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その孤児は魔術の真理を知っている  作者: とうもろこし@灰色のアッシュ書籍版&コミカライズ版配信中
3章

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第32話 祭りの気配


 変な人に追いかけ回された事件から一週間。


 今日も朝からチビ達に振り回されつつも、いつもの時間に孤児院を出る。


 遅刻するような時間でもないため、いつも通りメインストリートを通って学園へ向かおうと考えていると――


『ねぇ、何があったの?』


『何だか死体が見つかったらしいわよ』


『えーっ、怖い!』


 近所の奥様方が囁く会話が耳に届き、彼女達が見つめる先に視線を向けると。


 いつも人気の無い路地の入口には数名の騎士が立っていて、路地の中から白衣を着た老人が現れる。


 白衣のお爺さんはお医者様だろう。


 奥様方が囁く内容が本当だったとしたら、路地で見つかった死体の確認を行っていたのだと思う。


「おう、カイルじゃないか」


「あ、トット爺ちゃん」


 爺ちゃんは「これから学園か?」と笑顔で言ってきた。


 ただ、僕がチラチラと路地の方を見ていると、トット爺ちゃんは「ここ最近、多いな」と小さく漏らす。


「多い?」


「ああ、ガラの悪い連中が殺されたみたいだな」


 爺ちゃん曰く、ここ最近になって三人の死体が発見されたという。


 発見場所はどこも平民街の中であり、死体の身元はどれも犯罪者か、片足を突っ込んでいるような人物だそうで。


「ここ数年は特に問題無かったが、また縄張り争いでも始まったかね」


 平民街と一口に行っても、中には風俗店が集中する区画もある。


 そういった区画を仕切るのはガラが悪いを通り越した人達――所謂、マフィアと呼ばれる人達だ。


 ただ、孤児院にいた兄やトット爺ちゃんの話によると、そういった人達は『必要悪』として求められる側面もあるようで、必ずしも不要! とは言い切れない。


「ノザーラ・ファミリーの下っ端もやられたって噂がある。もしかしたら、他所から流れて来た組織と揉めたのかもしれないな」


 風俗区画を仕切るノザーラ・ファミリーは王都での『やり方』を知っている。


 確かに彼らは犯罪紛いの行為に及ぶこともあるが、王都騎士団が本気でブチギレるラインは犯さない。


 例えば、人身売買。


 人身売買は王国法でも国際法でも禁止であるが、どこぞの国にいるマフィアは平気で手を出しているらしい。


 例えば、人を狂わす違法薬。


 一時的な快楽と引き換えに人の精神を蝕み、人そのものを破壊してしまう悪魔のような薬も世に存在している。


 しかし、ノザーラ・ファミリーはそういった類の犯罪を犯さない。


 むしろ、王都内に蔓延しないよう見張る役割をこなしているのと同時に、手を出した連中を徹底的に叩きのめす。


 これが必要悪と囁かれる彼らの存在意義だ。


「蔓延すればノザーラ・ファミリーも同罪になるだろうからな」


 必要悪としての役割が果たせなくなった時、騎士団は容赦無くファミリーを根絶やしにするだろう。


 それを避けるための戦いが起き、その結果が今の状況なのかもしれない。


「怖いねぇ」


「おお、怖いとも。ほれ、カイルは早く学園行け」


 トット爺ちゃんは「遅刻するぞ」と僕を促す。


 王都に存在する闇を見るな、という爺ちゃんの優しさだろう。

 

「うん、行ってくるね」


「おう、頑張ってこい」


 爺ちゃんに手を振りながら、学園への道を歩きだした。



 ◇ ◇



「あ~、今日の連絡事項は特になし!」


 朝一番の連絡事項が無いせいか、マリューさんは早々に「以上! 各自励め!」と言って教室を出て行こうとする。


「あ!」


 だが、扉を開けたところで僕らへ振り返った。


「そろそろ精霊祭の季節だろう? この時期は犯罪も増えるから各自気を付けるように」


 今度こそ、マリューさんは「じゃ~な」と言って出て行ってしまった。


「あー、もう精霊祭の季節かぁ~」


 精霊祭とは年に一度、初夏に行われるお祭りだ。


 世界を創造した精霊に感謝を伝えるものであり、王都中央区にある教会――精霊教が持ち込んだ祝祭である。


 教会ではちゃんと厳格な儀式? みたいなものが行われているらしいのだが、幼少期にトラウマを負って以降教会に近付いていないので詳細は知らない。


 一方、教会の外では大盛り上がり。


 普段よりも屋台の数が増えるし、露天商などが道のあちこちで商売していたり。


 店を構える商会もここぞとばかりに観光客向けのセールを始めて在庫品を処分しようとしたりと、とにかくみんなが大騒ぎする一日だ。


「皆はどう過ごしているんです?」


 お貴族の方々はどう過ごすのか気になり、皆に問うてみると――


「私は一日中、王城で教会関係者と会っているな」


 王族である殿下は祝祭の主催者である精霊教会とあれやこれやと難しい話し合いをする一日。


 特に外へ出て祭りを楽しむ、という要素は無いらしい。


「自分もゼインの付き添いだ」


 カール君も護衛として付き添うので特に無し。


「ただ、その日は母上がケーキを焼いてくれる」


 一日中、護衛の仕事で潰れてしまう代わりに夜はお母様が作ってくれたケーキを家族で食べるのが毎年の恒例らしい。


 ……ケーキに喜ぶカーク君を想像してしまった。


 ちょっと可愛い。


「私は怪我人が増える日でもあるので家で調剤していますね。あと、人混みはあまり得意じゃないので……」


 マリィさんは前日から怪我用の薬を量産し始め、当日消費された分を補填するように在庫を増やす作業。


 親からは祭りを楽しんで来てと言われるらしいが、本人が人混みを苦手とするので家から出ないそうだ。


「あ、でも、夜はカー君の家でケーキ食べます」


 うーむ、さすがは婚約者。


「リゼさんはどうなんです?」


「私? 私は午前中にショッピングを楽しみますわね。混雑がピークになる午後は家でのんびりしていますわ」


 当日、お貴族様御用達の高級商会では『精霊祭限定商品』がお披露目されるらしく、それらを見に店を回るようだ。


 リゼさんの過ごし方はスタンダードな『祭りの一日』といった感じだろうか?


 王都在住の平民も観光客でごった返し始める午後は避けるしね。


「ただ、今年は自分の研究もあるので精霊祭を楽しんでいる暇は無さそうですわ」


「研究ですか?」


「ええ。そろそろ区切りがつきそうなので。秋の成果発表会までにレポートをまとめたいですし」


 今年のリゼさんは祭りを楽しむ余裕はなく、代わりに研究室に篭りっぱなしになる一日になりそう、と。


「カイルはどう過ごしていますの?」


「僕ですか? 僕は――チビ達と戦争です」


 あくまでも真面目に言った。表情も至って真面目だったと思う。


「せ、戦争……?」


「ええ。精霊祭の日は普段よりも屋台が多く出ますよね? その中にはお菓子を売る屋台も多くありますので」


 それを見つけたチビ達が「あれ食べたい!」「これも食べたい!」と盛大にワガママ三昧する日でもある。


 それを嗜めるのも兄の役割であるが、人一倍元気が溢れるチビ達の猛攻を舐めちゃいけない。


 しかも、四人もいるのだから。


 四倍だぞ、四倍!


「もう凄いですよ。路上で寝っ転がってダダこねたり、屋台のおじさんの足にしがみついたり。とにかく、お祭りの日はたくさんお菓子を食べられる日だと思い込んでいるので」


 そう思わせてしまった原因も僕にある。


 毎年毎年、チビ達のワガママに負けて「一人一つだよ!」が最終的には一人三つになってしまうのだから。 


 いつも精霊祭の日に合わせて節約して、この日に散財するってのが毎年の恒例だったけど――


「でも、今年は我慢させずに食べさせてあげられそうです」


 今年のお兄ちゃんは違う。


 何故なら僕も稼ぎがあるからだ! それにマリューさんが納めている寄付金もあるからね!


「今年はカッコいいお兄ちゃんを演出できそうではないか」


 殿下は「端から端まで屋台を制覇できるだろう?」と笑う。


「はは、そうかもしれませんね」


 今年はグロリア先生にプレゼントも買えそうだ。


 今から色々と考えておかないと。


「でも、ちょっと残念ですね。みんな忙しそうなので、みんなでお祭りを回るのは難しそうですか」


 クラスのみんなでお祭りを楽しむ、というのも経験したかったけど……。


 まぁ、みんなはそれぞれ家のことがあるわけだし、いつかは叶うかもしれない――と、考えていたところで。


「ふむ……。私は難しいが、リゼとなら可能じゃないか? リゼも研究があるとしても、数時間くらいは気分転換に外へ出れるだろう?」


 そう提案したのは殿下である。

 

 彼はそう言いながらも、リゼさんに向かってウインクした。


 どうしてウインク?


「え? あっ! そ、そうですわね!」


 ただ、リゼさんも殿下の提案に乗り始めて。


 何故か彼女は殿下にサムズアップを決めていた。


「カイル、私なら時間が作れますわよ」


「え? 本当ですか?」


「た、ただし! 精霊祭の前に私の研究を手伝って下さる? 前のアルバイトみたいに魔石磨きとか……。その……。色々と」


 顔を赤くしたリゼさんは上目遣いで求めてくるが、そんなことはお安い御用だ!


「もちろん! 僕に出来ることなら何でも手伝いますよ!」


 僕が手伝えばリゼさんの研究も早く纏まるかもしれないし。


 それに時間に追われる身のリゼさんを無理に連れ出すのも悪いからね。


 出来れば余裕を持った状態でお互い楽しんだ方が良いだろう。


「そ、そう! なら、期待しちゃいますわよ? も、もしかして当日のエスコートも期待してよろしいのかしら?」


「はい。当日はリゼさんが楽しめるように色々と考えておきますよ」


「ふ、ふ~ん。なら、お手並み拝見といきましょう」


 リゼさんは腕を組みながらも、赤くした顔を逸らしながら言う。


 それを見る殿下達は何かニヤニヤしていて――


「くひっ!」


 若干一名、長い前髪からチラ見えする表情がヤバかった。


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