第34話 事件の裏にあるもの
翌日の朝、廊下でばったり出会ったマリューさんに「リゼさんの助手になった」と話のタネに明かした。
「そうか。仲良くやっているようで何よりじゃな~」
話を振ったものの、彼女は全く興味がないようで。
大あくびをキメながら眠そうな目を擦るだけ――
「あ」
と、思いきや、何かを思い出したかのように僕の顔を見る。
「え?」
「そうじゃ、秋の発表会。お主も参加するからな?」
「え?」
秋の発表会ってリゼさんが参加する?
あれって研究所内のイベントでしょ? 僕は研究者じゃないよ? 何言ってるんですか? と問うてあげる。
眠すぎて別人の話とごっちゃになっているんじゃない? とも。
「いや、お主の話で合ってる。秋の発表会でオリジナル魔術を披露しろ」
「は? もしかして、マリューさんの仕事を僕に押し付けようとしています?」
そんな話聞いていませんよ。
「押し付けているわけじゃないが、今決めたことでもある」
いや、それはもっと「は?」って感じなんですけど……。
「まぁ、アレテイア・ホルダーが行う仕事の一つといったところじゃな。年に一度くらいはオリジナル魔術を披露せねばならん」
これはマリューさんも同様の条件だという。
決して彼女が嫌がらせしているわけでもなく、オリジナル魔術を披露することでクレセル王国魔術の底上げ――要は魔術研究者達を刺激するという役目らしい。
「既存魔術とは違ったものを披露することで、研究者共に『模倣できんのか? ああん?』と挑戦状を叩きつけるわけじゃな」
「なんですか、それ……」
要するに研究者達の好奇心を刺激しつつ、技術力の向上を図ろうって意図なのかな?
オリジナル魔術を模倣する過程で研究者達は新しい技法を開発し、完成した魔術は魔術師達の力となる。
これを繰り返していくことで、王国の技術も魔術師の力も底上げされる、ということだろう。
「今のうちに考えておけ」
「分かりました」
頷きつつも、マリューさんと共に教室へ入った。
席に着いて朝の連絡事項を聞き、マリューさんが「連絡は以上」といったところで――
「すまないが、少し皆の時間をもらいたい」
殿下が手を挙げた後、前へ出た。
「最近、平民街で死体遺棄事件が頻発していることは知っているだろうか?」
「あ~、最近、平民街のみんなが噂している事件ですね」
死体遺棄事件とは、以前に僕も目撃したアレである。
トット爺ちゃんがマフィア同士の抗争じゃないか、なんて言っていたやつね。
ただ、あの日以降も平民街で何度か事件が起きていたらしく、既に死体の数は十体を越えている――なんて噂も。
「そうだ。平民街では毎日何かしらの事件が起きているものの、ここまで連日死体が発見されるのも異常だ」
平民街の中でも犯罪率が高いのは、やはり風俗区画だろう。
酒と金、他にも色んな欲望が渦巻く区画では常に争い事の種がぽんぽこ生まれる。
「騎士団は既に捜査を始めているのだが、どうにも平民街の一部区画特有の問題から発展したわけじゃないようだ」
捜査の結果、現状は風俗区画を仕切るマフィア絡みの線は薄いという。
王都がタブーとする商売を始めた者がいたわけでもなく、他所からヤバイ薬を持ち込んだ別組織がいるわけでもない。
ただ、被害者の中にマフィアの構成員もいるらしく、無関係とされた本人達は仇を討とうといきり立っているようだが。
「死体として挙がったのはマフィアの構成員だけじゃなく、素行の悪い冒険者や軽犯罪を犯している者も含まれている」
死体となったのが構成員だけなら「何かしらの遺恨や恨みがあったのかも」と想像しやすい。
しかし、発見された死体同士の関係性も特に見つからないようだ。
じゃあ、殺された者達は無作為に選ばれたのか? ただ狙いやすかったから殺されただけ? と捜査を続けたところ――
「最新の死体が発見された際、犯人を捕まえた」
「え? 犯人が捕まったんですか?」
先日の深夜、十一体目となる死体が平民街の奥で発見された。
死体の傍にはナイフを持ち、全身に返り血を浴びた男が立っていて、深夜警邏中の騎士隊が容疑者を確保したという。
となると、事件は解決したってことにならないだろうか? 殿下が今回の件を話し始めた意味は何なのだ? と首を傾げてしまう。
「捕まえた犯人は錯乱状態でな。口からは泡を吹き、鼻からは鼻血が。視線は定まらず、会話も難しい状態だったそうだ」
「ん? それって――」
「それってお主の――」
僕とマリューさんは同時に声を出し、顔を見合わせてしまう。
「そう。カイルが襲われた男と同じなんだ」
殿下が皆の前で語り出した理由はここからのようだ。
「カイルを襲った不審者も会話が出来ず、騎士団本部の牢屋に入れられていた」
僕を襲った男性も明らかに様子がおかしく、何かしらの薬物が作用しているのでは? と推測された。
よって、薬が抜けるまでは牢屋の中にぶち込んでおこう。ある程度の意識が戻ったら聴取に入ろう、と判断されていたのだが……。
「不審者は二日後に亡くなった」
「え……」
不審者は牢屋の中で倒れており、騎士が見つけた時には既に脈が無かったという。
死亡時は口から泡を吐き、目からは血の涙が流れていたようだ。
「正直に話すと、カイルが襲われたと聞いて犯人の狙いはアレテイア・ホルダーの可能性もあると見ていた」
「ああ、カイルはまだ若いし、認められたばかりじゃからな」
殿下の言葉にマリューさんも頷く。
僕だけ理由が分からず首を傾げていると、マリューさんが理由を語り始めた。
「アレテイア・ホルダーは国にとって最強の切り札じゃ。もしも、この国が他国と戦争になった場合――百パーセント勝てるじゃろうな」
「二人もアレテイア・ホルダーがいますしね」
マリィさんの言葉にマリューさんが頷く。
「クレセル王国において、アレテイア・ホルダーは抑止力と認識している。戦争を吹っ掛けてきたら痛い目を見るぞ、と他国への抑止になっているわけじゃ」
しかし、抑止力という認識はあくまでもクレセル王国内でのこと。
他国からすれば「国を吹き飛ばせる魔術師が二人もいる」という恐怖になりかねない。
「我が国を敵視している国が見たらどう思う? 風の魔女だけでも厄介なのに、そこに若く新しいアレテイア・ホルダーまで誕生してしまった……と見る国もいるだろう」
そういった国がどんな行動を起こすのか? それを分析するのも国の仕事。
その中の一つには『アレテイア・ホルダーの誘拐』という可能性も含まれているようで。
「ぼ、僕が誘拐されるかもってことですか!?」
「可能性はゼロじゃなかろう。誘拐の他にも勧誘という手段もあるぞ」
クレセル王国よりも好待遇の条件を提示し、その上で「うちの国で暮らしませんか?」と勧誘してくる国もあるそうだ。
「現に私はされた」
マリューさんは前々から何度も打診を受けているそうだが、こちらも悉く断っているようだ。
「とにかく、そういった可能性もあるからね。カイルが襲われた際はアレテイア・ホルダー絡みかと思い、騎士団も慎重に捜査していたのだが」
以降、僕が襲われることはなく。
死体として挙がったのはアレテイア・ホルダーと何も関係無い平民ばかり。
「騎士団もアレテイア・ホルダーが狙いではない、と捜査方針を変えようとした矢先に牢屋の中でカイルを襲った男が死亡した」
死亡した男は騎士団内の検死に回されたのだが、そこでとんでもない事態が発覚する。
「……体の中に異物が仕込まれていた」
「仕込まれていた?」
「ああ。黒魔術を示す、魔術式の彫られた命魂結晶だ」
死亡した男性の体内に埋め込まれていたという。
「く、黒魔術ですって!?」
驚いたリゼさんは席から立ち上がってしまう。
彼女が驚くのも無理はない。
黒魔術とは国際的にも禁止されている禁忌の術だ。
当然ながらクレセル王国内で黒魔術を行えば即刻逮捕、そして死刑台直行。
「く、黒魔術って……。本当にやる人いたんですか?」
黒魔術という技術が本当に実在していることは歴史が証明しているが、今となっては単なるオカルト紛いの失われた技術に過ぎないと思っていたのだけど……。
たまに聞こえてくる噂も単なる噂――あくまでも話を大きくしたい人が作り上げた脚色かと思っていたのだけど。
「先日逮捕された容疑者も朝方に異常が起こり、牢屋の中で死亡したんだ。カイルを襲った男と同じ症状を引き起こしていたことから、軍医が男の体内を確認したところ……」
同様に黒魔術の術式が彫られた命魂結晶が体内から発見されたという。
「な、何がどうなっているんです? やっぱり僕が狙いなんですか?」
「断定はできないが……。可能性が低いとも今は言えない」
「……黒魔術を使用してのアレテイア・ホルダー殺害か。まぁ、あり得なくはない話じゃな」
マリューさんの推測を聞き、ゾッとしてしまう。
まさか、僕を追いかけて来た人が黒魔術の影響を受けていたなんて……。
一体、王都で何が起きているんだ……。




