第10話 不可解なゴブリンの行動
「もう体は大丈夫なのか?」
「はい、少し横になったら落ち着きました」
心配して下さったゼイン殿下に笑みを浮かべ、そのままマリューさん達の会話に加わる。
「どうしてダンジョン内にいるはずのゴブリンが外に出てきた?」
議題はゴブリンについて。
普段はダンジョン内でぬくぬくと暮らしているゴブリン達だが、これまでダンジョン外に出てくるということは無かった。
正確に言えば一切出て来ないというわけじゃない。
ダンジョンの外に出て餌の確保を行うこともあるが、だとしても少数だ。
統率者であるヌシ個体まで外に出てくることなど、今まであり得なかった――と、ベテラン冒険者と騎士が語る。
「ダンジョンに異常が発生したとか?」
ゼイン殿下はダンジョンに何らかの問題が発生し、ゴブリン達が外へ出ざるを得ない状況になったのでは? と。
「ダンジョンは世界三大の謎の一つですからね。何か異常が発生してもおかしくはありません」
世界三大の謎の一つは『魔法は本当に存在しているのか?』である。
二つ目が冒険者の語った通り『ダンジョンとは一体何なのか?』という疑問。
ダンジョンは大昔から世界各地に存在しており、誕生の歴史や存在する理由が未だ解明されていない。
最後の三つ目は『魔物の起源は何なのか?』だ。
「もうすぐダンジョンの様子を見に行った騎士達が戻って来るじゃろう。まずは彼らからの報告を待ちたい」
マリューさんの発言から三十分後、ダンジョンへ向かった騎士達が戻ってきた。
「ダンジョンの中に魔物がいない?」
「はい。ダンジョン全体を確認したわけじゃありませんが、少なくとも一階層には魔物がいませんでした」
普段なら一階層にはゴブリン達が溢れており、侵入者へ容赦なく襲い掛かってくる。
「やはり、全てのゴブリンが外に出たのか?」
マリューさんが腕を組みながら唸っていると、騎士は「それと……」と報告を続ける。
「一階層にゴブリンの死体が複数転がっていました」
不審に思い、彼らは一度引き返して来たと語る。
「死体? となると、ゴブリンは他の魔物との勢力争いに敗れたのか?」
「だとしたら、ヌシが生きていたのは不自然じゃありませんか? ダンジョンの居住権を争ったなら、ヌシ個体も戦うはずです」
マリューさんの考察に対し、ベテラン冒険者が疑問を投げかける。
確かにそうだ。
居心地の良い住処を守るためなら、群れで一番強いとされるヌシも必死になって戦うと言われている。
現に他のダンジョンではヌシが負けて勢力図が変わったこともあり、その際にヌシの死体がダンジョン内から発見されたという事例も数多く報告されているのだ。
仮にも僕と戦うまで無傷だったとしたら、ヌシ個体は自主的にダンジョンの外へ出たということになる。
「……戦うまでもなく、追い出されたとか?」
ここまでの考察から、僕なりの意見を口にしてみた。
「どういうことじゃ?」
「ゴブリンって人間ほどじゃないですけど知能を持っているじゃないですか。相対した魔物を見て、勝てないと悟ってダンジョンから逃げ出した……って説はどうです?」
「ゴブリンのヌシが逃げ出すほどの魔物となると……。オーガとか?」
僕の考察を聞いた冒険者の一人が代表格となる魔物の種類を挙げる。
「オーガは国内に生息していないはずだろう?」
それを否定したのも冒険者の仲間だ。
「うーむ、ここでは答えを出せんのう。答えを得るには詳しい調査が必要じゃ」
マリューさんは『一時帰還』を決断。
王都帰還後、騎士団と冒険者ギルドに報告してダンジョン内を調査してもらうよう要請する、となった。
ということで、僕らは馬車に乗って来た道を引き返し始める。
無事に学園へ到着すると、本日は玄関前で解散となったのだが――
「カイル、お主は私とお喋りタイムじゃ」
「え? はい」
僕は皆に別れを告げ、マリューさんと共に学長室へ。
お喋りタイムということだけど、何となく聞かれることは予想できる。
「さて、お喋りのテーマはお主が使った魔術についてだ」
やっぱり。
「お主は種火しか使えんと言っておったよな? 今日使った魔術は咄嗟に思いついたのか?」
「ゴブリンと対峙した時、僕の中にいるもう一人の僕が教えてくれました」
『ゴブリンを燃やせるだけの種火を作ればいい』
そう囁かれたことをマリューさんに明かす。
「……ゴブリンを燃やせるだけの種火、か。確かに真理ではあるな」
考えようによっては種火じゃなくてもいいってことだ。
要はゴブリンを燃やせるだけの火を作り出せ、という意味で捉えることもできる。
むしろ、僕が実践したのは後者でもあるだろう。
「あの時、いつも見たいに種火のことについては考えませんでしたね。とにかく、ゴブリンを燃やしてやろうってことだけを考えていました」
そう考えた結果、飛び出したのが『火球』だ。
「ふぅむ……。魔術を行使する感覚は種火の時と同じか?」
「そう、ですね。あまり深く考えないというか、体と頭が自然と動いたというか……」
火球を生み出すぞ! なんて思ってはいない。
先ほども語ったが、ゴブリンを燃やそうと考えたら自然と火球が生み出された。
「ただ、火球を生み出す際をよく思い出すと……。小さな火から始まっていたように思えました」
種火サイズの火が徐々に大きくなっていった、と言えばいいかな?
「初めて感じる感覚はあったか?」
「いえ、特には」
「……なるほど。自然に魔術行使する点に関しては私と同じじゃな」
アレテイア・ホルダーは息をするように魔術を行使する。
他の魔術師達と違い、魔術行使に障害やストレスなどは一切生じない――というのが、少し前まで二人だけしかいなかったアレテイア・ホルダーの共通認識だったらしい。
「マリューさんが魔術を使う時も誰かに囁かれるんですか?」
「いや、私の場合は記憶の中にあるんじゃ」
「記憶?」
「そう。私が使った魔術、これから初めて使う魔術は既に記憶の中にある。つまり、思い出すんじゃよ」
マリューさんの場合は「〇〇な魔術を使いたいな~」と考えた際、頭の片隅にそれが既にあることを思い出すという。
「忘れていたことを思い出す感覚が毎度繰り返されるんじゃよ。最初は奇妙じゃったが、さすがにもう慣れたな」
「へぇ~。真理持ちだとしても同じじゃないんですね」
そこでふと思いつく。
「空を飛ぶ魔術は記憶の中になかったんですか?」
「それが無いんだ。何度思い出そうとしても見当たらない」
ということは、マリューさんが見たという『大空を飛んでいた記憶』とは何なのだろう?
当然、彼女もそれを不思議に思ったという。
「あれが魔術ではないのなら何なのか。そこで思いついたんじゃよ。魔法なんじゃないか? ってな」
「なるほど……」
そこから魔法研究者という今に繋がるのか。
「しかし、お主の魔術は威力が異常じゃったな。燃やすというよりは、消滅に近いんじゃないか?」
一瞬で灰に変える威力は『燃やす』という言葉から連想できるイメージの範疇を越えているのではないか、と。
「そう言われましても」
僕にとっては、あれでも『燃やす』なのだ。
消滅させる、なんて意識はなかったと思う。
「加えて、お主の魔力量も異常じゃな」
これに関して、マリューは深いため息を吐いた。
「あれだけの威力を数十発も連射するなどありえん。私にも不可能だ」
「……そう言われましても」
こっちは特にそう言われましてもとしか言いようがない。
戦いに必死だったということもあるが、出来ちゃったものは仕方ないというか……。
魔術をあれほど連射したのも初めてだし、自分が出来るとも思っていなかったし……。
「話を戻すが、日常で新しい魔術を思いつく――お主の中にいるもう一人が囁くことはないのか?」
「ありませんね。魔術式無しで種火を使った時以来、今回が二度目です」
「ふむ……」
僕の発言を聞いたマリューさんはソファーの上であぐらを掻き、腕を組みながらブツブツと何か言い始める。
「魔物と対峙することで覚醒した……? あるいは、恐怖や生存本能がトリガー?」
しばらくブツブツと独り言が続く間、僕は紅茶を飲んで時間を潰していると――
「よし、分かった」
「何がですか?」
急に自分のふとももをペチンと叩くマリューさんに問うと、彼女はニマニマと笑いだしたのだ。
また僕にイタズラしてやろうって顔だ。
「お主は大きな可能性を秘めている、ということじゃよ。今回見せた異常な魔力量も含め、やはりお主は私を越える逸材やもしれん」
「そうですか。将来的にマリューさんよりもお金貰えそうですか?」
「イッヒッヒッ! 安心せい! そこは確かじゃからな!」
なら良かったけど、また魔物と戦うのは避けたいな。
クロフト様――リゼさんにカッコつけてしまったけど、怖いもんは怖いからね。
「よし、今日は帰ってもよいぞ」
「分かりました。では、また明日」
僕は冷静な足取りで学長室を出たが、廊下に出た直後に締めた扉を睨みつける。
「……また変なこと言い出しそう」
今回の魔物退治も「楽しいこと」と称して笑っていたのだ。
次も何か嫌なイベントを起こすに違いない!
「もう驚かないぞ!」
そう誓い、僕は心の中で身構えた。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
次話から2章となります。引き続き読んで下さると嬉しいです。
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