:2026/01/15

第1話:スパゲティ屋の二階で


 信じられるか?

 二年だぜ、二年。

 二年ぶり。


(くそ! 今日まで本当に長かった!)

 エイティは心の中で叫んだ。




 ――繁華街の裏路地に、時代から取り残されたスパゲティ屋があった。その二階に、懐かしい顔が揃っていた。


(アホ面がそろってやがるぜ!)

 エイティは思わず泣きそうになる。

(いや、泣かんけどもね。泣かんけども)

(だっておれ、ガンマンだし!)

 こらえる。


 間もなく、

「おい、エイティ!」

 と声がかかった。

 見れば、懐かしのザ・リーフが手を上げていた。

「こっちにこいよ」


 エイティは彼の隣に腰かけた。

 二人は無言で拳を合わせ、再会を祝した。

「二年ぶりだな」

「ああ、二年ぶりだ」

 二年ぶりだった。


「お前は変わらんなあ」

 エイティが笑った。


 ザ・リーフは

「わははは。お前だって」

 と言いかけたが、そこで口をつぐみ、

「……」


「なあ、皆」

 周囲の仲間に声をかけた。

「こいつ、なんか顔が変わったと思わないか?」


 じろじろじろり、皆がエイティを無遠慮に見つめた。

「うーむ……」

「おれの記憶では、もうちょっと芋っぽかった気がするが」

「うん。こんな春風みたいに爽やかに微笑むやつじゃなかったよ」

「ナイス・ガイすぎてなんかキモいぞ」

「……まさか、潜入捜査にきたスパイじゃねーだろうな?」

「潜入捜査をやっているのはおれたちの方だろ」


 仲間が言いたい放題言うのを聞いて、

「そりゃ顔だって変わるさ」

 エイティはワインをあおった。

「だっておれ、もう二年も銀行員をやっているんだぞ。営業スマイルってやつが張りついちまったよ」


 皆が爆笑した。


「笑いごとじゃねーって」

 エイティは嘆息。

「以前はお前らと一緒に馬にまたがって悪党を追いかけていたこのおれが、いまじゃお客さまに金融商品を勧める毎日よ」


 さらに、

「今日も百万ドルの大口契約を取りつけちまった」

「このままいったら支店長の娘さんと結婚して、出世コースに乗っちまう」

「おれの二つ名を聞きたいか? 契約書チェックの鬼、だ」

「胃に穴が開いた。悪党の体に穴を開けるのがおれの本業のはずなのに、穴が開いたのは自分の胃だ。何だこれ」


 堰を切ったかのように、エイティの口から愚痴があふれ出した。

 よほどストレスが溜まっているらしい。


 ザ・リーフは苦笑いして、

「落ち着けよ」

 エイティの肩を叩いた。

「どうどう」

「馬にも長らく乗ってねーなあ……」

「まあ聞けって」


 ザ・リーフは、エイティのグラスにワインを注いでやった。

 そしてあごをしゃくった。

「いいか。――クラークの兄貴は、いまは煙突掃除人をやっている」

「ほぉ」

「で、肺を病んだそうだ」

「大丈夫なのかよ!?」


「それから、カーターは牧師になった」

「ふむ」

「毎日たくさんの人の悩みを聞く内に、この世には神なんていないと確信したそうだ」

「……それ、大丈夫なのか?」


「フーバーの野郎は、イタリアン・マフィアに潜入中だ。いまじゃ大幹部だってよ」

「元保安官がマフィアの幹部か」

「最近は善悪の区別がつかなくなりつつあると言っていた」

「……ダメだろ、それ」


 ふと部屋の奥に目をやると、総白髪を肩まで伸ばした男がいた。

 頬はこけ、目は昏い。

 そして――妙に存在感が薄い。


 さすがのエイティもこれには仰天、

「ゆ、幽霊だ!」

 声を上げた。


 だがザ・リーフは、

「いや、ありゃゴールドバーグさ」


「……ゴールドバーグの幽霊か?」

「ただのゴールドバーグだ」


 よくよく見れば、なるほど、面影がある。

 ゴールドバーグはハンサムな男だった。いまも端正な顔立ちといえばその通りだが、しかしなぜあんなふうに!? 


「あいつの役目は、キール邸の地図を入手することだった」

 ザ・リーフが言った。

「やつは美貌を活かして、キール邸を作った大工の娘に接近し、甘い言葉をささやいて大工が所有していた地図を持ってこさせることに成功した」


「ほぉ、大手柄じゃないか」

「ああ、大手柄さ。だが結果的に娘さんを騙すことになった。やつは良心の呵責に苦しみ……」

「ははあ。あの髪はストレスが原因か」


 エイティがつぶやく。

「……皆、苦労しているんだなあ」


「そうだな。だが仕方ないさ。すべてはオヤジさんのかたきを討つためだもの」

「そうだったな。うん、そうだった」




◇◆◇◆◇




 何しろ二年ぶりに会ったのだ。積もる話もある。

 というか積もり積もっている。

 エイティらは酒をくみ交わし、大いに盛り上がった。


 やがて、

「皆、聞いてくれ」

 カーターが立ち上がった。


 彼はくそ真面目な男であり、二年前と同じく今日もまた、くそ真面目な顔をしていた。

 エイティはちょっとなごむ。


 しかし、なごんでいる場合ではなかった。


 カーターが言った。

「今日集まってもらったのは他でもない。ついにFBIが――あのファッキンFBIが、おれたちを重要監視リストから外したそうだ」


 部屋が静まり返った。


 カーターは続けた。

「長かった。この二年間は本当に長かった。だがいまや、おれたちは自由の身となった。そして自由になったってことは――そう、事を起こす準備が整ったってことだ!」


 皆の視線が、兄貴分のクラークに集中する。


 クラークはにこにこと微笑みながら、

「ゴーだ」


 その言葉に、一同は歓声を上げた。

「ついにきた! ついにこの時がきたぞ!」


 泣き出すやつもいる。

「おれ、不安だったんだよ。監視リストから外れるのを待つ間に、キールの野郎が天寿をまっとうしちまうんじゃないかって、毎晩不安で不安で……」


 皆が騒ぐのを見て、

「おい、お前ら!」

 カーターが慌てる。

「誰かに聞かれたらどうするんだ! 計画がおじゃんだぞ」


 おっと、そりゃまずい。

 皆は口をつぐんだ。


 とはいえ、この興奮は押さえられるものではない。


 かくして、

「ボーノ、ボーノ!」

 ザ・リーフである。

「ボボボボボーノ!」

 彼は叫んだ。


 皆はぎょっとする。

 こいつ、いきなりどうしたんだ!?


 だがすぐに気がついた。

 そうか、ここはスパゲティ屋だ。それらしい言葉ならいくら叫んでも問題ないだろう。

 というわけで口々に、

「ボーノ!」

「デリツィオーゾ!」

「ボンジョルノ!」

「イタリアン・ピッツァ!」

「パスタ・美味デース!」

「トレビアーン!」

「バカ、それはフランス語だ!」

 喜びを爆発させた。




◇◆◇◆◇




 騒ぎがひと段落したところで、改めてカーターが言った。

「皆、心してくれ。決行は来週の金曜日。ここにいる者で、例の計画を実行に移す。いいな」


 エイティらは大きくうなずいた。


 しかし――、

「あれ」

 誰かが言った。

「コッヘルの姿がねーぞ?」


 ざわめきが起こった。

「やつはどうしたんだ?」

「まさかあの野郎……」


 クラークが立ち上がった。

「それについては、おれから話そう」


 クラークは穏やかな口調で続けた。

「コッヘルはこの戦いから外れることになった」

「……」

「じつは昨日、やつがおれのところにきてな、情報収集のために始めた喫茶店が軌道に乗った、恋人もできた、結婚も考えている、とまぁこう言うんだよ」


「そ、それじゃあアニキ!」

 カーターの顔色が変わっていた。

「つまりやつは、オヤジのかたき討ちをやめるって言うんですかい!?」


 クラークは苦笑。

「おい、カーターよ、そう高ぶるな」

 さらに部屋をぐるっと見回して、

「お前らもだぞ。ほら、フーバー、拳銃をしまえ。やめろやめろ、弾を込めるな。こら、ホリス。おい、ホリス。お前はナイフなんて握りしめてどうする気だ。いや、ナイフの代わりにフォークを握ってもだめだ。そういうことじゃない。フォークならいいなんて言っているんじゃない」


 クラークは

「まったくもう。お前らは成長せんなあ」

 どこか嬉しそうにつぶやくと、一度咳払い。


 そして

「コッヘルはな」

 と話を戻した。

「おれにこう言うんだよ。――もうどうしていいかわからない、って。もちろんオヤジのかたきは討ちたい。最期まで保安官でありたい。とはいえ店や恋人のことも諦められない。もう自分じゃどうしていいかわからないから、いっそ撃ち殺してほしい。やつは泣きながらそう言うんだよ」


 皆はじっとクラークの言葉を聞いていた。

 

「だからおれは言ったよ。生き続けてオヤジについて語り継ぐ者も必要だ。お前にはそれを頼みたい、ってな」


 クラークは微笑んだ。

「――おれは嬉しいんだ。わかるか? おれを含めてバカが四十七人もいた。コッヘルの離脱は残念だが、それでも同志が四十七人もいる。それで十分じゃないか。な、そうだろ? あの世でオヤジだってきっと喜んでいるよ」




第2話:死出の道


 ザ・リーフは音楽の天才だった。


 いや、「天才」は言いすぎか。

 言いすぎだったかもしれない。


 まあいずれにせよ、音楽的な才能を持っていることは間違いない。特に、アコースティック・ギターの腕はプロレベルだった。


 だから保安官を罷免されてから今日までの二年間――エイティが銀行員になってキール家の財務状況を探り、ゴールドバーグが女をだまくらかしてキール邸の地図を入手していた時――、ザ・リーフは流しの歌手をやっていた。

 クラブやバーを回って情報収集するのが、彼の役目だった。


 ――討ち入り決行日の前夜。

 ザ・リーフは、小さなクラブにいた。


 今日も今日とてカントリー・ミュージックを奏で、歌い、

「ではいい夜を!」


 控え室に戻ると、一人の女が待っていた。

 女の名はフランキスカ。通称キカ。何度かベッドを共にしたことがある相手だ。


 キカはにこりともせずに、開口一番こう言った。

「あんた、何かあったのかい?」


 ザ・リーフは小さく笑った。

「急にどうしたんだよ」


 キカは無言だった。


 ザ・リーフは再び笑って、

「おいおい、無視かよ」

「……」

 無視だった。


「さてはおれに本気で惚れたか?」

「……」

 やはり無視だった。


 キカは、ザ・リーフをじーっと見つめていた。


 ――ザ・リーフはこういうのに弱かった。

 彼はたまらず、

「……なぜわかった?」


「そりゃわかるさ」

 キカは鼻で笑った。

「あれだけ別れの歌ばかり歌ってりゃあね」


(あ……)

 振り返ってみれば、その通りだった。

 その日、彼は無意識の内にその手の歌ばかり歌っていた。


 改めてキカが訊いた。

「あんた、何かでかいことを企んでいるだろ?」


 ザ・リーフは舌を巻く。

(鋭い女だ……)


 さらにキカは、

「いつか言っていた、オヤジさんって人のかたき討ちだね?」


(鋭すぎる!)


「やれやれ。かたき討ち、ねぇ。そんなことをしたらよくて終身刑、悪けりゃ死刑だろ。まったくよくやるよ……」


 そんなキカに対して、

「ふっ」

 ザ・リーフは前髪をかき上げた。

 そして

「もう覚悟しちまったことだ。止めてくれるなよな……」

 とキザにきめた。


 ところがキカは、

「え? いや、止めないけどさ」

 一ミリたりとも止める気はなさそうだった。


(こら、ちょっとは止めろ!)

(人が終身刑か死刑になることをしでかそうってんだぞ? ちょっとは止めろ!)

 心の中で叫ぶザ・リーフ。


 しかし、

(……ま、まあいいだろう)


 すぐに気を取り直し、

「どんな結果になるかわかっていても」

 たばこに火をつけた。

「それでもやらなきゃならないことがある。それが男ってもんさ……」

 紫煙を吐き出した。


 キカは言った。

「……アホらし」


(このアマ!)

(人が男の道を語っているのに、それを「……アホらし」のひと言で片づけるな!)

(だいたいその三点リーダは何だ!)


 内心わめきつつもザ・リーフは平静を装って、

「アホらしい、か。そうだな。まさにその通りだ。男ってのは総じてアホなのさ……」

 再び紫煙を吐き出した。

(これでどうだ!)

(今度こそきまっただろ!)


「ふーん」

 キカは言った。

「――来世は女に生まれてくるといいね」




◇◆◇◆◇




 金曜日の夕方。

 雪でも降りそうな寒さの中――。


 四十七人は、テキサス州立墓地に集合した。


 全員が馬にまたがり、今日この日のために隠し持っていた衣装に身を包んでいる。

 ワイシャツにジャケット。

 レザー製のカウボーイ・ハットとブーツ。

 もちろん腰には、ガン・ベルトが巻かれている。


 エイティは半べそをかいていた。

「これだよ、これ。これが本当のおれさ。契約書チェックの鬼だなんてもう誰にも呼ばせないぞ!」


 エイティの隣では

「ふふふ……」

 ホリスが不敵な笑みを浮かべていた。

 彼は一人だけ農耕馬にまたがり、ガトリング・ガンを担いでいた。

 曰く、

「滅茶苦茶にしてやるぜ……」

 農耕馬を選んだのは、ガトリング・ガンが重すぎて普通の馬では運べないからである。

 保安官の格好でずんぐりむっくりした農耕馬にまたがるホリスはひどく不格好だったが、だからこその迫力があった。




◇◆◇◆◇




 四十七人はカウボーイ・ハットを脱ぎ、アーサーの墓に向かって無言で挨拶すると、

「さあ行こう」

 キールの屋敷に向かって移動を開始した。


 街の人の邪魔にならぬように、彼らは車道の端を一列になって進んだ。

 兄貴分のクラーク曰く、

「おれたちはマフィアじゃなければ、殺人鬼でもない。ただかたきを討つだけだ。だから法を遵守しなければならんよ」

 というわけだ。


 しかしそれにしても、馬四十七頭、じつに二百メートルにも及ぶ長い隊列である。彼らの故郷サンアンジェロのような田舎町ならまだしも、ここは大都会オースティン。

 猛烈に目立つ。

 街の人びとは四十七人を見つめ、

「今日は何かのお祭りだっけ?」

「えーと、たしかイエスさまの……」


 やがて赤信号にぶつかった。

 先頭のクラークが手を上げ、合図を出した。

 四十七頭の馬がぴたっと停まる。


 通行人が近づいてきて、

「あのぉ」

 クラークに声をかけた。

「おたくら、もしかして二年前の」


 二年前――パイン・ロード事件とそれに端を発する騒動は、広く報じられた。アーサーのみならず、クラークらの顔写真を載せた新聞も少なくない。


 いまも当時のことを記憶している者がいたようだ。


 クラークは男の言葉にうなずいた。


 男はごくり、唾を呑み込んで、

「そ、それじゃあ、まさか今日は……」


「ああ。たぶんあんたがいま想像している通りだよ」

 クラークは微笑んだ。

「おれたちは今日、やるべきことをやりにきたんだ」


 男は天を仰いだ。

「ザッツ・クール!」

 そして、

「かたき討ちだ! ガンマンがかたき討ちにきたぞ!」


 その声に周囲の者がどよめいた。

 騒ぎになった。

「それじゃあこのにいさんたちは、二年間も耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍び、かたき討ちの準備をしていたってことかい!?」

「立派なもんだ!」

「神の祝福を!」


 もちろん、「二年前」だの「かたき討ち」だのと聞いてもピンとこない者もいるようだが、そこはアメリカの男である。ノリがいい。

「オー、イエース!」

「イエース、イエース!」

 お祭り騒ぎになった。


 数人の男がぱっと車道に飛び出した。

 彼らは体を張って車を止めると、

「さあ行ってくれ!」

 とクラークらに手を振った。


 車が抗議のクラクションを鳴らすが、

「おいこら! 少しぐらい待てねーのか!」

「こちとら、かたき討ちだぞ!」

 買い物帰りの男が、車のフロント・ガラスに卵を投げつけた。


 クラークはカウボーイ・ハットを軽く持ち上げて、

「ご厚意に感謝する!」

 道を進んだ。




第3話:男子の本懐


 四十七人は、目的地に行きついた。


 キール邸。

 バカでかい家だった。


 クラークが正門の前に立ち、拡声器を握った。

「邸内の諸君」

 彼は呼びかけた。


「われらは、アーサーの無念を晴らすために参上したガンマン四十七人である。本日はキール殿のお命を頂戴つかまつる。ただし、他に恨みある者はあらず。道を開ければ危害を加えることはない」


 挨拶が終わると同時に、カーターが正門に小型爆弾を仕掛けた。

 すぐに起爆。

 轟音とともに、正門が吹き飛んだ。


 ――こうして討ち入りが始まった。




◇◆◇◆◇




 四十七人は、

「お先に!」

「お先に!」

「お先に!」

 順々に門をくぐり、前庭へなだれ込んでいった。


 キールはきっと屋敷の奥の方にいるに違いない。


 四十七人は前庭をつっきって屋敷に向かった。

 ――が、バキューン、バキューン、銃弾が飛んできた。


 そう、用心棒が待ち構えていたのである。事前に得た情報によると、キールが雇ったイタリアン・マフィアどもだ。


 四十七人は木の陰などに身を隠し、応戦。

 激しい撃ち合いとなった。


 間もなく、

「おい、ブーツのひもがほどけているぞ!」

 誰かが叫んだ。


 ホリスだった。

 そして――それが合図だった。

 エイティらは一斉に、その場でうつ伏せになった。


 直後、ホリスのガトリング・ガンがうなりを上げた。

(おらおらおら! 二年間のストレスをいまこそ発散してくれるわ!)


 彼は撃ちまくった。

 用心棒どもは、あっという間に穴だらけになった。


 だがホリスは止まらない。

(おらおらおら!)

 屋敷の窓が割れる。壁が吹き飛ぶ。


 エイティは

「おい、ホリス!」

 慌てて声をかけた。

「もう十分だ! そんなに撃ったら弾がなくなるぞ!」


 ところがホリスは、

「何? 何だって?」

 すさまじい連射音のせいでよく聞こえないらしい。


 エイティは声を張り上げた。

「もう十分だって言ったんだよ! そんなに撃ったら弾が」

「え?」

「弾!」

 直後、音が止んだ。


 弾を撃ち尽くしたらしい。


 ホリスはぽきぽき、ぽきぽき、満足げに指を鳴らしながら、

「で、何だって?」


「……いや、いいんだ」

 エイティはウインクを送った。

「見事な銃撃だったよ」


 ホリスは

「だろ?」

 にやりと笑ってみせた。




◇◆◇◆◇




 屋敷に突入した四十七人。


 彼らは一部屋ずつ中をあらため、キールを探し、そこに用心棒がいれば撃ち殺していくわけだが、

「くそ!」

 エイティが舌打ちした。

「やりづらいことこの上ない」


 タッグを組むザ・リーフも

「まったくだ!」


 何しろ邸内には、無抵抗の使用人も少なくないのだ。彼らを誤射するわけにはいかない。

 かといって用心棒を相手に一瞬でも撃ち遅れれば、自分が死ぬ。

 難しい戦いだった。


 エイティとザ・リーフはドアを蹴破り、次の部屋に飛び込んだ。

 そこは応接室のようだった。


 部屋の隅にはメイドが一人。両手を上げ、抵抗の意思はないとアピールしていた。


 ――ん? メイド?

 たしかにメイド服を着ている。

 着ているのだが。


 エイティは顎を撫でた。

「角刈りのメイド、ねぇ……」

 そのメイドは角刈りだった。


 ザ・リーフもささやいた。

「おい見ろよ、あのすね毛。まるでワカメだぞ……」

 そのメイドのすね毛はほとんどワカメだった。


 ――そう、メイド服を着ていたのは、むさくるしいおっさんだったのである。


 エイティとザ・リーフは、一瞬で悟った。

 ははあ、こいつ用心棒だな。

 自分たちに勝ち目はない、このままでは皆殺しにされちまうとビビったのだろう、メイドに扮してエイティらの目を欺き、逃げ出そうとしていたわけだ。


 二人は、偽メイドに銃口を向けた。

 引き金に指をかけた。


 が、

「……多様性の時代だからなあ」

 エイティは首をひねった。

「角刈りだから偽メイドだって決めつけるのは、ちょっと乱暴すぎるか?」


「ふーむ、いいところに気づいたな」

 ザ・リーフがうなづく。

「言われてみればその通りだ。キール邸が髪型自由で、働きやすい職場だった可能性がある」


「となると、あの足もそうだ。もじゃもじゃすね毛のメイドがいちゃいけないって法はないだろ?」

「いよいよ働きやすい職場だ」


 そんな二人の言葉に、メイドはほっとした様子。

 露骨に肩の力が抜けた。

 そしてそのせいで、ごとり、拳銃が床に落ちた。エプロンの中に隠し持っていたものである。


 メイドは

「……うっ!」

 野太い声だった。


 エイティとザ・リーフは顔を見合わせた。

「――声は気にしない」

「ああ、声が太いメイドがいたっていい」

「だが銃はダメだ」

「そう、銃を隠し持っていたのはいただけない」


 二人は大きくうなずき合うと、ためらいなく引き金を引いた。

 メイドは脳漿をぶちまけて死んだ。


 薬室に新しい弾を込めながら、

「やれやれ」

 ザ・リーフは嘆いた。

「政治的に正しい射殺ってのも大変なもんだぜ」




◇◆◇◆◇




 用心棒は数こそ多いものの、じりじり、じりじりと追いつめられていった。

 そりゃそうだ。彼らは所詮はアウトロー。正規の訓練を受けた元保安官四十七人の敵ではない。


 中には

「見逃してくれ!」

 と命乞いする者もいたが、

「あいにくですがお客さま、当行では命のリボ払いは受けつけておりません」

 エイティらは容赦なく撃ち殺していった。


 やがて

「提案がある!」

 用心棒の親玉が言った。

「決闘を申し込みたい」


 クラークが応じた。

「決闘?」


「ああ。ガンマン同士、早撃ち勝負で決着をつけようじゃないか」


(「ガンマン」のひと言で、おれたちとお前らを一緒にしないでほしいんだがなあ)

 クラークは心の中で苦笑しつつも、

「いいだろう。決闘だ」


 ずらり、庭に四十七人の元保安官が並んだ。

 対するは、用心棒四十七人。


 要するに、四十七人同士が向き合って立っている。

 一対一の早撃ち対決×四十七である。


 風が吹く。

 落ち葉が舞う。

 微動だにせずに、睨み合う九十四人――。


 その場にい合わせたメイドたちがささやいた。

「……あの人たち、何しているの?」

「決闘ですって」

「決闘? さっさと撃ち殺しちゃえばいいのに……」

「本当よねえ」

「どうせ男のロマンってやつでしょ、男のロマン」

「あー、あれね」

「そうそう、あれよ」

「はあ、アホらし……」


 ほどなくして、ひらり、天から雪が落ちてきた。

 それが合図になった。


 全員が腰のホルスターに手を伸ばした。

 拳銃を抜いた。

 引き金を引いた――。


 どさどさ、どさり。

 数秒後、用心棒四十七人がその場に崩れ落ちた。


 一方、エイティら四十七人は銃口から立ち上る煙を

「ふっ」

 息で吹き飛ばすと、拳銃をくるくるっと回し、ホルスターに戻した。




◇◆◇◆◇




 用心棒は片づけた。

 屋敷の中はさんざん探し回った。


 が、肝心のキールが見つからない。


「あの野郎、どこかに隠れてやがるな」

「よーし、探し出すんだ」

「ふふっ、懐かしいな。まるでスカベンジャー・ハントだ」

「学生時代を思い出すよ」

 四十七人は大盛り上がりである。


 彼らが

「二人一組でいこうか?」

「待て待て。それじゃあ一人余っちまうぞ」

「なら三人一組で……いや、これも割り切れんな」

「おい、四十七って素数じゃねーか?」

 とわいわい相談していると、

「ねえ、おにいさんたち!」

 メイドである。


 彼女は言った。

「キールさまなら炭小屋の中だよ! あたし、隠れるのを見たんだ」


 その言葉に、

「……」

 四十七人はじとっとした目つきになり、肩をすくめた。


(せっかく盛り上がっていたのによぉ)

(これだから女ってやつは)


 四十七人は、メイドら使用人を屋敷の外に避難させた。

 それから、庭の角にあった炭小屋に爆弾を投げ込むと、彼ら自身もその場を後にした。


 間もなくどかん。

 炭小屋が木っ端みじんに吹き飛んだ。


 かたき討ちが終わった。




◇◆◇◆◇




 キールを討った後、四十七人は逃げ隠れすることなく、堂々と裁きを受けた。

 そして罪人として、アルカトラズ連邦刑務所に送られた。


 そんな彼らの胸元できらりと輝くのは――おお、大統領から授与された名誉勲章だ。


 大統領はメディアの前でこう語った。

「かたき討ちを認めることはできないよ。彼らは殺人犯だ。それは間違いない。だがしかしね、親分のために命をかけて戦った彼らの熱い想いを否定することはできない。あれこそアメリカン・スピリットじゃないか! フロンティア・スピリットじゃないか! 私は感動したねぇ!」


 この大統領は、翌年の選挙で大敗した。

 女性票を失ったからである。

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