勲章式と驚き
あれから数日。 俺は王都へ持っていく「新製品」の準備を進め、家族そろって国王陛下のもとへ向かう支度を整えた。
「よし、これを荷台に詰めてくれ。出発の時間だ!」
父上の号令が飛ぶ。 俺は、表面上は真面目な顔をしつつ、内心とてもうきうきしていた。
(……王都の防壁に、どういう風に電磁トラップが設置されたのか。実物を見るのが楽しみだ)
「よし、それでは行こうか。片道十日ほどの道のりだ。気を引き締めていくぞ。魔物避けとして、この馬車にはお前の作った『簡易感電罠』を組み込んである。蓄電器に魔力を入れるのを忘れるなよ」
「はい、父上」
基本的に、この世界の長距離移動方法は馬車だ。船はまだ実用的なものが普及していないらしく、貴族はよほど近場でなければ、乗馬か馬車で移動する。
領地の境界線では、多くの領民が見送りに来てくれていた。
「あ、ザーク様! 王都に行くんですよね。お気をつけて! あのカレーという料理、とても美味しかったです!」
「領主様、いってらっしゃいませ! カレーのおかげで毎日元気が出ます。特にバース肉がスパイスと最高に合っていて……発明した人は天才ですね!」
口々に感謝を伝える領民たち。父上は満足げに手を振り返している。 ザーク父上は、とても愛されている領主のようだ。ベシュタルト領地は、人も良い。
俺たちは、温かい声援を背に王都へと出発した。
※
ふぅ。やっと着いた。 遠かったぁ……。
結論から言うと、馬車の乗り心地は控えめに言って最悪だった。 サスペンションがない木の車輪は、地面の凹凸をダイレクトに俺の尻に伝えてくる。十日間、振動との戦いだった。王都周辺の整備された街道に入って、ようやく少しマシになったレベルだ。
(……これは、改良の余地大ありだ。ゴムタイヤ、いや、まずはバネの実装か……)
「ソウス、顔色が悪いぞ。大丈夫か?」
「……はい。少し、酔いました」
「そうか……。この後すぐに王城に入り、客室で休むといい。本格的な叙爵の儀式は明日だ」
あぁ、やっと安眠ができる。ここ十日間、ずっとガタガタ揺れて寝不足すぎた。
泥のように眠り――そして、翌日になった。
※
広大な王城の、さらに奥にある「謁見の間」。 きらびやかな装飾と、張り詰めた空気の中、叙爵の儀式は執り行われた。
結論から言えば、特に目立ったトラブルもなく、厳かな雰囲気の中で終わった。
……いや、一つだけあったな。
儀式の最中、父上が感極まって、「これもすべて、息子のソウスのおかげです!」と王様の前で熱弁し始めた時は、心臓が止まるかと思った。冷や汗をかきながら、俺は必死に子供らしい無邪気な笑顔を張り付けていた。
それはさておき。 今回の王都訪問で、二つ、大きな発見があった。
まず一つ目。国王陛下は、とても思慮深そうな人物だった。 父上を説得し、「息子の手柄でもいいから、まずは家のために子爵位を受けろ」と諭したのも彼らしい。
まぁ、さすがの国王陛下でも、俺が献上した「電球」の輝きには驚いて目を丸くしていたけれど。
そして、もう一つの発見、いや問題点は……。
なぜか、国王陛下の玉座のすぐ隣に、見知った顔があったことだ。
(……え?)
金色の髪。長い耳。そして、見た目は十歳の少女。 リズ先生だ。
リズは、玉座の横に控える豪華な椅子に、ちょこんと座っていた。 こちらに気づくと、なんかニコッと笑って、小さくウインクしてきた。
(……嘘だろ)
この位置に座れる人物は、限られている。 リズって、ただの精神年齢が十歳の「残念エルフ」かと思っていたけど……。
まさか、この国の魔法使いの頂点、「宮廷筆頭魔導士」だったとは。
(……ちょっとだけ、リズを見直した)
それと同時に、少しだけ安心感もあった。 リズがたった七日間で、あんなに急いで帰っていった理由がわかったからだ。宮廷魔導士が仕事をほったらかして、田舎の男爵家(当時)に来ていたのだ。そりゃあ、すぐに戻らなければまずかっただろう。
(俺の類まれな魔力量を聞いて、居ても立っても居られなかった、ってところか)
それと、父上は、宮廷筆頭魔導士様を家庭教師に雇うために、一体どれだけの莫大なお金を積んだんだろうか……。
(父上、ありがとうございます。一生ついていきます)
こうして、無事にベシュタルト家は男爵から子爵になった。
俺は、輝かしい未来への希望と、 また十日間あの馬車に揺られて戻るのかという絶望を同時に味わいながら、ベシュタルト領地への帰路につくのだった。
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