第28話 共に行く仲間達
ヒュドラ討伐後、王都への帰路につく馬車の速度は行きよりも速かった。
頻繁に馬を変え、途中で合流した騎士団の馬車に乗り換え、御者をしてくれる騎士も頻繁に変わって。
夜通し走る勢いで街道を爆走し、たった二日という時間で王都に帰還。
王都帰還後は学園に進路を向けて、学園の玄関前に到着するとマリューさんとカロンさんに出迎えられて――
「よし、じゃあ着替えろ」
マリューさんはニコリと笑うと、指をパチンと鳴らす。
すると学園の玄関から「待ってました!」と言わんばかりに執事さん達が現れて、僕の腕を引きながら学長室へと連行されてしまった。
「一体何が始まるんです!?」
「お主の認定式じゃ」
イッヒッヒッ! と笑うマリューさんの答えを聞きながらも、僕はパンツ一丁の状態に剥かれてしまう。
その後はパリッとした新品の白シャツを着せられ、次は何故か新品の学園用制服を着せられる。
「新しい制服? もう制服は持っていますよ?」
「そりゃ知っとる。だが、これから行く場はパリッとしとらんとのう」
新品の制服に着替えさせてまで行かなきゃいけない場所……?
そりゃどこよ? と首を傾げていたのだが――三十分後、僕の足は生まれたての小鹿みたいに震えてしまうことになる。
何故なら、連れて行かれたのは王城だったからだ。
しかも、お貴族様らしき人達が勢揃いしている玉座の間。
僕とマリューさんは赤い絨毯の上に立ち、その左右にお貴族様達が集まって並んでいるという状況。
『彼が三人目か』
『なんと西部に現れたヒュドラを一撃で討伐したらしい!』
お貴族様達の視線と囁きが場を支配していく。
それに比例して僕の緊張感もグングン上昇!
「…………」
もはや、口から魂が抜けてしまいそうだ。
どうにか抜けそうな魂を掴んで喉奥に引っ込めつつ、周囲を見やるとドレスに着替えたリゼさんの姿を見つけた。
「…………」
彼女はニコリと笑いながら僕に手を振って来た。
その近くにはマリィさんとカーク君もいて、二人は笑みを浮かべながら頷く。
いやいや、どういうこと!?
「ほれ、始まるぞ」
横にいたマリューさんが僕の脇腹を肘で突くと、白銀の鎧を着た二名の騎士が玉座の間に現れた。
彼らが定位置につくと、続けて現れたのは国王陛下――ゼロス・クレセル国王陛下である。
茶の髪に威厳たっぷりのおひげ。
建国記念日に毎年見ているから間違いなさすぎる……。
続けて王妃様、ゼイン殿下と入室が続いていき――
「風の魔女マリュー殿、弟子であるカイル殿。両者、前へお進み下さい」
いつの間にかいた宰相様が合図を出すと、マリューさんが小さな声で「進め」と指示を出してくれる。
ただ、僕の緊張はヒュドラ以上に大きくなっていて、腕と足が揃った状態で前へ出てしまう。
体からも『ギッ、ギッ』と軋んだ音が出そうなくらい固まってしまっている。
陛下の前で転ばなかっただけ褒めてほしい……。
「マリューよ、その青年が三人目のアレテイア・ホルダーか?」
「おお、その通りだ。お主も既に聞いておろう。西部に出現したヒュドラを討伐したのは、私の可愛い可愛い弟子の力じゃよ」
あ、あんた! 国王陛下になんて言葉遣いを!
言葉遣いもそうだけど、可愛い弟子って何よ!? 僕のことを可愛い弟子だと思っているなら最初からアンタがヒュドラ討伐に行けよ!?
――と、内心で思うも口に出すことは出来ない。
「カイルよ。此度のヒュドラ討伐、大儀であった。クレスト王国全国民に代わり礼を言う」
「は、はひゅ……」
口までガッチガチだ。
もはや、返事も「口から空気が漏れたのか?」と錯覚するほど怪しいレベル。
「マリューが見出したことに加え、ヒュドラを単独で討伐したという事実。もはや、この青年が三人目のアレテイア・ホルダーであることは疑いようがない」
国王陛下は集まったお貴族様達へ宣言するように言った。
だが、その後は僕の顔をじっと見つめてきて……。
「王として認定する前に一つ聞きたい。ヒュドラと戦った時、どうだった?」
「ど、どう、ですか……。その、無我夢中で――」
ヒュドラと対峙して、体が痺れて動けなくなって、死にそうになって。
だけど、その後は――
「僕は煌めきを見ました」
「煌めき?」
「はい。赤い空が落ちてきた瞬間、僕の目に映ったのは赤い煌めきです」
その後のことは記憶が曖昧だけど、あの瞬間だけはハッキリ覚えている。
あの瞬間に見たものはハッキリと覚えているんだ。
「あの煌めきは魔法でした」
そう、あれは魔法だ。
真理の先にある、魔法の煌めき。
魔法なんてあるはずがない。御伽噺の中にしかない。
そう誰もが否定しようとも、僕は確かに見たのだから。
「イーッヒッヒッヒッ! どうじゃ、ゼロス! 私の言った通りじゃったろう!? 真理を持つ者――アレテイア・ホルダーは例外なく『魔法』を知っている! 魔法をその目で見ることができる!」
魔法使いに最も近い存在。それがアレテイア・ホルダーなのだから、と。
「なるほど、間違いないようだ」
国王陛下も確信を持つように頷き、僕の肩に手を置く。
「クレセル王国の国王として、私は君を三人目のアレテイア・ホルダーとして認める」
遂に僕はアレテイア・ホルダー候補ではなく、本物の――マリューさんと同様の存在であることが国に認められてしまった。
宣言の後、王妃様が折り畳んだ何かを陛下に手渡す。
陛下がそれを広げると、それはローブだった。
上質な白い布を使って作られたローブには、赤い意匠も散りばめられている。
「これはアレテイア・ホルダーのみが身につけることを許される特別なローブだ」
さぁ、と促され、国王陛下直々に身につけるのを手伝って下さる。
身に着けてはみたものの、他の人にはどう映っているだろう?
「よく似合っておるよ」
「……どうも」
お師匠様の純粋でイタズラっ気の無い満面の笑みで褒めてもらうと少しは自信も湧くものだ。
ちょっと恥ずかしいけど。
「その力、どうか世の平穏を維持するために使ってほしい」
「は、はい……」
陛下のお言葉に慌てて頭を下げると、後ろにいたお貴族様達から大きな拍手が鳴り響く。
「さて、アレテイア・ホルダーとしての認定は無事に終えた。次に移ろう」
「つ、次……?」
まだ何かあるの!? と焦っていると、国王陛下はニッと笑う。
「ヒュドラを討伐した褒美を授けねばならんよ。君は国の危機を救った英雄でもあるのだからね」
国王陛下は「さて、どうしたものか」と悩み始めると――
「父上。カイルは同じ孤児院に住む子供達の将来を案じております。子供達が好きな将来を歩めるよう、資金を稼ぐつもりだとも聞いております」
殿下が助言を口にした。
「ほう。それは立派なことだ」
国王陛下は自身の髭を触ると、遂に判断を下す。
「君達のような境遇の子らを生んでしまったのは私達王家にも責任はある。それも加味して、金貨五千枚でどうだろうか? これならば子供達の将来も不自由あるまい?」
「ご、ごせっ!?」
金貨五千枚!?
とんでもない金額に吹きだしそうになるが、慌てて口を手で塞いで耐える。
確かに金貨五千枚もあればチビ達の将来は安泰だ。
それどころか、後に孤児院へ来るであろう子供達も養えるかもしれない。
ただ……。
本当にそれを貰っていいのだろうか? と心に引っ掛かる。
それよりも先にやるべきことがあるんじゃないだろうか?
「あの、陛下……」
「どうした?」
「実は、その……。ヒュドラ討伐の際に森を燃やしてしまいました。その森はリューグエンダ伯爵様の思い出が詰まった森で……」
チビ達の将来も大事だけど、あの子達の将来は僕がこれからどうにかすればいい。
それに、誰かの思い出を犠牲にして……。見て見ぬふりをするのは間違っているんじゃないか。
「ヒュドラ討伐の褒美として金貨五千枚を頂けるならば、そのお金はリューグエンダ伯爵領の森を再生することに使えませんでしょうか?」
「……よいのか? 小さな子供達の将来が大事なのではないか?」
「もちろん大事です。ですが、あの子達の将来は僕の手で照らしてみせます」
またアルバイトしてお金を貯めればいい。
マリューさんの言葉が本当ならば、アレテイア・ホルダーと正式に認められればお金も稼ぎやすくなるはずだ。
だから、まずは森の再生。
伯爵様と亡き奥様の思い出が詰まった森を元通りにしたい。
「そうか。ならば、そうしよう。リューグエンダ伯爵に金貨五千枚を与え、国としても森の再生に尽力すると誓う」
国王陛下は真剣な顔で頷くと、すぐにそのお顔には笑顔が浮かぶ。
「君は優しく、良い人間だな」
陛下は僕の頭をくしゃくしゃと撫でて。
「息子の友になってくれてありがとう。国王としてじゃなく、一人の父親として君に礼を言う」
「も、勿体なきお言葉です……」
こうして、僕は国から正式に真理を持つ者――アレテイア・ホルダーとして認められた。
◇ ◇
認定式から一週間後、僕らは再びリューグエンダ伯爵領を訪れていた。
ただ、今回の目的地は領主街ではない。
領主街から少し西にいったところにある平原だ。
「いや~、よく来てくれたね!」
作業服姿でシャベルを持った伯爵様は、首に掛けたタオルで汗を拭きながら僕らを迎えてくれる。
今回、リューグエンダ伯爵領を訪れた理由は認定式の際に提案させて頂いた『森の再生』に関わるところ。
認定式後、国は深淵の森を再生するために動き出してくれたのだけど……。
やはり、焦土と化してしまった大地を元通りにするのは非常に難しく、時間もかなり掛かるという結論に達した。
その状況下で当事者であるリューグエンダ伯爵様は「じゃあ、別の場所に森を作りましょうよ!」と提案してくれて。
「深淵の森跡地は領主街の拡張に使おうって話になってね」
リューグエンダ伯爵領の人口は数年前から増加傾向となっており、そろそろ既存の領主街も手狭になる、との問題も抱えていたようだ。
「ただ、それだけでは君には嫌な思い出だけが残ってしまう。私も領民達も、それだけは避けたいんだ」
だから、と伯爵様は言葉を続ける。
「君が領地を救ったという象徴として、ここに新しい森を作ろう」
僕が領地を救ったということ。
僕が三人目のアレテイア・ホルダーとして認められたこと。
「新しい時代の到来と共に新しい森を作る。これまでの記憶と共に、新しい森と共にリューグエンダ伯爵領は新たな一歩を踏み出すんだ」
記憶と記録と共に、次の時代に向けて森を育んでいくんだ、と。
「今日はその一歩目を、苗木を植えることで踏み出したい」
これがリューグエンダ伯爵領を訪れた理由。
今日は新しい森を作る――最初の一本を植えるために招かれたのである。
「さぁ、始めようか。ささ、殿下もご一緒に」
「ああ」
最初の一本として植えるのは、リューグエンダ伯爵領産の美味しいリンゴが実る木の苗木だ。
「たくさん植えて、山ほどリンゴの実る森にしましょう! きっと、歩くのが楽しい森になるはずです!」
他にももっと植えますよ! と笑顔で苗木を持ち上げる伯爵。
僕と殿下は伯爵と共に手を添えて、苗木を埋める穴へと持っていく。
苗木を置いたら土をかけて、最初の水を与えて。
「カイル君。いつか、私と一緒に実ったリンゴを食べよう」
「はい。楽しみです」
僕と伯爵様は笑顔で頷き合う。
その時が訪れた時、僕の記憶はきっと晴れやかなものになっているはずだから。
「カイル、私にも新しい目標ができたよ」
「目標、ですか?」
殿下はニコリと笑う。
「私は全ての国民を幸せにする王になりたい。それと同時に――アレテイア・ホルダーとなったカイルに相応しい王にもなりたい」
「殿下……」
殿下は僕の肩をポンと叩くと、再び満面の笑みを浮かべた。
「共に来てくれ、カイル」
「もちろんですよ。僕は殿下の友達ですからね」
僕らは互いに笑い合う。
すると、後ろから服の袖を摘ままれて。
「男二人で何を言っていますの? 私達も皆、友達なのですけど?」
振り返れば、ぷくっと頬を膨らませるリゼさんがいた。
「もちろん、リゼさんも友達ですよ。カーク君も、マリィさんも」
僕らは新しく植えられた苗木の前で笑い合う。
きっと、これから僕らは様々な困難に立ち向かうことになるだろう。
だけど、僕らはみんなで協力しながら成長して乗り越えていく。
今日植えた、新しい苗木が成長するように。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
2章は今回の投稿で終了です。
続きは2月頃に投稿を予定しています。
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