魔法の訓練
これは、俺の日記だ。 記録として残しておく。 なお、昨夜の出来事については――考えないことにする。脳内から抹消した。
2日目
リズ先生から、雷属性の基礎を教わった。
『雷撃』。 思った場所に、純粋な電気の塊を叩きつける攻撃魔法。
『パラライズ』。 相手の神経系に干渉して体を痺れさせる、いやらしい状態異常魔法。
『電流』。 空間に見えない導線を作り、そこに電気を流す設置型魔法。
説明は簡単だが、実際にやると全然違う。現代知識が邪魔をして、理屈で考えすぎてしまうのだ。
「考えすぎないで。雷は、感覚よ。ビビッとくるの」
そう言われて感覚で撃った雷撃は、狙った木の的から大きく外れて地面を焦がした。
……悔しい。
3日目
今日は、複合魔法の座学と実践。
影と雷を組み合わせると、見えない電流トラップになるらしい。 水と雷なら、水たまりそのものが広範囲の凶器になる。
「属性がないから無理、じゃないのよ」
リズ先生は、そう言って不敵に笑った。
「持っている魔力を、どう使うか。要は工夫次第よ」
……その言葉は、妙に胸に残った。「仕組み」で戦う俺の考え方に通じるものがある。
4日目
少し、無理をした。
適性外の他属性魔法を、莫大な魔力で強引に使ってみたのだ。 結果――魔力切れ(マナ・ディプレッション)。
体が鉛のように重く、息が苦しい。立っていることすらできない。
「……まったく、ほら」
呆れた様子のリズ先生が、回復魔法をかけてくれた。 温かい緑の光が、体を包み込んでいく。
助かった。 だが、少しだけ――情けなかった。
5日目
新しいことを知った。
最初だけ莫大な魔力を使って強引に道をこじ開ければ、自分専用の魔法を“作れる”らしい。 一度体が覚えれば、次からは普通の魔力量で使えるようになる。
「最初は誰でも無茶をするものよ。私もよく爆発したわ」
……それ、さらっと言ってますけど、千年前の経験談ですよね。
6日目
三大魔法というものがあるらしい。 過去の偉大な魔法使いたちが残した、実用性重視の究極の魔法陣。
「基礎は、積み重ね。千年かけても、まだ足りないわ」
当たり前の言葉なのに、千歳のエルフに言われると、なぜか重く響いた。
7日目
複合技の上位には、三重魔法があるらしい。 さらにその上、四重魔法は――歴史上、過去に一度だけ記録がある。山脈が一つ消し飛んだそうだ。
「流石に私でも、実戦で使えるのは三重魔法が限界よ。 その代わりに、並行魔法をやりましょうか。 ……私はね、十三種類の初級魔法を同時発動できるの」
えっへん、と胸を張る小さな師匠。
(……十三? 桁がおかしい。やっぱりこの人、災害だ)
そうして、最終日の授業が終わった。
少し、少しだけ寂しいと感じる。
「……僕は、並行魔法は5つ同時が限界でした」
「十分すごいわよ。人間でそこまでできる子は、そういないわ」
そう言って頭を撫でてくれたのが、なぜか嬉しかった。
「ご指導、ありがとうございました」
「ええ。ソウスは、いい魔法使いになるわ」
「……いつか、先生の記録を超えてみせます」
「ふふっ。その時は、手紙を書いてね」
リズ先生は、笑顔だった。
年相応の、可愛らしい笑顔。 けれどその奥に、少しだけ――千年の時を感じさせる、寂しそうな色が混じっていた。
この七日間で、俺は魔法の基礎を学んだ。
それ以上に―― 魔法使いとしての、大きな目標をもらった気がする。
リズ先生の短期集中講座は、そうして終わった。
そして翌朝、リズ先生は王都へと帰っていった。
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