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その孤児は魔術の真理を知っている  作者: とうもろこし@灰色のアッシュ書籍版&コミカライズ版配信中
2章 真理の先に

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第20話 王国西部へ


「許可を取ってきた」


 朝の教室、殿下は皆の前で満面の笑みとサムズアップを決めた。


「ついでに西部へ向かう日程も決めたし、騎士団との連携も話し合っておいた」


「仕事が早すぎる……」


 もはや、隙は無し。


「騎士団は一日早く西部へと向かうことになった。冒険者ギルドも手練れのパーティーを派遣してくれるそうだ」


 騎士団と冒険者の共通任務は王都から西部入口――リューグエンダ伯爵領までの徹底的な捜索。


 街道だけじゃなく、途中にある森や湖など、とにかく魔物が好む場所を徹底的に調査するということ。


 謎の魔物は見つけ次第討伐にあたる、となったそうだ。


「僕らはどうするんです?」


「我々は街道を使ってリューグエンダ伯爵領へ向かう」


 現在、リューグエンダ伯爵領よりも西には謎の魔物、及び謎の魔物が出現した痕跡である特徴的な死体が発見されたという報告はない。


「そのため、王城と騎士団本部はリューグエンダ伯爵領が『始まりの地』であると睨んでいる」


 謎の魔物が最初に出現した場所、あるいは誕生の地と予想されるのはリューグエンダ伯爵領にある深淵の森だ。


「先日カロン殿も言っていたが、深淵の森が始まりであった可能性は高いだろう」


 深淵の森にいたヌシの死体は既に白骨化するほど時間が経過していた。


 王都付近で見つかった死体は白骨化にまで至っていない。


「白骨化するまで見つからなかったということは、それほどまで見つからず放置されていたということ。仮に新種の魔物であった場合、どのような成長を遂げるのか、またどの程度の成長スピードなのかも不明であるが……」


 いずれにせよ、最近見つかった個体よりも『長く生きている』という部分は人間達にとって厄介だ。


 殿下が言った通り成長して形態が変わって、より強力になっている可能性もあるし、姿形が変わらずとも知恵をつけている可能性もある。


「既に現地では深淵の森の調査が始まっている。我々は現地に向かい、領主及び領騎士、冒険者ギルドと連携して『α』の捜索に加わる」


 ここで言う『α』とは新種の魔物における最初の一体目を指す。


 先に語った通り、生き伸びていれば最も脅威となる存在だ。

 

 ……そこに僕をぶつけたい、ということだろう。


「危険を伴う任務であるが、国の安全を守るためにも……。カイル、君の魔術が頼りだ」


 殿下は真っ直ぐ僕を見つめる。


「今は幸いにも一般人の犠牲者はいない。だが、これを放置すれば――」


 戦えない誰かが犠牲になる可能性だってある。


 村が襲われて全滅してしまうかも。小さな街が襲われて全滅してしまうかも。


 その果てにある犠牲者候補は、僕と一緒に暮らす孤児院のチビ達だって例外じゃない。


 まだ防ぐことができる。


「……やりましょう」


 あの子達を守るためにもなるんだ。


 怖いけど、怖いなんて言っている場合じゃない。


「ありがとう、カイル」


 礼を口にした殿下は「しかし」と言葉を続ける。


「前にも言った通り、カイルだけに背負わせはしない。我々も共に困難へと立ち向かう」


 皆が静かに頷き合うと、殿下は嬉しそうに小さな笑みを浮かべた。



 ◇ ◇



 翌日の朝、遂に僕らは王都を出発することに。


 僕は旅の準備――着替えなど自分に必要な物を詰めたバッグを肩に掛け、待ち合わせ場所である学園の門に向かった。


「本当に荷物はこれだけでいいのかな?」


 バッグの中にあるのは四日分の着替えとお金が少々。個人的に用意した携帯食料と水筒くらいだ。


 通常の旅支度に比べると少なすぎる。


 最低でも水筒は数本用意するべきだと思ったし、野営の可能性も含めると食材や調理器具も必要になる。


 ただ、そういった基本的な物は学園側が用意すると言っていたんだよな……。


 そんなことを考えながら門を潜ろうとすると、一台の馬車が停車している。


 馬車の傍にはリゼさんの姿があって。


「おはようございます」


「おはようございます、カイルさん」


 一番乗りはリゼさんみたい。


 彼女に挨拶した後、僕の視線は自然と――彼女が寄りかかる馬車へと向かってしまう。


「これって……。馬車ですよね?」


 通常の馬車よりもやや大きいキャビン型。キャビンの左右にドアと窓が配置されているタイプ。


 どう考えても荷物を詰めるような造りには見えないのだけど。


「ええ。私達が乗る馬車ですわよ」


 曰く、クロフト家が自作した自家用馬車らしい。


「中を見てみまして?」


 キャビンのドアを開けると中は広々。向かい合った座席にはSクラス全員が座れるだけの余裕がある。


「座席は稼働式ですの」


 座席の下にあったレバーを引くと、座席がフラットに変形。


 これによって馬車の中で寝泊まりも出来るようになるとのこと。


 他にもキャビン内には魔道具式のランプや携帯コンロなどが用意されていて、中でお茶を楽しむためのティーセットと茶葉まであった。


 ……これが最新式の貴族専用馬車ってやつなのか。


「座席の下には収納がありましてよ」


 座席の下には引き出し式の収納があり、中には簡単な調理器具や予備の水筒などが用意されていた。


「今回の旅路は野営無しだそうですわ。ただ、念のために用意はしておきましたの」


「ああ、そうだったんですか」


 西部へ向かうルート上には村や街が点在している。


 馬車を引く馬の数も多めに用意しており、野営を避けれるだけのスピードを確保しているそうだ。


 因みに馬はカーク君が用意しているらしく、合流時に連れて来るらしい。


「待たせてしまったか?」


「いえ、僕もさっき来たところで」


 馬車について説明を受けていると、殿下とカーク君、マリィさんが合流。


 三頭の馬を繋いだ後、御者台にはカーク君とマリィさんが座る。


 僕と殿下とリゼさんはキャビンとなるようだ。


 皆の荷物を座席下のスペースに収納していると、続けて現れたのはマリィさん。


 なんかすっごい眠そう。


 確かに今日はいつも教室に集まる時間より早いけど。


「餞別じゃ。どっかの街で美味いモンでも食え」


 ポイと投げ渡してきた革袋の中には金貨が十枚も……。


 お駄賃、とばかりにこれだけの金額をホイホイ渡してしまう彼女が恐ろしくて仕方ない。


「あと道中で食え」


 続けて渡されたのは高級そうな箱に入ったお菓子である。


「あら? これってホエッテのクッキーではありませんの?」


「ホエッテ?」


 初耳の名に首を傾げると、リゼさんは目を輝かせながら嬉しそうに笑う。


「王都一番のクッキー屋さんですわ。貴族家でもそう簡単には買えないものですのよ」


 店主は元王城勤めのパティシエだったようで、数年前に独立して店を構えたらしい。


 小さい店であるが味は確か。一流を知る貴族からは大人気のクッキーらしい。


 貴族でも簡単に手に入らない理由としては、店主と奥さんの二人だけでクッキーを焼いているせいだ。


 大量生産じゃなく、一つ一つを丁寧に仕上げるので数が作れないのだという。


「確かこの箱は贈答用の高級クッキーですわね」


 なんと一箱金貨二枚の超高級クッキー


「ひ、ひえ~!」


 金額を聞いただけで汗が噴き出してきた!


 こんな物を食べたら僕の胃は確実に胃もたれしてしまう!


「なんか前にもらった。やる」


 眠そうな目をこするマリューさんはぶっきらぼうに言い、最後に僕を見て告げるのだ。


「ちゃんと帰って来いよ。お主は私の弟子なのだからな」


「……はい。マリューさん」


「ん」


 小さく頷いた彼女は「ばいばい」と手を振って学園の玄関に歩いて行ってしまった。


 眠そうなマリューさんって、うちのチビみたい。


 見た目らしいリアクションというか、ロリババじゃなくて正真正銘の子供みたいというか。


 そんなことを考えながら彼女の背中を見送っていると、彼女の足がぴたりと止まった。


 そして、振り返った彼女は僕をじっと見つめてくるのだ。


『今、私のことをチビって言ったか?』


 彼女の目はそう言っているように見えた……。



 ◇ ◇



 王都を出発して早一時間。


 西へ続く街道を行く僕らは――


「ん~。綺麗な小麦畑を眺めながら飲む紅茶は美味しいですわね。学長から頂いたクッキーも最高ですわ」


「確かに。こう言っては怒られてしまうが、ちょっとした旅行のようだ」


 キャビンの中にいる殿下とリゼさんは完璧なティータイムをキメている。


 一方、僕は超高級クッキーを一口食べた後で固まってしまっていた。


「カイルさん、どうしましたの?」


「……クッキーが高級すぎて胃が拒否ってます」


 高級品に慣れていない僕の胃が悲鳴を上げている。


 こんな金貨にも等しい物を胃に入れたら勿体なくて消化できないよぉ!! って悲鳴を上げているんだ。


「貴方、何を仰っていますの? クッキーはクッキーに代わりありませんわよ?」


「そうは言ってもですね――」


 ここから僕の勿体ない精神を熱弁しようとした時、リゼさんが僕のクッキーをひょいと取り上げる。


 そして、それを……。


「ほら、あーんなさい」


「え?」


「あーん」


 食えと。


 あーんしてきたのである。


「あーんしませんの?」


 そう言いながら困ったような表情を見せるリゼさん。

 

 それは反則じゃないでしょうか。


「あ、あーん……」


 口を開けた途端、リゼさんはクッキーをぎゅうぎゅうと押し込んできた。


 抵抗できずに口いっぱいにクッキーを頬張って咀嚼し始めると、彼女は満面の笑みを浮かべるのだ。


「ほら、食べられたじゃありませんの」


 そういう問題でしょうか?


 まるで好き嫌いする子供みたいな扱いじゃないですか?


 ねぇ、殿下もそう思いますよねぇ! と同意を求めようと顔を向けるが――


「…………」


 殿下は殿下で僕のことをじーっと見ていらっしゃる。


 すっごい真剣な顔でじーっと。


 いや、視線は僕とリゼさんの顔を行ったり来たりしている!


「…………」


 い、一体何をお考えになっているのだろうか?


 すっごい真剣な顔をしているから聞くに聞けない……。


 どうしたものか、と悩み始めた時――馬車が急停止すると同時に馬達の嘶きが響く。


「ど、どうしました!?」


 僕はキャビンにある御者台との連絡窓を開けて問う。


 御者台にいたカーク君から返って来た言葉は――


「馬車が魔物に襲われている!」


 連絡窓の隙間から見えたのは、街道のど真ん中に横転する幌馬車だった。


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