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その孤児は魔術の真理を知っている  作者: とうもろこし@灰色のアッシュ書籍版&コミカライズ版配信中
1章 真理を知る孤児

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第9話 他人には無い能力


 カイルがゴブリンとの戦闘を開始して数分、ゼインとカークがカバーする方角からはゴブリンが現れなくなった。


「終わりか?」


「いや、向こうに集中しているんだ」


 無秩序に襲い掛かって来ていたゴブリン達は、森の中で一度集まり直してカイルの方へと集中しているように見える。


「これは指揮官がいるぞ」


 カークが森の奥を睨みつけ、すぐにカイルを助けようと提案するが――


「いや、我々の助けは不要だろう」


 ゼインは目を細めながらカイルの戦闘を観察する。


 一撃でゴブリンを灰に変える火の魔術。しかも、魔術の大きさ自体はファイアボール程度だ。


「あれほど小さな火球でゴブリンを灰に変えるなど不可能だ」


 魔術の基礎を知っていれば知っているほど、近代のスタンダードとされるテンプレート魔術を知っていれば知っているほど意味不明に見えるだろう。


 剣を鞘に納めたゼインはカークと共にマリューの元へ向かう。


「マリュー殿、あれが火の真理を知る者の力ですか?」


 ゼインとしては「そうだ」と肯定してもらえると思っただろう。


「正直、私も驚いている」


 しかし、予想に反してマリューの眉間には深い皺が出来ていた。


「あやつ、既に三十発以上もの魔術を連射しておる」


「は?」


 途中から戦闘に気付いたゼイン達は知り得なかった事実だ。


 カイルの総発射数は既に三十を越え、たった今四十発目に到達した。


「異常だ」


 マリューの眼光は鋭い。


「仮に消費魔力がファイアボール以下だったとしても、常人ならとっくに魔力切れで気絶しておる」


 上手く当てられないせいもあるが、カイルは常人の域を軽く飛び越える量の魔術を放っている。


 常人なら撃てて十五発。魔力量が多いとされるマジカルエリートでも二十発が限界だろう。


 しかし、カイルはその倍をいく。


 無尽蔵の魔力を有していると想像してしまうほど。


「当たらない分、まだ撃ち続けておる。あれほどの魔術行使は私にも無理だ」


 風の魔女と呼ばれるマリューでさえ、ここまで魔術を行使し続けるのは不可能である。


「ど、どうして彼は……」


 目を見開いたまま、カイルへ釘付けとなっているカークが呟いた。


「今はそういうタイプのアレテイア・ホルダーとしか言えん」


 カイルが特別なのか。


 あるいは、アレテイア・ホルダーの中にも特質した部分を持つ者が生まれるのか。


 世界に三人しか存在しない以上、マリューが今答えを出すのは不可能だ。


 ただ、彼女の顔には笑みがあった。


 それは強い好奇心と純粋な歓喜、それに少量の狂気を混ぜたような笑みが。


「五十を突破したな」


「森が開けてきましたね……」


 カイルの前方、ゴブリンがやって来る方角は扇状に森が切り開かれた状態になってしまっている。


「加えて、あの威力。第三階梯攻撃魔術のファイアジャベリンどころか、第五階梯のファイアストームを越える威力じゃ」


 カイルが魔術を完全にコントロールできるようになったらどうなってしまうのか?


 末恐ろしい、とマリューは吊り上がっていた口元を手で隠す。


「ヌシが現れましたね」


 森の奥から悠々と登場するヌシを目視したカークが呟く――が。


「……灰になったぞ」


「灰になりましたね」


「…………」


 騎士団総出で相手にしないといけないレベルの魔物が一撃で死亡した。


 しかも、文字通り灰になって。サラサラと穏やかな風に攫われて跡形もなく。


 これにはゼインもカークも口を開けて呆然。


 戦闘を見守っていた騎士や冒険者達も「これは夢か?」と目を擦ってしまう。


「これは今後が楽しみじゃのう」


 イッヒッヒッヒッ! と笑うマリューに対し、ゼインは少々顔を強張らせつつも笑みを浮かべた。




 ◇ ◇



「急性魔力消耗症の症状はありません。魔物との戦闘で生じた緊張が原因でしょう」


 吐いた僕を診察してくれたホープライン様の答えは「過度なストレス」であった。


 特に薬を飲む必要はなし、とのこと。


「う、うう……。すいません……」


 確かにその通りかな、と思う。


 乗り切った、クロフト様を守り切ったと安堵した瞬間、魔物と戦ったという現実が僕の脳に重く圧し掛かってきたのを自覚できた。


 無我夢中だったとしても、体は極度のストレスを感じ続けていたのだろう。


 加えて、初めて魔物を殺したという事実。


 凄惨な状態の死体を見たというわけじゃないけど、一瞬で灰に変わる姿を思い出すと……よりリアルというか。


 斬った突いたの手応えが無い分、いらない部分まで想像しすぎてしまうというか。


「……大丈夫ですの?」


「だ、大丈夫です」


 医療品の一つとして持ち込まれた毛布の上に寝転ぶ僕の視界いっぱいに、クロフト様の綺麗なお顔がアップで映し出される。


「すいません、服は汚れませんでしたか?」


「もう。そんなことは気にしないで下さいまし」


 隣に腰を下ろしたクロフト様は、優しく僕のお腹を摩る。


「どうしてあんなことをしましたの?」


「その、クロフト様を助けないと思った一心で……」


「そう」


 一言呟いたクロフト様はフイと顔を逸らす……が、彼女の耳は真っ赤だった。


「クロフト様、熱があるんじゃ?」


「あ、ありませんわ!」


 クワッと激しい反論を頂きつつも、僕のお腹を摩る手が超スピードアップ。


 僕のお腹から火が出るんじゃないかってくらい。


「わ、私だって戦えますのよ!? 見ていたでしょう!?」


「はい、見ていました。あの巨大な腕、すごいですね」


 魔術について口にすると、彼女は「ふふん!」と自慢気に胸を張る。


「あれは私自らが開発した魔術ですのよ! 土属性の魔術と錬金術を応用していますの!」


 クロフト様は元々土属性の魔術が得意だったらしい。


 そこに家業の錬金術を加えることで、何か新しい魔術を作れないかと考えたそうだ。


「すごいですね。オリジナルの魔術を作っちゃうなんて」


「ふふん! そうでしょう、そうでしょう!」


 自信たっぷりに何度も頷くクロフト様だったが、ふとお腹を摩る手を止めて僕を見つめる。


「……だから、私は守られなくても大丈夫ですのよ。クロフト家の女は強くあれ、とお母様からも言われていますもの」


 そう言う彼女の表情は強がっているように見えてしまった。


 その証拠にお腹の上に置かれた彼女の手が少し震えていた。


「でも、次に魔物と戦うことになったら最初に僕が戦います」


「どうしてですの?」


「僕も男ですからね。それに兄からは女の子を守ってやれと言われて育ちましたし」


 僕の言葉を聞いたクロフト様は「ふふ」と笑う。


「最初はあんなに怖がっていたじゃない」


「……あれは演技ですよ」


 大嘘だ。


 めっちゃびびってたし、最初にゴブリンを見た時はチビりそうだった。


 だけど、クロフト様の背に隠れているわけにはいかないってのは本音。

 

 女の子を守るのが男の役目だ、と教わったのも本当の話。


「もう慣れました。だから、大丈夫です」


 次は吐くこともないでしょうね! と強めにアピールしておく。


「そう。なら、期待していますわよ? アレテイア・ホルダー様」

 

 ふふふ、とクロフト様は楽しそうに笑う。


「っと、すいません。クロフト様に時間を取らせてしまいましたね」


 クロフト様に付きっ切りで看病してもらうってのも贅沢すぎる。


 もう気分も治まってきたし、上体を起こして「もう大丈夫です」とポーズを決める。


「ねぇ、そのクロフト様って呼び方はやめにしませんこと?」


「え?」


「私達はクラスメイトですし、私のことはリゼとお呼びなって?」


 彼女はそう言いつつも、また僕から顔を逸らしてしまう。


 また耳が赤い。


「不敬では?」


「本人がそう言っているのだから問題ありませんのよっ」


 顔を逸らしたまま強く言われてしまった。


 もはや、覚悟を決めるしかない……!


「リ、リゼ様?」


「様は無しっ」


 さすがに呼び捨ては不敬すぎるだろう。


 他人に聞かれたら即死刑コース間違いなしだ。


「リ、リゼ……さん?」


 さん付けでもギリ不敬な気がする。


「……まぁ、いいでしょう」


 良いのか……? 本当に……?


「もう動けるのなら、学長のところに行きましょう」


「はい」


 僕達は立ち上がり、少し離れた場所で集まっているマリューさん達の元へと向かった。


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