タイムリープ
気がつくと、目の前にはノブレイがいた。
彼は俺の目の前で、誰かにこっぴどく叱られたらしく、神妙な面持ちで正座をしていた。
「……ん?」
意識が混濁している。
直前まで感じていた、身体が潰される圧力が消えている。
「ソウス。まさか、『肉生成』の応用で空間転移を試みるなんてね。まあ、当然叱られる案件だけれど」
呆れを含んだ声が聞こえた。
視線を巡らせると、そこにはリズと、グレン兄上が立っていた。
二人とも、どこか安堵したような、それでいて呆れ果てたような表情を浮かべている。
「……そうだな。俺も同感だ。あと一歩で立派な犯罪者だったもんな」
俺は無意識に、記憶にあるはずの「この場の会話」を口にしていた。
だが、思考は追いついていない。
(俺は……死んだはずだ)
ディムが四つ腕の悪魔に貫かれ、俺も上位の存在に虫のように潰された。
その鮮明な痛みと絶望の記憶が、脳裏に焼き付いている。
しかし、目の前にあるのは、平和な日常。
かつて俺が、地獄に落ちるきっかけとなった事件の直後だ。
俺は、崩れ去ったはずの幸福が、再び物理的な現実として目の前に存在している事実に、ただ茫然とするしかなかった。
*
「……はぁ」
私は、白亜の空間で一人、正座をしながら重いため息をついた。
本当に、手のかかる駒だこと。
「あれじゃあ、魔王を倒すどころか、地獄の藻屑じゃない。これじゃあ、私が怒られる羽目になるわよ」
私の目の前には、世界を観測するモニターが浮かんでいる。
そこには、呆然と立ち尽くすソウスの姿が映し出されていた。
「…………」
空間全体に、沈黙した圧力が満ちる。
どこからともなく、『あの方』の呆れと怒りを含んだ意志が伝わってくる。
言葉ではないが、意味は明確だ。
『因果律への干渉は重罪である』
(うーん。魔王を倒せずに世界が滅んで怒られるのと、世界に干渉して規律違反で怒られるのと、どっちの方がマシだったのかしらね)
天秤にかければ、世界が続く方が利益は大きいはずだ。
だが、やってしまったことは覆らない。
事象は確定した。
「……はぁ」
私は観念して、居住まいを正した。
今は素直に、上位者からの叱責を受け入れるしかない。
そして、もう一度姿勢を正し、神妙な顔で正座をした。
「はぁ。あと一歩で、世界が消滅するところだった。これは未来を変えたことと同義だ。さて、ここで問題だ。君は、未来を変えていいと思っているのかね。」
(魔王を倒すのはどうすればいいんでしょう。矛盾してるわよ。)
「聞こえてるぞ。」
規模は違うけど、女神もノブレイも、あと一歩で過ちを犯した人だ。正座もしてるし。めっちゃ似てる。




