悪魔
「ふぁ。」
よく寝た。 泥のように眠っていた気がする。
その時、気づいた。 そうだ。 俺は、地獄に落ちて、悪魔に追われて、誰かに引きずり込まれたんだった。
恐る恐る、背後を振り返る。
そこには――――。
「よう」
悪魔がいた。 あのねじれた角、長い爪、不気味な肌。 まごうことなき、悪魔だ。
「う、わぁあぁっぁっぁぁっっぁあっぁっぁあああああああああああッ!!?」
俺は素っ頓狂な悲鳴を上げながら、狭い洞窟の中を転げ回って逃げようとした。 壁に激突し、転び、喚き散らす。
そして、十分ほど大騒ぎした後。 俺は、酸欠でゼェゼェ言いながら落ち着いた。
「……落ち着いた?」
その悪魔は、まるでパニックになったハムスターを見るような、憐れみの目で俺を見ていた。 襲ってくる気配はない。
俺は自分の失態を悟り、スッと正座をして、深々と頭を下げた。
「……すいませんでした。助けてくれたのに」
綺麗な土下座だった。
その悪魔は、それを横目で見ながら、岩の上に腰掛けた。
「僕の名前はディム。下の下の、『最下位悪魔』さ」
彼は自嘲気味に、自分のことをそう評した。
「僕は、素早さと知能が高いだけで、パワーがない。だから『悪魔選』じゃ毎回最下位のグループなんだよね」
「悪魔選?」
ディムの話によると、この地獄には『悪魔選』というシステムがあるらしい。 一ヶ月(赤い月の形が一周する期間)に一回開催され、その順位ですべての待遇、支援、そして生存権が決められる。
完全な実力社会。
「悪魔選に必要なものは、『魂の力』。それだけだよ」
どうやら、悪魔には元々、魂が粉粒のような量しかないらしい。 だから、他の生物を殺し、その魂を奪うことで強くなる。 つまり、ここは「弱肉強食」そのものの世界だったのだ。
俺を追ってきたあの悪魔も、俺の魂を食って強くなろうとしていたわけか。 そして、ディムが見せたあの異常な速さ。 あれは「最下位」が生き残るために磨いた、逃げ足の速さなのかもしれない。
「それと、前に地上ですごい大騒動があったみたいだけど……門が開いたのかな? ニンゲン」
ディムは、興味深そうに俺に尋ねた。
ソウスは、少し考えて、正直に答えることにした。 コイツは、話が通じる。
「うん。門が開いて、九尾の狐が現れたよ」
「へぇ、狐が出たのか」
ディムは口笛を吹くように言った。
「狐か。あれはこの地獄に、たった三匹しか存在することが許されていない、**『悪魔の最強種』**だよ」
「……たった三匹?」
「そう。強すぎて、世界が三匹までしか維持できないんだ」
あいつ……そんなヤバい奴だったのか。 創造神とか言っていたが、あながち嘘じゃなかったらしい。
そこで、俺はずっと気になっていたことを、恐る恐る聞いた。
「僕はソウスって言うんだけど……なんで、僕を助けてくれたの? 魂が必要なら、僕を殺して奪えばよかったのに」
ディムは銀色の目を細め、俺を見た。
「なんとなくさ」
「……は?」
その答えに、俺は絶句した。 理由がない? この地獄で?
ディムはニヤリと笑った。
「ま、最下位の気まぐれだよ。それに……お前からは『面白い匂い』がしたからな」




