第19話 理想のロマンス!
王国西部へ向けて出発することになったわけだが、決定翌日は殿下による国王陛下ご説得の儀が開催されるため出発準備期間になった。
殿下は「必ず説得する!」と言っていたけど……。
不安だ。色々と。
因みに西部へ行っている間に発生する必修授業はどうするのか? とマリューさんに問うと、彼女はニッコニコで「免除してやる」と言っていた。
自分が動けないから弟子に――学生の僕に任せるというのも大人としてどうなんだろうか。
「はぁ……」
そんなことを考えながらも、僕は大きなため息を吐いてしまう。
「どうしました?」
「いえ、何でもありません!」
現在、僕はホープライン様が管理する薬草栽培室でお手伝い中。
西部へ向かう際、ホープライン様は自家製のポーションを持ち込みたいということで材料採取のアルバイトを引き受けた形だ。
「西部へ向かう件、不安ですか?」
「……バレましたか」
両目が髪で隠れているせいか、ホープライン様の表情は普段からちょっと分かりにくい。
ただ、今回は苦笑いしているのがハッキリと分かった。
「確かに急な話でしたからね。それも相手は伝説級の魔物の幼体かもしれないって話ですし……」
「怖くないと言ったらウソになりますが……。ホープライン様はどうです?」
「その、私のことはマリィと呼んでくれて構いませんよ?」
「え?」
急な名前呼び許可にびっくりしてしまうが、彼女は再び苦笑いを浮かべる。
「リゼちゃんやカー君も名前呼びでしょう? 殿下は仕方ありませんが、二人が仲間呼びなのに私だけ家名で様付けだと、その、ちょっと恥ずかしいですし」
どう恥ずかしいのかは不明である。
お貴族様的な何かがあるのだろうか?
しかし、それよりも前に気になる点が一つ。
「カー君?」
「カーク君ことです。私達は幼馴染なので」
ホープライン様、リゼさん、カーク君、殿下は同い年ということもあって幼少期からよく遊ぶ仲だったそうだ。
「だから、私のこともマリィで構いませんよ」
「わ、分かりました。マリィさん」
名前で呼ぶと、彼女は小さく頷く。
そして、次に摘み集める薬草の指示を出した。
再び僕らは肩を並べて薬草摘みを再開すると、マリィさんから会話が始まった。
「この前、カー君と冒険者ギルドに行ったんですよね? その時、どうでした? カー君ってあまり喋らないから居心地悪かったですか?」
「いえ、そんなことありませんよ! むしろ、カーク君がいて助かりました」
強面連中の中に紛れ込む際、カーク君のような人が隣にいるのは非常に心強い。
「冒険者って見た目が強面な人が多いですからね」
「でも、女性も多くないですか? 私の家はよく薬草採取を依頼することが多いのですが、受けて下さる冒険者はいつも決まった女性のパーティーですし」
冒険者は男女問わず、身分問わずに登録できるのが強みであるが、実際は完全なる実力主義だ。
男だから、女だから、という言葉が通用しない世界でもある。
「たぶん、それは薬草採取の知識を持っている人達だからですよ」
薬草採取に関しても『知識』という武器があってこそ。
決まったパーティーがホープライン家の依頼を受けているのは、冒険者ギルド側が「確実性があって信頼できる」と認識しているため、優先的に依頼を回しているのだろう。
「そういった仕組みがあるんですか」
「依頼達成できてナンボですからね。確実性のあるパーティーはその分野で優遇されますよ」
特にお貴族様からの依頼ともなれば、失敗を避けたいのが冒険者ギルド側の本音だろうし。
「……女性の冒険者ってどんな方が多いんですか?」
「え? そうですねぇ……。本当に色々な人がいると思いますよ」
僕らのように学園出身の冒険者もいるし、独学で魔術を覚えてから冒険者で稼ごうって人もいる。
中には娼婦と二足の草鞋――昼は冒険者、夜は娼婦という人もいるし。
前に聞いた話だと、元娼婦で浮気調査専門って人もいたっけ。
浮気調査なんて冒険者ギルドに持ち込む人いるんだって衝撃の方が強かったけど。
「……そ、その」
「はい?」
何だかマリィさんがモジモジしているのだけど。
一体どうしたんだ? なんて首を傾げていると――
「カ、カー君は冒険者ギルドでどうでしたか? 女の人をジロジロ見てましたか!?」
「……へ?」
……どういう質問?
どうしてカーク君?
僕の頭の中は『?』で支配されていく。
「その、私とカー君って婚約者同士なんです」
「え!? ええーっ!?」
マリィさん曰く、親同士の仲が良いこともあってか、二人の婚約は五歳の頃から決まっていたようで。
「学園を卒業したら結婚することになると思います」
「え、ええ……」
僕の脳裏にはおませさんな妹の姿が浮かぶ。
『お兄ちゃん、知ってる!? 貴族の人って絶対にこんやくしゃがいるんだよ! お兄ちゃんも学園に入ったらこんやくしゃ作るんだよ!』
妹の話を聞きながら「そんな馬鹿な」なんて思っていたけど、実際にはすごく近くにいたってことか……。
うちのチビが聞いたらすっごいテンション上がりそう。
……ん? 待てよ?
婚約者であることを明かした上で、先ほどの質問を考えると……。
「カーク君が他の女性に目移りしないか心配ってことですか?」
「いやっ、そのっ……。そんな人じゃないのは昔から知ってはいるんですけど」
何だろう。
間髪入れずにノロケられた気がする。
「先ほども言いましたけど、カーク君ってあまり表情に感情が出ないじゃないですか? 私と喋っている時もすごく冷静なので……」
確かにカーク君は常に冷静沈着ってイメージだ。
マリィさんと二人きりの場面であっても、表情を変えずに「ああ」と相槌を打っているイメージがある。
「……その、彼の好きなタイプの女性が気になって」
「ふむふむ」
「彼が劣情を抱いてしまうような女性のタイプだとか、服装を知れたら……。カー君も我慢できなくなって獣のように私を襲ってくれるのかなって」
「なんて?」
何言ってんだ、この人。
「だ、だって男の人ってそうなんでしょう!?」
「うわあ!?」
マリィさんは想像以上に本気だったようで、僕に掴みかかる勢いで迫ってきた。
「愛読してる本にも書いてありました! 男性は定期的に発散させないと他の女性にいっちゃうって!」
「それ何の本ですか!? 絶対に間違ってますよ!?」
「いいえ、間違ってません! 愛しの騎士団長シリーズを書いている『ホレイソ・ピンク』先生はリアリティ溢れる描写が特徴な方と有名なんですから!」
誰それェ!?
「愛しの騎士団長シリーズって何!?」
「ご存じない!? 未だ増刷されている『悪魔だと囁かれる騎士団長様から溺愛されちゃった元聖女はもう限界です!』は他国にも輸出されるほど人気なのに!?」
ご存じありませんけど!?
「ロ、ロマンス小説ってやつですか?」
「はい!」
そんなキリッと答えられても……。
「いや、小説と現実は別物ですよ。カーク君が婚約者をすっぽかして他の女性に走る姿なんて想像できませんよ」
「そうですか……」
この人、どうしてシュンってなってんの?
「ああ、そういえば!」
肩を落として大きなため息を吐く姿から一変、彼女はまたしてもズズイと顔を近付けてくる。
「最近、カイルさんってリゼちゃんと一緒にいることが多いですよね?」
「え? ええ……。その、色々と不慣れな部分を教えて頂いているというか……。リゼさんって面倒見が良い方なので、つい聞いてしまいがちなんですよね」
甘えてしまっている、と言ってもいいかもしれない。
ただ、本当に面倒見が良い人なので、誰かを頼る際は一番に彼女の顔が思い浮かぶのも確かだ。
「くふッ」
この笑い声、僕の答えを聞いたマリィさんのものである。
「も、もしかして、カイルさんってリゼちゃんのことを!?」
「え? いやいや! 僕なんて身分が違いすぎるじゃないですか!」
「そんなことありませんよ! カイル君はアレテイア・ホルダー候補ですよ? 下手な貴族よりも地位は高くなるでしょうし」
侯爵位が相手でも吊り合う、とマリィさんは鼻息荒く語った。
「……いや、僕が貴族になるなんて荷が重いですよ。チビ達を養えるくらいの職に就ければ十分なので」
「なるほど~。じゃあ、質問を変えましょう」
口角がつり上がってニッコニコなマリィさんは、摘んだ薬草を束ねながら問うてくる。
「リゼちゃんのこと、好きですか?」
「……好きですよ? 人として素晴らしい方ですし、先ほども言いましたけど僕みたいな人間に対しても面倒見がいい方ですし」
「ふんふん、なるほど。なるほど」
彼女は何度も頷きながら束ねた薬草を革袋に仕舞い込む。
そして、僕に笑みを浮かべて言うのだ。
「リゼちゃんのことで知りたいことがあれば何でも聞いて下さいね? 伊達に五歳から幼馴染していませんから。何でも知っていますよ」
長い前髪の隙間から見える彼女の目には『幼馴染のロマンス聞きた~い! 面白そう~!」と言わんばかりの欲深き色があった。
「初心で錬金術ばっかりな年頃の貴族令嬢と元平民出身アレテイア・ホルダーの恋……。くふっ!」
彼女の頭の中ではどんなストーリーが描かれているのだろう。
頬を赤くしながら涎が垂れているところを見ると、あまり健全とは言えないシーンが多そうだけど……。
今日という日は、マリィさんのイメージがガラッと変わった日と言えるだろう。
「くふっ! くふっ!」
あと、カーク君大変だなって……。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
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