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その孤児は魔術の真理を知っている  作者: とうもろこし@灰色のアッシュ書籍版&コミカライズ版配信中
1章 真理を知る孤児

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第27話 まさに悪夢


 暗い世界の中で僕の意識が覚醒していく。


 最初は何も感じず、何も聞こえなかったが、次第に温もりが感じられた。


 温かいそれを目印にして暗い世界を進んで行くと、小さな光が見えて。


 それは徐々に大きくなっていき、最終的には眩しくて目を瞑ってしまうほどで。


 覚悟した後、ゆっくりと目を開けると――


「カ――カイ――」


 声が聞こえる。


「カイル! カイル!?」


 まだぼやける視界を横に向けると、ぼんやりと人の顔らしきものが見えて。


 徐々にそれは明確になっていき、正体はリゼさんであることに気付いた。


「リゼ……さん……?」


「そうよ! カイル、気が付きましたのね!?」


 彼女は僕の手をぎゅっと握っていて、目からは涙を流していた。


 最初に抱いた感想は「申し訳ない」だ。


「ごめんなさい……」


「そ、そうよ! このおバカ! 無茶しないと言ったのに!」


 彼女は握った僕の手を自分の額に当てて、お説教を口にしながら泣き続けてしまう。


「……どうしても、やらなきゃいけなかったんです」


 僕は皆と違って劣っている。


 だけど、皆は僕に優しくしてくれて。


「僕は……。みんなと一緒にいたかったんです。リゼさんと一緒にいる毎日が楽しかったから……」


 アレテイア・ホルダー候補などと呼ばれている自分が、特別扱いされるに相応しいのか。


 その『特別』は本物で、特別なみんなと一緒にいて良いのか。


 誰よりも信じてなかった自分自身が、他人の言う『僕自身の力』を信じるためにも。

 

「だから、みんなの隣にいるために――自分が納得するためにも、自分自身へ証明したかったんです」


 まだ意識がぼんやりしているからか、殿下にしか明かさなかった弱音をリゼさんにまで吐いてしまった。


 言ったところで後悔の念が湧いてきて、それと同時に意識がハッキリしていく。


 視界も定まったところで、改めてリゼさんの顔を見ると……。


「ばか……」


 彼女の涙は止まっていない。


 それを見てもっと後悔してしまった。


「すいません、弱音を吐いて――」


 言いかけたところで、リゼさんが僕に抱き着いてきた。


 彼女に強く抱きしめられたまま、僕は何もできずにいると彼女が耳元で小さく囁く。


「貴方がアレテイア・ホルダーでなかったとしても、私は貴方と出会っていたら……。今と同じ関係を築いていましたわよ」


 優れている、劣っているの問題ではない。


 アレテイア・ホルダーという特別な力があるからじゃない。


「カイル、貴方は貴方よ。貴方だからこそ、私はお友達でいたいと思いましたのよ?」


「僕は……」


 彼女の背中に腕を回して、彼女を抱きしめ返しながら。


「真理を持っていてよかった」


 リゼさんと出会えたから。


 今の僕ならみんなの力になれるから。


 何も持っていない自分よりも、リゼさんを守ることが出来るから。


 僕は今日初めて、自分の中にあった『力』を正面から受け入れることが出来た。



 ◇ ◇



 その後、僕はリゼさんに連れられて部屋の外に出た。


 どうやら領主邸の客室で眠っていたらしく、彼女に手を引かれながら屋敷の外へと連れ出される。


 殿下達は領主街の入口付近で事後処理の最中らしい。


 無事であることを伝えなさい、と彼女に言われたのだが……。


 彼らの元に行くと、僕は自分の目を疑った。


「あ、あれぇ……? 森が消えてなぁい……?」


 領主街の傍にあった深淵の森が無くなっている。


 しかも、真っ黒な大地に変わり果てている。


 それを見た瞬間、自分のやったことの愚かさがどんどんと膨らんでいって。


「あ、あの、リゼさん? あれって僕が……?」


「そうですわね!」


 リゼさんは興奮気味に「超巨大な魔術式が空に浮かびましてね!」「魔術式から大きな炎の柱が出ましてね!」と語っていく。


「深淵の森を吹き飛ばしましたのよ!?」


 ……まさに悪夢だ。


「おお! カイル君! 体は何ともないかね!?」


 また意識を失いそうになったが、伯爵様の声が聞こえた。


 振り返って伯爵様のお顔を認識した瞬間、僕は彼の足元に滑り込んで土下座した。


「申し訳ありませぇぇぇぇんっ!!」


「ひょ!? え? え!? どうして!?」


「し、深淵の森を! 伯爵様にとって思い出の森を……。燃やしてしまいましたぁぁ!」


 混乱する伯爵様のお顔を見上げて、謝罪の言葉を口にした後に再び額を地面に擦り付ける。


 お貴族様が大事になさっているものを破壊してしまったのだ。


 謝って済む問題じゃないだろう。


 恐らく僕は死刑だ。


 チビ達よ、ごめん。お兄ちゃんはもうおしまいです。


「僕は甘んじて罪を受け入れます! ですから、どうか! 孤児院のチビ達はどうかっ!」


「ちょ、ちょ、ちょっと!? 君は何を言っているんだい!?」


 伯爵様は僕を立たせると、問題無いから! と何度も首を振る。


「君に罪なんてありはしないよ! むしろ、君は領地を救ってくれた英雄じゃないか!」


「え……」


 ずびずびと情けなく泣く僕に対し、伯爵様はニコリと笑う。


「確かに森は焼けてしまったけど、街の住民は誰一人として傷ついていない。君が守ってくれたからね」


 だから、泣かないでくれ、と。


「で、ですが、あの森は伯爵様の思い出が詰まっていて……」


「そうだね。確かにそうだけど、一番大事なのは領民の命だ」


 伯爵様は僕のおでこについた砂を払いながら言葉を続ける。


「思い出が詰まっているからといって森の存続を優先したら、死んだ妻に尻を蹴飛ばされてしまうよ」


 幽霊になった奥様が現れ、伯爵の尻を蹴飛ばして月まで吹き飛ばしていただろう。


 彼はそう言いながら大笑いすると、近くにいた中年の騎士さん達も「奥様ならやりかねない!」「もしくは、槍で体中を穴だらけにされておりましたな!」と大爆笑。


「だから、気にしないでおくれ。むしろ、誇りなさい。君はあの巨大な魔物を一人で倒した英雄なのだからね」


 伯爵様は「ありがとう」と笑顔で言ってくれた。


「いきなり土下座した時は何事かと思ったが、不安が晴れてよかったじゃないか」


 そう言って肩を叩いたのは殿下だ。


 彼の後ろにはカーク君とマリィさんもいて、皆が僕の無事を喜んでくれる。


「カイル、今回は本当によくやってくれた。王族を代表して礼を言いたい」


「い、いえ……。僕も無我夢中だったというか……」


 正直、悪夢を発動させてヒュドラを焼いた瞬間までしか記憶にない。


 もう一度同じことをやれ、と言われても難しいかも。


 まぁ、もう二度とやりたくはないけどね……。


「カイル、炎の馬に覚えはないか?」


「炎の馬? 何ですか、それ?」


 殿下の質問に首を傾げると、彼は「そうか」と言って一人考え事を始めてしまう。


「……とにかく、君が無事でよかった。皆で揃って王都へ帰れるな」


「ええ、そうですね」


 殿下曰く、明日には王都へ向けて出発するという。


「大丈夫なんですか? その……あんなことになってしまったのですけど……」


 焦土と化した深淵の森をなるべく見ないように問うと、殿下に代わって伯爵様が「大丈夫だよ」と頷く。


「森の跡地は我々でどうにかするからね。それが領主の仕事でもあるから!」


 あっはっはっ! と明るく振舞ってくれる伯爵様には申し訳なさでいっぱいだ。


 出来ることなら、何か手伝いをしたかったのだけど……。


「早く帰らないといけない理由ができた」


「え?」


 どういうことですか? と問うも、殿下は僕に向かって「フフ」と笑いながらウインクするだけ。


「まぁ、楽しみにしておくといい」


「うーん?」


 結局、翌日になって領主街を発っても理由は明かしてくれなかった。


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