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その孤児は魔術の真理を知っている  作者: とうもろこし@灰色のアッシュ書籍版&コミカライズ版配信中
1章 真理を知る孤児

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第11話 悪夢とアルバイト


 ――これは夢だ。


 そう確信するものの、僕の体は動かない。


 辛うじて動くのは顔だけ。


 キョロキョロと周囲に顔を向けると、左隣にいたのは無精髭を生やした男性。


 右隣にいるのはローブを着た若い女性。


 両者共に空を見つめている。


 僕も二人と同じ空を見上げると――そこには真っ赤な空があった。


「―――」


 隣の男性が何かを呟いたが聞き取れない。


「―――」


 右隣の女性も空の先を指差しながら何かを呟くが聞き取れない。


 ――僕は()()()思う。


 この夢は何なのか。


 度々見ることになる夢の正体は何なのか。


 夢の終わりはいつも決まっているんだ。


「―――」


 僕自身が何かを叫ぶと、真っ赤に染まった空が落ちてくるのである。


 真っ赤な空は遥か先の大地、荒れ果てた灰色の大地へと赤が落ちる。


 落ちた瞬間に音は無く、少し遅れて暴風に乗った砂利が僕の体にチリチリと当たって。


 次に目を開けた時には、空が落ちた大地が真っ黒に染まっているのだ。


 それを見た僕に襲い掛かるのは後悔の念。


 訳も分からない、理由も分かりゃしない後悔が僕の心を支配していく。


 居心地が悪くて、今すぐ夢から覚めたいと思うのに抜け出せない。


 そして、最後に――僕の腕を掴む女性に小さく呟く。


『ごめんね』


 僕が謝った瞬間、彼女の両目から涙が流れて。


 僕の心には正体不明の感情が渦巻き、未だ赤く染まった空を見上げることしかできない。


 これは悪夢だ。


 こんなにも苦しいなんて、悪夢に違いない。


 

 ◇ ◇



「――ハッ!?」


 苦しさが限界に達し、僕は夢から抜け出すことができた。


 自分の顔を手で触ると、顔中汗まみれになっている。背中までびっしょりだ。


「ん~、にいちゃん……。それボクのお菓子……」


 隣で寝ている弟と妹達は、いつも通り酷い寝相で。


 ヤンチャな弟なんて僕の枕に足を乗せているし、一番下の妹は何故か僕の足にしがみついて眠っている。


「まったく……」


 悪夢を見た時、いつもこの子達を見ていると心が和らぐ。


 ドキドキと鳴っていた心臓も徐々に落ち着いていき、僕が『この子達の兄なんだ』という現実を思い出させてくれる。


「……ちょっと早いけど起きようかな」


 時計を見ると朝の五時。


 起きるにはまだ早いけど、今日は学園もあるし起きちゃおう。


「……また学長が何かたくらんでそうだし」


 ぺったんこロリババエルフの思惑通り、焦ったり困惑したりしてやるもんかと気合を入れる。


「よし!」


 早起きした僕は朝の家事をこなし、いつも通りに学園へと向かう。


 週明け一発目は教室に集まって担当教師――マリューさんから一週間の注意事項やら連絡事項を聞くことになるのだけど。


「今のところは特に連絡事項なし。今週も変わらず勉強に励め」


 でっかい欠伸をした彼女はトコトコと教室を出て行ってしまう。


「……何もない?」


 また魔物退治へ行くぞー! とか言い出しそうなもんだったけど、まさかの何も無し。


 僕の思い過ごしだったのか? 僕は身構えすぎていたのだろうか?


「カイルさん、今週はどうしますの?」


「へっ!?」


 思考の海に潜りすぎていたのか、声をかけてくれたリゼさんに驚いてしまった。


「どうしましたの?」


「い、いや、何でもないです。はは……」


 不思議そうに首を傾げるリゼさんだったが、どうにか誤魔化して。


「今週は、と言いますと?」


「今週前半は必修授業がございませんわ。必修以外受けない学生は自由に過ごして良いのですけど、カイルさんは何か選択授業を受ける予定ですの?」


 今週は必修担当の講師に急用が発生したため、週前半にあった必修授業が週後半へ移動になったらしい。


 その結果、リゼさんが言っていた状態に。


「確か、今週は礼儀作法の授業が無かったはずですよね。他の選択授業は取得申請していなくて」


 選択授業の幅は広く、経済学や語学、農業関連や錬金術関連まで様々。


 どれも魅力的なのだけど、最初は絞った方がいいと皆やマリューさんからも言われているし。


 加えて、授業に参加するには授業取得の申請書を事前に提出しないといけないので飛び込み参加は不可能だ。


「でしたら、アルバイトをしませんこと?」


「アルバイトですか?」


 これは良いタイミングなんじゃないだろうか。


 アルバイトで稼ぎたいと入学前から考えていたし、時間が空いた今こそ経験するべきだ。


「私が所属している錬金術研究室が魔石磨きのアルバイトを募集していますの」


「へぇ~、魔石磨き……。というか、リゼさんって研究室にも所属していたんですか」


 研究室とは学園の敷地から直接行くことができる『王立研究所』所属の研究室であり、研究所には各分野に特化した研究室がたくさんあるという。


 卒業した学園生が進む進路の一つ――所謂、研究職と呼ばれる人達が務める場所でもあるのだが。


 リゼさんは学生という身分でありながらも、研究室に所属している研究者ということになるのかな?


「そこまでじゃありませんわ。ただ、研究室の一角を借りて独自の研究をさせて頂いていますの」


 いや、研究者よりすごくない?


 それって研究室の施設を使い放題ってことだよね?


「第一錬金術研究室の誕生ルーツは彼女の家にあるからね」


「クロフト家に、ということですか?」


 ゼイン殿下曰く、研究室を立ち上げたのはクロフト家の初代当主らしい。


「研究室が発足される前までは、秘匿主義の代表格だったんだ」


 所謂、個人で秘匿された技術。


 個人的に錬金術を磨き、それを己の財産として秘匿していた時代。


 技術継承は身内か限られた弟子にしか行われず、技術の多くが世に隠されていた。


 今ではスタンダードとなった学会やら国際技術交流なんてイベントも無く、赤の他人に教えるなんて言語道断! とブチギレる人が、むしろ正常とされていた。


 まぁ、今も国内外に何でもかんでも公開しまーす! ってわけじゃないけどね。


「技術は財産と昔は言われていましたけど、それでは研究スピードが遅れてしまいますわ。新しい発見も共有されないので時間が無駄になることも多々あったようですし」


 クロフト家初代当主がバリバリ現役だった頃、世界に衝撃を与えたのは『魔道具』という存在だ。


 生活に便利な物、軍事的な物、様々な魔道具が各国で開発されていく中、クレセル王国は『秘匿主義』がまだ残っている状態だった。


「このままでは他国の技術に負けてしまう。技術の発展が遅れれば国の存続危機にも繋がりかねない。秘匿主義廃止の理念と共に研究室を立ち上げたのがクロフト家の初代当主ということだ」


 クロフト家初代当主は自身が持つ技術を「誰にでも教える!」と宣言。


 手に職を付けたい人達が研究室にやって来て、彼らはクレセル王国の錬金術研究者第一号集団となった。


「そして、彼の技術が今の礎となっているんだ」


 国内における現代のスタンダード、規格化、それらの基礎となったのがクロフト家の技術。


 ……なるほど、侯爵位も納得の功績だ。


「そういった事情もあって、研究室を借りていますの」


「すごいですね」


「いえ、私がすごいわけじゃありませんわ」


 そう言ったリゼさんの顔には、一瞬だけ悔しそうな表情が浮かんだ。


「とにかく、研究室でアルバイトがありますのよ。どうです?」


「やります。アルバイトには興味深々でしたから」


「そう」


 リゼさんは「じゃあ、行きましょう」と鞄の中から黒いエプロンを取り出して立ち上がる。


 僕は彼女の後に続き、学園の敷地内を通って王立研究所へと向かい――


「前々から思ってましたけど、王立研究所って物凄く大きいですよね」


 白を基調とした大きな建物は学園と比べて縦にも横にも大きい。


 敷地も学園以上の大きさを誇り、噂によると王城の敷地よりも広いということを聞いたことがある。


「貴族達が出資していますしね。三年おきくらいの頻度で拡張されていますの」


「へぇ~!」


 今年は攻撃魔術専用の試射場が一新された、なんて話を聞きながら研究所の中へ。


 絶対に一人で来たら迷子になるであろう複雑な順路を辿り、アルバイト先である『第一錬金術研究室』へと辿り着いた。


「ここが研究室ですか」


 研究室内には長い机がいくつもあって、机の上には書類やら研究用の道具? らしき物が乱雑に置かれている。


 一言で言えば汚部屋だ。


「……こう、掃除したくなる部屋ですね!」


「汚部屋とハッキリ言っていいですわよ」


 マイルドに言ったつもりだったけど、リゼさんは苦笑いを浮かべながら認めてしまった。


 曰く、所属している研究者達は日々の研究に追われて片付けをする時間が無いらしい。


「清掃のアルバイトとか発生しませんかね?」


「そのうちあるかもしれませんわね。その時は私の方から推薦しておきますわ」


 お願いします、と言いつつ、僕達は研究室の奥にあった扉へと向かう。


 扉の先はリゼさん専用の研究室となっているらしい。


 個人の研究室があるなんてスゲーッ! って内心で思いながら扉を潜ると……。


「…………」


 こちらも汚部屋である。


「何か言って下さる?」


「……清掃の仕事、頑張りますよ」


 ニコリと笑顔で言うと、リゼさんに肘で脇腹を突かれてしまった。


「仕事は魔石磨きと言っていましたよね?」


「ええ、ちょっと待って下さいまし。魔石の入った箱がこの上に」


 そう言って、彼女は小さな足場を棚の前に用意した。


 どうやら棚の上段にある箱の中に魔石が詰まっているらしい。


「僕が取りましょうか?」


「いえ、大丈夫――」


 その瞬間、彼女の乗っている足場がグラリと揺れる。


「きゃっ!?」


「危ない!」


 僕は咄嗟に腕を伸ばし、彼女を受け止めた――のだが。


 棚の上で不安定になっていた魔石入りの箱が落下してくる。


「―――!!」


 リゼさんへの直撃を防ぐため、僕は彼女を抱きしめたまま態勢を変えて。


「おっふ!」


 落下してきた箱を僕の背中で防御! 


 そこそこの痛みを覚悟していたのだけど、想像していた以上に痛みはない。


「大丈夫ですか?」


 僕は自分の背中を確認しながら問うたのだが、リゼさんの返答はなく。


 まさか、と思って彼女の様子を窺うと――


「あ、う……」


 目の前にリゼさんの顔があった。


 真っ赤になった顔が。


「…………」


「…………」


 なんということでしょう。


 今の僕は彼女へ覆いかぶさっている状態だったのです……。


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