第14話 冒険者ギルド
僕達は謎の魔物を突き止めることになったのだが、それとは別に気になったことがある。
「クラス課題ってなんですか?」
「その名の通り、クラス全体で進める課題じゃ。前期・後期の二つ課題が出されることになっておる」
他のクラスだと人数が多いので、担当教師が編制したグループ毎に課題が与えられる『グループ課題』となっているようだが、Sクラスは人数が少ないので全員で取り組むシステムとなったようだ。
「因みに一定の成果を出さんと進級できんからな」
「え!? そうなんですか!?」
これは他のクラスも同じみたいだが、当然ながら僕達のような「謎の魔物を特定して来い!」なんて課題じゃない。
魔術関係やら錬金術関係やら、授業に関わる内容が出されているという。
「Sクラスだけ難しくないですか? 期間内に特定できなかったら……」
全員、また一年生ということになるのだろうか?
「一定の成果を出せば良いという話ですから、私達が魔物を特定しなくても良いということですわ」
リゼさんはピンと人差し指を立てながら言葉を続ける。
「要は特定に貢献すればいいのです。騎士団や冒険者ギルドとの連携や情報交換など、そういった点も評価されるのでしょう」
「そういうことじゃ」
「なるほど~」
課題のクリアも重要だけど、課題に取り組む際の協調性とかクラスメイトとのコミュニケーションも評価点なのかな?
そういう話ならちょっと気が楽になったかも。
「ただ、どう行動するかはお主達で考えよ。私は手助けせんからな」
期待している、と言ってマリューさんは教室を出て行ってしまった。
「さて、我々がどう行動するべきか考えよう」
引き継ぐ形で指揮を執るのは、もちろん殿下。
「必修授業は出席しないといけませんからね。それに各々の選択授業もありますし」
リゼさんが忘れちゃいけない部分を口にすると、ホープライン様もウンウンと何度も頷く。
そう、必修授業の出席と試験も進級に影響するため、クラス課題に没頭するわけにもいかないのだ。
「となると、予定が空いている者同士で情報収集を進めるのはどうだろう?」
今日の僕は午前中に魔術の必修授業を受けるだけだが、同じくアルバルド様も午前中のみで午後は授業無し。
「じゃあ、今日はカイルとカークに情報収集を頼もう」
「分かりました」
「了解した」
僕とアルバルド様が揃って頷くと、殿下は「よし」と笑みを浮かべる。
「難易度の高い課題だと思うが、皆で協力してクリアしよう」
殿下のお言葉に全員が頷いたところで作戦会議は終了。午前中の授業へ参加した。
◇ ◇
お昼を食べた後、僕はアルバルド様と共に学園外へと足を向けた。
「これからどうしますか? 情報収集となると、騎士団ですかね?」
「騎士団の情報は父上から得られる。今日は別のところに行ってみよう」
表情を変えずに言うアルバルド様。
いつも通りであるが、ちょっと怖い印象を抱いてしまう。
「あっ、そうですよね。アルバルド様のお父さんは騎士団長ですもんね」
となると、冒険者ギルドだろうか?
冒険者ギルドへ行きますか? と問おうとしたが、先にアルバルド様が「そういえば」と口にした。
「自分のことを呼ぶ際は家名で呼ばなくていい。カークと呼んでくれ」
まさかの名前呼びを要求されてしまった。
リゼさんの時と同じく緊張してしまう。
「カ、カークさん?」
「さん付けもいらない」
「じゃあ、カーク君で……」
「それでいい」
カーク君と呼ぶのもかなりギリギリに感じる……。
表情が変わらないから余計に。
いつもすっごい真面目な顔をして――いや、殿下と接する時は結構表情を変えているような?
まだまだコミュニケーション不足ということだろうか?
今回の情報収集で少しは仲良くなれるといいな。
不敬罪にならない範囲で……。
「じゃあ、今日は冒険者ギルドに行ってみましょうか」
「ああ」
彼と共に王都の南区を目指して歩きだす。
途中、何か盛り上がれる話題はないかと考えていると――
「カイルはギルド職員を目指していたのだろう? ということは、ギルドに知り合いが?」
「ええ。職員と冒険者に知り合いがいますよ」
今日いたら詳しく話を聞けるかも。
「職員の方は試験を受けると話したら助言をくれて。冒険者の方は兄と姉が冒険者なので、その繋がりですね」
「そうか。なら、スムーズに進みそうだ」
――冒険者ギルドに到着すると、入口のスイングドアを押して中へ。
中には厳つい冒険者達がいっぱいだ。
彼らに混じって女性の冒険者もいるけれど、男女比としてはやはり男性の方が多い。
「……結構人がいるのだな」
「もうすぐ新しい依頼票が貼り出される時間なので、みんなそれ目当てに待っているんでしょうね」
冒険者と一口に言っても様々だ。
冒険者の名の如く未知なる場所やダンジョンを調査することを主な活動とする人もいれば、魔物討伐をメインとする人もいる。
その他大半は『割の良い仕事』を求めて冒険者ギルドに登録した人。
今、ギルド内でたむろしている人達はそういった種類の冒険者である。
「知り合いはいませんね。たぶん、捜索依頼を受けたのかも」
「となると、職員か?」
「そうですね」
僕はカーク君を連れてカウンターへ。
先ほどから冒険者達にジロジロと見られているのは学園の制服を着ているからだろうか?
それともカーク君がいるおかげで僕も貴族っぽく見えてる? 割の良い仕事を依頼しに来た人物、とでも見られているのだろうか?
「どうも~、お疲れ様で~す」
こういう時は愛想を振りまいておくに限る。
腰を低く見せれば無駄に絡まれることもない、と過去の経験から学んだことだ。
それはさておき、目的の人物をカウンターの奥で見つけた。
「あれ? カイル君!?」
「お久しぶりです、ミネアさん」
僕に気付いてくれたのはミネアさんという女性職員だ。
ウェーブのかかった栗色の長い髪、耳には目立つピアス。メイクも常にバッチリ。
しかも、いつも職員用の制服を着崩しているせいで胸元が大胆に露出している。
冒険者ギルド王都本部イチのセクシー職員、それがミネアさんである。
「久しぶりじゃな~い! 最近顔を見せないどころか、準職員の試験も受けに来ないから心配してたんだけど」
そう言いながらも、ミネアさんは僕の着ている制服をまじまじと見てくる。
「まさか、王立学園の生徒になったなんて」
「あはは……。すいません、急に決まってしまって」
最近は学園のことやら事件やらでいっぱいいっぱいだったものの、ミネアさんに伝えられなかったのは不義理だったと思う。
「色々アドバイスを頂いたり、よくして下さったのに申し訳ないです。事後報告になっちゃった件も」
謝罪を伝えると、ミネアさんは「ん~ん」と笑顔で首を振る。
「学園に入るなんてすごいじゃん! ギルド職員より高給取りになれるだろうしね!」
むしろ、学園に入った方がいい! と現状を応援してくれた。
本当に良い人だ……。
「ところで、今日はどうしたの?」
「実は――」
事件の件、クラス課題の件を明かした上で何か情報が入っていないかと問う。
すると、ミネアさんは「あ~、あれね」と最新の情報が書かれた報告書を持ってきてくれた。
「実はね、昨日も魔物の死体が見つかったの」
見つかったのはダンジョンから数キロ離れた地点。
僕達が野外授業として使った森の中だ。
「発見された死体はブランチディアーの死体よ」
野外授業当日にも語った通り、鹿型の魔物であるブランチディアーは森の中に生息している魔物の一種。
頭に生えた鋭利な角が枝のように分岐している点が最たる特徴だ。
「死体に外傷が無かったんですか?」
「そう。騎士団から報告を受けた状態と同じ」
しかも、死体は綺麗なまま放置されていた。
森の中に魔物の死体が転がっていたら、他の魔物が嬉々として捕食するだろう。
「たぶん、魔物は分かっているのよ。死体が毒に犯されているって」
そのあたりの嗅覚は人間よりも遥かに鋭い。
死体から異変を感じ取り、捕食せず放置したのだろう。
「見つかった死体は一体だけですか?」
「いいえ。全部で十体。全てブランチディアーなんだけど、死体が発見された位置が――」
彼女は王都周辺の地図を取り出して説明を再開。
「最初に発見されたのがここ。次はここ。その次がここ」
と、鉛筆で地図上に点を打っていく。
「……東に向かっている?」
地図の点を見たカーク君が気付いた。
「本当だ」
死体は東に向かって点々と続いている。
「今、騎士団と冒険者が森の東側を捜索しているわ。まだ何も連絡が入っていないけど」
「そうですか。冒険者ギルドとしては、今回の魔物に心当たりはありますか?」
「いえ、無いわね。他の支部にも連絡してみたけど、特徴と合致する魔物が見つからなかったの」
冒険者ギルドは国内外を網羅する形で展開されているため、他国に生息している魔物の情報、分布にも詳しい。
魔物の情報に関して言えば騎士団以上の情報網を構築している――にも関わらず見つからない。
「……新種ですかね?」
状況から考えると、全く新しい魔物が誕生したという可能性もあり得る。
「その線も考慮しているけどね。新種だったら厄介よね~」
はぁ、と大きなため息を吐くミネアさん。
「新種だと問題が?」
無表情にも近い表情のまま、カーク君が問う。
「新種が増えると魔物の分布が変わる可能性があるんですよ」
新種の繁殖率が高かった場合や一個体が強力であれば生態系の頂点に君臨することもあり得る。
となると、争いに負けた既存の魔物は他所へ移動する可能性もあって。
「そうなると生息分布を改めて詳しく調べることになります」
魔物の生息分布を調査するのは大変だ。
人件費も時間も要するし、その間に発生した通常依頼は滞りがちになる。
ギルドとしてはあまりよろしくない。
「なるほど、そういうこともあるのか」
勉強になる、と何度も頷くカーク君。
ちょっとは僕も役に立てたのかもしれない。
「魔物の移動と言えば、前に王都周辺で大規模討伐がありましたよね? あれって何が原因だったんですか?」
僕がマリューさんと出会うきっかけになった事件だ。
「それも未だ不明なのよ。西から魔物が大量に流れて来て、ギルドも騎士団も大慌て」
その後、それらしい被害は起きていないので問題なかったけど、とミネアさんは語る。
「……そうですか」
「何か気になるの?」
「いえ、もしかしての話ですけど。今回の魔物が西から来たってことはありませんかね?」
僕の推測はこうだ。
王国西部で謎の新種が誕生。
新種誕生による影響で西部に生息していた魔物が王都側に逃げ込んだ。これが先に起きた大規模討伐の原因。
そして、西から移動して来た新種は今王都周辺に生息している――という説。
「……ありえなくはないかも」
ミネアさんはウェーブの髪を指でくるくるといじりながら呟く。
「ちょっとギルドで調べてみるわ。他にも何か分かったら教えるわね」
「すいません、よろしくお願いします」
ペコリとお辞儀して別れの言葉を告げると、最後にミネアさんから呼び止められた。
僕が振り向くと彼女は満面の笑みを浮かべながらサムズアップしてみせて。
「カイル君、学園生活頑張ってね。君なら上手くいく! おねーさんは応援してるぞっ!」
「はい。ありがとうございます、ミネアさん」
彼女に笑顔を返して、僕達は冒険者ギルドを後にした。
「戻ってみんなに報告しましょうか?」
「ああ、そうだな」
帰り道、またカーク君と肩を並べて街を歩く。
「カイル」
その途中、カーク君が表情を変えずに名前を呼んだ。
「君は人との接し方が上手いな」
「そうですかね?」
「ああ」
冒険者への態度、それにミネアさんのような職員と友好関係を結んでいること。
その点について彼は褒めてくれた。
「普通じゃないですかね?」
「そうか? 自分はあまり得意ではなくてな」
上手く笑顔が作れない、と真面目な顔で語るカーク君に笑いそうになってしまった。
「僕はカーク君みたいな人、カッコいいと思いますよ。ギルドでの佇まいも様になっていましたし」
むしろ、絡まれなかったのは彼が隣にいたからじゃないだろうか? とさえ思ってしまう。
「前にゴブリンと戦っていた姿も凄かったですしね。凄腕の騎士様! って感じでしたよ?」
「……ありがとう」
素直に感想を述べると、カーク君は少し口角を上げた。
「いえいえ」
ちょっとは仲良くなれただろうか?
だとしたら、嬉しいな。




